ただの少年が偶然S級クラスの最強シスターに導かれることによって始まる物語

その日は記憶に残るとても長い一日でした 前編

「やっと到着したぞ。なんとかモンスターにも遭遇しないで来られたし、まずは順調にここまで来た事に感謝だね」

　僕の名前はクロノフェイズ。

　みんなは僕の事をクロノと呼んでいて僕は冒険者になる為に、遠い村からこの国の中でも栄えている街に入るアクアミラビリスを目指してやって来ました。

　アクアミラビリスは別名水の都とも呼ばれており、なんといっても温泉が有名ですが、僕は温泉に入りに来たわけじゃありません。

　僕が村を出てここに来た理由はこの街で冒険者になって、お金を稼いで家族を楽にするためです。

　正直ですけど僕は実力ないですけどね……………。

　村では期待されて出て来たこともあってなんとしても功績を出して帰りたいのです。
　
　それからは街を歩き続けました。

　それにしてもアクアミラビリスはいろんな人で賑っていますね。

　中には初めて見る種類の亜人や蜥蜴人、中には竜人もいるぐらいで、素直にさすが都だと思いました。
　
　あとは初めて見る村にはない魅力的な誘惑に目が泳いで行ってしまいそうになりましたが、そうなった時には村のみんなの顔を思い出して、振り切り続けました。
　
　それからは緊張と興奮により汗ばむ手で持つ地図を頼りになんとか目的地のギルドに到着しました。
　
　早速、冒険者登録を済ませてクエストに出ましたが、この周辺にいるモンスターの強さが僕のいた村の周辺にいるモンスターとレベルが違い大苦戦。
　
　それでも必死に戦いなんとかクエストをクリアしましたが、心身ともにへとへとになってしまい、すでに村が恋しくなってしまいそうになりますが、両頬を叩いて気合を入れなおします。まだまだこれからですよ！
　
　それに今の僕にはこの三千リグが詰まった小袋があるのですから、テンションは今もハイになっているんですよね。えへへ。

　早速一部を村へと仕送り、残り僕の手元に残して、足元をふらふらしながら、今はクエストに行く前に見つけた宿屋の近くにあるいい感じの酒場に来ています。
　
　僕はこうした酒場に入ることも初めてなので少し躊躇しましたが、店の外にまで広がる鼻腔をくすぐるいい香りにつられてしまったとこもあって勢いよく入店しました。
　
　入店後は、髪をピンで止めおでこを見せた可愛いと素直に思える店員さんにお店の端っこの席に案内されました。

　今はメニュー表とにらめっこをしながら料理を選んでいるのですが、料理名のみが書かれただけであったので、どんな料理なのかイメージが出来ません。

　どれにすればいいか分からないか悩んでいると、それを察したおでこの店員さんが声をかけてくれました。

「お客さん、もしかしてこういうところに来たのは初めて？」
「恥ずかしながら、村から出て来たばっかりで初めてなんです」
　
　僕は自嘲気味に笑う。

「あー、やっぱりそうだったんだ。安心して、そういう人うちにはいっぱい来ているから、……そうだなぁ、良ければ私がおススメする料理をいくつか教えてあげようか？」
「ッッーーーー」
その時おでこの店員さんはずいっと僕に体を寄せました。
近くで教えてくれるためだと思いますが、近すぎて柔らかいのが当たっているような。
「それじゃあ、まずはこれかな…………って、君顔赤くない？」
「そ、そうですか？　もしかしたら今日の疲れのせいかもしれませんね…………」
　
　急な出来事なのでとっさに誤魔化しきれません。

「そうなの。そうしたらこの料理がいいかも。きっと疲れも取れるよ！」
「そうしたら、それをお願いします！」
　
　もう料理のことなど気にしていません。

「うん。わかった！　それじゃ待っててね！」
　おでこの店員さんはそのまま厨房へとオーダーを渡しに行きました。
　
　それから、ぼんやりと色んな言語が飛び交う賑やかな店内を眺めていると、あのおでこ店員さんが戻って来ました。
　
「はい。おまちどうさま。熱いから気をつけてね」
「ありがとうございます！　うわー、美味しいそうだなぁ」
　
　注文した料理が来ると同時にお金を支払ってから、待ちに待った熱々の料理を口へと運び、味わいながら食事を楽しみます。

「ああ～美味いっ！　最高に美味いっ！」
　
　生まれて初めて味わう至福の味に僕は何度も歓喜しながら食べ進めました。
　
　クエストでは途中死ぬかと思えるほど過酷であったけど、報酬もそれに見合う金額であったし、おかげでこんなにも美味しい料理が食べられています。幸せだなぁ～。

「ふー。おなかいっぱい」

　一通り食べ終えてから改めて辺りをキョロキョロと見てみると、かなり人がこの酒場を利用していることに気がつきました。
　
　見たところ僕よりももっと強そうな人がちらほらといます。

その人たちを見てから、僕の装備を見るとやはり見劣りしてしまい、思わずため息が出てしまいました。
　
　今の装備は村を出る時に、貰った物ばかりだから大切な物で不満は無いけど、やっぱり憧れてしまう。僕もいつかはああいった装備を身に付けられればいいなと思っていると、急に大きな歓声が上がり、その声の方を見た。
「何をしているんだろう」
　
　大きな声が上がったのは、店の中央で集まっている場所です。

「うぉおおおおおお！　まだ止まらねぇのかよ！」
「ヤバいな、男もすげぇけど、嬢ちゃんもスゲエ！」
　
　店内に響き渡るほどの大きな歓声に僕も気になってしまい、なんだろうと思いながら見に行ってみると、そこにはガタイのいい男と、一人の紅髪のシスター服を着た少女が競い合うように飲み合っていました。