あら、面白い喜劇ですわね

oro

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シャーロットにそう言われ、アルバートはずっとベッタリとくっついていた少女の存在を思い出した。

「アルバート…様…?」

現在の婚約者と婚約を破棄し、王子は自分と婚約してくれる。
そう信じていた少女は不安そうに、しかしかつてアルバートを虜にした上目遣いの表情で彼の顔を見上げた。

「…アイシャ…。」

その表情を見て、アルバートはつい昨日までのように少女を抱きしめることはしなかった。
代わりにやんわりと、少女がまとわりつく腕を離して距離を置く。

「あ、アルバート様…。約束したではありませんか…私のことを守って下さると、私を王妃にして下さると。」

動揺が隠せない様子の少女にその場にいる観衆達は冷たい視線を向ける。
勿論アルバートにもその視線は送られているが、気付いていない彼はハッキリと少女に拒絶を示した。

「すまないが私は王族だ。我が妻に男爵令嬢は相応しくない。次期国王である私に相応しい相手は…シャーロット王女だけだ。」

そう言ってシャーロットへと熱い視線を送るアルバートだが、肝心のシャーロットはただ微笑むだけで返事はしない。

「ど!どうして!?ついさっきまで私達は同じ未来を語り合ったでは無いですか!!それなのに…そんな…。私は誰よりもアルバート様のことを分かっています!それに…それに…そんな女より、私の方が可愛いでしょう!?」

悲鳴にも近い声を上げて、少女は己こそが王妃に相応しいと力説する。
しかし肩で息をする彼女を見ていたのは、アルバートの蔑むような瞳だった。
更に会場のあちこちからは失笑が漏れ、その笑い声は少女の耳にも入る。
辺りを見渡した少女はそこで初めて現実を見た。

ここにいる誰もがアルバートのような高貴さを纏い美しく、そして元平民であり今も男爵令嬢でしかない自分を嘲笑っていると。
誰もが自分の話を聞いていない。いや、正しく聞いてくれていないのだと。
自分の言っていることは正しいのに。正しいはずなのに。彼等は皆笑っている。
己の美しさが否定されたのだと少女は今気付いた。

「シャーロット王女に比べたら…あの程度、そこらの雑草と変わりませんのに。」

「どうしてあんな勘違いができるのでしょうね。やはり身分が低い者の考えることは分からないわ。」

クスクスと笑われて、少女は自身の顔が赤く染まっていくのを感じた。
言い返そうにも彼等もまたアルバートと同じ類の美しさを持っているため言葉に詰まる。

どうしてッ…こんなことに!

いつものように少女に手を差し伸べてくれる人はいない。
少女は傍に居る王族が見た目だけの美しさしか取り柄がなかったから気付けなかった。
結局のところ、彼女のような者に手を差し伸べる者もまた少女と同じ類の人間だったのだ。
だから、本当に高貴な人間がどれだけ気位の高い存在であるか、自分と何が違うのか気付くことが出来なかった。


「何事だ。」

誰かが呼びに行ったのだろう。
少し息を切らした国王が会場へと姿を現した。
威厳のある登場ではあるが、事情も聞いているのか顔色が少し悪い。

「ち、父上!」

あからさまに焦った表情になった彼はそのまま言葉を繋げようとしたが、その声は国王によって遮られる。

「アークライト公爵令嬢。説明せよ。」

自身の息子よりもその婚約者であるアリアに説明を求めたことにより、周囲の人間はどちらが見捨てられるのかを察した。

「はい。先程アルバート殿下より婚約破棄をされ、私はその提案を受け入れました。しかし…。」

ちらりと、アリアはシャーロットへと視線を送った。
今あったことを素直に話せば、一体この国にどんな制裁が与えられるのか分からない。
アルバートや国王、そして自分が責任を取らされるのは良いが、国民まで被害を被るのは避けたい。
しかし国王への報告を偽ることも、ましてやシャーロット王女の前で事実を隠すことも許されない。
アリアはそう考えていた。
しかしそのアリアの不安を払拭するかのように、シャーロットは優しく微笑んだ。
それは暗に、全てを話せということを意味する。
アリアはシャーロットから個人的な微笑みを向けられたことに胸が高鳴ったが、しかし心は不思議と落ち着いた。

「アルバート殿下は、婚約者のいらっしゃるシャーロット様へと求婚なさいました。」

アリアの言葉に、やはり真であったかと国王は頭を抱えた。
しかし直ぐにシャーロット王女の元へ向かうと深々と頭を下げる。
一国を背負う王がそう簡単に頭を下げてはならない。
しかしその場にいる者は皆その態度が正解であると理解していた。

「此度の愚息の仕出かし、誠に申し訳ない。責任は私と息子にある。どうか我等の首をもって許して欲しい。」

頭を下げることは予想出来たが、まさか命まで差し出すとは。観衆の中で多少のざわめきが起こるが、それよりも一段と大きい声があがった。

「シャーロット王女には…婚約者がいるのか。い、いやしかし!私の方が優れているはずだ!私にこそ相応しいはず!
それに父上、私の首とは一体…。」

状況が理解出来ていないのか、アルバートは混乱した様子で頭を下げる国王の元へと向かう。

「黙れ。貴様は廃嫡して平民へと落とす。これは確定事項だ。」

「なっ!なぜ!?」

己の仕出かした事の重大さを分かっておらず、さらに自分で考えることもしないからだ。
国王は内心そう憤っていた。
しかし今はそれよりもシャーロットの言葉を待たなければならない。
最悪、なんの罪も無い国民を危険に晒す可能性があるのだ。王として、それはどんな手を使っても避けねばならなかった。
頭を下げているため国王はシャーロットがどんな表情をしているのか分からない。

「頭を上げて下さいな。」

たっぷりと時間を置いて、シャーロットはそう声を掛けた。
その言葉に従い、国王はゆっくりと頭を上げてシャーロットを見た。
目の前にいるのは親子ほどの年の差がある少女だが、自分よりも遥かに力を持っている。
シャーロットの優しい笑みは目元の黒子によって神秘的な妖艶さを醸し出していた。
そんなシャーロットに一瞬魅入ってしまったが、すぐに国王は表情を引き締める。

「この国には貴方のような立派な王が必要ですわ。この程度の些細な問題で貴方を失うのは惜し過ぎますの。」

にこりと微笑んでそう紡がれた言葉に、国王はこの国が許されたのだとホッとした。
しかしシャーロットはそこから更に笑みを深めると、その視線を少し離れた位置に立つアリアへと向けた。

「けれど…そうねぇ。私がこの件を赦免にするにあたり、条件がひとつありますわ。」

「…その条件とは。」

国王の問いに、シャーロットは傍に立つ白銀の髪の護衛を置いてアリアの元へと向かった。
突然の指名にやや混乱しながらも、アリアは目の前にやって来たシャーロットへ淑女の礼をとる。

「私、貴女が欲しいわ。」

アリアの手を取り、シャーロットはにこりと微笑みかけた。
それはまるで、国王の返事よりもアリアの返事を待っているかのよう。
アリアは驚いて目を見開いていたが、直ぐに状況を察したのか彼女の手を握り返し、そして足元に跪いた。

「不肖な私がこれからシャーロット様のお傍におれること、この上ない幸せで御座いますわ。」

アリアの返答に嬉しそうに微笑んだシャーロットは、いつの間にか自身の傍にやってきた護衛騎士へと微笑みかける。

「帰りましょうフィンリー。アリア令嬢にはまた追って連絡をするわ。後片付けも貴方にお任せするわね。」

ゆっくりとカーテシーをするアリアと頭を下げる国王を見て、シャーロットは護衛と共に会場を去ろうとしていた。

「ま、まてッ!シャーロット!」

その愚かな声に呼び止められるまでは。

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