使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん

文字の大きさ
45 / 54

45

しおりを挟む
お姉様の口がパクパクと動く。扇子を取り落とし、床に乾いた音が響いた。
「ア、アメリス……!? な、なぜあなたがここに……しかも、その格好は……!」 「驚かせてごめんなさい。でも、こうでもしないとお姉様、私と会ってくれないでしょう?」
私はソファに座り、真っ直ぐにお姉様を見た。
「衛兵を呼ぶなら呼んでもいいわ。でも、その前に私の話を聞いて。これはロナデシアの、ううん、お姉様自身の損得に関わる大事な話よ」
「損得」という言葉に、お姉様は反応した。彼女は震える手で眼鏡の位置を直し、大きく深呼吸をした。
「……追放された分際で、随分と大胆な真似をするようになったものね。いいでしょう、聞きなさい。ただし、私の興味を引けなければ即座に突き出しますわよ」
態度は相変わらず冷徹だが、話を聞く姿勢は見せてくれた。第一関門突破だ。 私は単刀直入に切り出した。
「お父様とお母様の方針に従っていたら、ロナデシアはジリ貧よ。マスタールとマルストラスが手を組んだ今、ロナデシアが孤立するのは時間の問題。……お姉様も、それに気づいているんでしょう?」
図星だったようだ。お姉様は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「……父様も母様も、感情論で動きすぎですわ。特に母様はマスタールへの対抗心で目が曇っている。このままでは私の計算した黒字計画が全て水泡に帰してしまう」 「なら、私と手を組みましょう」
私は身を乗り出した。
「私は今、マスタール州知事と協力関係にあるわ。そしてマルストラスともパイプを作れる可能性がある。私が間に入れば、ロナデシアを孤立から救い、かつての交易ルートを復活させることができる」
「あなたが? 無能な次女のあなたが、何を根拠に?」
お姉様は鼻で笑った。
「根拠ならあるわ。私が『アメリス』だからよ。マスタールは私を保護するという名目で、ロナデシアを攻撃する口実を持っている。でも、もし私が『お姉様と和解した』となれば、彼らは攻撃する大義名分を失う。……これは、戦争を回避するための唯一の策よ」
これはロストスとアルドの受け売りだが、自信満々に言い放った。 お姉様はしばらく沈黙し、頭の中で高速でそろばんを弾いているようだった。彼女の瞳が、計算高い光を帯びていく。
やがて、お姉様はふぅ、と息を吐いた。
「……確かに、計算は合いますわね。あなたが戻れば、少なくとも外交上の最悪のシナリオは回避できる。それに、あなたを私の管理下に置けば、母様への言い訳も立ちます」
お姉様は冷ややかな笑みを浮かべた。
「でも、タダで協力するとは思えませんわね。条件は?」 「三つあるわ」
私は指を立てた。
「一つ、タート村およびヨース村への干渉を一切やめること。彼らの自治を認め、不当な重税を課さないこと」 「……些末なことね。いいでしょう、あの痩せた土地など興味ありませんわ」
「二つ、前線に送られたアルドたち兵士の名誉回復と、彼らの帰還を認めること」 「……有能な兵士を遊ばせておくのは損失ですが、まあ、あなたの護衛という名目なら経費で落ちますわね」
「そして三つ目」
私は一度言葉を切り、お姉様の目を強く見つめた。
「お父様とお母様が隠している『秘密』について、お姉様が知っていることを全て教えてほしいの」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます

今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。 しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。 王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。 そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。 一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。 ※「小説家になろう」「カクヨム」から転載 ※3/8~ 改稿中

解雇されたけど実は優秀だったという、よくあるお話。

シグマ
ファンタジー
 突如、所属している冒険者パーティー[ゴバスト]を解雇されたサポーターのマルコ。しかし普通のサポート職以上の働きをしていたマルコが離脱した後のパーティーは凋落の一途を辿る。そしてその影響はギルドにまでおよび……  いわゆる追放物の短編作品です。  起承転結にまとめることを意識しましたが、上手く『ざまぁ』出来たか分かりません。どちらかと言えば、『覆水盆に返らず』の方がしっくりくるかも……  サクッと読んで頂ければ幸いです。 ※思っていた以上の方に読んで頂けたので、感謝を込めて当初の予定を越える文量で後日談を追記しました。ただ大団円で終わってますので、『ざまぁ』を求めている人は見ない方が良いかもしれません。

『ゴミ溜め場の聖女』と蔑まれた浄化師の私、一族に使い潰されかけたので前世の知識で独立します

☆ほしい
ファンタジー
呪いを浄化する『浄化師』の一族に生まれたセレン。 しかし、微弱な魔力しか持たない彼女は『ゴミ溜め場の聖女』と蔑まれ、命を削る危険な呪具の浄化ばかりを押し付けられる日々を送っていた。 ある日、一族の次期当主である兄に、身代わりとして死の呪いがかかった遺物の浄化を強要される。 死を覚悟した瞬間、セレンは前世の記憶を思い出す。――自分が、歴史的な遺物を修復する『文化財修復師』だったことを。 「これは、呪いじゃない。……経年劣化による、素材の悲鳴だ」 化学知識と修復技術。前世のスキルを応用し、奇跡的に生還したセレンは、搾取されるだけの人生に別れを告げる。 これは、ガラクタ同然の呪具に秘められた真の価値を見出す少女が、自らの工房を立ち上げ、やがて国中の誰もが無視できない存在へと成り上がっていく物語。

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

岡崎 剛柔
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

聖水が「無味無臭」というだけで能無しと追放された聖女ですが、前世が化学研究者だったので、相棒のスライムと辺境でポーション醸造所を始めます

☆ほしい
ファンタジー
聖女エリアーナの生み出す聖水は、万物を浄化する力を持つものの「無味無臭」で効果が分かりにくいため、「能無し」の烙印を押され王都から追放されてしまう。 絶望の淵で彼女は思い出す。前世が、物質の配合を極めた化学研究者だったことを。 「この完璧な純水……これ以上の溶媒はないじゃない!」 辺境の地で助けたスライムを相棒に、エリアーナは前世の知識と「能無し」の聖水を組み合わせ、常識を覆す高品質なポーション作りを始める。やがて彼女の作るポーションは国を揺るがす大ヒット商品となり、彼女を追放した者たちが手のひらを返して戻ってくるよう懇願するが――もう遅い。

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

処理中です...