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第八話
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「悠深も知っていたんだよね。高月先輩にミハルが憑いていたこと」
「まあな。でも別に誰かに危害を与えるわけでもないし、兄を見守っているだけのように見えたから僕は放っておいたんだよ……こうなることがわかっていたら、とっくに徐霊していたのに」
こうなること、とは彼がぼくと心を通じて恋に落ちるということだろう。悔しそうな悠深の言葉をききながら、ぼくは首を横に振る。
「いいんだ。後悔はしていないから」
高月先輩に憑いていたミハルは、ぼくが自分のことを見聞きできることを知って、喜んでくれた。双子の兄としかコミュニケーションを取れなかった彼にとって、ぼくとの出逢いは新しい世界を知ることに繋がっていたから。そしてぼくも。
「……ミハルが幽霊だったから、っていうのは変な話だけど」
生身の人間の思念を感じることのできるぼくにとって幽霊のミハルは謎だらけで、魅力的だった。何を考えているのかわからなくて、表情や仕草からそれを想像しなくちゃいけなくて、そういった当たり前のことを疎かにしていたぼくにとって新鮮だった。
だから彼に強い興味を抱いた。
高月先輩を挟んで、夢中になって語り合った。
こんなこと、初めてだった。
「触れ合うことはできなかったけれど、言葉にして、口に出して気持ちをぶつけることで想っていることを分かち合うことができた。高月先輩はそんなぼくとミハルを受け入れてくれたけど、心の奥では最後まで不安がっていた。幽霊と人間の男同士の恋なんて、けしてしあわせになれるわけないのに、って……」
悠深は黙って耳を傾けてくれている。
「でも、高月先輩にはその当時、もうひとつ、不安があったから、この世に存在していない弟のことは必然的に後回しにされた。逆に、ぼくがミハルと親しくなっていくことで、彼も、自分のなかで燻っていた不安を取り除く決意ができたんだと思う。けど……」
あのときぼくが感じてしまったのは、痛み。
高月先輩の決断が、ぼくとミハルの運命を動かすことに直結したから。
「それは一迦の責任の域を逸脱している。故郷を出ようか出まいか悩んでいた彼が結果的に選んだことに、一迦は異論を挟めない」
そう。高月先輩は地元の大学へ進学するしか道がないと思っていた。家庭の事情で。経済的な理由で。
けれど、勤勉な高月先輩の姿を見て、周囲の人間は奨学金制度を使えばいいとか、ほんとうに学びたいことがあるのなら自分で働きながら通ってもいいではないかと忠告してきたのだ。そして、彼のたったひとりの生きている家族も、応援すると、背中を押してくれたのだ。
高月先輩は中学生のときに母親と死別していて、彼は林業を営む父親とふたりで生活していた。彼らが月命日になるとうちの寺に墓参りに来ていたことを思い出す。きっといまも妻と息子に供養をつづけていることだろう。
「高月先輩は、お父さんと離れたくなかったけれど、一生の別れになるわけじゃないからって言われて、腹を決めた……故郷を離れ、新しい生活に足を踏み入れることを」
そして、ぼくに向けて、ありがとう、ごめんなと笑ったのだ。
なぜならそれは、彼に憑いているミハルも一緒に、ここから離れることを意味していたから。
「まあな。でも別に誰かに危害を与えるわけでもないし、兄を見守っているだけのように見えたから僕は放っておいたんだよ……こうなることがわかっていたら、とっくに徐霊していたのに」
こうなること、とは彼がぼくと心を通じて恋に落ちるということだろう。悔しそうな悠深の言葉をききながら、ぼくは首を横に振る。
「いいんだ。後悔はしていないから」
高月先輩に憑いていたミハルは、ぼくが自分のことを見聞きできることを知って、喜んでくれた。双子の兄としかコミュニケーションを取れなかった彼にとって、ぼくとの出逢いは新しい世界を知ることに繋がっていたから。そしてぼくも。
「……ミハルが幽霊だったから、っていうのは変な話だけど」
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だから彼に強い興味を抱いた。
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悠深は黙って耳を傾けてくれている。
「でも、高月先輩にはその当時、もうひとつ、不安があったから、この世に存在していない弟のことは必然的に後回しにされた。逆に、ぼくがミハルと親しくなっていくことで、彼も、自分のなかで燻っていた不安を取り除く決意ができたんだと思う。けど……」
あのときぼくが感じてしまったのは、痛み。
高月先輩の決断が、ぼくとミハルの運命を動かすことに直結したから。
「それは一迦の責任の域を逸脱している。故郷を出ようか出まいか悩んでいた彼が結果的に選んだことに、一迦は異論を挟めない」
そう。高月先輩は地元の大学へ進学するしか道がないと思っていた。家庭の事情で。経済的な理由で。
けれど、勤勉な高月先輩の姿を見て、周囲の人間は奨学金制度を使えばいいとか、ほんとうに学びたいことがあるのなら自分で働きながら通ってもいいではないかと忠告してきたのだ。そして、彼のたったひとりの生きている家族も、応援すると、背中を押してくれたのだ。
高月先輩は中学生のときに母親と死別していて、彼は林業を営む父親とふたりで生活していた。彼らが月命日になるとうちの寺に墓参りに来ていたことを思い出す。きっといまも妻と息子に供養をつづけていることだろう。
「高月先輩は、お父さんと離れたくなかったけれど、一生の別れになるわけじゃないからって言われて、腹を決めた……故郷を離れ、新しい生活に足を踏み入れることを」
そして、ぼくに向けて、ありがとう、ごめんなと笑ったのだ。
なぜならそれは、彼に憑いているミハルも一緒に、ここから離れることを意味していたから。
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