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王国へ

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「王城まではどのくらいあるんだ?」
「この国の中心にあるのでそれなり距離はありますよー。ですから、もう少しゆっくりしていてくださいー」
 
これから向かっているのは王城だが、今日は王城に向かっているということもあって用意された車も、昨日乗せてもらったものよりいいものであるため内装は豪華だし、揺れも少ない。王城という言葉に昨日の出来事がフラッシュバックしそうだったが、この二人を信じると決めた以上あたふたすることもない。
 
移動時間も分からないしどうせすることも無いのなら寝ていようかな。でも昨日から寝てばかりだし、今日は…………寝ないように……………。
 
結局トウヤはそのまま瞼を合わせているとすぅすぅと寝息を立てて寝てしまったのを二人は優しく眺めている。

「トウヤさんは本当によく寝ますねー」
「うん」
「しかしー、それはおいておくとしてー。アキさん。今日どこか変じゃないですかー?」
「いつも通り」
 
頬が当たってしまいそうなぐらい近づいているミヨを手で押し返す。

「そうですかー。それならみぃの気のせいですねー。今日は久しぶりにティターニア様にお会いしますのでちょっと緊張していましてー、そのせいですかねー」
「そうだと思う」
 
ミヨはすっとぼけたアキの返事に興味を持っていたが、長い付き合いで知っているアキの性格上ここではこれ以上聞き出すことは困難であるので、ここで話題を変更する。

「それにー、この国もそう安心していられる事態ではありませんからー、トウヤさんにも今日話される話にー、素直に従ってくれればいいですけどねー」
「大丈夫。トウヤは出来る子」
「随分と信頼があるようでー」
 ミヨは聞こえない声で静かに呟くのであった。

「トウヤさんー! 起きてくださいー!」
 
ゆさゆさと揺さぶられ俺は間抜けな声を出して瞼を開く。

「んあ? 着いたのか。ふあああああああ! 本当にこの世界に来てから寝てばっかりだな」
「確かそうですけど、実際のところ疲れているのですかー?」
「そうでもないけど、なんか寝ていると気持ちよくなるから好きなんだよ」
「そうなの」
 
じーとその大きな瞳を向けてくるアキに小恥ずかしくなり顔をそらす。

「そ、そんな事よりも王城に着いたんだろ。早く降りようぜ」
 
俺は素早く鳥車から降りると目の前に圧倒されるほどの大きな門が俺達を向かい入れる為に開いていた。
 
門をくぐり抜けこのまままっすぐ突き進むのかと思いきや、すぐにミヨに案内された場所はツタで出来た吊り橋や木で作られた橋を渡るなどしてようやく王城の入り口となる場所に辿り着く。

「今日もめんどくさい道だな」
「一応、通って来た道は近道でしてー、護衛達にも未確認なトウヤさんを案内するとなるとこっちの方が楽なのですよー」
「それにしてもこの城も厳重警戒すぎじゃねぇか」
「それは王家の皆様をお守りする為に歴代の方々達が作り上げた最強の城ですからーそれはもうめちゃつよですよー」
「中もしっかり作られているから警戒時はもっと入りにくい」
「でも―今日は、いきなりの来城で準備が整っていなかったのでー、特別な入口から入っていますよー」
「結局それかよ!」
 
ようは普段であれば来城する際に手続きさえ踏めばもっと楽な入口があるらしい。だが、未確認でどんな奴かもわからない素性不明者を入れる際には厳重な検査が行われそれは一日では終わらないらしい。
 
それでは煩わしいとアキの雇い主のティターニアが、このような特別な入口から入ることを許可したという経緯があったそうだ。
 
結局のところ大変だったのは最初だけでその後はミヨの案内で特に何事もなく中へと入っていく。
 
ここまで厳重な警備を敷いている城にこうして俺が入り込めているという事は俺が無害だという事を信じてもらえているのか、それとも俺の近くを歩いているアキとミヨが絶対の信頼があるということだろう。

「トウヤさんは召喚されたということですがー、以前はどういうお仕事や役職をしていましたかー?」
「俺はたしか普通の学生だったと思う。良くも悪くもないただの学生だ」
「そうですかー。となると普通だったのですねー」
「そうだな……………。ただの普通の学生だ。こんなにつまらない話をしてしまったが、がっかりしたか?」
 
学生という言葉を自然と言ってはいたが、俺はどこか引っかかるような気がした。
 
僅かに残る記憶はあるのだが、あまりにも断片すぎる。

「いえいえー。みぃーはトウヤさんに期待もしていますしー、召喚されるほどですから、それなりの実力があると思っていますよー」
「そうだよな俺だって何かできるよな! 正直あの王女にゴミだ、なんだと言われてがっかりしてたんだよ。ミヨがいい奴でよかった!」
「そうでしょうー! みぃに相談する人はみんなそう言ってくれるのですよー」
 
わしゃわしゃとその青髪を撫でまくっていると冷たい視線が俺を刺す。

「すぐそこ。ティターニア様の部屋だから静かにして」
「お、おおう。すまん。すまん」
「はいー。そうですねー」
 
赤絨毯が敷かれた長い廊下を歩き続けた先にある、この部屋の住人であるティターニアはこの扉の向こうにいる。
 
先程まであった浮ついた気持ちもこの厳かな雰囲気で今ではどこかに行ってしまい、少しだけ肩が震えていたのでさえ気づくことが出来なかった。
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