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「ここならもう大丈夫ですねー」
「うん。作戦は上手く行った」
 
フードを被ったまま二人で話し合っているのは青髪に赤いラインが入った少女と黒紅髪の少女。ちなみに俺は今黒紅髪の少女に担がれている。
 
掴まれた時は気づかなかったが、担がれた時にいろいろと気づかされた俺は小恥ずかしくなりおずおずと話しかける。

「助けてもらったところすまん。安全なら下ろしてもらってもいいか?」
「あ、ごめん」
 
俺は落ち葉が敷き詰められた足元にゆっくりと下ろされて地面に足をつく。

「ええっと……君たちは俺を助けてくれたのか?」
「そうですよー。あなたが召喚されると知っていたからいろいろと準備をしておいたけどー、まさか念を入れて用意しておいた作戦を行うことになるとは思ってもいなかったですよー。おかげで最初は焦った、焦ったー」
 
青髪の少女は今では安堵しているのかその表情は緩やかであった。
 
どうやら俺は助けてもらったようだが、それよりもこの二人はいったいなんだ。
 
見たところそれほど強そうに見えない普通の少女のようだが………。

「それで君たちは誰なんだい?」
「みぃーの名前はミヨ。こっちはアーちゃんですよー」
「アキ。よろしく」
「俺は…………トウヤだ。それでさっき言っていたけど知っていたってどういうことだ?」
「それはだねー。みぃー達が研究して作り出した召喚術が盗まれてしまって探し続けたらまさか同盟国に売り渡されていることが判明して、かなりの時間とみんなの努力が詰まった大切な召喚術だったからなんとしても取り返したかったですけどー、あの王国とはなるべく揉め事をしたくないからしばらく静観していたわけですー。それでいろいろと情報を集めていたら今日召喚が行われるということだからこうして待っていた訳ですよー」

「召喚術を使えるのは一回だけ。だから出てきたところを奪うことにした」
「あーちゃんの言う通りー。という事で分かったかなー?」
 
言葉数が少ない赤髪少女アキと独特な口調で話す少女ミヨはどうやら味方らしい。そのことだけで俺は安堵できる。

「とりあえず分かったかな。それに君たちが俺の敵でないなら今はいいよ」
「大丈夫。みぃー達はトウヤさんの味方ですよー」
 
うんうんと首を上下に振りながらミヨは頷いている。

「でも不思議。なんであんなことになったの?」
「そうだよねー。結構な大金を払ってあの魔法術を手にしているから簡単に出て来たものを排除するっているのは考えられないけどー、……君もしかしてあの姫さまになにか失礼な事をしたのー?」
「いや何もしてねぇよ。なんか俺の頭に指をあてられて調べられたけど、結局役に立たないって言われて殺されかけたんだよ。それで必死に抵抗してああなった」
 
叫びまくりながらよくわからん力で攻撃したせいで、今も少し喉が痛むのをこらえながら話している。

「そっかー。うーんでもそれだとちょっとだけみぃー達も残念だなぁ。正直期待の何かが出て来てくれると思っていたからねー。あの王女が役に立たないと評価したとなると期待は薄いですねー」
「そりゃ失礼いたしました」
 
んだよ。勝手に呼んでおいて期待外れとか言われてもこっちは迷惑なだけだつーの。

「でも、トウヤには力がある。なのに、あの女がその評価をしたのは何故」
「みぃーもそれが気になっていたのですよー。トウヤさんはあの場所で兵士たちを圧倒していたしー。あの兵士たちは王女さまの護衛部隊だから能力値も高いはずだしー。それを圧倒するとなるとやはりトウヤさんも高い能力を持っているという証明となるよねー」
「そりゃどうも」
 
急に褒められて俺は照れてしまった。

「それでーあの技はどうやってしたのですかー?」
「あの技って?」
「ほらー、枝を振り回してブンブン風を起こしていたやつですよー」
「あーあれか。あれは正直言って偶然だよ」
「やっぱりそうだよねー。あれが出来るのに隠しているとなると相当な役者さんだよー」
 
俺の返事にミヨは納得したようだがアキの表情はピクリとも動かない。

「ほんとその通り、全く知らん力だけど助かったからよし」
「だよねー。じゃないとあんなに乱れないだろうしー」
 
プククと笑いをこらえるミヨ。確かに俺も無様に暴れたもんだと思っている。

「悪かったな。でも本当に死ぬかと思ったんだぞ」
「そうですねー。でも今は安心してもらっていいですよー」
「その言葉本当に信じているからな。これで裏切ってきたらアンデットにでもなってやる」
「ひゃー、怖い怖いー。さてー、ここで話しているのも絶対に安全というわけでも無いですしー、そろそろ行きますかー」
「行くってどこにだよ」
「信じてついて来て。トウヤを私達の国に案内する」
 
二人は俺より前で並んで歩きはじめ、俺はおいて行かれないようにその後を追った。
 
どうやら一難はさったようだがまだ油断ならない。でもこの二人からは殺気のようなものは感じられないし本当に信用してもいいのかもしれない。
 
ようやく安心したのも束の間。俺はあることに気づく。

「あれ? そういえばあの枝はどこいった?」

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