身代わり聖女は「君を孕ますつもりはない」と言われたのに死に戻り王子に溺愛されています

ささゆき細雪

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番外編(side 花鳥公国) 亡国の女君主に恋した騎士の、最初で最後の恋の魔法

《4》

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   * * *


 アーウィンがレティーシャと知り合ったのは十四年前、当時の君主の娘――七歳になるレティーシャの遊び相手として喚ばれたのがきっかけだった。
 レティーシャには八つ年上の兄、イシュメルがいた。次期君主として帝王学を学んでいた彼をアーウィンはレティーシャのようにお兄様と慕おうとしたが、アーウィンを一瞥して「お前のような弟は不要だ」と言い放たれて以来、犬猿の仲になってしまった。
 いま思えば、可愛いレティーシャの傍にいることを許されたアーウィンに対するあてつけだったのかもしれない。その後、父の死によって公国君主の座についたイシュメルは何事もなかったかのように妹の護衛騎士にしてやるとアーウィンに叙勲した。既に遊び相手としての年齢を過ぎたふたりは少年少女となり、異性として互いを意識するよになっていたが、イシュメルの行為によってふたりの間に身分差の壁が生まれ、以前のような関係に戻れなくなってしまった。

 そしてレティーシャに婚期が訪れる。大陸全体が戦乱で慌ただしいなか、美しいレティーシャが政治の道具としてつかわれてしまう……おまけに自分は彼女の護衛騎士だ、自分が彼女と結ばれることはけして叶わないのに、彼女が死ぬまで傍で仕えつづけなくてはならない。
 諍いに疲れた多くの貴族が公国から新たな大陸を目指して亡命しはじめたことで、イシュメルへの信頼は失われていくばかりだった。それでも彼はレティーシャを自分の手元から解き放つことをせず、「いつかお前にぴったりの結婚相手を充てがってやる」と言ってアーウィンの目の前で恋人同士のようなふるまいをしつづけていた。レティーシャは困惑していたが、イシュメルは彼女に性的な意味で興奮しているように見えた。「戦が落ち着いたら、法律を変えて彼女を妃に迎えるつもりだ」という噂が独り歩きし始めたのもこの頃だ。アーウィンは兄君主から真意を訊こうとして、諦めた。
 そのかわり――アーウィンは彼女を兄君主の枷から放つため、レティーシャに黙って、イシュメルを殺したのだ。遅効性の毒を盛るという、騎士とは思えない卑劣な手段で。

 ――レティーシャさまはお前のお人形じゃない。

 死体の傍でアーウィンが憎らしげに呟いた言葉を耳にした人間はどこにもいない。
 レティーシャを女君主に、という彼の遺言がなければ、アーウィンは彼女を攫って逃げていただろう。
 けれどそんなことをしたら、レティーシャが悲しむ。彼女が愛する国がある限り、自分はいつまでも彼女の隣の護衛騎士。国に縛られた彼女を解き放つには、この忌まわしい国を、祖国を壊すしかないとアーウィンは悟る。
 だから彼は周辺諸国に情報を売り、戦争を焚きつけるよう唆したのだ。女君主となった彼女を自由にして、自分だけのものにするために。
 それは、けしてレティーシャには告げることのない、彼だけが持つ黒い秘密だ。
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