最強幼女に懐かれたポンコツ

鬼蒐燐

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♯20

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 半ば強制的に外へ連れ出された俺と、そのほか4名は、ドルデステ草原へと向かっている。

 俺を置いてぐんぐん進んでいくタクリスとヤウォンは、さっきまで毒を盛られていたということが分からない程ぴんぴんしている。嘘だろ。

 もしかしてあのシチューならざるものは、まずい代わりに体力云々を向上させる作用でもあるのか……? 逆にすごい。

 でも俺はまだ本調子ではない。今にも第3陣目が出そうな勢いで腹痛が襲ってくる。うっぐ……。

「エリュス、だいじょーぶ? ぽんぽんぺこぺこ?」

 俺が腹に手をやって苦しんでいると、歩くペースを落としてテュータが近づいてきた。え、優しい……。

「いや、腹は減ってないんだけど……調子悪い……ごめんテュータ」

「ううん。テュータはだいじょーぶ。でもエリュスくるしそう。みぞおちいっぱついれたらなおる?」

 そう言うテュータは既に手をグーにして待っている。頼んだ覚えはない! さっきの感情は撤回させてもらう!

「待って待って。さらに胃の内容物出すことになる。もしかすると胃液までも全部出るかもしれない」

「えーだめなのぉ?」

「はっ。つまんねェやつ」

 ヤウォン首突っ込んでくんな! お前だって数刻前までこうなってたろ! あからさまに聞こえるようにため息つくな!

「っていうかさ、ヤウォン、いつまでいてくれるの? 昨日は世話になったけど無理していることないんだぞ?」

「あ゛? おれがいたらなんか都合悪ィことでもあんのかよ」

「いや、そうじゃなくてっ――頼むからすぐに突っかかってくる癖を直してくれ! ……だから、その、親とか兄弟とか……家族が、お前が帰ってこなかったら心配するんじゃないのか?」

 昨夜のテュータの寝言もあって、俺はずっと気になっていた。ヤウォンが自然に俺たちと行動してくれていること。

 ヤウォンだけじゃない。タクリスやパレッタにだって言えることだ。

 『家族』と聞いてヤウォンの表情が若干曇ったかと思えば、すぐ険しい顔に戻る。

「あ゛? 親ァ? おれのことなんかどうだっていいんだよ、あいつらは。とにかくおれの家族の話は二度とするな」

「……ごめん――」

 もしかして、ヤウォンの心の傷をえぐっちゃったかな……?

 だが、険しい顔を少し緩めて、ふと前を行くタクリスやテュータ、そしてパレッタの方を向いて、口を開く。

「それに、彼女パレッタさんがいる限り、おれはここを離れたりしないからな」

 そう付け加え、前の3人のところまで足早に離れていく。

「……なんだ、心配いらなかったじゃん」

 去っていった背中にそう呟く。

 これからも、こうやって変わらずみんなで過ごせたら――どんなに嬉しいだろう。

 そう浸っていたとき突然。

 くいくい。

 ……?

 急に視界が傾いたかと思うと、またもや俺の傍に戻ってきたテュータが俺の服の裾をくいくい引っ張っていた。

「ねぇねぇ、いつになったらつくの? はやくどーぶつさん見にいこーよー」

 いや、だから観光気分で行くようなところじゃないんだぞ?! その平気さを俺に分けて!?

「もう少しだと思うから大人しくしてろ――ってそんなに引っ張るなっ!」

 ぐいぐいぐいぐいすんごい力で引っ張ってくるテュータを引きはがそうとしていたその時。

「こりゃすげーな……」

 タクリスがそう呟いた。

 引きはがされてもなお服の裾を離さないテュータの手首をつかんで対応しつつ、みんなが同じ所へ視線を向ける。

「すっすごいですね……ま、まるで、魔王討伐の、時みたい、です……」

 パレッタの『魔王』というワードに『まおー!』と反応する6歳女児。ここの時点で不審に思う点がたくさん浮上する。もうこっちも慣れちゃって異常なんて感じなくなってきたよ……。

「ん? お嬢さん、魔王討伐に行ったことがあるのか?」

「ひひぇっ、い、いいえ……お店の中から、覗いてみたら、すごい人だかりで……。気になって近くにいた冒険者さんに聞いてみたら『獣魔王が出たんだ』って……」

「あー、そういうことか。獣っつったらあれか? 数年前の、ほら、エリュス、あいつだよ。あいつ」

「あいつって言われても……えっと、最近の獣魔王は……あ、あいつか! 狼の形したやつ!」

 名前があとちょっとで出てきそうなのに出てこない! なんかむかつく!

「名前出てきてねェじゃねぇか、このポンコツが」

「……悪かったな」

「ま、今回の招集は魔王よりかは楽だと思いたいが……って今更だが、お嬢さん、ここに来ても大丈夫だったのか?」

「ふひゃっ、だ、だいじょ、大丈夫、です! 多分……。一応は魔法使えますし……それにテュータさんの勇姿を見届けないと……!」

 すごい興奮のしかた……。タクリスも返答に困ってる……。


「わぁ! いっぱいひといるよー! ひとがごみのようだっ!」

「どこで覚えたそんな言葉! ……でも、ただただ巨大生物倒すだけでこんなに人がいるのか――?」

 そこにはこの国中から集められたと言っても過言ではない程の勇者、魔法使い、戦士が

 その疑問に答えるように声を張り上げ「皆様! お待ちしておりました!」とレギオン団体の司令部とみられる人が叫ぶ。全員が一斉に声の方を向く。

「巨大生物発生により、緊急招集致しましたこと誠に申し訳ありません。只今、草原一帯に簡易的な防護結界が施されておりますので、今回の事態を手短にご説明いたします。今回出没した魔物はゴブリン、オーク、キングタランチュラ、さらにキングヘビータランチュラなど、通常種ばかりなのですが、大きさが通常の2,3倍はあるとの情報が――」

 通常の2、3倍!? え!? 俺の身長が176cmだから……。ゴブリンは俺の頭一個分小さいやつでしょ? オークはまぁ俺と一緒ぐらいの大きさのが多いでしょ?

 キングタランチュラ……は元から大きいし、キングヘビータランチュラに関しちゃ、未知だよ! アレ伝説の書物に載ってるものだと思ってたんだけど!? たしかキングタランチュラが脱皮して進化したやつで、その大きさと重さは比べ物にならないくらい大きく重たいって書いてあった気がするのですが!?

 それの2、3倍!? 一体どうしたらそんなバケモンが生まれるんだよ! どういうことだよ!

「――とにかく過酷な討伐となります。くれぐれも命を落とさないようにお気を付けください」

 命いくつあっても足りねぇよ!

 それから、深々とお辞儀をし、レギオン団体の人は去っていく。

 レギオン団体の人が去っていったそのすぐに、勇者たちのざわめきがいたるところから起こり始める。

「おい、さっきの説明本当なのか? キングタランチュラにキングヘビータランチュラだと……? そんな化け物相手に勝てるのか?」

「命の保証はできねぇみたいな終わり方だったじゃねぇか。俺たちのこと見捨てるつもりか?」

「おうち帰りたいよぉ……」

 そりゃそうなるよな……。俺も帰りたいよ。

「ねぇっ、はやくっ、いくよっ、どーぶつさん! みにいっくよ!」

 早く状況理解してくれよ……! こんな状況のただなかでお前ひとりだけだよハイテンションなの……!

「おい――あの幼女って、この前の人型魔王を一人で倒したっていう幼女じゃねぇか……?」

「あぁ、絶対そうだ……! あの黄色い頭と白いドレス――間違いねぇ! ――ん? あの黒髪のやつって……」

「またポンコツのエリュスがいるじゃねぇか。一体何しに来たんだか」

「本当だな。どうせまた逃げて帰ってくるんじゃねぇのか? この間の討伐任務だってろくにこなしてなかったくせに……」

「あの女の子、見たことがねぇな……」

「おい、あの青髪って……タクリスさんか?」

テュータの場違いな発言により、周囲の勇者たちが口々にどよめきだす。

先程までのレギオン団体への文句は、俺たちの話題へと切り替わった。

大半は先日の魔王を倒したテュータの話。それに混じって聞こえてくる俺の悪口。ひでぇ!

今回は逃げないから! みんな一緒だからな! 威張って言うな? うるせえ!

「ね~ぇ、どーぶつさん、みにいこーよぉ……」

まずい。テュ―タがそろそろ拗ねて暴れる手前まで来てる……! 欲求を満たしてやらねぇとここ一体にクレーターができてしまう……!

「お、おい、アレ――――」

一人の勇者が防護結界の方に指をさす。つられて見てみると、亀裂が入っている。

「結界が――っ!」

「キィィィィアアアア!!」

突然の奇声と共に、防護結界が落とした鏡のように砕け散る。その穴からは鋭い爪。

砕け散った防護結界は風と共にこちらへ飛んでくる。防護結界って破壊されたら消えるものじゃないの!?

「ひゃあああっ!!」

「パレッタさん!」

大きな音に驚いたパレッタが耳をふさいでその場にしゃがみ込む。ヤウォンがその上から覆いかぶさる。

「あの声は――キングタランチュラ……!」

「早速、お出ましってところか。ロリ、準備はいいか?」

「いぇす! いつでもおっけーだよー!!」

ガッツポーズで余裕の笑みをこぼすテュータ。コイツは心配することねぇな。

「キェアアアーッ!!」

雄叫びをあげ、キングタランチュラがなりふり構わず突進してくる。

数多の勇者、魔法使い、聖騎士が戦闘態勢に入る。

それを合図とし、テュータがぱちんと手を鳴らす。なにしてんの!?

《アンバレストコード 起動 ソードを排出します》

ゆっくり離れていく手の中から、大きな剣が登場した。えっ、どういうこと!?

「ふふん。テュータのつよさ、せかいへしらしめす!」

ぎゅっと柄を握り、駆け出していく。

「タクリス! あいつの援護! いらないと思うけど! 行ってくれ! ヤウォン……はパレッタと一緒にいてやれ! 行けそうなら援護頼む!」

「りょーかい。ふっ、ちったぁ指示できるようになったじゃねぇかよ。エリュスのやつ」

「うるせェ! 指図すんな! 言われなくてもやるっつぅの!」

ヤウォンの怒号が飛ぶ中、俺たちは二手に分かれる。俺、タクリスでテュータの方、反対側をヤウォン、パレッタに任せる。

《まのうりょく、かいほう!!》

テュータの大きな剣に眩い光がたまっていく。キングタランチュラ目掛け、大きな剣を振りかぶる!

《デストロイアタック!》


……とぅーびーこんてにゅーっ!
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