雨降る季節に降る恋は

ささゆき細雪

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第六話

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「……脚色しすぎだと思う」
「だってぼくキリサメに恋したんだもん」

 二日連続の雨で機嫌がいいぼくを見て、溜め息をつくりゅーちゃん。
 昨日はグーテンベルクの発明した印刷機について熱く語ったからか、あっというまに時間が過ぎてしまった。

「あたしゃさ、サイくんがそういう大柄で気障な男に会ったらすぐノックアウトされると思ってたのよ」
「キリサメは気障じゃ」

 ない、と言い返そうとしたら、りゅーちゃんに遮られた。彼女は女の子によく間違えられるぼくのことを危なっかしいと心配してくれるのだ。

「だけどねぇ。夜十時頃に雨の中傘も持たずに一人で飛び出すあんたもあんたよ! よく誘拐されなかったわね」
「うん」
「うん、って……で、今日も会うの?」
「うんッ」

 ……こりゃ重症だ、とりゅーちゃんのぼやきが聞こえたけど、ぼくは窓の外で降りつづける雨が止まないように祈ることで精一杯だったから、何も言わなかった。


   * * *


 白い傘が二つ。
 一つはぼくがさしているキリサメの傘。もう一つもキリサメの傘。彼は雨の精だから傘なんていらないと思うのに、そうもいかないんだよとぼくを諭す。

「だって、僕がびしょぬれで平気でいるのが人間にバレたら、大変だろ?」

 何がどう大変なのかはわからないけれど、彼が正体を隠して人界で働いてるんだなってこ
とはわかった。
 そう言うと、キリサメは少し困った顔をした。

「サイくんは純粋だね。僕を人間のフリした雨の精だと思ってくれるんだから」
「だって、夢を見るのは個人の自由から」

 ぼくはキリサメが雨の精霊であろうが、普通の人間の男の人であろうが、どっちでもいいように思える。だけど、彼が着ている黒いブレザーを黒の燕尾服に、持っている白い傘を魔法の杖にしたら、楽しいじゃないか? そう言ったら、彼は静かに笑った。どこか自嘲するような淋しそうな顔だったけれど。

「……夢、か。サイくんはどんな夢を持ってるの? 本が大好きって言ってたから、絵
本作家かな?」

 昨日の話を覚えていてくれたんだ。グーテンベルクが発明した印刷技術がなきゃ本を読むことができないって話。

「憧れるけど、ぼくになれるかな……」
「なれるもの、じゃなくて。将来なりたいものを聞いてるんだよ」

 ぼくは小声で呟く。

「――童話作家」

 昔から空想が大好きで、沢山の絵本を読んだ。寓話から宝探しまで。本当に沢山。
 なれたらいいなぁ、って思った。
 だから、りゅーちゃんにしか言えなかった夢の中身を、キリサメにも、教えた。

「きっと、なれるよ」
「なれる?」
「うん。なれるよ」
「ほんとう?」
「童話作家、なればいいじゃん」

 キリサメはぶっきらぼうに言う。

「だから、ノートでもメモ帳でもいい。サイくんが思ったこと、考えたこと、毎日書きつづけてごらん?」
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