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第一話
しおりを挟む透明な細長い縦線が幾重にも連なっている冷たくも優しい霧雨。ぼくの好きなものの一つである、妖精が遊びにくるような異国の黒き森にある湖、を思い浮かばせる。
ぼくの好きなもの。おしゃべりで触り心地がふわわわのきりんさんのぬいぐるみ、花を咲かせるために夢をつめた小麦粉よりも小さな種、宝物の在り処をこっそり教えてくれる魔法の本に、まるまる太った球根は春咲く深紅の金鬱花、コロコロ鳴く蛙の親子に、魔法使いだけが使えるフウセンカズラの馬車、それから、それから……
「まぁたはじまったよ、サイくんの妄想」
「モーソーじゃなくって、暴走じゃね?」
教室の窓際で一人頬杖をついたまま、突然降り始めた雨を見つめているぼくの姿をクラスメイトたちは呆れたように一瞬だけ気にかける。そしてぼくを哀れんで、日常に溶け込んでしまう。
彼らはぼくのことを可哀相だと評するけれど、ぼくは逆に彼らの方が可哀相に思えてしまう。だけど反論はしない。馬鹿にされるのがオチだから。
だから僕もいつものことだと彼らの言葉を無視して窓の向こうでしとしとと音を立てて降る雨をぼんやり、見つめる。
昼間までずっと青空が拡がっていたというのに、いつの間にか灰色の雲に侵入を許し、姿を消している。呼ばれた雨雲は喜んで雨を降らせ始める。そして妖精たちが季節外れのソライロアサガオの花で作ったラッパを鳴らすんだ。みんなおいでよ、宴が始まるよって!
「……雨が降ると、精霊たちが人界へ遊びに来るんだよ」
放課後の喧騒がぼくの囁きもかき消してくれる。ぼくはただ、夢を見てるだけ。
夢は夢だから、美しい。
妄想癖のある夢見がちな男の子は、覚めることのない残酷な夢から逃げだせないことを
嘆くことなく、今を甘受する。
そして今日も、果敢無い夢を見てるだけ。
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