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第二章 藍と学校

60. 友情だけで愛情のコップは満たされるのか Can friendship alone fill the Cup of Love?

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 「しらぬいさ――」

 教会のドアを押し開けて最初に目にしたのは、死屍累々ししるいるいのなかに、ただ一人無傷でたたずむしらぬいだった。そこら中にひどい火傷を負った者たちがうめき声をあげながら倒れている。焼け焦げた人間の髪を掴んで無理やり顔を上げさせ、その顔を羽虫をみるような目で見ていた。いつものようなやさしい笑顔ではなく、焼きついた影のような無表情だった。



「……しらぬい……さん……?」

 振り向いた時のしらぬいの顔が、あまりにも温度をもたない冷たさであったので、アイは全身がブルリと震えてしまう。視界にアイを認めると、しらぬいは慌てて顔の前に手を横切らせた。手が去った時にはもう、いつものニコニコとしたやさしそうな笑顔だった。

 ◇◆◇

「アイちゃ~んっ!だいじょうぶ!?ケガはない!?こわかったね~!もうだいじょうぶだよ?わるい人たちは皆しらぬいさんがやっつけたかね?ふるえてるの?だいじょうぶだいじょうぶ、ほらよしよ~し。ほらおいで!だっこしたげるっ!」



 膝をついてちいさなアイの身長に合わせて、目を合わせて慰めたあとに、すぐ抱きしめて頭を撫でる。アイは安心した……いつものしらぬいさんだ……と。

「しらぬいさん……がこの人たちを皆倒したのですか?ゆうに200人は超えていそうですが……。」

「そうだよ~。しらぬいさんは超絶激かわ美少女なだけじゃなくて、超絶“最強”美少女だからね~!」

「……とにかく、しらぬいさんが、無事で、よかったです。ほんとうに、ほんとうに。」

 アイが愛情でしらぬいを包み込む。

「およよ~?アイちゃ~ん、しらぬいさんはケガしてないよ~?」

 サファイアのまなこがしらぬいの瞳を通して心まで見通しているようだった。

「でも……こころは疲れてしまいましたよね?
 ……だから!です!」

「……アイちゃん……キミって子は……ほんとうに……。」

「?何か言――」

「ぎゅ~!悪い子だなぁ~!!これ以上しらぬいさんを好きにさせてどうするつもり~!?グリグリ~!!」

「わぁあ!?」

 ◇◆◇

「……この人たちは死んでしまったのですか?」

「……いーや、生きてるよ。ヘルツで人を殺すのは結構難しいんだ~。まだ習ってないか、そうだよね1年生の前期……冬学期だもんね、まだ。

 もちろん殺す方法もあるんだけど、ヘルツは基本的に揮発きはつ性のものだからね~。相手を殺すというよりは、んだ~。

 心者ヘルツァー同士の闘いは肉体的に敵を戦闘不能にするというよりは、相手の心をくじくことがメインだからね~。あっ!ヘルツでも、もちろん殺し合いもできるよ~。でもやり方があってねぇ~。

 まぁ、なんにせよこの人たちの火傷も愛するものリーべーの手にかかれば治っちゃうし……まぁ治せばこの人たちが誰で、目的が何かっていう尋問もできるようになるでしょ。」

「――そうだな。それにアイ、お前はまだヘルツで人を殺める方法を知るのは早いと思うんだ。」

 いつの間にかシュベスターが教会の前の階段に座り込んでいた。



 ◇◆◇

「おねえさまっ!」

「おっ、シュベスターおつかれ~。」

「あぁ、お前もな。敵の数は見立てよりも多かったみたいだな。」

 お互いの方を見遣みやりもせずに、労い合う。

「……おねえさまとしらぬいさんは、お互いのことをあまり心配していないのですね……?」



 ついアイの口からポロリとこぼれてしまった。

「あっ!いえ!お互いを大切に思っているのは分かるのですがっ!ええっと……その……っ!」

 しらぬいがボロボロのシュベスターの横まで、アイの手を引いて座らせ、自分はその反対側に座る。2人に挟まれて座っていると、なんだか親子みたいだなとアイは思った。ほんとうの親子がどんなものかアイはおはなしの中でしか知らなかったが。

「分かってるって~。もし、しらぬいさんとシュベスターが相手を心配していないように見えるなら、それはお互いを“信用”じゃなくて、“信頼”してるからだね~。」

「……信用……ではなくて、信頼。」

「あぁ、とは相手をじて、いることだ。もちいるというと聞こえは悪いがこれも別に悪いことじゃない。
 だが信頼とは……相手をじ、ることだ。どっちが良い悪いの話じゃないがな。……つまり、信用と違って、信頼はする行為だ。」

「対等……だから、心配じゃない……?」

「つまり、しらぬいさんは教会でシュベスターに背中を預けた。自分と対等で、同じぐらい強い相手に背中を預けてるんだから、後ろには何の不安もなく前の敵だけをぶっ飛ばせばいいんだよ~。

 それに、しらぬいさんは教会を出る時に、シュベスターにアイちゃんとローブの男を任せた。……ってことは、シュベスターは絶対にアイちゃんを無事に守るし、ローブの男を倒すんだよ~。
 は……そうからね。」

「そして、私はしらぬいに外の連中を頼んだ。ならば此奴こいつは何があっても敵が何人でも、ソイツらを食い止めて教会には絶対に侵入させないし、全員を倒しさえする。
 そう、私は……そう知っているんだ。」

「……だから心配ないと。」

 ◇◆◇

 アイは2人に挟まれて、2人の間に確かなこころのつながりを見た。。これもその一つかもしれないと、そう思った。

「……アイにもそんな親友ができるでしょうか……?エレクトラさまに愛してもらうことばかりを考えている自己中心的なアイにも。

 ……お互いの背中を笑って預け合えるような。その人の背中の後ろの世界に居れば無敵だと思えて、アイの背中の世界は安心な場所だと思ってくれるような……親友が……。」

 アイのちいさな両手が、右側と左側から伸びてきた2本の手で、握られる。

「……あぁ、お前にもきっと見つかるさ、其奴そいつの為なら世界の全てを敵に回してもいいと思える親友が。」

「うん……アイちゃんにもきっとできるよ……アイちゃんのためなら、全ての人が『それは白い』と主張しても、ただ一人、『それは黒だ』と叫んでくれるような親友が。」

「……はい。」

「――しらぬいさんとシュベスターみたいな大大大大大大大大大~親友がねっ!ほんとシュベスターはのこと好きなんだから~!」

「ハァ……お前な。」

 ◇◆◇

 2人の親友の間でアイは考えた。

 ――もしこんなに素敵な友達関係を築けたのなら。
 もし何の遠慮も不安もなく背中を預けることができる親友を得られたのなら。

 そうしたら、、親との関係など

 で、という穴の開いた愛情のコップは満たされるのだろうか。

 友との愛で、

 それとも、何を得たとしても心に空いた虚空あなから、たちどころに全て流れ去ってしまうのだろうか。

 ……そうじゃないと、いいな。

 ◇◆◇

 ――先刻さっきのはほんとうにアイか?

 まるで別人だった……。私は弟のことなら何でも知っていると思っていた。……お互いし合えていると……。

 アイは私に何か隠し事をしているのか?……それも

 ……いや、アイは私にかない……はしない、絶対に。そう、――。

 ◇◆◇

 くだんの教会から離れた裏路地で、薄気味悪い笑みを浮かべた女と満身創痍まんしんそういのローブ姿の男が話していた。

「あんたはん……何をしてはるの?“時間稼ぎ”って、ウチいわんかったかしら?」

「……申し訳、ありません。」

 シュベスターとの戦闘でもう立っているのもやっとらしい……息を荒くして路地の壁に寄りかかっている。

「……それを勝手に本気でり合って?そんで負けてノコノコしっぽ巻いて逃げ帰ってきたん?」

 女はヘラヘラ嗤いながら嫌味を続ける。

「ウチの部下にそんないな弱ぁ奴はいらへんなぁ?」

「しかし、何故あの者らを殺したのです!?確かにあの者たちはこの作戦の為だけに雇った新参です。……でも爆弾にして殺すなんて……!あの者たちも同胞はらからでしょう……!?」

「……ハァ?何を言うてはるの?仲間はザミール様だけ……。あんな塵屑ゴミクズ仲間なわけないやろ?それに――」

 女がそでから手を出すと、其処そこにはむちヘルツが握られていた――!

「――アンタもやぁ!!死ね……!」
 
「――な!?我々は仲間でしょう!?」

「黙れ黙れ……!!アンタはんのせいで、ウチまでザミール様に消されたらどうしてくれる!?あのお方を怒らせたらどうなるか……!!ウチがどんな目にあうか……!全部をアンタの責任や……!アンタは此処ここで――」

 女は心底ザミールという者を恐れているというふうに口走る。
 
「――死ねぇ……!!」

 ――2人に迫る影が1つあった――!
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