烙印騎士と四十四番目の神・Ⅰ 転生者と英雄編 

赤星 治

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一章 遺跡の魔獣

Ⅲ 情報収集

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 翌日、ベルメアの提案通り、魔獣狩りに専念する一日となった。
 転生した場所では敵がまだ強くて町から遠い。そのため、何が起きてもすぐに町へ逃げ込める近辺の林や平原の魔獣に行動範囲を絞った。
(あー、かったるい。受肉してぇ)
 心中で不満を漏らしながらも魔獣を倒し、素材を集めて換金し、食料と装備を充実させる。それらを繰り返す一日。
 日暮れ時、前日よりも疲弊しきったジェイクは宿のベッドへ倒れるとすんなり寝入った。
 明朝。過度な疲れが嘘のように消え、早くに目覚める体質となっている。前世の身体との違いをジェイクは実感していた。
(……良いやら悪いやら、か……)
 肉体を酷使した翌日は疲労と筋肉痛を味わいながらも成長を感じていたのだが、転生者の身体ではそれが無い為妙に心地が悪い。そんな胸中を知ってか知らずか、ベルメアは満面の笑みで挨拶する。

「何笑ってんだ? 痩せたか?」
 『女=痩せると喜ぶ』の方式がジェイクの発想であった。
「神にそんな馬鹿げた定理が通じるかってぇの。そうじゃなくってぇ、経過報告に行ってぇ、良い感じの特典を授かったのよ~」
 昇格試練第一回目の経過報告をジェイクはすっかり忘れていた。
「つっても、俺が受肉した訳じゃないんだろ?」
「あんたの頭は受肉で埋まってるのか」
 言い返すもすぐに笑顔となる。余程良い特典を授かったのだろう。
「なんだ? あのすぐ壊れる板が戻ったとか」
「ステータスボードの修理可能はレベル50超えてからだし受肉したらそれが出来ないの。あんたは受肉目指してんだからもう諦めたわよ。そうじゃなくってぇ……えー、どうしよっかなぁ? 教えよっかなぁ?」

 焦らす姿を鬱陶しいがる顔にジェイクはなるが、ベルメアは気付いていない。僅かな間、勿体ぶると、胸を張ってジェイクと向き合った。
「なんとぉ! あたしの【特定加護】が二段階昇格しましたぁぁ!!」
 とはいえ、何がどう凄いのかジェイクには伝わっていない。
「何だ? 朝っぱらから小難しい話とか止めろよ」
「大丈夫よ。説明してなかったけど、守護神達にはそれぞれ特定加護って呼ばれる、いわば特有の才能、転生者の助けになる力みたいなものがあるの。それが二段階昇格したのよ。試練の序盤で二段階昇格は喜ばしいことなんだから」
「で? ドベ神様の特定加護ってのぁ何だよ」
「ドベっていうな! まいいわ。あたしの特定加護は『縁結び』よ」
 聞いた途端、ジェイクは呆れた表情を浮かべてベッドに寝転がる。聞くからに自分が強くなるのではないのだから使える力かどうかが悩ましい。
「あ、あんた今、「使えねぇ」って思ってんでしょ」
「心眼でもあるのか? さすが女神様だ」
「馬鹿にすんじゃないわよ。ってか、候補にあった五つの依頼をすぐに決めなかったのだって、今日この時を待ってたんだから」
「どういう事だ?」
 上体を起こした。

「いい。確かに良い依頼にはそれなりの手練れが集まるけど、全員があたし達に有利な味方になり得る訳じゃないのよ。分かるでしょ」
 ジェイクは頷いた。
「けど、縁結びの効果が増せば、何も無い状態よりは良い仲間が寄る可能性が高くなるの。あたしとしては一段階上がると思ってたんだけど、二段階は本当に運が良いとしかいいようがないのよ」
「けど、それでもいい仲間かどうかは分かんねぇんだろ? それに悪縁も引き寄せんじゃねぇのか? 昔、婆ちゃんに聞いた話だと縁結びってそういう事だろ」
「尤もな意見ね。けど、あんたが転生して今日まで悪行は働いてないでしょ。前世で悪人だったらステータスボードの前文にそういった事が書かれてる筈だし、悪縁を寄せる程じゃないわ。気が合うどうこうの問題はあんた次第だけど、良い方に転ぶ可能性がかなり高いのは有難い事よ」
 ジェイクはこれ以上深く考えなかった。無駄に考えすぎても時間の無駄であり、運を天に任せる生き方は前世でもよくしていた。だから、”なるようになれ”と割り切る。
「んじゃ、女神様の加護を信じるとしますか」
 意気込んで立ち上がり、身支度を整えた。


 換金所へ着くと、ベルメアが目星を付けていた五つの依頼が二つに減っていた。これも特定加護の力かとジェイクは思っている。
(で、どっちがいいんだよ)
 依頼内容はどちらも魔獣討伐。しかし場所が異なり、討伐対象が一体か五体かであった。
(あんたが選ぶのよ。特定加護は守護神の力だけど利用するのは転生者だから。この場合はご覧の通り選択よ。選んで本当の良縁を結ぶのはあんた次第だから。人間同士の縁結びだって本人の日頃の行いと決断次第でしょ)
(御尤もな御意見で。……じゃあ……)
 選んだのは森の中にある廃れた遺跡に出没する五体の魔獣狩り依頼であった。
(一応、選んだ理由、聞いとこうかしら)
(烙印技を使う前提で考えると、ここなら目立ちにくいだろ。あの技に魅了されて寄ってくる変な奴らと一緒にいるなんてのぁ、御免被るからな)
(賢明な判断ね。結構勘が良いのね、見直したわ)
(俺を何だと思ってんだよ)
(最初が悪すぎたのよ。まあそんな事はさておき、早速依頼現場に向かいましょ)
 陽気に弾む声のベルメアは、特定加護がどういった人物を引き寄せるか、楽しみでしかなかった。

 ◇◇◇◇◇

 町から東へ二十キロの所に村があり、近くの森林地帯の中に目当ての遺跡はある。

【ペルミの遺跡】
 数百年前に滅んだとされる都市・ペルミ。
 石を加工して家屋や道路を作った主要都市。戦争により住民の大半を失い、立て続けに魔獣の襲撃に遭い壊滅。以降、魔獣の住処となり果てた。現在では強い魔獣は奥の遺跡に住み着き、弱い魔獣が森を徘徊していると噂されている。

 馬車で村まで連れて来てもらったジェイクは、早速情報収集に向かう。真っ先に訪れた場所を見たベルメアは呆れた。
(はぁ?! 酒場って、あんた昼間っから酒とか止めてよ!)
(黙ってろって。おっさんなりの情報収集なんてのはなぁ、こういったとこで仕入れんのよぉ。良縁結びの女神様付きなら格別の良い情報が入るってもんよ)
 ベルメアは不意打ちの褒め言葉に照れてしまった。
(もう、馬鹿。酒はほどほどにしなさいよ。これから戦うんだから)
 口調が、夫を気遣う妻のものとなったが、ジェイクは気にもせず店へ入った。

 昼間であり空席は目立つも、来店者は四人いた。
 カウンター席へジェイクは腰かけた。
「お客さん、見ない顔だね。それにその恰好、遺跡の魔獣討伐?」
「ああ。金がねぇから動いて稼げって言われちまってな」
 小指を立てて見せると、店主は頷いて納得した。
「野郎は”働いて稼いで、女喜ばすのに必死な生きもん”だから仕方ねぇ」
 店主は真剣に、ゆっくり深く頷いた。
「まったくもって同意見です。子供なんて出来ちまったら、あっしら男は馬車馬の如く働かなきゃならんもんですよ」
「ほんと、野郎は女で苦労する生きもんで出来てんだわ」
 店主は顔を近づけ、声を潜めて話してきた。
「けどその分、夜はこっちのもんですぜ」
「おいおい店主、元気有り余ってんのか? 俺も人の事言えねぇけどな」

 二人は笑顔で意気投合するも、女神の前で破廉恥な会話で盛り上がる下品さに、姿を消しながらも傍観しているベルメアは怒り心頭である。

「遺跡行く前に飯でもって探し回ってたら良い酒場みつけたんでな。……都会にある酒場みてぇな内装だな。店主はそういったとこで修業でもしたのか?」
「まあね。二十年前に村に帰ってきだんですよ、地元だし妻と子供育てるのに居心地が良いから。それから店構えて、お客さんみたいな討伐目当てで寄る方々のおかげで保ってるようなもんですよ。村もそれで潤ってるみたいだから尚更感謝してます」

 ジェイクは度数の弱い酒とつまみを注文した。これから魔獣討伐へ向かうのに酒を心配されつつも、「勝利祈願の一杯がねぇとな」と口上を述べてやり過ごした。
「店主、遺跡の魔獣に関する情報とかあったりするか? なんでもいいんだけど」
「うーん。私は行った事無いけど、遺跡の奥には強力な奴が巣くってるとは聞きますね」
「誰か見たのか?」
「いんや。討伐に行った連中の中に、仲間喰われたのを見た奴が血相変えて戻って来たんですよ。あ、食事中、すいません」
「構やしねぇよ。そこまで肝は小さくねぇ。そんで?」
「だから、村に戻って来る連中は遺跡の奥まで行かねぇ連中ばかりです。奥の魔獣を倒せば、遺跡の魔獣ももっと大人しくなるでしょうけど。森の連中を狩ってくれるだけでも十分有り難いですわね」

 ジェイクが望むような情報は得られず、暫く店主と談笑して酒場を出た。


(あんた! なんて話してんの!)
 まるで飲んだくれ亭主に向かって説教する妻のようにベルメアは怒鳴る。
(仕方ねぇだろ。おっさん同士なんて、こんな話ばっかだぞ)
(女神の前でする話か! 少しは考えろ!)
(悪い悪い。けど、そこそこ良い情報も入ったからいいだろ)
(遺跡奥の魔獣の話? 烙印技で倒す計画でも?)
(それは状況次第。じゃなくて、この村は魔獣討伐依頼で寄った連中の金で潤い、村が少しずつだけど栄えてるって話だ。妙だと思わねぇか?)
(そお? 栄える理由としては自然でしょ)
(村はな。そっちじゃなくて魔獣のほうだ。遺跡の奥に強力な魔獣がいるのは店主の情報だから恐らく当たってるだろうが、そんな存在がずっと居続けるっつったら国が動いて退治するような依頼になるだろ。雑魚魔獣を狩っても沸く狩っても沸くが繰り返されてるなら尚更危険だ。それなのに雑魚魔獣は村を襲いに来ない。見る限りじゃ、荒らしたい放題の村だぜ)
 ベルメアは納得した。
(強力な魔獣はいるし依頼は出し続けてるが国は動かない。森で魔獣に喰われた情報があるのに、村で人が喰われる事件が起きたような情報はない。つまり、遺跡の魔獣はちょいと特別な存在なんじゃねぇのか? まるで村を襲わせないような命令でもされてるように不自然だ)
(どういう事?)
(そこまではさっぱり。もしかすれば、ベルが導く良縁ってのが……)

 指し示す存在が“強力な魔獣”なのでは? と、仮説が立ち、二人は静かに興奮した。

(すごいじゃない。あの破廉恥な会話でそんな所まで)
 とはいうものの、仮説に至った話と破廉恥な会話は関係が無い。
(んじゃ、早速遺跡へ向かうとしますか)
 軽快な足取りでジェイクは森へ向かった。


 森へ入り暫く歩くと、防具が剥がれ、衣服もズタボロで血塗れの男性がよろよろと現れた。
「おい、どうした!」
 駆け寄って抱えると、男は森の奥を指差した。
「頼む。……仲間が……襲われて」
 渾身の想いで告げると、男は力尽きた。
「おい、おい! しっかりしろ!」
 ベルメアが男に触れると「大丈夫」と言った。
「気を失ってるだけよ。すぐに治療すれば助かるわ。一度村へ戻りましょう」

 ジェイクは男を担いで森を出た。すると、前方から色白肌の青年が駆け寄って来た。

「どうしました?」
 青年の風貌から、遺跡の依頼に挑む者だと伺わせた。この場にいるのだから魔獣狩りだろう。
「遺跡の魔獣にやられたらしい。早く村へ」
 青年はジェイクが背負ってる男の背に両手を乗せた。すると、淡く白い光が青年の手から出現し、男の身体を包み込んだ。
「……おい、お前」
(治癒術よ)
 ベルメアが答えた後で、青年も同じように告げた。
「とりあえず応急処置のようなものです。すぐに村の医者に見せた方が」

 二人は揃って医者の家へ向かった。
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