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一章 英雄と魔女と災禍の主
Ⅳ ルバートの目的
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ビルの一件を終えた翌日、ビンセントは城へ連れていかれた。十英雄としての命令か、ビルの件を解決した労いかと思い込んでいたが、謁見の間に入れられるや、無理矢理跪かされ王国専属魔術師が周囲を取りかこみ陣を巡らせた。
(随分と手荒い御招きじゃないか。お前さん、何かしたのか?)
(知るか!)
緊迫した状況に焦るビンセントの前に国王直属護衛騎士が五人現れ、代表となる人物がビンセントの前に立った。
「ザイル! これはどういう事だ!」
護衛騎士長・ザイル=リンガースは、魔女討伐に参加した十英雄の一人である。討伐後、功績を認められ護衛騎士長の座に就いた。
「どうもこうもあるか。貴様こそ何を企んでるビンセント」
討伐仲間であった時からザイルは気を張っているような、騎士の鑑のような戦士であり、ビンセントとは馬が合わなかった。重要な任務、最終決戦で一緒になったぐらいで、旅で共に過ごした期間は合計で一年に満たない。
「何も企んではいない! いったいなんの話だ!」
「昨日、ビル=ライセンなる術師の悪行を表記した文が届いた。内容の場所へ兵を送ると、魔力が切れ放心状態のビル=ライセンがいた。専属術師の調べで多くの国民を攫い、死に至らしめた極悪人と判明した」
ザイルの鋭い睨みが、跪くビンセントを見下すように注がれた。
「文にはお前の名が記されていた」
ビンセントは身に覚えのない手紙について必死に言い訳した。
「待てザイル! それは俺じゃない! 知ってるだろ、俺が魔力や術に関しての知識がからっきしだって!」
抵抗に必死だが、すぐに犯人の目星は付いた。というより、ルバート以外考えれない。頭の中でザイルにも納得出来る説明を考えるも、焦りから言葉が纏まらない。
「そんな事は俺でもよく知っている。他の連中もな。だから尚更、貴様がどうして異質な魔力を備えているかが気になっているんだ!」
ここには専属魔術師が多くおり、ビンセントがどれ程言い訳しようともルバートから発せられる魔力に染まった体質が言い訳を阻む。
「ザイル=リンガースの言う通りです」
玉座の奥の扉から、レイデル国王・ルーティア=レクス=レイデルが現れた。
謁見の間にいた者全てが跪いた。
「答えなさいビンセント=バートン。何を隠しているのです」
隣で跪くザイルに念押しされた。
「嘘偽りや言い逃れした場合、護衛騎士の名においてお前を斬る」
眼も気迫も本物だ。
ビンセントは焦り、言葉を選んでいた。
(ここは俺様が出るのが道理だな。お前さん、邪魔するなよ)
ルバートの声が頭に響くと、身体の主導権を奪われ柔和な表情で立ち上がった。
「これはこれは、お初にお目にかかります。ルーティア=レクス=レイデル女王陛下」
畏まって一礼した。
その場にいる者達は、ビンセントではないと気付き、緊迫した空気が張り詰める。
「――何者です?!」
ルーティアが訊く際、ザイルは剣の柄に手を掛けた。
ルバートは鼻で嗤い、周囲の警戒態勢からいざという時に移る行動を読んだ。自らが窮地に陥る予測を踏まえた上で名乗った。
「俺様はルバート。ビンセントが斬った魔女だ」
本気か冗談か分からないまでも、殺気を剥きだしたザイルが斬りかかった。
【瞬足の騎士】ザイルの二つ名であり、一子相伝の紋章術により俊足を得ている。
目にもとまらぬ居合斬りによりルバート(ビンセント)の身体は寸断された。渾身の一閃は、部屋の隅まで風を起こす程の威力があった。
「ザイル!」
ルーティアが叫ぶも、既にザイルは姿勢を整え剣を鞘に納めていた。
「理由はどうあれ、女王陛下へ危害を及ぼすと判断しました」
「とはいえ……」気が緩んでいたザイルの後ろからルバートの声がした。「判断が早計だな」
またもザイルは振り向き様に斬ろうと構えた。しかし、振り返ると誰もいない。
「鬱陶しい馬鹿者めが」
声がするとザイルの背に手を乗せられた。すると、身体が急激に重くなり跪いて耐えた。剣はさらに重く、持ち上げる事が出来ない。
「話し中だ。そのまま黙ってろ」
ザイルを見下したルバートは再びルーティアの方を向いた。
よく見回すと、周囲の術師も術を発動しかねない。一触即発の状況である。
「案ずるな。貴様らが何もしなければこちらも手を出さん。そもそも、貴様らが仕える女王に呼ばれて来たのだぞ。暴力にものを言わせるのが貴様らの礼儀なのかな?」
ルーティアは部屋の者達を制止し、大きく深呼吸して冷静さを取り戻した。
「兵達が無礼を働いたな。重ねてすまないがザイルにかけた力も解いてもらえないか?」
「これを解けば瞬く間に斬られましょう。相手をしているだけで話が進まんし、なにより防衛措置としてこのままの方が俺様としては有難いが」
ルーティアはザイルの方を向いた。
「ザイル命令です。この者への危害を加えない事。いいですね」
「しかし女王陛下」
「我が命に背くというのですか」
強く圧され、ザイルは畏まった。
「……御意のままに」
了承を得ると、ルバートはザイルへかけた負荷を解いた。
ザイルはルバートを睨みつけながら距離を置いた。
「さてルバート、魔女である貴公がどういった経緯でビンセント=バートンの身体に住み着くか話してもらおう」
ルバートは軽快な語り口調で、ビンセントに憑いた経緯、ついでにビル=ライセンの魔力の業を抽出した経緯も語った。
ルーティアは魔力の業の説明を側近の術師に訊いた。その知識は、実力の備わった術師でなければ抽出する術を知らないと補足される。
「ザイル。其方はビンセントが魔力の業についての知識がある事を存じていますか?」
「いえ。ビンセントは術の知識はまるでございませんし、仲間の術師に同じような事を度々聞いても記憶するに苦しむ始末。恐らくルバートなる存在の言葉は本当かと」
魔女がビンセントに憑き、魔力の業を集めている事実を受け入れるしかない。
「ルバート。貴公が魔女という証拠は無いまでも、その内に秘めし力は危険に値します。ビンセント=バートンに憑いてまでも成し得たい目的は何です? 我々への報復ですか?」
「滅相もない。そのような無価値な復讐に興じる気など時間の無駄というもの」
ルーティアの傍にいた術師が発言権を求め、ルーティアは許可した。
「魔女ルバートよ。貴公の求めるモノは想像がつく」
「ほう」
「レイデル王国は”魔術”の叡智が集結した国よ。魔術に関する知識を得たいのだろうが、それを用い悪行に赴くのであれば我が国の失態となる。しかし偽りは許さん。返答次第では我が国の術師は貴公の敵となりうると思い答えよ。貴公の求めるモノは何だ!」
周囲の術師達の魔力を観察すると、嘘を判断する術を使用しているのが伺えた。嘘は命取り。
ルバートは正直に、それでいて尚も落ち着きを保ち答えた。
「考えれば分かりそうな知識などいらん。俺様の求めるもの、ある大いなる謎を解明することだ」
「ある謎?」
「貴様等なら知っていよう。”ゾアの災禍”を」
それは、部屋にいた全ての者が認知していた。それゆえに、驚き、騒然となった。
(ルバート、なんだ? ゾアの災禍とは)
ただ一人、ビンセントだけが知らず、騒然とした雰囲気が台無しであった。
【ゾアの災禍】
有害な魔力溜まりが集結し、未曽有の災害を引き起こす。自然災害、害獣の暴走、魔術の暴走など、災禍内では対処しきれない災害が。現在、ゾアの災禍が出現する理由、発生の経緯、処理方法が不明であり、巻き込まれた者達は逃げるしかない。尚、災禍に巻き込まれて生存した者はいない。……とされている。
これら全ての情報は、遺跡や古より残る痕跡から導きだした情報にすぎず、真相を知る者はいない。ただ、この未知なる力の中枢核を手にした者は、全世界を破壊出来る術を会得出来るとも噂が広まっている。
ルーティアとの謁見を終えたビンセントは、物々しい兵士達に囲まれて家に着く。着いてからルバートは勝手にビンセントの身体から離れた。
諸々の説明を代表の国王直属の術師・アンセンにしなければならないビンセントは、齷齪した。
「では、ルバート殿の目下の目的は魔力の業を集める事で」
「ああ。魔女の時であれ、まだまだ力及ばずであったからな」
「しかし、ゾアの災禍は誰の手にも負えない災害ですぞ。命を失う危険性を孕んでいるのに、それを探求する意図はなんだね」
「俺様の趣味」
即答される。内容が馬鹿にしていると苛立ったアンセンは眉間に皺が少し寄った。
「とだけ言っておこう。告げた所で理解は出来んだろうからな。まあ、当面は悪人共や魔獣共の処理に専念するのなら問題はないだろ」
「それもそうだが。我々とて魔力の真髄を理解した訳ではない。もし、ゾアの災禍が未知なる魔力の貯蔵庫であった場合、ルバート殿は我が国の災いとなるとも捉えられる。再び魔女の塔が建立されてはたまったものではないからな」
挑発になりかねないと、肝を冷やしているビンセントはルバートの反応を伺った。いざという時は自分が命がけでもルバートを相手どる意志は固まっている。
しかし反応を見るからに、杞憂に終わった。
「邪推でも警戒でも構わん。それぐらい疑り深くなければ『国王直属』なる肩書が廃れるというものだ」
アンセンは大きく呼吸して気を取り直し、持参した五枚の書類を手渡した。
「ルーティア様へ大言壮語を吐いたのだ。言葉が嘘でないと豪語するならこれらの真相を暴き、惨事を処理してもらおう」
二人は、書類の一番上に記された”ある事件”の概要を眺めた。
ルバートは笑みを浮かべ、ビンセントは目を見開いて驚く。
「――え!? これって」
内容は、十年前起きた『シーロス』という町に住む全住民失踪事件の資料である。
「未だ謎多い全町民失踪の真相を暴いてみせよ」
「無茶が過ぎるのでは!?」
反論したビンセントに反し、ルバートは鼻で嗤ってみせた。
「もしこれが術師による惨事なら、相当量の魔力の業を採取出来ようものだ。俺様は問答無用で採取するが、それでもいいのか?」
「ルバート殿が今後も我が国の力となりうるかを見測らせてもらう。邪な魔力や術の痕跡は我が国へ報告してもらうが、それ以外の戦利品は其方らの自由にしろ」
「いいだろう。この事件、俺様と英雄ビンセント=バートンが解決しようではないか!」
なぜそこまで強気なのかが分からない。ただ、アンセンも、ルバートなら解決に導いてくれるのではないかと、期待が籠った。
(随分と手荒い御招きじゃないか。お前さん、何かしたのか?)
(知るか!)
緊迫した状況に焦るビンセントの前に国王直属護衛騎士が五人現れ、代表となる人物がビンセントの前に立った。
「ザイル! これはどういう事だ!」
護衛騎士長・ザイル=リンガースは、魔女討伐に参加した十英雄の一人である。討伐後、功績を認められ護衛騎士長の座に就いた。
「どうもこうもあるか。貴様こそ何を企んでるビンセント」
討伐仲間であった時からザイルは気を張っているような、騎士の鑑のような戦士であり、ビンセントとは馬が合わなかった。重要な任務、最終決戦で一緒になったぐらいで、旅で共に過ごした期間は合計で一年に満たない。
「何も企んではいない! いったいなんの話だ!」
「昨日、ビル=ライセンなる術師の悪行を表記した文が届いた。内容の場所へ兵を送ると、魔力が切れ放心状態のビル=ライセンがいた。専属術師の調べで多くの国民を攫い、死に至らしめた極悪人と判明した」
ザイルの鋭い睨みが、跪くビンセントを見下すように注がれた。
「文にはお前の名が記されていた」
ビンセントは身に覚えのない手紙について必死に言い訳した。
「待てザイル! それは俺じゃない! 知ってるだろ、俺が魔力や術に関しての知識がからっきしだって!」
抵抗に必死だが、すぐに犯人の目星は付いた。というより、ルバート以外考えれない。頭の中でザイルにも納得出来る説明を考えるも、焦りから言葉が纏まらない。
「そんな事は俺でもよく知っている。他の連中もな。だから尚更、貴様がどうして異質な魔力を備えているかが気になっているんだ!」
ここには専属魔術師が多くおり、ビンセントがどれ程言い訳しようともルバートから発せられる魔力に染まった体質が言い訳を阻む。
「ザイル=リンガースの言う通りです」
玉座の奥の扉から、レイデル国王・ルーティア=レクス=レイデルが現れた。
謁見の間にいた者全てが跪いた。
「答えなさいビンセント=バートン。何を隠しているのです」
隣で跪くザイルに念押しされた。
「嘘偽りや言い逃れした場合、護衛騎士の名においてお前を斬る」
眼も気迫も本物だ。
ビンセントは焦り、言葉を選んでいた。
(ここは俺様が出るのが道理だな。お前さん、邪魔するなよ)
ルバートの声が頭に響くと、身体の主導権を奪われ柔和な表情で立ち上がった。
「これはこれは、お初にお目にかかります。ルーティア=レクス=レイデル女王陛下」
畏まって一礼した。
その場にいる者達は、ビンセントではないと気付き、緊迫した空気が張り詰める。
「――何者です?!」
ルーティアが訊く際、ザイルは剣の柄に手を掛けた。
ルバートは鼻で嗤い、周囲の警戒態勢からいざという時に移る行動を読んだ。自らが窮地に陥る予測を踏まえた上で名乗った。
「俺様はルバート。ビンセントが斬った魔女だ」
本気か冗談か分からないまでも、殺気を剥きだしたザイルが斬りかかった。
【瞬足の騎士】ザイルの二つ名であり、一子相伝の紋章術により俊足を得ている。
目にもとまらぬ居合斬りによりルバート(ビンセント)の身体は寸断された。渾身の一閃は、部屋の隅まで風を起こす程の威力があった。
「ザイル!」
ルーティアが叫ぶも、既にザイルは姿勢を整え剣を鞘に納めていた。
「理由はどうあれ、女王陛下へ危害を及ぼすと判断しました」
「とはいえ……」気が緩んでいたザイルの後ろからルバートの声がした。「判断が早計だな」
またもザイルは振り向き様に斬ろうと構えた。しかし、振り返ると誰もいない。
「鬱陶しい馬鹿者めが」
声がするとザイルの背に手を乗せられた。すると、身体が急激に重くなり跪いて耐えた。剣はさらに重く、持ち上げる事が出来ない。
「話し中だ。そのまま黙ってろ」
ザイルを見下したルバートは再びルーティアの方を向いた。
よく見回すと、周囲の術師も術を発動しかねない。一触即発の状況である。
「案ずるな。貴様らが何もしなければこちらも手を出さん。そもそも、貴様らが仕える女王に呼ばれて来たのだぞ。暴力にものを言わせるのが貴様らの礼儀なのかな?」
ルーティアは部屋の者達を制止し、大きく深呼吸して冷静さを取り戻した。
「兵達が無礼を働いたな。重ねてすまないがザイルにかけた力も解いてもらえないか?」
「これを解けば瞬く間に斬られましょう。相手をしているだけで話が進まんし、なにより防衛措置としてこのままの方が俺様としては有難いが」
ルーティアはザイルの方を向いた。
「ザイル命令です。この者への危害を加えない事。いいですね」
「しかし女王陛下」
「我が命に背くというのですか」
強く圧され、ザイルは畏まった。
「……御意のままに」
了承を得ると、ルバートはザイルへかけた負荷を解いた。
ザイルはルバートを睨みつけながら距離を置いた。
「さてルバート、魔女である貴公がどういった経緯でビンセント=バートンの身体に住み着くか話してもらおう」
ルバートは軽快な語り口調で、ビンセントに憑いた経緯、ついでにビル=ライセンの魔力の業を抽出した経緯も語った。
ルーティアは魔力の業の説明を側近の術師に訊いた。その知識は、実力の備わった術師でなければ抽出する術を知らないと補足される。
「ザイル。其方はビンセントが魔力の業についての知識がある事を存じていますか?」
「いえ。ビンセントは術の知識はまるでございませんし、仲間の術師に同じような事を度々聞いても記憶するに苦しむ始末。恐らくルバートなる存在の言葉は本当かと」
魔女がビンセントに憑き、魔力の業を集めている事実を受け入れるしかない。
「ルバート。貴公が魔女という証拠は無いまでも、その内に秘めし力は危険に値します。ビンセント=バートンに憑いてまでも成し得たい目的は何です? 我々への報復ですか?」
「滅相もない。そのような無価値な復讐に興じる気など時間の無駄というもの」
ルーティアの傍にいた術師が発言権を求め、ルーティアは許可した。
「魔女ルバートよ。貴公の求めるモノは想像がつく」
「ほう」
「レイデル王国は”魔術”の叡智が集結した国よ。魔術に関する知識を得たいのだろうが、それを用い悪行に赴くのであれば我が国の失態となる。しかし偽りは許さん。返答次第では我が国の術師は貴公の敵となりうると思い答えよ。貴公の求めるモノは何だ!」
周囲の術師達の魔力を観察すると、嘘を判断する術を使用しているのが伺えた。嘘は命取り。
ルバートは正直に、それでいて尚も落ち着きを保ち答えた。
「考えれば分かりそうな知識などいらん。俺様の求めるもの、ある大いなる謎を解明することだ」
「ある謎?」
「貴様等なら知っていよう。”ゾアの災禍”を」
それは、部屋にいた全ての者が認知していた。それゆえに、驚き、騒然となった。
(ルバート、なんだ? ゾアの災禍とは)
ただ一人、ビンセントだけが知らず、騒然とした雰囲気が台無しであった。
【ゾアの災禍】
有害な魔力溜まりが集結し、未曽有の災害を引き起こす。自然災害、害獣の暴走、魔術の暴走など、災禍内では対処しきれない災害が。現在、ゾアの災禍が出現する理由、発生の経緯、処理方法が不明であり、巻き込まれた者達は逃げるしかない。尚、災禍に巻き込まれて生存した者はいない。……とされている。
これら全ての情報は、遺跡や古より残る痕跡から導きだした情報にすぎず、真相を知る者はいない。ただ、この未知なる力の中枢核を手にした者は、全世界を破壊出来る術を会得出来るとも噂が広まっている。
ルーティアとの謁見を終えたビンセントは、物々しい兵士達に囲まれて家に着く。着いてからルバートは勝手にビンセントの身体から離れた。
諸々の説明を代表の国王直属の術師・アンセンにしなければならないビンセントは、齷齪した。
「では、ルバート殿の目下の目的は魔力の業を集める事で」
「ああ。魔女の時であれ、まだまだ力及ばずであったからな」
「しかし、ゾアの災禍は誰の手にも負えない災害ですぞ。命を失う危険性を孕んでいるのに、それを探求する意図はなんだね」
「俺様の趣味」
即答される。内容が馬鹿にしていると苛立ったアンセンは眉間に皺が少し寄った。
「とだけ言っておこう。告げた所で理解は出来んだろうからな。まあ、当面は悪人共や魔獣共の処理に専念するのなら問題はないだろ」
「それもそうだが。我々とて魔力の真髄を理解した訳ではない。もし、ゾアの災禍が未知なる魔力の貯蔵庫であった場合、ルバート殿は我が国の災いとなるとも捉えられる。再び魔女の塔が建立されてはたまったものではないからな」
挑発になりかねないと、肝を冷やしているビンセントはルバートの反応を伺った。いざという時は自分が命がけでもルバートを相手どる意志は固まっている。
しかし反応を見るからに、杞憂に終わった。
「邪推でも警戒でも構わん。それぐらい疑り深くなければ『国王直属』なる肩書が廃れるというものだ」
アンセンは大きく呼吸して気を取り直し、持参した五枚の書類を手渡した。
「ルーティア様へ大言壮語を吐いたのだ。言葉が嘘でないと豪語するならこれらの真相を暴き、惨事を処理してもらおう」
二人は、書類の一番上に記された”ある事件”の概要を眺めた。
ルバートは笑みを浮かべ、ビンセントは目を見開いて驚く。
「――え!? これって」
内容は、十年前起きた『シーロス』という町に住む全住民失踪事件の資料である。
「未だ謎多い全町民失踪の真相を暴いてみせよ」
「無茶が過ぎるのでは!?」
反論したビンセントに反し、ルバートは鼻で嗤ってみせた。
「もしこれが術師による惨事なら、相当量の魔力の業を採取出来ようものだ。俺様は問答無用で採取するが、それでもいいのか?」
「ルバート殿が今後も我が国の力となりうるかを見測らせてもらう。邪な魔力や術の痕跡は我が国へ報告してもらうが、それ以外の戦利品は其方らの自由にしろ」
「いいだろう。この事件、俺様と英雄ビンセント=バートンが解決しようではないか!」
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