感情が視える私、異能力組織にスカウトされました

犬田春

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5話 初出勤!

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朝7時、私を起こそうと必死なアラームを1タップで止める。いつもなら二度寝をしてしまうが、今日だけは違う。浮き立つ足を絨毯へとつけ、カーテンを開ける。


「う~ん、いい朝!!」


なんたって今日は新しい職場への出勤初日なのだから!

昨日組織へ入る事に同意した私は様々な事を教えられた。出勤時間や組織の内装、一気に説明をされあまり覚えてないがそれもいいと思う。

そして昨日貰った制服に袖を通す。
勿論、昨日入ると決めた私の制服があったのは不思議だったし犯人は蓬莱さんかと思ったが、女の子が入ると期待していた柏木さんらしい。
まあ、らしいと言えばらしいが。
制服は警察とは違う感じでどちらかといえばスーツに近い感じがする。シャツにジャケット。シンプルだけど、何処か軍服の様な雰囲気も感じられて私的には満足だ。でもズボンがショートパンツなのは私的にも世間的にも受け入れられないと思う。

気持ちを切り替えて今まで下ろしていた髪を高く結ぶ。機能性も優先しているが、これは私の決意表明でもある。今回は頑張りたい、私を変えたい、そんな気持ちを込めて力強くリボンを結ぶ。
姿見の前で軽く回ってみればポニーテールがふわり、と靡いて満足度が増す。

案外似合ってるんじゃない…!!


「いや~、可愛いね」

「うわっ、!神様!?」


髪を結んだ事で露出した頸を冷たい指先でするり、と触れてきた神様に音を立てて離れる。振り向けばあの日のような不気味な笑みではなく、親しみのある微笑みで見つめられていた。

昨日は現れなかったくせに、今日は現れるんだ。


「似合ってるよ、さすが僕の霞ちゃん」

「…神様には聞きたい事が多いんですけど」

「おっと、もうこんな時間じゃないかー。霞ちゃんも急がないとー」


追い詰めようとすれば白々しい演技を披露し、そのまま消えた神様。どうせ嘘だろうと時計を覗いてみれば本当に家を出ないといけない時間で、先程の優雅な朝とは対照的に大慌てで家を出た。

組織用の制服だからかとても動きやすい。ジャケットもシャツも窮屈ではなく、伸びやすい生地だった。
お陰で電車には間に合い、車両で静かに息を整える。





と、間に合ったはいいが組織がどこにあるか分からず庁内で呆然と立ちすくんでしまう。昨日は目隠しをされて連れてこられたし、帰りは目隠しはされてなかったけど浮かれていた私は当然場所なんて記憶してない。


「…あの、どうかされましたか?」


どうしよう、と悩んでいると背後から職員さんに声をかけられてしまった。警察に話しかけられるのはあまりない体験だからか、後ろめたい事は何もないのに謎に緊張してしまう。


「えっと、あの…アスラって…」

「っ、その組織を何故知ってるんですか!」

「え、」


先程の和やかな雰囲気とは違い、空気が冷たくなっていく。優しそうだった女性は今は私を睨み、後退りながら少し距離を取った。警察の人にこんな態度を取られるのは元一般人の私からしたら耐えきれない。

何故この人が怒ってるのか分からないが早く誤解を解かなきゃ、そうは思っていても動揺してしまう。あ、やえっと、なんて頼りない言葉しか出てこない。


「そ、それは」
「私がアスラの新メンバーだからですってすぐに答えろよな~?」


耳元から聞こえた声に振り向けば和やかに微笑んでいる蓬莱さんが立っていた。それと同時に周りがザワザワとし始め、私達が孤立しているような空気を感じた。

女の人は完全にこっちを睨んでいて、軽蔑の様な負の感情を含んだ目線が突き刺さった。


「ごめんな、僕がしっかり説明しとけば良かったよ。じゃあ行くぞ」

「は、はい」


蓬莱さんに腕を引っ張られ奥へと進んでいく。すれ違う人達からはひそひそと噂話が聞こえ、何人かは紫のオーラが視えた。紫、ポジティブな意味ではなさそうで思わず目を逸らした。

階段を降り、また奥へと進めば-AsterLampo-と書かれた看板が見え、開ければ見慣れた空間が広がっていた。中には千桐さんと椎原さんが既におり、慌てて挨拶を済ませる。


「また琉生さんは遅刻か」

「まあ琉生くんは事件が起きてからですし」

「今に始まった事じゃないだろ」


姿が見えない柏木さんは想像通り遅刻のようで、今朝慌てたせいで足の小指を打った私に謝って頂きたい。


「あ、そうだ霞。今朝の事は気にするな」

「…あれってどういう」

「警察は"警察だけ"を信じてるんだ。だから僕達みたいな能力者には嫌悪感を示し、必要としない。まあ、端的にいえば仲が悪くてな」

「でも、それならなんで一緒のところに…?」

「あ~、それはね」
「っそんな事より霞にやって欲しいことがあるんだ!」


気まずそうに蓬莱さんを見つめた椎原さんの話を遮って身を乗り出してきた蓬莱さんを避けつつ距離を取る。だが距離を取ってもジリジリと近づいてくる蓬莱さん。
今までは意識しなかったが、青年のような爽やかで整った顔立ちが目の前に存在し、何もないはずなのに焦ってしまう。



「や、やって欲しい事って…」

「ふっふっふ、まあまずは移動をしよう」


先程の気まずい雰囲気を払拭する空気感に違和感を覚える。会って間もない関係だが蓬莱さんが無理に明るくしてる、と言う事だけは分かった。

他のみんなが黙っている様子を見るにあまり触れてはいい話題ではなさそうなので黙って蓬莱さんについていく。





車に乗り込み着いたのはある建物の前だった。その建物には看板がついており、目を凝らして読んでみる。


「…警視庁術科センター?」

「そうだ!元は一般人だった霞には体力テストも含んだ訓練をしてもらう」

「霞ちゃん、…頑張ってね」


正気を失った表情で私の肩に手を置く椎原さん。その表情から訓練がどれだけ過酷だったのかを感じ取ってしまい、思わず怖気付いてしまう。


「碧もやるぞ!」

「へぁ!?僕もですか!!!?!……千桐くん…」

「最近ずっと篭ってたしな。丁度いいだろ」

「終わった…」


魂が抜けてる椎原さんを引き摺りながら中に入っていく2人に続き、私も中に入る。

どうか無事に終わりますように…





「ぐえぇ、もう僕はだめですぅ」

「、え?わたし、いきてる、…?」


2人して息を吐きながら畳の上にへたり込む。椎原さんなんて完全に魂が抜けてる、がそれを戻す気力は私にはないので放置をする。

初めこそは優しかった。射撃訓練らしく普通に銃を撃つ練習をしただけ。私は警察官でもないのにやる必要はあるのかと考えていれば、「もしイレギュラーに遭遇したら睡眠薬入りの銃を撃つことになる」と言われた。思い返してみれば椎原さんも八雲さんも銃らしきものを腰にかけていた。

そして次から何かが変わってしまった。剣道だ。剣道なんて未経験だったが、それを言っても「避けるだけでいいから」なんて上手くかわされて笑顔で竹刀を振り回す蓬莱さんからずっと逃げていた。お面をしてるのにこんだけ痛いんだから、今更だけど剣道部のみんなを尊敬した。

そして次に柔道。学生時代に授業で何度かやっていたから意気込んでいたのに待っていたのは惨敗の記録だけ。

あ"ー、今日で5kg痩せた。絶対。


「ふむ、霞は反射神経が良いんだな」

「うんどう、ぶ、だった、で…」

「成程…ならきみ達は早く体力をつけた方がいい。君達の能力は戦闘向けじゃないんだから、少しでも自分の身を守る術を持っておくべきだ」

「…はぁ、~い」
「はい…」

「最後に逮捕術をやるぞ!」


2人して寝ながら蓬莱さんの説明を聞く。警察独自の護衛術であり、今日の中で一番大切な能力という説明を受けた。が、すっかり柔道で体力を削られてしまったので本音を言えばやりたくない。


「霞、八雲を犯人だと思え。取り敢えず最初は避けるだけでいい」

「うぅ、はあい」

「…す」


千桐さんと一対一で見合う。蓬莱さんの声が響いて千桐さんが一気に近づいてきて、握りしめられた拳が目の前へと迫ってくる。足を動かそうとしても動かず、頭では避けようと考えていても間に合わないくらいのスピードだった。
全てがスローモーションに見えるのに、私の体もスローモーションになっていて殴られるのを待っているだけ。


ぱん、と空気を打つ音が響き拳が目の前で止まる。拳の風圧か、前髪がぶわりと動いた。


「おい!いきなり殴りかかる事があるか!」

「…っすまん」

「ぁ、だいじょうぶ、です」


心臓のざわめきが収まらず、力が抜けてへたりと床に座り込む。もし千桐さんが拳を止めてくれなきゃ私の顔面に衝突していた。


「すまん、大丈夫か…?」

「あ、…はは。ごめんなさい、力抜けちゃって」

「…本当にすまん。加減が、わからなくて」


そんな心優しき怪物みたいなことを言われても…

千桐さんの顔を覗き込んでみれば私より辛そうな表情をしており、体術を始める前に一瞬だけ視えたオーラが再び視える。
みどりってどういう意味なんだろう
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