桃華の戦機~トウカノセンキ~

武無由乃

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西暦2090年

魔人の継承者~マジンノケイショウシャ~

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日本の某所、闇の奥の奥――。

「なあ母さん――」

「なあにはるか――」

「いつまでこんなことを続ければいいんだよ――」

二人の女性らしき声が闇に響く。

シュボ!

闇の中にいきなり光が生まれた。それは薬タバコに火をつけたライターの光。
その光に照らされた顔は――、

「遥――、今は動く時ではないわ。
2か月前は私の言った通りに成功したでしょ?」

「アレは――」

闇の中に、タバコの火に照らされたは、顔をしかめて言う。

「アレはに隠れてこそこそやっただけだろうが。
あんな、ドブネズミみたいな事は成功とは言わねえ――」

「――でも、薄汚い『一般人ノーマル』はたくさん死んだわ」

「くだらねえ……」

母である女の声にそう吐き捨てる金髪女『遥』は――、

「親父は、に殺された――、
そのから、こそこそ逃げ回って弱っちい小虫を殺すのが、あたしら誇りある『十絶旺陣』の使命かよ?」

そう言って母に向かって薬タバコを投げ捨てた。
一瞬、金髪碧眼の女の顔が照らされる。

「私は――、貴方のお父さんを助けることができなかった。
細胞一個からすら人を再生できる私が――。
お父さんは――、『十河とが 王司おうじ』はにきれいに焼かれた――、
細胞一個すら残さないレベルで――。
わかるでしょう? 貴方はそうなってほしくないのよ――」

「――あんたの気持ちはわかるが、
だからってこそこそ隠れて捻くれた恨みを晴らすだけなのは、あたしの性には合わないんだよ」

「ひどいわ――、捻くれた恨みなんて――。
私は――」

その母の言葉を遮って遥が答える。

「玩具だったんだろ?
超能力研究者どもの――。
嫌というほど聞かされたぜ」

「いいえ、あなたはわかっていないわ。
私が薄汚い『一般人ノーマル』からどれだけの屈辱を受けたか。
強力な自己・他者再生能力を持っているからこそ、私は――」

それは口から発する事すら憚れる凌辱の日々。

「あなたはお父さんに守られて生きてきた。
甘くなるのは仕方がないのかもしれない――。でも忘れないで?
貴方は新生『十絶旺陣』のリーダーなのよ?」

その母の言葉に、遥は一度舌打ちしてから頷いた。

――と、不意にどこからか声が響く。

「お嬢サン。お客様ヨ」

それはどこかしら外国訛りした男の声。

「なんだ?
ジー 黄煉ホヮンリェンか――」

「うちの本国からのお客さんダヨ」

「ふん? 誰だ?」

その言葉に反応するように、闇の中から声が響いた。

「私の名は『林 梓豪』――、
RONに所属する超能力者だ」

「――中国の犬が何しに来た」

遥はそう吐き捨てるように言った。

「……、
貴方たちに、ある仕事を頼みたいのですが」

「RONの犬があたしらに何かを頼める立場とでも?」

「いいえ――、これはRON本国よりの依頼で、報酬は当然それなりのものを用意しています」

「ほう? それはどのくらいだ?」

遥は意地悪そうな笑いを浮かべて聞き返す。

「円に換算すれば1兆円ほどの資金提供と――、
RONによるあなた方の活動への支援です」

「――」

遥は笑顔を消して真顔になる。顎に手を当てて少し考えてから答えを返した。

「ふむ――それで?
どんな仕事だ?」

「ある人物の調査と暗殺です」

「調査と暗殺?
その程度のことテメエでできるんじゃないのか?」

「無論、出来なくはありませんが。
地の利を持たない我々より、あなた方のほうが仕事が有利に運ぶでしょう?」

「まあ、それは当然だな。
あたしらの方が、お前ら雑魚のように弱くないし――」

遥は心底見下した目で『林 梓豪』を見下ろす。

「……」

とうの彼は、その目を見ないようにしつつこうべを垂れた。

「お願いを聞いていただけますかな?」

「その目標とやらは誰だ?
それ聞をかない限り何もしないぞ?」

「……この人物です」

その時、『林 梓豪』が差し出してきたのは一枚の写真。
ピンボケしてわかりにくいその写真には、しかし確かに一人の人物の顔がはっきりと映っていた。

「――」

それを見た遥は少し驚いた表情をする。それは確か2か月前に見た顔であったからだ。
フリルワンピースを着て、白い帽子をかぶった少女。
遥は記憶の海からその顔を呼び起こした。

「これは? 誰だ?」

「それは――、
日本政府が主導した、ある作戦行動にかかわった人物で――、
TRAパイロットであるという事だけはわかっています」

「ふむ? TRAパイロット?
一般人ノーマル』?」

「おそらくは――」

遥は細目で『林 梓豪』を見下ろしつつ疑問を投げる。

「『一般人ノーマル』の個人情報なんざ、あたしら超能力者にとっては鍵のついてない家と一緒だろ?
なぜおまえらで調べられないんだ?」

「無論、その通りではありますが。
どうやら、彼女の周りには最高レベルの情報統制が敷かれているようで」

「ふむ――、政府の犬がかかわっていると?」

「その通りです」

その言葉に、突然遥は笑い声をあげ始めた。

「ははははは!!!!
なるほど――、お前らこいつにいいようにやられたんだな?
だから、身元を暴き出そうと超能力を使って調査したが、見事に日本の情報部イヌに返り討ちにあったってところか?」

「――」

『林 梓豪』は無言で頭を下げる。

「おもしれえ――いいぞ。
調査と暗殺――、やってやろう」

「それは本当で――」

遥のその答えに『林 梓豪』が顔をあげると、そこには悪鬼のごとき怒りの表情をたたえた遥の顔があった。

「だが――、貴様は生きて帰さん――。
あたしら『十絶旺陣』が、現在進行形で苛烈な超能力者差別を行っているの仕事を受けると思ったか?」

「な!!!!」

「興味がわいたからお前の言うとおりにするが。
――ソレとコレとは別。
死ね――」

「!!!!」

その時、『林 梓豪』は力場を展開しようとした。
しかし――、

「やっぱり貴様らは馬鹿だな?
あたしにA級超能力者程度が傷をつけられるとでも思うのか」

ドン!!!!!

一瞬にして『林 梓豪』の力場空間は押しつぶされ打ち消されてしまう。

「ぐがあああああ!!!!!」

そのあまりに強大なサイコキネシスに、『林 梓豪』はただ苦し気な悲鳴を上げるしかなかった。

「あたしを倒せるのはかのだけなんだが?
聞こえているか? カスヤロウ――」

そのまま『林 梓豪』は物言わぬ肉片へと変わっていく。

「はははは!!!!
久しぶりに全力が出せたぜカスヤロウ。それだけは感謝してやるよ」

闇の中に悪鬼の嘲笑がこだまする。その場に残ったのは一枚の写真のみ。

「フン――おもしれえ。
奴らが調査してくれって言ってるってことは。
2か月前のアレを生き残ったってことか――。
ただの『一般人ノーマル』が――」

写真を念動で手元へと運んだ遥は、その写真に写った少女を面白そうに見つめる。

「遥――」

心配そうな声色で母親が名前を呼ぶ。

「ちょっと遊びに行くから――、
お前らは余計な手出しをするなよ?」

その遥の言葉に、母親も、『李 黄煉』もただ首を垂れるしかなかった。
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