3 / 3
エリカ・アッシャーと変わらずの石
3 カエデ市長
しおりを挟む
体感時間では数秒だろう。
気つけば、オレたちは先ほどいた家の前ではなく、どこかの裏路地に立っていた。
(――移動用の魔法だ)
オレは察した。
「ついてきたまえ」
そう言うやいなや、アリエフは足早に路地を抜け、人を避けながら進んでいく。
オレも少し駆け足でそれを追いかけ、横に並んだところで先ほどのことを質問した。
「アリエフ先生――さっきのは移動用の魔法か?」
彼は目線を前に向けたまま、淡々と答えた。
「さよう。あれは『転移魔法』の応用、『付き添い転移魔法』というものだ」
なるほど。「近道」みたいなものか。
しかし、オレはちょっと気になったことがあった。
「便利な魔法だな――魔法使いなら誰でも使えるのか?」
「そういうわけではない。『転移魔法』の時点で高度な魔法であり、失敗すると大変なことになる。そのため、試験に合格した17歳以上の者にしか使用が認められていない」
……あら。
なら、オレの「近道」は言わないでおこう。
それから、オレたちは並んで歩き出した――
▽ ▽ ▽
5分ほど歩いたところで、アリエフは立ち止まった。
「ここが『カエデ市長』――ランタン横丁の入口だ」
「ランタン横丁?」
「今日学用品を買う場所――要するに、魔法使いの商店街だな」
こんな目立ったところにあっていいのか――とも思ったが、それは言わないでおいた。
どうせ「一般人の認識を阻害している」とか、そういう魔法のたぐいだろう。
アリエフが先に行ってしまったので、オレもそれについて行った。
朝早くということもあってか、店の中は静かだった。
客はおじいさんが2、3人いるだけで、バーテンダーの男が来たるべき稼ぎ時に備えようと、カウンターでグラスを拭いている。
バーテンダーはアリエフの存在に気づくと、珍しいものをみたという顔で言った。
「やぁアリエフ先生。先生がここにくるなんて珍しいんじゃないか?」
彼は目線をアリエフに向けながら、ボロボロの布でグラスを磨いていた。
一見すると器用な動きだが、彼にとってはもうなれたことだろう。
「私とてこのようなところには来たくなかったがな――」
アリエフはそういい、チラリとオレの方を見ていった。
「今年入学する生徒の手伝いをしているだけだ。とはいえ、ここからはアルバンに任せるがな」
「アルバンに任せるって……」
バーテンダーの声が少し暗くなる。
しかしすぐに気をとり直り、アリエフに提案した。
「――そのまま先生が案内してあげたらどうだい? 彼女も見知らぬ大男が案内じゃ怖がると思うが」
アリエフは少し考えたようだったが、しばらくして口を開いた。
「確かに、一人だったら私が案内をしていたかもしれん。しかし、今日はアルバンがもう一人入校予定者を連れてくる。結局買うものは同じなのだから、そのままアルバンに案内を任せようという計画だ」
「もう一人の入校者……それってまさか……」
バーテンダーは心当たりがあるのか、目を見開かせてアリエフに尋ねる。
アリエフは一瞬たじろいだが、諦めたようにその名を告げた。
「……ああ、アルバンがそのうちサミー・カールトンをつれてここにやってくるらしい」
「やっぱりそうだ! 今日はいい一日になるぞ!」
バーテンダーは手を叩いて歓喜し、危うく積み上げられてたグラスを割りそうになる。
アリエフは「……だから言いたくなかったんだ」と悪態をついた。
「……だが」
悪態から立ち直ったアリエフは、はしゃぐバーテンダーを一声で止めた。
「アルバンがくるまではまだ時間がある。だからその間、彼女にはここで飲み物を飲ませるつもりだ」
「そういうことならサービスしますよ! お嬢ちゃん、何が飲みたいんだい?」
バーテンダーは意気揚々と、オレにオーダーを尋ねてくる。
「うーん……何があるんだ?」
「おすすめはチーズソーダだ。早速飲むかい?」
バーテンダーはチーズソーダと銘打たれた瓶から、ジョッキに琥珀色の液体を注いだ。
ガン! とカウンターに置かれたジョッキを、オレは両手で受け取る。
それから、恐る恐る口をつけた。
「……甘い」
濃厚なチーズの風味と、優しい甘さが口の中に広がる。
炭酸が効いているため程よい清涼感もあり、非常に飲みやすかった。
「ハルフォードの学生さんに一番人気はこれさ。きっとフォードタウンでも……っと、それは三年生からだったな」
バーテンダーはうんうんと数回頷くと、アリエフにもチーズソーダを勧めた。
「いや、私は甘いものはそこまで……とりあえず、アルバンが来るまで彼女を頼む」
アリエフはそう言うと、バチンという破裂音と共に姿を消した。
気つけば、オレたちは先ほどいた家の前ではなく、どこかの裏路地に立っていた。
(――移動用の魔法だ)
オレは察した。
「ついてきたまえ」
そう言うやいなや、アリエフは足早に路地を抜け、人を避けながら進んでいく。
オレも少し駆け足でそれを追いかけ、横に並んだところで先ほどのことを質問した。
「アリエフ先生――さっきのは移動用の魔法か?」
彼は目線を前に向けたまま、淡々と答えた。
「さよう。あれは『転移魔法』の応用、『付き添い転移魔法』というものだ」
なるほど。「近道」みたいなものか。
しかし、オレはちょっと気になったことがあった。
「便利な魔法だな――魔法使いなら誰でも使えるのか?」
「そういうわけではない。『転移魔法』の時点で高度な魔法であり、失敗すると大変なことになる。そのため、試験に合格した17歳以上の者にしか使用が認められていない」
……あら。
なら、オレの「近道」は言わないでおこう。
それから、オレたちは並んで歩き出した――
▽ ▽ ▽
5分ほど歩いたところで、アリエフは立ち止まった。
「ここが『カエデ市長』――ランタン横丁の入口だ」
「ランタン横丁?」
「今日学用品を買う場所――要するに、魔法使いの商店街だな」
こんな目立ったところにあっていいのか――とも思ったが、それは言わないでおいた。
どうせ「一般人の認識を阻害している」とか、そういう魔法のたぐいだろう。
アリエフが先に行ってしまったので、オレもそれについて行った。
朝早くということもあってか、店の中は静かだった。
客はおじいさんが2、3人いるだけで、バーテンダーの男が来たるべき稼ぎ時に備えようと、カウンターでグラスを拭いている。
バーテンダーはアリエフの存在に気づくと、珍しいものをみたという顔で言った。
「やぁアリエフ先生。先生がここにくるなんて珍しいんじゃないか?」
彼は目線をアリエフに向けながら、ボロボロの布でグラスを磨いていた。
一見すると器用な動きだが、彼にとってはもうなれたことだろう。
「私とてこのようなところには来たくなかったがな――」
アリエフはそういい、チラリとオレの方を見ていった。
「今年入学する生徒の手伝いをしているだけだ。とはいえ、ここからはアルバンに任せるがな」
「アルバンに任せるって……」
バーテンダーの声が少し暗くなる。
しかしすぐに気をとり直り、アリエフに提案した。
「――そのまま先生が案内してあげたらどうだい? 彼女も見知らぬ大男が案内じゃ怖がると思うが」
アリエフは少し考えたようだったが、しばらくして口を開いた。
「確かに、一人だったら私が案内をしていたかもしれん。しかし、今日はアルバンがもう一人入校予定者を連れてくる。結局買うものは同じなのだから、そのままアルバンに案内を任せようという計画だ」
「もう一人の入校者……それってまさか……」
バーテンダーは心当たりがあるのか、目を見開かせてアリエフに尋ねる。
アリエフは一瞬たじろいだが、諦めたようにその名を告げた。
「……ああ、アルバンがそのうちサミー・カールトンをつれてここにやってくるらしい」
「やっぱりそうだ! 今日はいい一日になるぞ!」
バーテンダーは手を叩いて歓喜し、危うく積み上げられてたグラスを割りそうになる。
アリエフは「……だから言いたくなかったんだ」と悪態をついた。
「……だが」
悪態から立ち直ったアリエフは、はしゃぐバーテンダーを一声で止めた。
「アルバンがくるまではまだ時間がある。だからその間、彼女にはここで飲み物を飲ませるつもりだ」
「そういうことならサービスしますよ! お嬢ちゃん、何が飲みたいんだい?」
バーテンダーは意気揚々と、オレにオーダーを尋ねてくる。
「うーん……何があるんだ?」
「おすすめはチーズソーダだ。早速飲むかい?」
バーテンダーはチーズソーダと銘打たれた瓶から、ジョッキに琥珀色の液体を注いだ。
ガン! とカウンターに置かれたジョッキを、オレは両手で受け取る。
それから、恐る恐る口をつけた。
「……甘い」
濃厚なチーズの風味と、優しい甘さが口の中に広がる。
炭酸が効いているため程よい清涼感もあり、非常に飲みやすかった。
「ハルフォードの学生さんに一番人気はこれさ。きっとフォードタウンでも……っと、それは三年生からだったな」
バーテンダーはうんうんと数回頷くと、アリエフにもチーズソーダを勧めた。
「いや、私は甘いものはそこまで……とりあえず、アルバンが来るまで彼女を頼む」
アリエフはそう言うと、バチンという破裂音と共に姿を消した。
0
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる