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第二章 藍と学校

71. 誰が為に鐘は輝く For Whom the Bell Shines

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「僕は――」
「俺は――」

「「最高の気分だ……!!」」

 びっこを引いた2人の迷い犬が月に吠えた――

 彼らの月に。
 彼ら“思い思いの月たち”に。
 
 ――しかしそれは、のかもしれない。

 ◇◆◇

「……ぃ……ですねぇ?貴方のヘルツは。しくも俺と同じだ。」

 ローブの男が落ち着いた声で言う。
 もう息が整ったのか……!……早いな。
 流石さすがにバレたか。

「――というよりは“音”、ですね?
 舌打ちをした時からおかしいとは思ったんですねよねぇ……。
 でもれは平時の……普段の習慣ルーティーンを行うことで、のか、
 ……とも思ってしまいましたよ。」

 ニヤリと笑う男。
 でもニンゲン共にわらわれできるようないやな気分にはならない。
 高揚こうよう感さえある、しかし――

「――ハァハァ……其処そこまで気がついたのか。バレたとしても、僕のヘルツが何でできいるかまでだと思っていたが……。」

「ふーむ、そうですねぇ。貴方はまだ生徒ですし、例え話をしましょうか。
 例えば、相手の機嫌を損ねないことをだけを考えて、友人たちよりも、拳を交えた敵同士のほうがずっと分かり合う。
 当たり前でしょう?
 
 まだ習っていませんか?
 ……それが心者ヘルツァー同士なら尚更なおさらですよ。お互いの“こころ”を相手に、直接ぶつけ合ったんですから、相手の“こころ”と真正面から向かい合ったんですですからね。」

 なるほど……ナウチチェルカ教官が教書を使いながら言っていたのはこういう事だったのか……。やっぱり書を読むよりも習うよりも、実際に街に出ないと分からないことだらけだ。

 そして、此奴こいつは……いや、この人は……れが僕よりも遠大えんだいなぐらい豊富なんだろうか……。でもそれも……。

「おもしろい……!」

 その人は破顔した僕に驚いたようにしたあと、すぐにまた、クククと笑いだした。もしかしたら僕も声を出して笑っているのかもしれないが、そんなことはどうでもよかった。

 ――僕の人生は人にわらわれることだった。
 人を笑わせたことなんかなかった。
 最初のうちは勘違いしていた。
 んだって。
 でも違った。
 だった。

 今この時が初めてだったかもしれない。
 生まれて初めてだったかもしれない。
 
 いや、お父さんとお母さんと妹は、笑ってる。
 笑ってくれている。
 いつもこころのなかで。
 だから学校でいやなことがあっても。
 この世の全部が地獄だとは思わなかった。
 人間がみんながみにくいとは、世界のみんながうつくしくないとは。
 思えなかった。
 
 そう思わせてくれた。
 家に帰ったらやさしいお母さんと、ちょっと無口なお父さんと、いつでも誰かにくっついていたがる妹がいた。
 
 ――だから、僕は生きている。
 
 僕愛する人々に。
 僕愛する人々に――。

 ――だから初めてだったかもしれない。 
 外の世界では初めてだったかもしれない。
 人にわらわれるんじゃなくて、人を笑わせたのは。
 この人が初めてだったかもしれない。
 アイちゃんだって違ったんだから。
 敵が初めてだったかもしれない。

 ――家族と敵……そして、友達。
 “家族と敵”は“味方”で。
 “友達は皆”、“敵”。

 ……どういうことだ?
 そもそも味方なんだ?
 敵なんだ?
 家族は僕の味方。友達は僕の敵。
 じゃあこの人は……?

 もし敵とこころが通じ合うのなら。
 敵が味方だとうのなら。
 争っていて、肩を寄せ合うんだ?

 国か?思想か?信条か?

 ――人は何のために争う?
 僕が今この国の兵士として闘うなら、僕は“国のため”に戦っているのか?
 今まではずっと自分の味方でいるために戦ってきた。でも家族以外に味方がいるのなら?敵のなかにともがらがいるのなら?
 もしこのまま士官学校を卒業して、兵士になって戦うのならば――
 国を守りたいのか?
 家族をまもりたいのか?
 ともがらを殺してまで、こんな国を守るのか?
 
 戦場で闘う、命をして戦う……“僕ら”の、“彼ら”の
 お互いの家族を護るために、何かを守ろうとするために、ともがら同士で殺し合う?
 そんなものが戦争か?
 そんなものが、人生か?
 そんなことのために、僕とこの人はこの世に生まれてきたのか?
 親に産んでもらったのか?
 殺し合うために、生まれてきた。
 死ぬために、産まれた。

 ――何かがおかしくはないか?
 この世界は――。

こんなが、僕がまれた世界か?

 友には“いじめ”られ、上でのうのうとわらってるニンゲン達のために戦って、ともがらを殺して――

 人を差別し、馬鹿にして、虐めて、襲って、いたぶって、殺す?
 こんなものが世界なのか?

 もし世界がそうであるのならば、こんな世界。

 。こんな世界は――

 ◇◆◇

「貴方の御名前をおうかがいしてもよろしいですか?」

 もうお前とは呼べなかった。呼びたくなかった。
 彼は驚いたように、でも嬉しそうに。

「名前を聞かれるなんて久方ひさかたぶりです。俺のことなど、ほとんどの人は“路傍の石”とでも思っていますからね。
 ……俺の名は、ジョンウ。
 ヤコブという糞売女クソばいたから生まれたので、“ヤコブの子ジョンウ”とよく呼ばれます……よく馬鹿にしてね。
 ……フフッ……貴方も馬鹿にしていいんですよ?。」

 ◇◆◇

「……失礼ですが、クレジェンテさん……?貴方の名前をお伺いしても……?先ほど学友からそう呼ばれていましたが、貴方の口から言いたいのです。
 ……。」

 俺の前に立ちはだかる生徒は少し、でも確かに微笑みながら言った。

「……ジョンウさん。御名前を教えてくれてありがとう。
 僕の名は、クレジェンテ。“クレジェンテ・カタルシス”。獣神体アニムスのくせに出来損ないだから、よく馬鹿にされます。
 ……貴方も馬鹿にしていいんですよ?
 。」

 ジョンウが笑う。

「あははっ、獣神体アニムスのクセに出来損ない、なんですかぁ……それはいけませんねぇ……?
 でも家名を待ってるなんて羨ましいなぁ。」

 クレジェンテが微笑む。

「ふふふっ、でしょう?
 僕には胸を張って名乗れる家名があるんだ……すごいだろう?家族だけが僕の誇りなんだ。それ以外は皆敵だからね。」

「「あははっ!」」

 2人は竹馬ちくばの友のように笑い合って……“イジり”あった。お互いのこころの深いところを。

「このまま笑い合ってるわけにもいきませんし、そろそろ決着をつけなくてはねぇ?」

「あぁ、そうだな。きっと僕が勝つけど、そんなにボロボロで大丈夫か?僕はまだ“”が言えないんだよ。習ってないから……それズルだからな?」

「ふふっ……そんなに土にまみれて、いつくばって、もう俺が勝ってるみてぇなモンでしょう。
 ……それにズルじゃありませんよ、生まれが塵滓ゴミカスのヤツの努力の結果です。
 それに名前をお教えした時の貴方の『ありがとう』には……“”、ましたよ。」

 両手の人差し指と中指をクイクイと丸めて、“こころがこもって”という台詞を強調するジョンウ。

 ◇◆◇

 笑いながら、舌打ちをしてその音にヘルツを乗せて周りを確認するクレジェンテ。
 ……すると先刻さっきの話し合いの間にずっとっていたであろう、雲に隠された太陽の光のようなヘルツが、クレジェンテにだけはえるようになった。

 ジョンウは自身の身体には、彼の腕にだけ、ヘルツまとっていた。あとは彼とクレジェンテの間に道を作るように2列の光が、右と左に5個ずつ配置されていた。戦闘経験の差が如実にょじつに表れている。

 しくもクレジェンテがヘルツを込めていたのもの拳だけだった。彼にはもうヘルツの限界がきていたので、ジョンウのように腕全体ではなく、拳にしか音を握れなかったが。

「……まっすぐ突っ込んで来いって、言ってるようなものだな。」

「最後、ですからね。正々堂々殴り合いといきましょうや……。」

 お互いが相手に向かって全速力で、走りせまる。先刻せんこくり合いでダメージを軽減することに気を配れていたジョンウの方が速い。

 そのまま2人とも相手を殴りつけようと拳と拳が近づく――!

「“光明の敬意ビッ・リスペット”!!」

 光と音がぶつかる――!!

 ◇◆◇

「何をしてはんのぉ、ごみ共が。」

 その直前に女の声が聞こえた。  
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