最強幼女に懐かれたポンコツ

鬼蒐燐

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♯18

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「なぁ、どうするんだ? 結局。みんなでベッドで寝るのか? 寝ないのか?」

 あれから各々風呂に入り、テュータがうとうとしているなか、ため息混じりに問う。

「オレはどっちでも。ベッド全部横並びなんだろ? なら別に、ここがいいとかの喧嘩は起こりはしねぇから大丈夫だな。文句なし」

 タクリスが髪留めをほどきながらそう言う。その言葉にパレッタもぶんぶん頭を縦に振る。

 そしてうとうとしていたテュータは限界が来たので先に就寝。すよすよ寝てやがる。

 ま、今日は特に疲れたしなぁ。さらわれたり、攫われたり、攫われたり。

「あとはヤウォンだけだぞ。どーすんだ?」

「――おれは……その……」

 いつも俺が何か言うと「あ゛ぁ゛?!」とか返してくるあのヤウォンが、すこぶるしおしおっとなって俯き、自分の指をいじり始めた。キャラがつかめねぇ。俺が言うのもなんだけど。

「おれは――」

「ハッハッハ! なんだヤウォン、今更怖気づいてきたのか? 何寝ることだけで戸惑ってんだよ」

 珍しくおどおどするヤウォンに、タクリスが上機嫌に肩を組む。その顔は、何かを企んでいるときにするニヤつく表情を張り付けていた。

「お前、山羊やぎの皮かぶったおおかみじゃねぇだろ? お前はまんま狼だ。だから、いつでもお嬢さんを襲うことができるんだぜ? その狼が、今更山羊に戻るなんて、できっこないだろ」

 ヤウォンの耳元でこそこそ話すタクリスは、本気で何かを吹き込んでいた。お前の女たらしのスキルは吹き込まなくていい……頼むから……。

「ヤウォン、そこまでお前はチキンじゃねぇだろ」

「ッ! うす……」

 やがてヤウォンがコクリと頷き、タクリスが「上出来だ」と言った。

 二人の中で何かが定まったらしい。なんの話だ?

 するとヤウォンが突然。

「おれ、やっぱ、ここで寝る」

 さっきの話し合いで何が決定されたんだ!? なぁ!?

「じ、じゃあ、どういう順番で、寝ますか? テュータさん、は、もう寝てしまっている、ので……テュータさんの左隣が1人、そのほかはみんな並んで寝るような形になってます、けど……?」

 パレッタがテュータの寝顔を見てにやぁっとしながら尋ねる。

 パレッタの言った通り、テュータは左から2番目のベッドで夢の中にどっぷり入っている。

 なので、左端のベッド1個、テュータの右隣3個が俺たちの寝るところだ。

 その並びを決めようとなっているのだが……。これがまたどうも決まらない。

「俺はとりあえず安全のためにテュータの横にする。こいつ寝相すげぇ悪いからとかみぞおちとかいろんなところ蹴られることあるし……みんなに蹴り入れるなんてことがないように、左右のどちらかがいいかな」

 あくまで安全のためだから。やましいこと考えて言ってるわけじゃないから!

「パレ、も、テュータさんの横が、いい、です……。て、天使の寝顔って……と、尊い、ものじゃないですか……ふ、ふ、ふへへ……」

 ……通常運転だなぁ……良からぬことを考えてるぞ……。

「オレは余りもんで。まー女子の横は勘弁だがな。変な気ぃ起こすと誰かさんに殺されちまうから、なぁ?」

 変な気は起こさないでほしい。頼むから。

 チラッと見られた当の本人ヤウォンはというと……。

「なっ……! お、おれでもそこまで非道じゃねェ……いや、パレッタさんのことならただじゃおかねェかも……」

 矛盾の生じる発言をぶつぶつ零す。タクリス、頼むから手は出さないでほしい。もしタクリスが手を出してヤウォンがのうりょくを呼び出したらまた家が……あー考えただけで胃が……。

「で? どうするんだ?」

「あ゛? おれはパレッタさんの横一択」

「ひひぇえええ!?」

 うーん……それぞれが欲望にまっすぐだなぁ……パレッタとヤウォンに関しては完全に私欲の心むき出しなんだよね。決まらねぇな―……。

「どうする? もうこれじゃ決まりそうにない。いっせーのーで、で指さして決めるぞ」

「そ、そうしましょう!」

「同意!」

「早く決めて寝ようぜ。ねみぃ」

 全員寝たくて寝たくてしょうがないらしい。いや分かるけども。

「そうだな。じゃあ一発で決めるぞ! いっせーのーでっ!」

 俺の掛け声とともに、びしぃっ! と人差し指をベッドへ向ける。

 俺はテュータの左横。パレッタはテュータの右隣。よかった……かぶることなくて……。

 そしてその横にヤウォンが、さらに横、右端にはタクリス。綺麗に分かれてくれた。一安心。

「よし! 安全的に決まったことだし! 寝るぞ! 電気消すぞ! あ、トイレ行ったか? 歯磨い――」

「うるせぇェェ! テメェは世話焼きの母親か!? 黙って寝ろやァ!」

「ごめんなさい」

 俺の心配をヤウォンに間髪入れずにツッコミを入れられ即座に謝罪。すみません。

 なんで俺にだけあたりが強いんだよ……メシは受け入れてもらえたけども。

 それともこれまでに出会ったテュータやタクリス、パレッタが優しすぎるだけなの? ヤウォンの対応が普通なの?

 でも、最初会った時よりも遠く感じない。ちゃんと言葉が交わせるようになってきた。

 それだけでも進歩かぁ……ふかふかのベッドの中に入り、すよすよ眠るテュータを見て、俺も寝よう。そう思っていた時だった。

「ママ――」

 テュータがぽつりとつぶやいた。寝言だろうか。横になりながらテュータを見ていると、不意に一筋の涙が。

「ママ」ってことはお母さんか。そういやテュータ、6歳の子供なのに1人でいるよな……今日の昼間のアレ誘拐も関係してんのか?

「寂しいよな……たとえ最強とはいえ、それ取っ払えればただの6歳の少女だもんな」

 流れた涙を拭ってやると、またすよすよ寝ていってしまった。

 たとえタクリスやパレッタが仲良くしてくれたとしても、親や家族に敵うわけ、ないもんな……。

 それなのに親は何をしているんだか。俺だったらすぐに探しに行くぜ。

 親、か――俺には縁もねぇ話だなぁ……。

 物心つく前から孤児院にいた俺には、親のあたたかさなんて知らない。

 でもテュータには親がちゃんといるんだ。今は離れていても、いつかは親元に返してやらねぇとな。

 きっと心配しているだろうに――いや心配していたらすぐ探すよなぁ……うーん、分からん。いや、分かりたくもねぇな。


 翌朝。昨夜もテュータの強烈な蹴りやグーパンを食らってまともに寝られなかった。勘弁してくれよなぁ……! 本っっ当に!

「ほら、テュータ。起きろ、朝だぞ」

「……ぃや」

「いやじゃねぇ、起きろ」

「んーんっ」

「んーんじゃねぇ、起きろってば。もうタクリスもパレッタもヤウォンもみんな起きてるぞ」

「ゃーだ」

「やーだじゃねぇってば! 自分で起きる努力をしろよ!」

「……んー……やぁだ」

「はぁ……もう俺知らねぇからな」

 駄々こねテュータは放っておいて、寝室から移動。いつかはぱっちり目が開くだろ。

 あくびをしながらみんなの声がする部屋に行く。ドアノブをひねり、飛び込んできたのは――

「あっ! エリュスさん! おはよう、ござい、ます!」

「エリュス……た、た、助け――ごぶっ」

「――――くっ……残す、わけには、いかねェ……だろ……」

 いつぞやかに見た光景だった。

 満面の笑みのパレッタと、材料をどうしたら真っ黒な固形と液体のものになるのか謎なシチュー(らしきもの)と、それを口にして失神しかけのタクリスと、パレッタの料理を残すわけにはいくまいと真っ青な顔をして宣言するヤウォンの姿。あぁ、なんってことだ……!

「エリュスさん、昨日だいぶお疲れだったみたいで、何回か皆さんで、起こしたんですけど、起きなくて――ゆっくり寝かせてあげようって、タクリスさんが。そしたら、ヤウォンさんが『お腹がすいた』って言ったので、パレが作りました!」

 あぁ、ヤウォンなんてことを……。パレッタの前で食べ物の話しちゃいけないよ、って前々から言っておいたらよかった――っ!

「最初、タクリスさんに『落ち着いて。やめて』と泣いて縋られたんですけど、ヤウォンさんが、パレの手料理食べたいって、いうものですから、腕を振るって張り切っちゃいました!」

 ヤウォン、本気でなんてことを……火に油を注ぐってこういうことを言うんだな……。

 タクリス――お前の努力は無駄にはしないぜ……。椅子の背もたれにもたれかかった状態でびくともしないタクリスに哀れんだ視線を送る。

 この事態を引き起こした張本人、ヤウォンはもぞもぞ動きながらお椀にかじりつく。何としても食べ終わりたいようだ。見てられねぇぜ……。

「エリュスさんの分も、皆さんのおかわりの分も、しっかりありますよ!」

 屈託なく笑うパレッタの前にどんと置かれた鍋の中にはいまだボコボコと、音が止まないシチューという名の固形兼液体が入っている。

「あ、ヤウォンさん、お口に合いましたか?」

 やっとの思いで食べきったヤウォンを絶望へと導く、おかわりシステムが作動。そしてそう問いかけるパレッタの笑顔に悪意はない。

「お、お、お、おい゛しぃです」

 問いかけに、やせ我慢してパレッタに向けた親指はかすかに震えながら上を指していた。

 ――……テュータ。お前、起きてこなくてよかったよ……もし俺と一緒に起きていたら、タクリスやヤウォンみたくなってたかもしれない……。

 俺もそうなるかもしれない――そう思うだけで自然と視線が遠くなっているのを感じた。

 また全部吐き出しちまうのかなぁ……極力、避けたい。


 ……とぅーびーこんてにゅーっ!
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