🔴全話挿絵あり《堕胎告知》「オマエみたいなゴミ、産むんじゃなかった。」「テメェが勝手に産んだんだろ、ころすぞ。」🔵毎日更新18時‼️

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第二章 藍と学校

80. ニンゲンどものせいで泣けなくなっちまった人は、すぐに泣ける人よりかなしくないのか? Reigns, but Governs.

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 「――?こんなものか……?」

 敵の女は2人とも拍子ひょうし抜けだった。

 ――もう既に自分たちが負けていることにも気が付かずに――!!

 ◇◆◇

 女の顔がアイが触れた所からパチパチと音を立てて何かにむしばまれていく。
 それは炎だった。不知火のように揺ら揺らと揺らめくちいさな火種だった。

 「がっ!?」

 それはとてもおもむろに、とてもゆっくりと……だが確実に燃え広がっていく。

 「教会で不知火さんを傷つけようとしたお返しです。
 あの時の不知火さんのように、触れた瞬間に相手を焼き尽くすなどわたくしにはできませんが……。」

 「ああっ!!あついあついっ!!痛いぃ!!」

 「ですが顔なら大丈夫です。顔を焼けば、目も見えず耳も聞こえず、敵の匂いさえわらなくなります。
 ……まぁ……もう聞こえているかどうか知りませんが。」

 女がヘルツの水を使い何とか顔の炎を消し去る。しかし動揺で上手くヘルツられず、かなりの時間を要してしまった。

 「……がっあああ、まだ一年の糞餓鬼くそがきが……!
 マンソンジュ軍士官学校の元生徒会副会長を舐めるなよ……!
 こんなので僕を倒せると思ったか!?
 副会長になるまでにどれほど苦労したと思ってる!?
 オマエらみたいなに僕が負けるわけがないだろうが!!
 僕たちのほうがずっとなぁ!!」

 アイのちいさな肩がピクリと反応する。

 「何の苦労も知らない……ですか。
 
 人より不幸の量が少なかったら……大きさが小さかったら、
 自分を不幸だと思っちゃいけないんですか?
 『世の中にはもっと苦労している人がいるのに、そんなことで弱音吐くな。』
みてぇな塵滓ゴミカス理論で黙らせるんですか?
 流石元生徒会副会長サマだぁ……お頭がおよろしいことで。
 
 だから嫌いなんだよ……おれをこころをもつものプシュケーだからっててのひらを返して持ち上げるヤツらが。
 おれが顕現けんげんさせられるかなしみが“大海”だったら、“少しの涙”でしかかなしみを表せない人は、
 ニンゲンどものせいでは、
 
 違うだろうが。
 
 痛みや苦しみなんてのは“相対的”なものじゃあない。“絶対的”なものだ。
 人はもいれば、もいる。
 一人でいるほうが安心な人は?太陽に絶望する人は?曇り空に慰められる人は?花の散りゆくをみて歩き出せる人は?
 その人がどう感じるかなんだよ。
 
 ……だから“ヘルツなんてものは嫌い”なんだよ。自分の……人のこころを勝手に引きずり出して格付けをしやがる。
 こころに上も下もねぇだろうが……。」

  ◇◆◇
 
 「……って、わたくしはそう思うんですけど……どうでしょうか?
 元・生徒会副会長さま?
 ……あぁっ!間違えた!
 今は除籍されてただの何の地位もない阿婆擦あばずれの糞女くそおんなでしたね。
 ごめんなさいっ!」
 
 アイがかわいらしくゴメンナサイのポーズをとる。

 「オマエェ……ぶっ殺してやる!!!」

 そう言ってアイに殴りかかりながら、ヘルツの矢を正面に向けて飛ばす。

 しかしその自身の全速力のまま顔面が何かにぶつかって、その衝撃と驚きでヘルツ矢も霧散むさんしてしまう。
 
 「!?……冷たい……!!寒い!?氷の壁……!?
 いや、なんでこんな速度でこんな範囲を……!?一年の糞餓鬼が……!!」

 アイが手を丸めて自分の爪のつやを確認しながら、相手への興味を完全に失ったというフリをして話す。

 「へぇ~、流石に塵滓ゴミカスとは言っても、元・生徒会副会長サマ。
 遠距離のヘルツを操りながら肉弾戦も同時に行えるとは……感心、感心ですねぇ~?えらい、えらいですよ~?」

 アイはいつものように、自分よりも強い相手をできるだけ煽ってミスを誘うと同時に、今までして、戦うことへの恐怖を誤魔化ごまかし、平静を装おうとする。

 「だまれっ!!なぜだ!!一年坊主がこんなことできるわけがないっ!」

「そうですね、わたくしにはとてもできません。
 ……普通ならね。ですよ?今後の学びとして教えてあげます。
 ……あぁ、アナタには“今後”なんてないですし、もう“学生”ですらないので、わたくしの講義は必要ありませんかね?
 
 まぁ……か・わ・い・そ・う、なので教えてあげましょう。
 わたくしが先刻さっき『かなしみは~』とか言っている間アナタは、自分の顔を癒し、自分の身の安全をどう確保するかしか考えていなかった。
 つまり、自分のことしか考えてなかったんですね……
 ダメですよ自分のことばかりじゃなくて他人のことも気にかけて上げなくては、こころを配ってあげなくちゃあなりません。それが敵ともなれば尚更なおさら“心を配る”必要がありますよねぇ?
 
 ……ここまで言えばどれだけアナタが教会で、
 『阿呆が……。』とか『莫迦だね~?』
 っておねえさまとしらぬいさんに言われる人間でも分かりますよねぇ?」

「チッ……くそっ……だらだらくっちゃべってる間に“心を配って”やがったのか……!だからあんなに速く、遠いところに一瞬で氷の壁を出せた……!」

 アイがパチパチとちいさな両手を叩く。

 「救いようのない……“おれの大事な人を3人も傷つけようとした糞滓くそかす”でもそれぐらいのことはわかるんだなぁ?
 絶対に手をだしちゃあいけねぇ人間がこの世にいるってことはわからねぇのによぉ……。
 よかったよかった……どうですか?
 今からアナタは、“炎”と“氷壁”によってぶちころがされる予定ですけど……ご感想は?」

 女が苛々いらいらしてえる。アイの狙い通り、怒りで冷静さを欠き、本来の実力が出せていない。

「……誰にものを言っている!!僕は!!マンソンジュ軍士官学校の元生徒会副会長だぞっ!!」

 「あらあら、言うに事欠いて今わのきわに自慢するのが……過去の栄光ですか、もうアナタにはそれしかすがるものがないんですねぇ?かぁいそうに。
 それと忠告しておきますが、自慢をすればするだけ、
 『自分にはそれ以上の功績がない』
 『自分はそれ以降よりすごい功績を打ち立てることができなかった。』
 と言っているようなものなのでやめておくのをオススメしておきますよ?
 因みにこれは、アナタが大・嫌・い、な教えてもらったことです。
 あぁ!これはまた失礼をば……アナタはもう一生にもなれないし、通うもないのに気がききませんでした。
 ……いやぁ失敬失敬。」

 「だまれっ!!オマエは何様のつもりだ!!
 オマエはそんなに偉いのか!?
 僕を馬鹿にするだけしやがって……!!」

 ◇◆◇
 
 「ぎゃあああ!!!」

 ラアルの毒液を数滴すうてきくらった元風紀委員長の女の悲鳴が夜にとどろく。

 「うるっさいわねぇ……もう少し静かにできないのかしら。うつくしくもなければ、品もない。
 ……終わっているわね、貴女。」

 ラアルの毒液が触れた顔と胸からどんどんと皮膚が焼けただれて腐敗していく。女は急いで自己愛のヘルツで自分の傷を癒しながら、立ち上がり、ファイティングポーズをとる。

 「あら!まぁまぁ、文字通り、腐っても実力至上主義の学校の風紀委員になれただけのことはあるのね。」

 「だまれ!王女がなんだ!!
 こんなの王女がなんだ!!
 俺を阿呆あほうと呼べるほどテメェは、偉いのかよ!?
 えぇ?オウジョサマがよぉ!!」

 ◇◆◇

 「わたくしが、偉いのか?」
 「私が、偉いのか?」

 「偉いなどとは程遠いですが……。」
 「偉いに決まってるじゃない!」

 「わたくしは“この国を統治とうちする任務”をファンタジア国王から拝領はいりょうした、ミルヒシュトラーセ家が1人!」

 「私は“この国に君臨くんりんする権利”をファンタジア国王からたまわった、ツエールカフィー公王こうおうが娘!」

 「――“アイ・サクラサクラ―ノヴナ・フォン・ミルヒシュトラーセ”だ!!……覚えておけ!!」

 「――“ラアル・ツエールカフィーナ・フォン・ファンタジア”である!!……覚えておきなさい!!」

 ◇◆◇

 かげろうとはるひが負傷した部下を引き連れて、皆がひとところに集まる場所へ逃げ延びてきた。
 それと同時に怪我がある程度治まったアルタークが先刻さっきの雨でできた炎の抜け穴を通って丘から戻ってきた。

 ……そうして、ある光景をみた。

 ――この世界で今まではるひしか見たことがなかったアイの姿を――。
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