桃華の戦機~トウカノセンキ~

武無由乃

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西暦2092年

深紅の流星群~シンクノリュウセイグン~

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西暦2092年4月12日――。
ドルニス市の南東部にある、とある施設に湊音みなとは足を踏み込んでいた。
護衛である日本陸上国防軍普通科部隊士官が湊音に話しかける。

「湊音さん? こんなところに来て何をしようって言うんです?」

「黙ってついてくるっすよ。
ここには、このドルニスをRONが真っ先に占拠した理由が眠っているっす」

「なんです? それは――」

(それは、これからのこの国を――。
それどころか日本の状況すら覆す重大な秘密っす)

湊音は暗い瞳で、施設の闇に包まれた通路の先を見つめながら考える。
――そう、この施設こそが湊音が、そして”大西 龍生”がこの国へ国防軍派遣――、ひいてはドルニス奪還を目指した理由でもあった。

「……」

闇の中を進んでいくと、その先に一つの扉が見えてくる。
その扉には英語で”三号資料管理室”と書かれていた。

「ここっすね――」

湊音は慎重に扉を調べた後、そのノブを手にして一気に開く。
その奥にソレはあった――。

「う?!!! これは――」

その部屋の中の惨憺たる状況に、さすがの護衛たちも顔をしかめる。
護衛の一人が湊音にこの部屋の状況の理由を聞いてくる。

「これはいったい――、どういうことです?
RONはいったいここで何を研究していたんです?」

その言葉に対して湊音は暗い笑みを浮かべながら答える。

「これがRONの仕業だと思う根拠は?
状況から見てもともとあったモノだという方が筋が通るっす。
RON的には利用価値があったんで、しっかり保存してくれていたんでしょうね」

「え?! それって――」

その部屋の状況を湊音は懐かしいものを見るような目で見る。

(龍生さん――、これでこの国はお終いっすね――。
そして日本も――)

その時の湊音は、ただただ暗い憎悪に満ちた笑顔を浮かべていたのである。


◆◇◆


先の”遥かなる橋作戦”の成功によってマニス国軍の反抗が始まると、ドルニスのRON勢力は北へと押し戻されて弱りつつあった。
その事態を重く見たRONは、さらなる大部隊をドルニスへ向けて派遣派遣する。その規模は――、

第一波として、一個機械化歩兵中隊、二個戦車中隊、一個対空車両中隊。
第二波として、三個機械化歩兵中隊、六個戦車中隊。
その後方に二個対地車両中隊。

――連隊規模の大部隊の派遣に、マニス国軍と連合防衛軍は新たな緊急作戦を決定する。
作戦名”深紅の流星群Crimson Meteor Shower”。
ドルニス北の山岳地帯を進軍中の機甲部隊に対して、大規模な支援砲撃部隊を展開しての面制圧攻撃によって殲滅せしめるという作戦であった。
その支援砲撃の着弾位置計測のために歩兵からなる特殊部隊と、日本陸上国防軍の特務施設科のTRA部隊が派遣されることになった。
当然、それは大部隊の矢面に立つ極めて危険な任務であった。

西暦2092年4月15日、14:31――。

ドルニス北部山岳地帯に展開する第六師団第六特務施設大隊第三中隊・稲田 爽志二等陸尉のTRAがRONの機影を発見する。

「目標発見――、距離をとりつつ支援砲撃の要請――」

「了解――」

配下のTRAと共に山岳地帯の山影を移動する稲田のTRAは、はるか後方から飛来するロケット弾の光線を見た。

ドンドン!!!!

地面が揺れてRONの偵察装甲車両が吹き飛んでいく。その段になってやっと後方からRONの多目的ヘリが前進してきた。

「見つかる――、撃墜!!」

その声に反応するように、配下のTRAがその手の80㎜狙撃銃を撃つ。
その弾丸は的確に多目的ヘリを貫通、墜落させたのだった。
後方の支援砲撃部隊のさらなる砲撃がRONの部隊に襲い掛かる。それはRONの部隊を混乱させその隊列を無茶苦茶にした。

「散開していくな――」

RONの部隊はいくつかの集団に分かれて散開して進軍を始める。

「いいか? 各チームのTRA二機一組になって散開する敵集団を追跡。それを後方に送るんだ」

「ベータチーム、了解――」

「ガンマチーム、了解――」

稲田の指示に従って他チームのTRAもまた山岳地帯の各所に散っていく。
このような遮蔽物の多い局地戦闘ではTRAの独壇場である。今回の作戦もまた成功するだろうという確信が稲田にはあった。

そして、15:24――。
作戦開始から1時間が経とうとしたとき突然それは起こったのである。

「稲田!!!!」

不意に通信機からベータチームのリーダー土井の声が響いた。

「どうした?」

「TRAだ!!! TRAがいやがる!!!!」

「なに?」

それは、RONがTRAを運用しているという事かと一瞬考える。
しかし、RONは有史以来TRAのような人型兵器を保有したことはない。

「どういう――」

――と、突然大きなノイズと共に土井からの通信が途絶える。
その段になってやっと稲田はイレギュラーが起こっていることを理解した。

「全機!! 状況報告!!!
敵にTRAがいるぞ!!!!」

その通信を聞いた一部のTRAから通信が返ってくる。

「アルファリーダー!!!! 敵TRAを確認!!!
――これはまさか――」

「どうした?!」

「え――、そんな。
アレは、フラメスのTRA4S?!!!!」

「フラメス共和国?!!!!」

余りの事態に稲田は一瞬思考が停止する。
RONと休戦状態にあるフラメス共和国が当のRONと共闘するなどという事があるのか?

(馬鹿な?! ありえない!!
――いや、まさか――)

不意に別のTRAから通信が入る。

「敵TRA――、深紅? 桜色? ――のTRA4Sは、赤い輪によって囲まれた桜のマークを付けています!!!」

その言葉を聞いてやっと事態が理解できた稲田は叫ぶ。

「やはり!!! そいつは”赤き血潮の輪の結社”だ!!!!
指名手配中のテロリスト”鷲見 東一郎”の配下のTRAパイロット”Cherry Blossom”だ!!!!」

「え!!!!」

その言葉を聞いた全隊員は絶句する。
まさか、RONとエコロジストテロ組織”赤き血潮の輪の結社”が共闘している?

「RONは――”赤き血潮の輪の結社”と手を組んだ?
いや、ありえない――。RONにとってはあの組織は、最大の怨敵ともいえる――。
ならば――なぜ?!」

――と、不意に稲田の通信にどこからか不審な電波が割り込んできた。

「はあい! 聞こえてるかな?
日本人の諸君!!」

それは幼い少女の声。

「――”Cherry Blossom”?」

「フフ――あたしは本国でそう呼ばれているんだね?
お父さんの娘にして、最強戦力――。
でも、本当の事は知らない――と」

「何を言っている?」

「あなたたち、私がどういう素性か知らないんでしょ?
お父さん――鷲見 東一郎に従う正体不明のTRAパイロットだって――」

その言葉の意図が読み取れず稲田は眉をしかめる。

「私は我慢したよ――、4年も我慢したんだよ、ほめて!!
私の素性をさらして、悪人たちを追い詰めたかったのに!!!」

「何を言って――?」

「日本を信用し、日本のために命を懸ける兵隊さんたち。
貴方たちにいいことをお教えてあげる――」

稲田はその言葉に嫌な予感を感じた。それに構わず”Cherry Blossom”は続ける。

「ここマニス共和国では非道な実験が行われていた――。
RONによるものじゃないよ? マニス共和国が独自に行っていたもの――」

「?!!!」

稲田はその時になってやっと、RONを襲う支援砲撃が止んでいることに気付いた。

(なんだ?! 何が起こって――)

状況がつかめない稲田をあざ笑うかのように”Cherry Blossom”の通信が機内に響く。

「マニス共和国は、遺伝子合成によって人間を生み出していたの。
それも、軍事的に利用できる兵器としての人間を――」

「!!」

「かつての日本のようにね」

余りの事に稲田は叫ぶ。

「全機!!! 通信を切れ!!!
これは敵によるかく乱だ!!!」

「ははははは!!!!! そう思いたければ思えばいいよ――。
どう判断するかは、今ニュースを見ているであろう世界が決めることだから」

「なに?!!」

「なんで支援砲撃が止んだのか理解できない?」

それから続く言葉は、稲田たちを絶望させるには充分であった。

「マニス共和国の非道行為を知った連合防衛軍の一部の国家が、防衛作戦のサボタージュを始めてるんだよ」

「な!!!」

それはあまりに最悪の事態である。これでは自分たちは戦場に孤立したという事で。

「ごめんね――、貴方たちには恨みはないけど。
悪を許さない”桜華”として、悪の手先である貴方たちには死んでもらうから」

そう死神のごとく言い放つ”Cherry Blossom”は、稲田たちにとってまさしく死神そのものだったのである。


◆◇◆


その日――、日本陸上国防軍史上最悪の事態が起こった。
連合防衛軍に所属する、第六師団の特務施設大隊第三中隊が全滅――、隊員が全員殉職したのである。
その手を下したテロリスト”Cherry Blossom”もまた、元国防軍の実験体”桜華”であったことは日本政府にとって最悪の事態であり、それから起こるであろう最悪の事態を容易に予想できたのである。

西暦2092年4月20日――。
マニス共和国はその裏で行っていた非道な実験行為を正式に認め、それをきっかけにして防衛任務にあたっていた連合防衛軍の士気は最悪の状態へと陥る。
ドルニスは再びRONの手に落ち、RONは悪しきマニス共和国政府の打倒を宣言。戦況は一気にRON側に傾いていく事になる。
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