身代わり聖女は「君を孕ますつもりはない」と言われたのに死に戻り王子に溺愛されています

ささゆき細雪

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chapter,3

01. 死に戻り王子の憂鬱《2》

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 妖精王はハーヴィックの王位継承者だけが持つ“死に戻り”の加護をリシャルトに与えていた。父王から又聞きした大魔女タマーラの情報を眉唾だと思っていたリシャルトは、まさかこのような場面で“死に戻り”が発動したことに驚愕する。

『ご結婚おめでとうございます。本日から聖女ジゼルフィアは貴方のものとなりました』

 死に戻った場所は、まさかの結婚式当日。聖女ジゼルフィアは何事もなかったかのように、リシャルトの花嫁としてそこにいた。
 そこで彼は一考する。このままあのときのように結婚初夜から彼女と子作りをしたら、病弱な彼女がリシャルトの子を身籠ったら、またあの悲劇を繰り返しかねない、と。
 悲観したリシャルトはそれならばと、「君を孕ませるつもりはない」と口にした。
 彼女を護るためならば、子どもなどいらない。たとえそのせいで国が滅ぶと罵られようが、彼女のいない世界はもう耐えられないのだ。
 けれど、ジゼルフィアはリシャルトの子どもを授かりたいといまも願っているようだった。身体が弱い彼女を孕ませた後、敵国の男に奪われ殺された自分が、もう一度彼女と子作りをすることなど許されるわけがない。愛する彼女が死んでしまう夢を生々しく見てしまったリシャルトは、青白い表情のまま心配そうなジゼの頬へ手を伸ばす。まるで救いを求めるように。

「……ジゼ。君が死んでしまう夢を見た」
「!?」

 唐突なリシャルトの独白に、ヒセラは目を白黒させる。自分が死ぬ夢を見て、彼はこんな風に憔悴するのか、とどこか場違いな感想を抱いてしまう。
 ヒセラの驚いた顔を見て、リシャルトが泣き笑いの表情を浮かべる。

「いやな夢だ。ジゼはたしかにここにいるのに」
「リシャールさま……」

 ぎゅっと抱き寄せられ、甘い口づけを贈られて、ヒセラの胸が苦しくなる。聖女ジゼルフィアが死ぬ夢。それだけ彼はジゼのことを……?

 ――こんなこと言われたらますます言えないじゃない! あたしが聖女ジゼルフィアじゃないなんて。

「……リシャルト、とは呼ばないのか」
「え? リシャールと呼んでほしいとおっしゃっていましたよね?」
「ああ……そういえば、そうだったな」

 どこか遠い目をするリシャルトを前に、ヒセラは首を傾げる。悪夢を見たからなのか、彼の言動がちぐはぐしている。ちぐはぐしているといえば、結婚したときからおかしなことばかり口にしていたけれど。

「リシャールさま。になにか隠してますよね?」

 ヒセラは素の自分に戻って、問い詰めていた。聖女ジゼルフィアが死ぬという夢に魘され、目覚めてヒセラの姿を確認し、心の底から安心していたリシャルトは、もしかしたらほんもののジゼルフィアがすでに死んでいることを勘づいているのかもしれない。それでいて、ふたたび喪うことを極端に恐れている。
 だって彼は目の前にいる妻が聖女ジゼルフィアの身代わりだと知らないのだから。

「ジゼ。君は、なにも覚えていないんだな……」

 別人なのだから覚えている以前の問題である。ヒセラはこくりと頷き、リシャルトの銀髪にふれる。
 けれど、ヒセラのそっけない答えを彼は受け入れたくなさそうに見えた。

「覚えてないのなら、それでいい。むしろその方が幸せかもしれない」
「……リシャールさま」
「覚えていなくてもいい。それでも、俺は君しかいらないことに変わりはない。あんな卑劣な男に奪われて殺されるなど、耐えられないよ……今度こそ君を護る、聖女ジゼルフィア、今度こそ」

 まるで未来を視てきたような彼の確信を前に、ヒセラは申し訳なくなる。
 妖精王の加護を持つ彼には、いったい何が視えているのだろう。生前のジゼルフィアは大精霊の祝福のひとつである先読みのちからもあったというが、ヒセラは未来を視ることができないのだ。だから、リシャルトが見た悪夢が、これから起こることなのか判断できない。
 ただ、これだけは断言できる。

 ――あの、リシャールさま。すでに護る対象は死んでいます。ですからそんなに自分を追い詰めないで……!
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