桃華の戦機~トウカノセンキ~

武無由乃

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西暦2090年

勝利の天使〜ショウリノテンシ〜

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マドモス島の北東の海上、そこにただ一隻停泊している軍艦があった。第8特務施設大隊のTRA母艦”ズイカク”である。
その艦橋の、艦長席の隣に設置された総司令官用の席に、藤原二等陸佐は座っていた。
その手には、携帯通信機ワールドフォンが握られそこから発せられる声に答えを返していた。

「やあ、モモ、仕事ご苦労さん。
かけてきたってことはやっぱり?」

【おじさん……、やっぱりって、わかってたのアレ】

「ははは……、じゃ何の話か分からないぞ?」

【……、
遊んでる暇ないから、話進めておじさん】

「ごめんごめん。
作戦に邪魔が入ったんでしょ?」

【そう……、それもおそらく……】

「超能力者?」

【――】

藤原の答えに桃華が黙り込む。

「まあ、そうだろうね。
海賊と連携してるかはともかく……、超能力者による邪魔は入るだろうことは予想済みだよ。
それで? 皆に周知は?」

【もうしてる。小隊長経由でね】

「ありがとう。
超能力者は厄介だからね……」

藤原は特に深刻そうな顔をせずそう言った。

【もう一度確認するけど、海賊団には超能力者はいなかったよね?】

「まあ、C級以下ならいる可能性は多分にあったろうけど……」

【邪魔をしたのはC級じゃないよ。少なくとも、主力戦車並みの狙撃をしてきたから……】

この世界の超能力者には、その危険度によるクラス分けが存在する。
副反応レベルの能力しか持たないG級。
非効率な行為しか行えないF級。
一般的行動を超能力で再現できるE級。
一般的行動を超能力でより効率よく実行出来るD級。
一般的殺傷武器を超能力で再現できるC級。

そして――、

戦車レベルの兵器の破壊行為を再現可能なB級。――戦術級超能力兵器。
イージス艦レベルの巨大兵器の破壊行為を再現可能なA級。――準戦略級超能力兵器。
最後に、核兵器レベルの破壊活動ができるS級。――戦略級超能力兵器。

「う~~ん。少なくともB級以上か……。
そこらの海賊団には不釣り合いな存在だよね」

【だったら……】

「うん、RONの手先で間違いないね」

桃華の言葉に笑顔で答える藤原。

「まあ、裏取引した建前上、大規模な軍は動かせないから……。
こちらの索敵に引っ掛かりにくい、超能力者個人を送りこんできたんだろう。
……でも、まあ、最初に襲った相手がモモだったのは、相手にとって最悪だったね?」

【まあね…、他の誰かだったら、間違いなく……】

「まあ、無事でよかった」

【わかってたのなら、話してくれててもよかったのに】

少し怒ったような声が無線から発せられる。

「いやあ……、まさかこっちも、
連中が本当にそんな子供じみた事してくるとは思わなかったし……」

【おじさん】

桃華の声が少し低くなる。

「……ごめんなさい。
今度からは気を付けます」

【よろしい……。
あなたは部隊の命を背負ってるんだからね?】

「そうだね……」

まるで、母親に叱られてるかのようだと藤原は思った。

(まあ、嫌な予感がしたからこそ、
本来、第2小隊だけの仕事に桃華を追加したんだけどね……)

そんなことは、口に出しては言わない。桃華がちょっとばかり調子に乗るかもしれないからだ。
藤原にとって桃華は最強の切り札。……そして最も信頼する使であるから。

「それじゃ、推定B級以上超能力者の相手は任せていい?
ある程度作戦をこなした後でいいから……」

【仕方ない……。帰ったら高級アイスだからね?】

「OK。買って待ってるよ」

そのまま携帯通信機ワールドフォンからの通信が途切れる。
正直、日本の保有する超能力兵器の使用を要請してもいいのだが、「もしかして」という理由で彼らを借り受けることはできない。
そもそも手続きが煩雑で間に合いはしないだろう。

(だったら、こちらの手札で何とかしなきゃ)

藤原は少し困った顔で笑いながら、桃華の機体へとデータを送る。
それは、今回派遣された可能性のあるRONの超能力者リスト。無論、こちらが過去に捕捉している人物だけしかリストアップされていないが。
彼女なら、或いはその中から敵を見つけるかもしれないと急いで用意したものである。

(嫌な予感ってのは、結構当たるもんだな……)

正直当たってほしくなかった予感……。
桃華にだけは、あらかじめその予感を語っておいてもよかったかもと今更ながらに考える。
藤原は自嘲気味に笑いつつ、ただ使の勝利を祈ったのである。


◆◇◆


闇の中を2号機は駆ける。
オルトスの4号機との連絡はついている。今はそこへと駆け抜けるだけだ。

(超能力者……か)

先ほど小隊長から通信で、作戦の裏で少なくとも通常兵器レベルの超能力者が動いていることを知った。
超能力者はまさしく、現代戦における最悪のイレギュラーである。
人間個人のサイズに、戦車以上の破壊能力を持つ彼らは、索敵にかかりにくくあまりにも厄介な相手である。
過去にも、超能力者によって大国の内地(首都の近くですら)が危険にさらされたことはいくつもある。
一般人に紛れて敵地に潜入し、片手間で大規模破壊を行える彼らを恐れ、排斥するものがいるのは当然の事だろうと思う。

(もうそろそろ……)

4号機との合流地点が真近になった時、何やら言いようのない不安にかられてその場に停止する。
その瞬間――、

ドン!!!!

いきなりの光弾が飛来し、機体前方を横切っていった。

「ひっ?!!!!!!」

あまりの事に、らしくない悲鳴を上げる霞。
しかし、それも当然、今停止しなければ自分の機体の胴体は光弾に貫通され、自分は――、

死――、

首筋を皮一枚の距離でナイフが掠めたような経験に、さすがの霞も震えるほかなかった。

(に、逃げないと……)

何とかフリーズした思考を取り戻した霞は、その場から機体を走らせる。
姿勢を低くして、不規則蛇行しつつ、光弾が飛んできた方向から離れるように走った。

ドン!! ドン!! ドン!!

さらに三度光弾が飛来する。
霞は、自分が幸運に恵まれている存在であることを自覚した。
その光弾は、あまりに正確無比に、2号機のコックピットを狙ってきていた。
正直、霞は避けることができなかった。不規則蛇行の、曲がった瞬間に光弾が飛来してだけなのである。

(く……)

前進から汗をふきながら、逃走を続ける霞だが。その幸運は長くは続かなかった。

ドン!!!!

次の瞬間、とうとう光弾が2号機の胴を貫く。

「ああああ!!!!!!!!!!!!」

霞は悲鳴を上げて血反吐を吐く。
光弾は、2号機の胴部装甲を容易に貫き、そのコックピットをも貫いていた。
そして、搭乗する霞の胴を掠めて、その腹の肉を抉っていったのである。
2号機は、その衝撃で吹き飛び、横向きに倒れる。もはや逃げることは不可能であった。

「く……」

血をかみながら、それでも抵抗しようと、機体を立ち上がらせようともがく霞。
しかし、2号機は霞からの精神接続を失って、ピクリとも動くことはなかった。

このままでは次の光弾で自分は――、

そう思って絶望が支配し始めた時、不意に近くの闇の中から激しい砲撃が放たれた。

ドドドドドド……。

それは、大隊のTRAが一般的に使用している小銃の発砲音であった。

「ごめん!!! 霞お姉さん!!!!
遅れました!!!!」

それはオルトスの搭乗する4号機であった。
不思議なことに、オルトスが来たとたん敵の光弾が襲ってくることはなくなった。
その事実に霞が疑問符を飛ばしていると、オルトスがその疑問の答えを語った。

「桃華さんの予想通りですね……。
敵はおそらく、生命体の精神の揺らぎを感知して砲撃してきてるんですよ」

「え?」

「アーツデバイス・クラス『Covert Sniper(=隠密狙撃手)』……。
RONのA級超能力兵器『リン 梓豪ズーハオ』。
それが、今回襲ってきている超能力者です」

そんなことをなぜオルトスが知っているのか。その答えは先ほどの発言にヒントが隠されていた。

「すごいですね……。桃華さんが言ったとおりだ。
対人認識感知は人間以外反応しないから、僕がいれば不用意に打てなくなるって」

そう、それは桃華からのアドバイスだったのである。

リン 梓豪ズーハオ
それは、RONがよく運用している代表的超能力兵器である。
艦砲並の物理光弾を打ち出すアーツを使用し、幾たびの戦場で多くの犠牲を生んできた国防軍にとっては怨敵ともいえる存在。
センサー類を使用しない対人認識感知で目標を捕捉し、アーツ光弾で狙撃して目標の操縦者を直接殺すことを基本戦術としている。

「霞お姉さん……。とりあえず、安全地帯まで移動しましょう」

オルトスの言葉に、霞は自分が助かったことをいまさらながらに理解した。

(もしかして、私たちには幸運の女神がついているのかもね)

そう考える霞の脳裏には、勝気な笑顔の桃華の顔が浮かんでいた。
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