烙印騎士と四十四番目の神・Ⅰ 転生者と英雄編 

赤星 治

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二章 争奪の筋書き

Ⅲ 罪人への猶予

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【裁きの部屋】
 処刑専用の部屋。
 床には艶のある石板を敷き詰め、壁には松明置きの金具が設置されているだけ。
 部屋に置いてある物は、玉座よりも見劣りはする王専用の椅子だけがある。

 ゾアが妙に気になったのは、玉座から見て右側の壁に紅いカーテンが掛けられていることであった。ただカーテンを掛けているだけなら興味は引かないのだが、屋内の筈なのに時折吹く微弱な風に揺れ、何かしらの印術の作用か、魔力が薄らと纏っている。

「王よ、連れて参りました」
 ルイシャを先頭に、頭に布が被され後ろ手に回した手には縄を結ばれた女性が二人部屋へ連れてこられた。
 二人の左右に国兵が一人ずつ立ち、妙な動きをしていないか警戒している。
 ガイネスから離れた向かいに到着すると、布を被された二人は無理やり膝をつかされた。
 ガイネスの合図で女性達の布を兵士達が外す。
「王よ! 私は無実です! この者にそそのかされて!」
「ふざけんな! あんたが盗んだ方が得だって言ったんじゃない!」
 顔が露わになった途端、涙ながらに二人は訴えと罵り合いを始めた。
「なに勝手に私巻き込んでんのよ! あなたみたいな」

 いよいよガイネスの怒りが頂点に達した。
「ええい黙れ、見苦しいわ!!」
 怒鳴ると、二人は黙ってうなだれた。涙を流し続け震えが止まらない。
「この期に及んで尚、罪の擦り付けあい、あわよくば潔白を訴えようなど。悪党の腐った性根は謝罪という言葉を知らんようだな!」

 女性二人は王国の女中(下っ端)である。十日前から結託して盗みを働き、小さな宝石を隠し持っていたのを三日前に見つかってしまう。盗まれただけなら懲役刑として牢につなぎ止めるのだが、さらに食堂にてつまみ食い、衣服の無断着用など罪を重ねていた。
 ガイネスは専属術師・ロゼットに概要を聞き、頭が痛くなった。
「こんな小物が触れた物など身につけるなど不快でしかない! ルイシャ! なぜこのような事態に陥った!」
 ルイシャは深々と頭を下げた。
「ひとえに私の監視が行き届かないばかりに招いた事態にございます。罰は甘んじてお受けいたします」
「この者共を監督していた女中がいるだろ! そいつは何をしておったと聞いている! 甘やかしていたのでは無いだろうな!」
「滅相もございません。その者は怠りのない躾けをしておりました。犯行は誰もいない所を見測って行われた模様。指導役の者を罰するとお申しになると仰いますなら、私も同罪です」

 何を言ってもルイシャは自らを含め、罰を求めるのは読めてしまう。
 ガイネスの不服は収まらないまま続いた。

「ガイネス王、一つ宜しいか?」
 傍らに立っていたゾアは気になる事を丁寧に聞いた。
「なんだ」
 声を聞くだけでも苛立ちが治まっていないのは分かる。
「左の女はともかく、右の女は……」
「ああ、ガーディアンだ」
 ゾアが余計な挑発を吹っかけないか気を揉んでいるロゼットは口を挟んだ。
「何か問題でもお有りでしょうか?」
「いや、ガーディアンというなら、なぜ下女になど……と思ってな」
 ガイネスは鼻を鳴らした。
「くだらん事よ。遠征時に魔獣に襲われている所を助けたらガーディアンであっただけだ。しかしグルザイアには既にガーディアンが一人いるのでな、調べる事が殆ど無かった。とはいえ、珍しい事に変わりないから城へ入れたが、魔力も力も、女としての魅力も無いときた。とりあえずは女中にすれば役立つと思ったが、するとどうだ。神話に名高いガーディアンともあろうものが、一皮むけば悪党とは」
「あたしは関係無いんです!」
 これ見よがしに訴えられた。
「まだ言うか! 間抜けな貴様の罪など、この城にいる者全てが見抜いておるわ! まだルイシャが改心あると思い泳がせていたというが、まさかその時間すらも盗みの技磨きに感けていたなど言語道断! さらには命乞いと罪の擦り付けあいで難を逃れようなど、盗人猛々しいとはこのことだぞ!」

 ガイネスの怒りを余所に、ゾアは妙案を抱き不適に笑む。
 怒鳴り終え、女がうなだれ涙を流す間を置いて、ゾアが再び口を挟んだ。
「……度々すまないなガイネス王」
「話は後にしろと言ってるだろ!」
「失礼。我の私情ではなく、あのガーディアンを使って頼みがあるのですよ」
「なんだ」
「一度、本気で戦わせてみればいかがかな? と」
 嫌な予感しかしないロゼットはすぐさま口を挟んだ。
「ここは裁きの場であるぞ。貴殿がどのような御仁であれ、かような口出しをするものではない」

 とはいえガイネスは怒りを鎮めて考えだした。
 ロゼットの制止が届いてないのだろう、手を挙げてロゼットを黙らせた。
「思いつきか? 詳細を話してみろ」
 許可を得たゾアは笑みを浮かべ、制止に追いやられたロゼットは苦虫を噛み潰したように口元が動き悔しがる。
「盗人であれ奴隷であれ、ガーディアンはガーディアン。この目でどのように力を扱うかを見てみたいというのが我の思惑ではある。しかしこの状況では、まさしく命がけの決闘ができるのではと思い立ち提案したまで。グルザイア王国側の強者とガーディアン。敗者には確実な死を、勝者には褒美を。とあらば、催し物としては面白いのでは?」
「ふん。俺の好物を見透かしているようで小癪だな」
 口に手を当てて考えを巡らせる。
「……なるほど。褒美を生存と余所へ逃げる路銀、とあらば、あの娘も本気を出せようか……」呟きがゾアには聞こえていた。
「失礼を承知で申します! これは裁きの場であり、このような酔狂が過ぎる提案は受け入れるものではございません!」
 ロゼットの訴えを無視し、ガイネスは立ち上がった。

「聞けガーディアン・クリンよ! 貴様に最後の機会をやろう」
 クリンは泣いてグシャグシャの顔を上げた。
「此方が用意する相手と命がけの勝負をしてもらう。文字通り命がけだ。生き残りたいならそいつを殺せばいい」
「で、でも……武器とか」
「装備の一式は武具庫にて選べ、何を使っても構わんぞ」
「けど……魔法とか、あたし、レベル低いし」
 優遇措置を与えているのに聞き慣れない言葉で返され、ガイネスは苛立ちを露わにする。
 見かねたゾアが横から説明した。
「魔法とは、彼女の世界で使用される術だろう。レベルとは力量を表わす階級かと。つまり、ガーディアンになった者は力量を上げる期間が必要と思われる」
「くだらん。この期に及んで負け惜しみの寝言とは。ゾアよ、お前の力でどうにかできんのか?」
「我は力の加減が苦手でな。あの小娘の力を上げるとしてもほぼ最大まで引き上げてしまう。グルザイア王国側が一方的に不利な状況になるぞ」
 ガイネスから笑みがこぼれ、「それで構わん」と返され、再びクリンの方へ向き直った。

「聞け! 貴様の力を最大まで上げる算段がついた! 好きな武器を取り、好きな術を使用すればいい。ただ一度、一人を殺せば貴様はこの国から解放し、しばらくは生活に困らん金を与えようぞ!」
 すかさず隣の女性も懇願した。
「王よ! どうか私もお助け下さいませ! ガーディアンであるから救いの手を差し出すというのは、裁きにおいて公平ではございません!」
 必死の命乞いを見たルイシャもロゼットも不快な心情が表情に出た。
「無様を通り越して見苦しいが、いいだろう! 罪人・アルメ=ニーザー、貴様にも機会を与える! しかしクリンが勝つ方に賭けろ。報酬は同じとする」
「え、しかし」
「嫌か? ならすぐ死ぬか?」
 アルメは「滅相もございません!」と叫んで頭を下げた。

「罪人同士、運命を共に分かち合え。二時間後、裁きの間にて決闘を開始する! クリンよ、装備を整え挑める準備に専念しろ! ゾアよ、奴の訓練に協力してくれるよな」
 ゾアは深々と頭を下げ、「承知」と返した。
 兵達が罪人二人を連れて部屋を出た後、ゾアも共に部屋を出た。
 不服のあるルイシャとロゼットは、共にガイネスへ意見した。
「構わんだろ。あのような小物が勝利するなら、それはそれで良い見世物にはなる。退屈しのぎには丁度良い」
 もう、何を言ってもガイネスが訴えを聞かないと踏んだ二人は訴えを諦めた。
「では王よ、クリンと戦う相手は決まっておられるのですか? 向こうは戦闘に不慣れとはいえ、術を駆使すると考えられますが」
 ガイネスは口元に笑みを浮かべて二人を見た。
「うってつけの奴がいるだろ」

 ロゼットの嫌な予感が見事に的中し、深いため息を吐いた。
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