176 / 191
第二部 初恋輪舞 大正十二年文月~長月《夏》
地獄の底で待ってる。 03
しおりを挟む* * *
異能の受け渡しは思っていた以上に単純なものだった。もっと複雑な儀式が必要なのかと思えば、もともと同じ母親の胎から生まれ落ちた双子なのだから血を重ねるだけでもとある場所へと還るのだと。
お互いに短刀で指の腹に傷をつけ、そこから流れた血をふれあわせるように、指先をちょこんとあわせただけで、音寧は綾音が保持していた破魔のちからを自分の元に引き込んだ。鍵となる暗示をふたりで組み、破魔のちからを返却してもらった音寧は、その日仕事を終えて日本橋本町から迎賓館に来た資から指に巻かれた包帯を言及されたが、食事の際に皿を割ってその破片で怪我をしただけだと誤魔化して、綾音とのやりとりは秘密にしてしまった。
その指の傷も三日経たずに塞がり、ほぼ同時期に月経も終わったから、音寧は資に寝台の上に組み敷かれている。丹色の夜着をつけたままの彼女を乱し、姫壺に精を放った資は、繋がった状態のまま、彼女の乳房を揉んでいる。達したばかりの身体は余韻を楽しむように彼の手を歓迎していた。
「あぁっ、資さまっ……」
胸元の蝶がまたすこし、薄くなった気がしたが、完全に消えて羽ばたく状態とは言えない。
「俺がつけた花のほうが色が濃くなってきたな」
「それは、資さまが何度も接吻の痕をつけるから、で……はぅ」
音寧が反論した瞬間、資は顔を寄せて舌先で乳首をひと舐めして、心臓に近い場所に刻まれた紫の蝶を挑発するように、肌を吸って花を咲かせはじめる。
「葉月の終わりまで、あと十日もない。おとねが元の世界に戻っても俺のことを忘れないように、俺のモノだって証を残したいだけだ」
「とね、おとねは、はじめからさいごまで彼方だけのものです……よ?」
すでに音寧が未来から来た自分の花嫁だという荒唐無稽な現実を認めている資は、葉月いっぱいでこの世界から未来へ戻ることも渋々受け入れてくれた。相変わらず、未来の有弦が自分であることは信じられないみたいで、未来の彼に嫉妬を隠さないけれど。
「わかっているさ。それでも、次に逢えるのはすぐではないのだろう?」
「――ごめんなさい、これ以上は」
音寧がもといた世界で五代目有弦となる資と顔を合わせたのは大正十三年の神無月だ。彼女にとっては初対面だったが、彼にとっては姫として過去に帝都で逢っていたというのがすべてのはじまり。
綾音から破魔のちからを返してもらうという大義名分のもと、初恋をやり直して時空の歪みを糺し、未来で待つ彼の元へ戻るつもりだった音寧は、自分が時を翔るちからで変革した事象を目の前の彼に伝えることができない。これ以上目の前にいる彼に余計なことは話せない。自分が未来の嫁であることだって、はじめは言うつもりがなかったのだから。
「すまない。困らせてしまったね」
「……だけど、必ず逢えます」
必ず、という音寧の言葉に、資も頷く。そして彼も彼女に誓う。
「ああ。迎えに行くよ。我が花嫁どの」
甘く蕩けるような口づけを交わしながら。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる