「無」の魔王

第２章「統治」

第七話-①「彼女との出会い」

　これはボクが研修生として地元の魔王の領地で秘書になるための仕事をしていたら、後ろから声をかけられた。

「ねぇ、これ君の？」

　ボクが声の方に顔を向けるとそこにはナーガの女性がいた。

　それがお金しか考えてこなかったボクを大きく変える出来事になる。

　このときのボクは母親の考えなしの兄弟たちの増殖に頭を抱えていた。

　その時点ではもう６人の兄妹がいる。

　そんな兄妹たちをうちの母親は当然面倒を見るなんてしないため成人しているボクの方に全て丸投げしてしまう始末だ。

　そのためボクは本来の仕事と複数のバイトを両立させながら仕送りをしていた。

　なのでボクは毎日暗い表情のまま出勤することが当たり前になっていた。

　だからボクの落とし物を拾ってくれた彼女もボクの表情を見て心配の声をかけてくれた。

「君、大丈夫？　目の隈凄いことになってるけど」

　ボクはその一言を聞くとすぐに落としたものを回収して一言も喋ることなく逃げ出してしまった。

「あ、ちょっと！」

　彼女はボクを止めようしてくれたが、ボクは一切止まることなく走り去ってしまった。

　それからだろうか彼女と関わりを持つようになった。

　彼女の名前は『ナーティス』と幹部候補して素質のある魔物だと言われている。

　最初はボクの体調を聞くような間柄だったが、いつしか自分たちの身の回りのことを話すようになっていた。

　このときのボクは兄妹たちのことで押し潰されそうになっていた心が軽くなっていくような気がしていた。

　そしてボクは彼女を日に日に意識するようになった。

　しかししばらくしてボクの運命を大きく揺るがす出来事が起こった。

　それはボクは研修期間を終え、新たな新天地への新たな仕事場の選考が行われている時期だった。

　絶縁をしていた母親がボクの住むアパートに現れた。

　よく母親を見ると腕には一体の魔物の赤ちゃんを抱っこしていた。

　そしてこの母親はとんでもないことを言い出した。

「ごめ～ん♪　子どもまた作っちゃった」

　そんな簡単に言う母親の発言にボクの何かが旋律を走らせた。

　母親は赤ちゃんを床に置くと、開いた扉から反対に向いてこう言った。

「あともう一体良さそうな魔物がいたから８人目が生まれちゃうかもだけど、よろしくね♪」

　そう言って母親は夜の世界に行ってしまった。

　ボクは糸が切れたかのように力が抜け、その場で倒れてしまった。