烙印騎士と四十四番目の神・Ⅰ 転生者と英雄編 

赤星 治

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二章 魔女の巣くう塔

Ⅳ 似た者同士

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「私は貴方の足止め役です。何もしなければ何もしません」
 サラから告げられたトウマは若干安堵する。本心ではサラから醸し出る魔力に圧されて緊張し続け、すぐにでも逃げ出したくあった。
 さらわれたジェイクは、『状況次第では帰ってくるが死ぬ可能性もある』とサラに教えられ、助けるには黒いローブの女性・ミライザの魔力で作り上げた空間に入って彼女に勝たなければならない。
 一瞬しか見ていないが、ミライザの魔力量や質、術師としての実力など、まだ数日しか術師をしていないトウマにも容易に分かる程強い。
 とはいえ、トウマがサラと戦い、百歩譲って勝ったとしても、ジェイク救出とは関係なく、勝てるかどうか賭けでしかない争いとなる。
 ここは”警戒を解かず動かない”が賢明な判断だ。

「君の目的は何だ。魔女と結託してこの試練を有利に進めるつもりか?」少しでも情報を得ようと考えた。
 サラは「結託?」と呟いて首を傾げ、口元に笑みを浮かべる。
「おかしな事を。貴方も転生者なら試練を全うするのは当然じゃない。魔女の使徒になれば強い力を与えてもらい、試練を有利に進められる。ここは日本じゃないんだよ。もしかして向こうみたいに善意を前面に押し出して物事に取り組めば、苦労に見合った対価を得られるなんて考えてるの? それともなんでもかんでも都合よく事が進むという考え? どちらにしろ、頭が少々悪すぎよ」
 言葉で責められるトウマの傍らで、ビィトラは違和感を覚えた。
「そんな呑気な考えだから仲間が喰われても無様に逃げるしか出来ないのよ」
 侮辱されトウマの怒りは頂点に達した。それは、両手に込めた魔力量に比例していると思われる。
「トウマ駄目だ。挑発に乗るな」
「うるさい! 僕の仲間を侮辱した事を後悔させてやる!」
 両手に込めた魔力が、左手に炎、右手に暴風を圧縮したようなものがそれぞれ纏わりついた。
「それを放ったら君は即座に殺される。そういう作戦だ」
「けど!」

(冷静になるんだ。あのサラって子は操られてる)
 わざわざ念話を使うのは、話の内容が相手に露呈しないようにするためだとトウマは気付いた。
(なんで分かんのさ!)
(話す度にサラの魔力が不均一に波打ってる。本来は感情に呼応して波打つし、揺らぎ方もまるで違う。だけどあの子の場合、無理矢理言わされてるから魔力が不自然に揺らいでるんだ)
 次第に冷静さを取り戻したトウマは、両手の魔力を弱めた。

「あら、攻撃してこないの? もしかして、女の子とは戦えませんって意味?」
 サラの挑発を聞き流し、トウマはビィトラの言葉に集中した。
(妙なのはもう一つ。カレリナが何も口を開かず浮遊しているだけ。アレは、もしかしたらカレリナに化けてるか、魔女の命令で無言を強要されてるか。色々考えはあるけど……)
(じゃあ、カレリナへ攻撃を仕掛けて)
 考えた矢先、足元に散らばっている白い小石が一斉に光だし、地面からジェイクとミライザが飛び出した。
 激しく息を切らせるジェイクにトウマは駆け寄った。
「大丈夫ですか!?」
「ああ……はぁ、はぁ……無事だ。烙印は使い切ったがな」

 一方で、同じく呼吸を乱すミライザへサラが近寄った。

「どうやら実験は失敗したようね。”セイクウ魔術のケンシ様”ともあろう者が情けない」
「現場を見てもいないのに失礼ね。想定を超えた代物だったと判明しただけで失敗じゃないわよ」
「けど死にかけてるじゃない。その状態・・・・でも魔力切れは死に直結するのよ。お忘れ?」
「うるさい。これでも十分収穫はあったわよ。一端退いて体制を立て直させてもらいます。何もしなかったのですから文句は言わせませんよ」
「無論、そのつもりよ」

 二人の会話中、満身創痍ながらもジェイクは立ち上がり、切っ先をミライザへ向けた。

「おい待て!」
「馬鹿! そんな状態でまだ戦う気!?」
 ベルメアが現れ、ジェイクを呼び止めた。
「そうじゃねぇ」ベルメアへ返すと、視線をミライザへ戻した。「住民をどこへやった。用が済んだなら返しやがれ!」
 ミライザは不敵に笑み、姿勢を整えた。
「あらあら、『観察を終えたら返す』と、誰かに言われたのかしら?」
 ジェイクとトウマは身構えた。
「返してほしくば【ベルゲバの塔】へ来なさい。私達のあるじを倒せば元に戻るわよ。ただし時間は決められてましてよ。明後日の日の出頃には全住民死にますので」
 ミライザが言い終えると、彼女達を取り巻くように竜巻が発生した。
「またお会いしましょう」
 言い残すと竜巻が消え、二人は姿を消していた。


 警戒対象が消えた途端、気が緩んだジェイクはその場へしゃがみ込んだ。

「ほら言わんこっちゃない。あんた、さっきの無茶で身体への負担が大きいんだから!」
 ベルメアへビィトラが事情を求めた。

 現在、ジェイクが使える烙印技は二つある。
 烙印の力を込めた刃を飛ばす。
 烙印の強大な魔力を剣に籠めて斬る。

 先程の戦いでは一撃でボードル数体を撃破したものの、衝撃波が一斉に押し寄せてきて、無理やり剣に烙印の力を込めて凌ぐ手段を無意識に行った。すると、力が盾のように働き、ジェイクの全身を衝撃から護った。
 強引に新技が編み出された。しかし新技を含め、三度の連続技により体への反動が過剰に加わってしまった。

「けどよ、おかげで使える技が増えたぞ」
 トウマがジェイクの腕を担ぎ、支えて立ち上がった。
「言ってる場合ですか。ジェイクさんは無茶しすぎですよ」
 ビィトラは、二人が似た者同士だと呆れたが、あえて余計な事は言わないでいた。
「うるせぇ。野郎は誰だって無茶するもんだろうが」
「しませんよ。それより宿へ行きます。話しはそれからです」

 言い返すも、ジェイクが無事であることにトウマは安堵した。

 ◇◇◇◇◇

 ジェイクは宿のベッドへ倒れると深い眠りに落ちた。
 安否確認をベルメアがとり、無事と分かるや、トウマは町へ赴き食料を買い集めて宿へ戻った。勿論、購入先で購入物のメモ書きと料金を支払っている。
 夜、ジェイクは目を覚まし、まるで二日酔いのような頭痛を感じた。

「その身体にあの無茶だと当然の反応よ」
 ベルメアへの言い返しのように「受肉なら」とぼやくと、
「受肉したら全身筋肉痛と疲労で動きづらいわよ」
 と即答され、結局何も言い返せない。
 とりあえず食事をトウマが進め、今後の打ち合わせに入った。
「じゃあ、ベルゲバの塔へ向かうって事で、相談だね」
 ビィトラが皆の意見を纏めた。というより、ジェイクとトウマが行く気満々であり、否が応でも”行く”に決定している。二柱の守護神は”行かない”選択を諦めた。
「お二人さんのやる気は分かったけどさぁ、何か手はあるの? 先の戦いをみて分かったけど、ミライザって人、かなりの切れ者でやり手よ。じゃないとあんな別空間を作る術は使えないし」
「サラを通して挑発する誰か・・も中々だよ。町に散りばめられた白い石のせいで気付きにくかったけど、遠隔操作で大技をトウマへぶつけて倒す気満々だったみたいだし」

 挑発に乗るなと告げたビィトラに向かって、トウマは反省の意を態度で示した。

「んじゃあよ、結局どうする?」ジェイクの体力も回復し、頭痛も治まりだした。
「レベル上げるにも時間が足りないし、ベルゲバの塔攻略にどれだけ時間が掛かるかも分からない。ベルメアの縁結びで攻略に重要な人と会えるとか分からないの?」
 ベルメアは手を前に出して振った。
「無理ね。選択はジェイク次第だし、あたしの加護は日ごろの行いに見合った悪縁も結ぶ可能性もあるのよ。万が一、良縁である相手と出会えても人間性が良い確証はないから、相性最悪すぎて別れると『良縁を失った』って扱いにもなるから」
 都合の良い展開を求めるのは無駄であると判明した。
 住民がいないから役所で旅人を仲間にすることは出来ない。そして敵側の情報も不明。
 状況は芳しくないままである。

「……どうして相手は僕たちを殺さなかったんだろ?」
 不意にトウマが疑問を漏らした。
「ミライザって女が実験どうこう言ってたから研究対象か、取り込もうとしてんじゃねぇのか? 転生者って特別なんだろ?」
「なら、あの二人が退散した後で追手を僕たちに向ければ難なく達成出来たんじゃないですか?」
 ベルメアは何かに気付いた。
「気になるっていうならもう一つ。サラが弱ってるミライザに言ってたでしょ? ”その体で魔力切れは死に直結する”みたいな事。サラは転生者だから魔力切れが死に直結する可能性は考えられるわよ、術師としての特性と魔力の因果関係とかね。けどミライザはこの世界の住人みたいだから、魔力切れが死に直結はしない。切れても術が出ないだけよ」
「どういう事だ? 今ある情報だと、ベルゲバの塔には魔女と、あの二人だけしかいねぇって事か? しかもミライザは魔力切れが死を意味するって」

 ビィトラも頭を悩ませた。

「考えても埒が明かないね。けど手の打ちようはあるかもしれない」
 一同がビィトラの意見を聞いた。
「サラは誰かに操られてる。それは見て分かったし、どの情報よりも確実だ。だったら、彼女を解放して仲間にする。トウマの前世やジェイクと出会う前の情報が分かってたって事は、特定加護が『見識』とか『過去視』関係にあると思うから、解放してやれば強い味方になると思うよ」
「けどどうやってサラって女を解放するんだ?」
「それは、トウマに頑張ってもらうしかない」

 方法を聞き、トウマは出来るかどうか不安になった。
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