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17球目【宇賀神エルフィーズVSキングドワーフズ!④】

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【前回のあらすじ】
 まさかの打順発表途中で次回に続く。


「五番は、ファースト、アーチェ!」
 続きいきます。五番はやはりこの人、俺の知る限りエルフ女子最高のガタイを誇るアーチェ。三番と五番はもう練習の初日から決めてたくらい鉄板だった。
 女王警護隊という腕自慢のエルフが集う部隊の隊長を務めているらしいアーチェは、それはもうエルフ類最強女子らしい見事な体躯を誇る。結婚式では、旦那を抱きかかえて写真に収まっているイメージしか浮かばない。ちなみに彼氏募集中らしい。結婚願望はメチャクチャあるよ! といつかの練習終わりにサッパリとした笑顔で語っている姿に好感が持てた。
 アーチェには幸せになって欲しいと思うが、旦那は間違いなく尻に敷かれること確定なので、色々と覚悟完了しておく必要があるのだろう。あ、選手としてはイメージどおりのスラッガー。性格的にも強いので心配は少ない。ただ、なんでも振っちゃうブンブン丸だから三振は多いかな? と予想。まあそれも個性だ。だんだん直していけばいい。

「六番、センター、アラバンサ!」
 上位の打順は内野手が占める結果となったが、外野の最上位はやはりこの人、アラバンサ。切れ長の瞳が特徴的なクールビューティ。普段から必要な時以外は言葉を発しない。冷静沈着、頭脳明晰。俊敏でしなやか。やはり弓矢使いとしてパフェリーと伍する存在と言われるだけのポテンシャルは感じ取れる。と言いつつ、俺はまだパフェリーが弓矢を放つ姿を実際に見たわけではないのだけど。刺されたことは何度もあるが。この世界では弓矢が近距離用の武器である可能性も否定できない。
 打者としては、堅実な成績を残すタイプと想定している。なんでもできそうなタイプで、二番に置くかどうか最後まで悩んだくらいだ。六番という打順はつなぎ役としても重要で、クリーンナップで決めきれなかった場合に頑張ってもらいたい打順でもあるから、重要は重要だ。アラバンサならその期待に応えてくれるはず--。

「七番、キャッチャー、パフェリー!」
 説明不要、この世界の俺の嫁ことパフェリー。程よい巨乳に大きめのお尻、美しくも可愛らしさも感じさせる顔つき、意外と抜けてる、でもやる時はやる。良い女だと思う。アレク君がどんなヤツだか知らないが、こんな女に思われてるなんて幸せなヤロ。日比野さんじゃないけど寝取ってやりたい……いや、んな度胸はないけれど……けれど。
 パフェリーの能力自体には何の文句もなく、つい女としてどれほど魅力的かを考えてしまった。俺の女房役を務められるのはパフェリーを置いて他にはいない。この世界に来た初日に出会い、女王と俺を引き合わせ、衣食住の世話もしてくれ、ドワーフ谷へも同行してくれた。この優れたメンバーを選んでくれたのも彼女だが、その一方でさっき殺されかけもした。付き合い自体はまだ一ヶ月少々だが、その関わりは濃厚だと思っている。
 俺の脳天目がけて鏃を突き刺した勢いのごとく、強気のリードで俺を引っ張ってもらいたいと思う。打撃はそこそこやってくれればいい。キャッチャーとは、基本そういうポジションだと思っている。

「八番、レフト、エポスタ」
 いつも大口開けて笑っているので、色々な意味で心配になってくるのがエポスタ。彼女はエルフの中では珍しく、分かりやすい美女タイプではない。丸顔だし、そばかすあるし。田舎娘感がすごい。だけど、底抜けに明るい。頭大丈夫? って気遣いそうになるくらい。
 でもそれがいいエッセンスなんだと思う。チームにとって必要なピース。打撃が良いとか守備が上手いとかそういう次元じゃない。存在自体がチームにプラスに作用する。極端な話、何もしてくれなくてもいい。いやそれは極端すぎるんで、ボールくらいは追いかけて欲しいけど。
 お前みたいなやつがいてもいいんだ、と俺は本気で思っている。当然、勝つのは大事だ。それは、今回に限らずあらゆる試合において。ただ、せっかく異世界に野球を広めるのに、勝ちのみに拘泥していくのでは、日本の野球と同じ道を辿ることにはならないだろうか?
 勝ちを唯一絶対の価値として置いて進んだ道のりの果てに何があったか。勝利至上主義の私立高の誕生、投手の肩が消耗品などという考えをおよそ持っていない"名伯楽"と呼ばれる鬼畜の所業……野球は素晴らしいスポーツだという考えは変わらない。だけど、変えていかなければならない点は多々あるとも思っている。
 俺は、異世界野球を日本の野球と同じようにしたいとは思わない。エポスタをその象徴にしたい。俺は信念を持って彼女を使い続ける。

「九番、ライト、ミュゼさっきはごめん」
 あまりに申し訳なさすぎて、最後小声で畳み掛けてしまった。突き刺さる目線が心に痛い。もっと、もっとその目で見てくれ……
 …冗談はさておき、彼女は間違いなくチームで一番普通の人だ。能力だけ見たら、どうしてパフェリーが彼女を選んだのかさっぱり分からないのだが、やはり彼女の良さはハートにある。いや、宇宙|《おっぱい》にもあるが、それは野球とはそんなに関係はない。人の心を優しくする効能は相当あるが。いや、あれは人生で揉んできたモノの中でも最上位クラス……
 …とにかく、ミュゼは素晴らしいハートを持っているのだ。実力的な評価ではやはりこの順位付けになってしまう。だけど、エポスタ同様に、この世界における野球のあるべき姿として、ミュゼの存在もまた欠かすことは出来ないんだと思う。実力至上主義に警鐘を鳴らす存在、というと、ミュゼに何かを背負わせようとし過ぎている気がして申し訳なさが募るのだが。ていうか俺ミュゼに対して酷いことばっかり言ってるしやってるな。マジで踏んでもらわないと……!
 スタメンの発表が終わった。本番だ。俺は気持ちを入れ直し、全員を見渡しながら、切り出す。みんないい表情になったな、と嬉しくなりながら。

「さあ、いよいよ異世界初のプレーボールだ。俺たちが、歴史にその名を刻む瞬間がやって--」

「…のう、宇賀神」

 ロブロイが背後から話しかけてきた。勘弁して欲しい、今かっこいいこと言おうとしてたのに!

「え、なんすか?」

「打順やらポジションやら、よく分からんのだが。どうやって組めばいいのか教えてくれんか?」

 自分で考えてくれよ、アンタが頭だろ? キングドワーフズだっけ? そんな強そうな名前付けてんだから! と言いたかったが、ズブの素人であるロブロイにそんな風に言い放つのはさすがに忍びない。駆け足で教えてあげようじゃないか。

「ロブロイさんが四番目を打てばいいよ。あとは運動神経いい順番に並べておけば。ポジションは、一番上手いヤツをピッチャー、投げるやつに、リーダーが捕るヤツ、キャッチャー。あとは内側に上手いのを集めて、外側、特に右側、ライトにちょっと鈍くて下手なの置いとけばいいよ」

 自分でも惚れ惚れするほど簡潔かつ的確な指南だ。ロブロイは何となく分かったような風に自軍の集まりに引き返していった。俺は気分を取り直し、再び意気揚々と語り出す。

「…さあ、歴史に刻もう! 俺たち、宇賀神エルフィーズの勇姿……」

 そこまで言って気付いた。ミュゼの表情が大変だ。ジトッとした目で俺を見つめている。俺、なんかヘンなこと言ったかな? 分からないなぁ。
 とにかく、いよいよだ。プレイボールが近づいてきた!
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