時翔る嫁 双子令嬢と身代わりの花婿

ささゆき細雪

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第二部 初恋輪舞 大正十二年文月~長月《夏》

地獄の底で待ってる。 03

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   * * *


 異能の受け渡しは思っていた以上に単純なものだった。もっと複雑な儀式が必要なのかと思えば、もともと同じ母親の胎から生まれ落ちた双子なのだから血を重ねるだけでもとある場所へと還るのだと。
 お互いに短刀で指の腹に傷をつけ、そこから流れた血をふれあわせるように、指先をちょこんとあわせただけで、音寧は綾音が保持していた破魔のちからを自分の元に引き込んだ。鍵となる暗示をふたりで組み、破魔のちからを返却してもらった音寧は、その日仕事を終えて日本橋本町から迎賓館に来た資から指に巻かれた包帯を言及されたが、食事の際に皿を割ってその破片で怪我をしただけだと誤魔化して、綾音とのやりとりは秘密にしてしまった。
 その指の傷も三日経たずに塞がり、ほぼ同時期に月経も終わったから、音寧は資に寝台の上に組み敷かれている。丹色の夜着をつけたままの彼女を乱し、姫壺に精を放った資は、繋がった状態のまま、彼女の乳房を揉んでいる。達したばかりの身体は余韻を楽しむように彼の手を歓迎していた。

「あぁっ、資さまっ……」

 胸元の蝶がまたすこし、薄くなった気がしたが、完全に消えて羽ばたく状態とは言えない。

「俺がつけた花のほうが色が濃くなってきたな」
「それは、資さまが何度も接吻の痕をつけるから、で……はぅ」

 音寧が反論した瞬間、資は顔を寄せて舌先で乳首をひと舐めして、心臓に近い場所に刻まれた紫の蝶を挑発するように、肌を吸って花を咲かせはじめる。

「葉月の終わりまで、あと十日もない。おとねが元の世界に戻っても俺のことを忘れないように、俺のモノだって証を残したいだけだ」
「とね、おとねは、はじめからさいごまで彼方だけのものです……よ?」

 すでに音寧が未来から来た自分の花嫁だという荒唐無稽な現実を認めている資は、葉月いっぱいでこの世界から未来へ戻ることも渋々受け入れてくれた。相変わらず、未来の有弦が自分であることは信じられないみたいで、未来のじぶんに嫉妬を隠さないけれど。

「わかっているさ。それでも、次に逢えるのはすぐではないのだろう?」
「――ごめんなさい、これ以上は」

 音寧がもといた世界で五代目有弦となる資と顔を合わせたのは大正十三年の神無月だ。彼女にとっては初対面だったが、彼にとっては姫として過去に帝都で逢っていたというのがすべてのはじまり。
 綾音から破魔のちからを返してもらうという大義名分のもと、初恋をやり直して時空の歪みを糺し、未来で待つ彼の元へ戻るつもりだった音寧は、自分が時を翔るちからで変革した事象を目の前の彼に伝えることができない。これ以上目の前にいる彼に余計なことは話せない。自分が未来の嫁であることだって、はじめは言うつもりがなかったのだから。

「すまない。困らせてしまったね」
「……だけど、必ず逢えます」

 必ず、という音寧の言葉に、資も頷く。そして彼も彼女に誓う。

「ああ。迎えに行くよ。我が花嫁どの」

 甘く蕩けるような口づけを交わしながら。
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