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三章 異界の空中庭園
Ⅵ 変貌の英雄
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ルバートは驚いた。ビンセントがビンセントでなくなっていることに。
ただ、化け物を相手取っていた筈だった。しかし、急に人格が変わったかのように、ビンセントは無駄のない動きで化け物の群れを遇っていたからだ。平然とした様子を崩さず、一太刀で一体を絶命させている。無駄な動きをせずに立ち回り、少しの動きで紙一重の回避行動を取る。
さらにルバートを驚かせたのは、どの術もまともに使用出来ないビンセントが、具象術を扱ったのだ。まるで熟練した具象術師のように光の槍、剣、斧などを精巧に作り上げて。魔力消費に無駄はなく、かといって出現させた武器は脆くない。
今まで、このような戦いを繰り広げたことなど一度もない。
息切れ一つすること化け物を遇い続けると、やがて上空へ手を翳し、無数の光の棒を出現させ、雨のように降らせた。
(あの魔力消費はまずい! どんどん成長しているのか!?)
ルバートはビンセントを動かしている、別の”何か”が内在していると見ている。今まで起きた異変の経緯から読み取っても、何かとてつもない力が成長しているとしか考えられなかった。
”素材”がビンセントであると証明されたといっても過言ではなかった。
ゾアの目的は災禍を起こすことである。未だ謎多いゾアの行動だが、人間を”素材”と銘打つ時点でビンセントは生け贄か人柱と扱われる危険性が高まった。
ビンセントの異変を止めるには、この空間から脱出する方法を探るしかない。
判断したルバートが感知技の精度をさらに上げ、急いで空間を調べた。すると、割れた空間の少し進んだ所に、何やらゾグマの塊らしき力を感じ取った。
「見つけた……この先か!」
ルバートは両手を上空へ翳した。
「我示す光道の標に生ず、炎帝の灼熱に抗いもがけ、焦土と化す地にて、尚のたうち回れ」
詠唱を唱えると手を翳した上空に炎を纏った槍が出現した。
「――ゼグ・ベイン!」
手を標的へ向けると槍が勢いよく向かった。
「嘘?! あんな術まで出来るの!」
ルバートの術を見てエベックは面食らった。
【詠唱魔術】
詠唱が術師の魔力を素に形を成し、それを標的に効果を示す術。
唱術よりも攻撃的な術が多いとされるが、治癒や身体強化などにも使用される場合があり、一般的な魔術よりも広域に強力なものである。
ルバートが放った槍が空間の割れ目を通過し、闇夜よりもさらに黒い暗闇の中を突き進むと、やがて何かに突き刺さった。刹那、槍が発光して大爆発し、目標物の輪郭が明確になるほどに光が広まった。
対象物の正体が明るみに出ると、化け物達の進行が止まり、一斉に槍が突き刺した目標のほうへ顔を向けた。
「……なにあれ……宝石?」
エベックにはそれが”巨大な宝石”に見えた。正確な大きさは分からない。割れ目から窺える所ではまるで宝石の壁のようである。
爆発の余韻が残る最中、突き刺さった槍を掴み、引き抜いて握りつぶした手が現われた。
手の主が割れ目から巨大な顔をのぞかせ、見開いた丸い目が現われると化け物群が一斉に戻った。
「ちょっとルバート、アレは何!?」
「知らん! 知らんがおそらくはこの空間の主だ」
憶測でしかない。そうとしか言えない程、膨大な魔力を蓄えていると窺える。
「冗談でしょ。魔女に匹敵する魔力量じゃないの?!」
巨大な化け物は、空間の裂け目に両手をかけ、力を籠めて裂け目を広げはじめた。
「まずい。エベック、結界の準備だ!」
ルバートに指示される前にエベックは宝剣グラセスの宝石を握りしめていた。
「二人ともこっちへ来て!」
しかしビンセントはじっと巨大な化け物を見据えていた。
「ビンセント急げ!」
呼ばれても見向きも返事もない。立ったまま死んでいるのかと疑うも、やがてビンセントの手が動いた。
「ビン様、何を? ……ルバート、中に入れないの!」
「無理だ! なぜか入れん!」
そうこうしていると、ビンセントが剣を構え、刃が眩く輝きだした。
「うそっ?! 何よあれ……」
二人は腕で光りを防いで目を守った。直視出来ない。
「見たことが無い。それに魔力も……」
ビンセントが発した光は、魔力を媒体とする術ではなかった。しかし気功でもその他の、人間に備わっている気のどれでもない。
「おい、ビンセントは特別な血を引く家柄か聞いているか?」
「ビン様はただの農家の出よ。それに貴方と戦う時もこんな力出してなかったわよ」
「……なら、あの力……」
ルバートに一つの心当たりが浮かんだ。それは、不意に思い出した情報である。
「……『ヒュムの灯』」
「え? 何よそれ」
「かつて世界の大半を滅した古代の力の呼称だ。ミングゼイスが残したとされる叙事詩に記された、いくつかある兵器の一つでもあるとされたが物証は無く、やがてはゾアの災禍を引き起こす火種と危険視された力だ。情報が乏しく、災禍に加担する力かどうかも不明だ」
「ちょっと、どうしてビン様がそんな力を!」
「知らん。お前達との旅で良からぬ何かに触れたんじゃないのか?」
勿論エベックは知らないが、ビンセントは探索をすると夢中になって迷子になる経緯があるため、その可能性は高い。
眩い輝きを発し続けた光は、やがて剣全てに収まった。
巨大な化け物が再び割れ目を開きだした時、ビンセントは切っ先を化け物の顔面へ向けた。次第に握力を緩め、柄から手を離すと、剣が宙を浮いたまま止まっている。
一歩離れたビンセントが長剣の柄頭に両手を当てた。すると、同形の光の剣が二十三本出現した。
「ちょっと……あれだけ力使って大丈夫なの!?」
『身の丈に合わない術は、大きな反動が返ってくる』
これは術師の基礎中の基礎とされている。特殊な力を使用する修行をしていないビンセントが、このような強大な力を使用すれば、何が反動となるかが分からない。
二人の心配を余所に、ビンセントが手に力を込め、合計二十四本の剣を飛ばした。
「――速い!」
ルバートが目を疑った頃には、既に化け物へ剣が突き刺さった後であった。
「ぐ、がぁああああああああぁぁぁぁぁぁぁ――――!!!!!」
なんとも低く、それでいて全身に響く程の振動が生じる悲鳴を上げ、化け物の全身に亀裂が生じた。
傷ついた化け物は振り返り、何度も何度も宝石の壁を叩き、やがて砕いた。
宝石の壁が砕けた事で空間に揺らぎが発生し、空も地も亀裂が生じて眩い光が空間を包んだ。
ただ、化け物を相手取っていた筈だった。しかし、急に人格が変わったかのように、ビンセントは無駄のない動きで化け物の群れを遇っていたからだ。平然とした様子を崩さず、一太刀で一体を絶命させている。無駄な動きをせずに立ち回り、少しの動きで紙一重の回避行動を取る。
さらにルバートを驚かせたのは、どの術もまともに使用出来ないビンセントが、具象術を扱ったのだ。まるで熟練した具象術師のように光の槍、剣、斧などを精巧に作り上げて。魔力消費に無駄はなく、かといって出現させた武器は脆くない。
今まで、このような戦いを繰り広げたことなど一度もない。
息切れ一つすること化け物を遇い続けると、やがて上空へ手を翳し、無数の光の棒を出現させ、雨のように降らせた。
(あの魔力消費はまずい! どんどん成長しているのか!?)
ルバートはビンセントを動かしている、別の”何か”が内在していると見ている。今まで起きた異変の経緯から読み取っても、何かとてつもない力が成長しているとしか考えられなかった。
”素材”がビンセントであると証明されたといっても過言ではなかった。
ゾアの目的は災禍を起こすことである。未だ謎多いゾアの行動だが、人間を”素材”と銘打つ時点でビンセントは生け贄か人柱と扱われる危険性が高まった。
ビンセントの異変を止めるには、この空間から脱出する方法を探るしかない。
判断したルバートが感知技の精度をさらに上げ、急いで空間を調べた。すると、割れた空間の少し進んだ所に、何やらゾグマの塊らしき力を感じ取った。
「見つけた……この先か!」
ルバートは両手を上空へ翳した。
「我示す光道の標に生ず、炎帝の灼熱に抗いもがけ、焦土と化す地にて、尚のたうち回れ」
詠唱を唱えると手を翳した上空に炎を纏った槍が出現した。
「――ゼグ・ベイン!」
手を標的へ向けると槍が勢いよく向かった。
「嘘?! あんな術まで出来るの!」
ルバートの術を見てエベックは面食らった。
【詠唱魔術】
詠唱が術師の魔力を素に形を成し、それを標的に効果を示す術。
唱術よりも攻撃的な術が多いとされるが、治癒や身体強化などにも使用される場合があり、一般的な魔術よりも広域に強力なものである。
ルバートが放った槍が空間の割れ目を通過し、闇夜よりもさらに黒い暗闇の中を突き進むと、やがて何かに突き刺さった。刹那、槍が発光して大爆発し、目標物の輪郭が明確になるほどに光が広まった。
対象物の正体が明るみに出ると、化け物達の進行が止まり、一斉に槍が突き刺した目標のほうへ顔を向けた。
「……なにあれ……宝石?」
エベックにはそれが”巨大な宝石”に見えた。正確な大きさは分からない。割れ目から窺える所ではまるで宝石の壁のようである。
爆発の余韻が残る最中、突き刺さった槍を掴み、引き抜いて握りつぶした手が現われた。
手の主が割れ目から巨大な顔をのぞかせ、見開いた丸い目が現われると化け物群が一斉に戻った。
「ちょっとルバート、アレは何!?」
「知らん! 知らんがおそらくはこの空間の主だ」
憶測でしかない。そうとしか言えない程、膨大な魔力を蓄えていると窺える。
「冗談でしょ。魔女に匹敵する魔力量じゃないの?!」
巨大な化け物は、空間の裂け目に両手をかけ、力を籠めて裂け目を広げはじめた。
「まずい。エベック、結界の準備だ!」
ルバートに指示される前にエベックは宝剣グラセスの宝石を握りしめていた。
「二人ともこっちへ来て!」
しかしビンセントはじっと巨大な化け物を見据えていた。
「ビンセント急げ!」
呼ばれても見向きも返事もない。立ったまま死んでいるのかと疑うも、やがてビンセントの手が動いた。
「ビン様、何を? ……ルバート、中に入れないの!」
「無理だ! なぜか入れん!」
そうこうしていると、ビンセントが剣を構え、刃が眩く輝きだした。
「うそっ?! 何よあれ……」
二人は腕で光りを防いで目を守った。直視出来ない。
「見たことが無い。それに魔力も……」
ビンセントが発した光は、魔力を媒体とする術ではなかった。しかし気功でもその他の、人間に備わっている気のどれでもない。
「おい、ビンセントは特別な血を引く家柄か聞いているか?」
「ビン様はただの農家の出よ。それに貴方と戦う時もこんな力出してなかったわよ」
「……なら、あの力……」
ルバートに一つの心当たりが浮かんだ。それは、不意に思い出した情報である。
「……『ヒュムの灯』」
「え? 何よそれ」
「かつて世界の大半を滅した古代の力の呼称だ。ミングゼイスが残したとされる叙事詩に記された、いくつかある兵器の一つでもあるとされたが物証は無く、やがてはゾアの災禍を引き起こす火種と危険視された力だ。情報が乏しく、災禍に加担する力かどうかも不明だ」
「ちょっと、どうしてビン様がそんな力を!」
「知らん。お前達との旅で良からぬ何かに触れたんじゃないのか?」
勿論エベックは知らないが、ビンセントは探索をすると夢中になって迷子になる経緯があるため、その可能性は高い。
眩い輝きを発し続けた光は、やがて剣全てに収まった。
巨大な化け物が再び割れ目を開きだした時、ビンセントは切っ先を化け物の顔面へ向けた。次第に握力を緩め、柄から手を離すと、剣が宙を浮いたまま止まっている。
一歩離れたビンセントが長剣の柄頭に両手を当てた。すると、同形の光の剣が二十三本出現した。
「ちょっと……あれだけ力使って大丈夫なの!?」
『身の丈に合わない術は、大きな反動が返ってくる』
これは術師の基礎中の基礎とされている。特殊な力を使用する修行をしていないビンセントが、このような強大な力を使用すれば、何が反動となるかが分からない。
二人の心配を余所に、ビンセントが手に力を込め、合計二十四本の剣を飛ばした。
「――速い!」
ルバートが目を疑った頃には、既に化け物へ剣が突き刺さった後であった。
「ぐ、がぁああああああああぁぁぁぁぁぁぁ――――!!!!!」
なんとも低く、それでいて全身に響く程の振動が生じる悲鳴を上げ、化け物の全身に亀裂が生じた。
傷ついた化け物は振り返り、何度も何度も宝石の壁を叩き、やがて砕いた。
宝石の壁が砕けた事で空間に揺らぎが発生し、空も地も亀裂が生じて眩い光が空間を包んだ。
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