身代わり聖女は「君を孕ますつもりはない」と言われたのに死に戻り王子に溺愛されています

ささゆき細雪

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chapter,2

05. 聖女ジゼルフィアと裏切りの魔術師(後編)《3》

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   * * *


 マヒ・デ・フロート公爵家の一人娘であるジゼルフィアには幼馴染みの少年がいた。彼の名はホーグ。父はハーヴィックの騎士団に所属する騎士で、母は隣国花鳥の魔女だった。妖精王の系譜につながるハーヴィックと花鳥の魔法形態は類似しており、ジゼルフィアはホーグを通じて公国の魔法知識を吸収していった。
 ともに魔法を学ぶ彼は弟のような存在だった。当時のジゼルフィアには友人と呼べる存在もいなかったからだ。だが、彼女が次期聖女候補だと囁かれたのを機に、ふたりの関係は静かに幕を下ろした。家庭教師が異性同士をともに教えることに異議を唱えたからだ。

『わたしはホーグと一緒でもぜんぜんかまわないのに』
『そういうことは言わない方がいいよ。ジゼは聖女さまになるかもしれないんだから』
『なれるわけないわ。精霊の加護の代償で寿命を削られているわたしが、王子さまのお嫁さんなんてつとまるわけないじゃない……世も末だわ』

『じゃあ、もし聖女に選ばれなかったらぼくのお嫁さんになればいい』

 憂えるジゼルフィアの言葉を茶化すように、ホーグはそう言って、公爵家から姿を消した。
 いままで異性として意識したことのなかった彼の言葉にジゼルフィアは困惑する。ジゼルフィアを聖女にして、王子の花嫁の座におさまる名誉を、公爵家は喉から手が出るほど欲している。ほかのマヒの一族の娘も候補にあがっていたが、幼い頃に魔女の森で出逢ったリシャルトは、ジゼルフィアを指名した。
 茶番劇のような聖女選定儀式。ジゼルフィアが拒むことはできなかった。
 その後、ホーグは母親の故郷に戻り、魔法使いになったという。ハーヴィックでは男性魔法使いの地位が低いから、公国に居を構えたのだろう。
 父親のようにハーヴィックを守る騎士になるのだろうと思っていたジゼルフィアは彼がハーヴィックを離れるという思いがけない決断に心が軋んだが、結婚の約束をしたわけでもない、向こうが一方的に言ってきたことに裏切られたと傷つくこともないのだと、淡い思い出に蓋をした。
 けれど、向こうはそう思っていなかった、ということか。


「ご懐妊だって? おめでたいことで」
「ちっとも喜んでくださらないのね、ホーグ」

 それなのに、かつての幼馴染みは敵国の狗となって、聖女とそのお腹の生命を狙っている。

「ぼくとの子どもだったら、良かったのになぁ。あの化け物王子の子を孕まされるなんて」
「リシャルトさまを悪く言わないで……!」
「だけど、ほんとうのことだろう? 妖精王に鷹の星を刻まれた継承者たちの加護の代償を、ジゼが知らないわけないんだから」
「でも」
「可哀想な聖女サマ、いまからでもやりなおしの魔法をかけてあげるよ」
「やりなおしの魔法ですって?」
「公国の女公主のように、ジゼが聖女にならない世界線に翔べばいいんだ。そうすれば、ぼくたちは何者にも邪魔されない」

 花鳥公国の“破滅の魔女”と悪名を流された女公主レティーシアのことを指摘され、ジゼルフィアは頬を紅潮させる。
 この混沌とした状況から逃げろと、ホーグは言いたいらしい。
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