烙印騎士と四十四番目の神・Ⅰ 転生者と英雄編 

赤星 治

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二章 魔眼の病とかつての英雄

Ⅳ ルバートの紹介、ビンセントの危機

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(おい! 俺の手になんつーもん植え込んでんだ!!)
 外へ出たルバートは、左掌に植え込んだ少女から抜いた眼を眺めていた。
(これはこれで、ある種の奇抜で斬新な英雄の在り方ではないか? 少しはこういった特異性も大事だろ。箔がつき格好もいい。だいたいお前さんは堅物で真面目すぎだ)
(やかましいわ! どれだけ気を引き締めて左手見なけりゃならんか、俺の気持ちも考えろ! ちゃんと治せる保証はあるんだろうな!)
 必死さは嫌でも伝わる。
(まぁ……その前に面倒事が来たぞ。話はこれを済ませてからだ)

 ビンセントの返答を無視し、ルバートは家族への挨拶を済ませたグレミアとエベックの二人と向き合った。

「あんた、ビン様じゃないわね」
「正体を明かしなさい。さもなくば」
 グレミアは杖を構え、周囲の空気が変わった。さらにエベックは腰に備えた短刀の柄に手を掛ける。
「ははは。案の定の展開だな」ルバートは両手を上げた。「まあ、ビンセントは術がからっきし駄目だし知識も無いからな、あのような事態を目の当たりにすればそう構えるのは当然か」
 グレミアはルバートを睨み付け、杖に魔力を纏わせて臨戦態勢となる。
「認めましたね。あなたは一体何者です」
「その質問には答えるが、出来る事なら宿へ向かいながら話そう。時間の無駄を省くためだ。いいかな?」
 エベックとグレミアは小声で話し合い、やがて魔力は解かれた。
 代表してエベックが了解した。
 グレミアが先頭を切り、ルバートを挟む形でエベックが後方を歩いた。

「見事な連携だ。俺様が悪事を働けば、後方の君が刺し殺す策かな?」
「よく解ってるじゃない。あたしも術師よ。ちょっとでもおかしな素振りを見せたり魔力を使用すれば、ただじゃおかないから覚悟しなさい」
 ルバートは鼻で笑った。
「おおよその想像は付く。今現在、前の女は杖から機能を鈍くさせる魔力を垂れ流し、俺様の魔力が器用に働かなくしている。こちらが悪事を働こうものなら妨害作用で手間取り隙を突かれてしまう。魔力の揺らぎを見ても強力だと窺えるがぁ……忠告しよう。立ち位置を逆にした方がいいぞ」
「随分と軽快に語ってくれますね。どこぞの術師とはお見受けしますが、そのように此方の意図を理解し、一体何を企んでいるので?」
「案ずる必要は無い。俺様は先程話した通り、きちんと素性を明かすし逃げも隠れもせん。ビンセントとは仲良くやっているつもりだ。……ご要望とあらば一度、身体の主導権を奴に譲ってやってもいいが」

 エベックは口笛を吹いた。

「へぇ、そんな事できるならやってほし」
「二人共落ち着け! 俺は無事だ!」
 突然、ビンセントの話し方、表情、雰囲気に変わり、二人は素直に驚いた。
 当然、先ほどまでの男性の演技かと思い、両者ともビンセントの魔力を見るも、まるで別人。というよりビンセント本人である。
「え、ビン様?!」
「どういう事ですかビンセント! やはり何か良からぬ事を」
「あ、いや、それは違う。どう説明……――ああ、もう五月蠅い! 今大事な話をしてるから黙ってろ!」
 視線はグレミアとエベックに向けられていないため、二人に向けたのではないと分かるが、では一体、誰と話をしているのか。
「ビン様……もしかして幽霊見えるようになったとか?」
「もしくは、何かしらの魂を憑依させたとか」

 その質問に答えようとビンセントが口を開くと、再び身体の主導権をルバートに奪われた。

「ははは。いやいやすまない。揶揄い甲斐のある反応のいい奴なのは知ってるだろ。ついつい興がのってしまう」
 警戒している事が馬鹿らしく思える空気になった。
 悪意は感じないが、油断は出来ない。完全に警戒心は解かないまでも、グレミアは気を少し緩めた。
「そのようですね。ビンセントは嘘が下手ですので、先ほどの反応を見る限りでは貴方は悪意ある者ではない。……かもしれない程度ですが。少しは信じる事に致しましょう」
「配慮と理解ある術師で助かる。こうみえても色々気を回すのはしんどくてな」
「どうも。それより名前を知らないままと言うのも話しにくいものです。先にそれぐらいは教えてもらいましょうか」
 ルバートは身だしなみを整え、少し離れた位置に立ち、姿勢を整えた。
「御初に御目にかかる。俺様はルバート。君たち十英雄が倒した魔女だ」

 一瞬で二人は臨戦態勢となり警戒した。

「――ちょっと待ったぁぁ!!」
 ビンセントに主導権が移っても、二人は魔力の発動、構えを解かず、いつでも攻撃できる姿勢を崩さない。
「何を考えてるのですかビンセント! よりにもよって魔女と身体を共有し、しかもあろうことか守るとは!」
「そうよビン様! 返答次第ではただじゃおかないわ!」
(いやー、大変大変。無知であるが故に仲間さえも手に掛けようとするとはね)
 危機的状況においてもルバートは呑気すぎる。
 このままではビンセント自身の身体が壊されかねない。命懸けの戦闘を幾度も乗り越えて来た二人には、いざという時は仲間の命を奪う覚悟も出来ていると旅の道中で口にしていたので、戦闘となった場合、術が使えないビンセントの死ぬ確率は高い。
 こうなった二人ならやりかねないと、ビンセントは焦る。
「ビンセント、今すぐその魔女から解放させてあげます。じっとしてなさい!!」
 グレミアが腕を伸ばして杖を掲げ、魔力を杖に流した。そしてエベックもグレミアの一撃を待ち構えた。
(説得は俺様に任せろビンセント)
 告げられると主導権がルバートに代わった。
「無駄な足掻きは止めておけ」

 挑発と認識したグレミアは術を発動しようとした。しかし、上手く術が使用できず、更に両手が痺れる事態に陥り杖を落とした。

「ほら見ろ、人の忠告は素直に聞いておくものだぞ」
 ルバートの余裕のある態度が、グレミア達を更に焦らせ苛立たせる。内心、穏やかではないが冷静なグレミアは唐突に理解した。
「私の魔力を操作しましたね?」
「御名答。だから言ったのだ。俺様の前に立つのはやめておけと。術で制限をかけようものならそれを返すのは造作もない。俺様の後ろに立ち、異常事態に備えるならそちらの方が有効だ。まあ結果は今とあまり変わりないだろうがな」
 二人は焦りの色を絶やすことなく身構え続けた。
「落ち着け。俺様はお前達をどうこうする気はないしビンセントも操っておらん。むしろ相思相愛の仲だぞ」
 頭の中で『誰がだぁぁ!!』と怒鳴り声が響くも、ルバートは無視しているので、誰にもビンセントの想いは通じなかった。
「お前達の不安も理解出来る。故に、宿ではお前達が有利に働く術を施せばいい。そこで話の続きをしようではないか」
「それをあたし達が信じるとでも?」
「ではこう言おうか。この奇病は俺様なら二日以内に解決出来る。お前達がどのような術師に頼ろうとも十日は掛かるだろう。そうなるとあの少女は次の段階へ悪化するだけだが……」
 ルバートの余裕ある穏やかな笑みが、グレミア達に返答を迫る。
「どうする?」
 現状において、グレミア達に奇病を治す術はない。近場に住む十英雄の一人に頼る手もあるが、それも確かな解決に至るかは不明。

 自ずと答えは見えた。
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