転生幼女、レベル782 ケットシーさんと行く、やりたい放題のんびり生活日誌

白石新

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1巻

1-1

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 1 出オチから始まるスローライフ



 見た目――国民的アニメの、某ネコ型ロボットっぽかった。


「どうしたのじゃ?」
「いや……見た目……」

 と、まあ現況説明だね。
 トラック事故に遭い、どうやら私は今、異世界転生という形になっているらしい。
 そしてここは転生の間。


 ――なぞの白色の空間だ。


 普通ならここで出てくるのは女神なんだけど、見た目ネコ型ロボットっぽい、謎の何かが私の前に現れたのだ。

「うむ? お主たちの世界では願いをかなえてくれる存在と言えばコレで決まりじゃろう? 我は神じゃ、そして……親切なのじゃよ。お主が一番親しみやすい、特殊チートを与える見た目で登場したという次第じゃ。つまりは神――これぞ全知全能の神の姿じゃ」
「いや、まあ、日本で一番有名なそれっぽい存在の見た目は……確かにそうなんですけどね」
「ふむ? どういうことじゃ?」
「異世界転生には女神っていうお約束が……」
「お約束? 男ではいかんのか?」
「まあ、普通この場合は女神ですよね」
「ん? しかし、この姿で不都合は特になかろう?」
「それはそうなんですけどね。でも、ちょっと……しゃべりづらいというかなんというか」

 まあ、ネコ型ロボットっぽい何かが目の前にいるのは衝撃的に過ぎる。
 ふーむ、と、そこで青色の謎の存在はしばし考えて、私に向けて小さくうなずいた。

「仕方ないの、それでは女神に姿を変えようか。えーっと……女神じゃな……よし、ならばこの姿でいこうか」

 お? さすがは神様だ。
 変身できるというか、姿を変えられるんだね。

「ふんっ!」

 神様は気合を発し、ボンっていう効果音と共に煙に包まれた。
 そうして徐々に煙が晴れていったんだよね。で、神様の新しい姿は――


 ――ネコ型ロボットの妹っぽい何かだった。


「絶対やると思ったよ!」
「え? これでもいかんのか?」
「声が甲高かんだかくなってるっ!」

 芸の細かい神様だね、と……私はとほほんとため息をついた。

「もう……本当に面倒な奴じゃのう」

 そうして、神様は再度、気合を発し、ボンっていう効果音と共に煙に包まれた。
 で、次に出てきたのは……大きな大きな黒いワンちゃんだった。いや、おおかみかな?

「フェンリル……?」
「うむ、これぞ本来の姿――我こそは漆黒しっこく神狼しんろう……フェンリルじゃ。異世界では我も神の一種でな。持ち回りで転生者をあちらの世界に導いておるわけじゃ」

 神々こうごうしいという言葉が適切なんだろうね。
 大きさもあって威圧感あるし、なんていうかこう……オーラがある。
 あ、でも舌がちょこっと出ているのと、耳が時折ピクピク動くのは可愛いかな。

「急にすごく神様感出てきましたね」
「そうじゃろうそうじゃろう。我と言えば向こうの世界ではちょっとは知られた存在じゃからな」
「ちょっとは知られた? 具体的にはどういうふうに?」
「ふっ……やみを抱えたわんわんプリンスと言えば我のことじゃ」

 闇を抱えたわんわんプリンス……だと?
 とりあえず、ノッケからこの神様は色々とアレな感じなので、その部分についてはあえて触れないでおこう。
 と、いうことで私は単刀直入に尋ねてみた。

「で、つまりは私にチート能力をくれるわけなんですよね?」

 うむ、と神様は頷いた。

「まあ、平たく言えばそうなる。お主は暴走トラックにかれる前に子供を助けておるしの」
「で、どんなチートをくれるんですか?」

 そう言うと、フェンリルはカンガルーよろしく、お腹のポケットから何かを取り出した。
 と、いうか胴体をプルプルと振ったらポケットからなんかが出てきた感じだね。

「スイッチ?」
「うむ。これぞチート中のチートじゃ」

 ゴクリ、と私は息をんでしまった。
 ひょっとすると、これを押すと経験値200倍とか、あるいは防御力MAXとかそんな感じになるの?

「このスイッチはすごいぞ? とんでもないチート能力じゃぞ?」

 ゴクリと、再度、私は息を呑んだ。
 ってことは、やっぱり始まっちゃうの?
 ひょっとして……これを押すと、異世界無双むそう活劇とかが始まっちゃうの?
 いや、でも私はどっちかというとスローライフをやりたいんだけどなー。

「何しろこのチート能力……いや、このスイッチはじゃな……」

 フェンリルは押し黙った。
 そして、大きく大きく息を吸い込んで彼はこう言った。

「核兵器のスイッチじゃ。しかも地球で使われているようなチャチなものではなく、星1つを破壊してしまうような究極の破壊兵器じゃ」
「使いどころがまったくないチート能力ですっ!」
「しかし、1回しか使えんという弱点もある」
「使ったら住んでる世界壊滅するから1回で十分でしょうにっ!」

 ああ、こりゃダメだと私はため息をついた。
 やっぱり、ノッケからの予感通り、この神様は残念系だ。

「使わんのか?」
「使えません!」

 すると、「仕方ないのう」とばかりに神様はため息をついた。

「それではここで使ってしまうが良い」
「ここで?」
「今、お主が住んでいた地球は実は危機にひんしておる」
「ふむふむ」
「環境破壊を繰り返す人間たちに対して、ついにお主たちの世界の神様が怒ったのじゃ」
「なるほど」
「で、今……デビルスターという彗星すいせいに666万6666体の天使の軍勢を乗せ、地球に向けて殲滅せんめつ戦力を派遣中なのじゃ」
「天使の軍勢……?」
「100体もいればアメリカなら1時間で陥落する戦力じゃ。あと数か月もすればデビルスターは地球に到着するじゃろう」
「そ……そんなことが……」
「うむ、そして……今、我がそのスイッチの照準をデビルスターにセットしておいた。どうじゃ? 異世界に向かう前に地球を救ってみんか?」
「そういうことなら」

 と、私はスイッチをポチッと押した。
 まあ、全然違う場所の話だし、現実感は何もない。
 とりあえず、これで地球を救うことができたのであれば、日本人・飯島友里いいじまゆりの最後の仕事としては完璧だろう。

「それでは、お主はこれよりクリスティーナとして異世界で生きるのじゃ」
「はい、わかりました」
「ちなみに皇族としてスタートするからの。境遇としては大当たりじゃ」
「ありがとうございます」


 と、まあそんなこんなで――
 私の、異世界で現代知識を使って錬金モノづくりをしたり、農業したり、お菓子を作ったりするスローライフが始まったのだった?





 2 転生初日、生存競争に圧勝しました



 ――大運動会、いな、これは水泳レース。


 まどろむ意識。
 ぐちゃぐちゃな景色。
 ただ、私は目的に向かって泳いで何かの中を突き進む。


 ――これは生存レース、負ければ……死。


 2位じゃダメなんです。1位じゃないと……ダメなんです。
 そんな言葉が頭の中を駆け巡る。
 そして、周囲には同じ目的の敵がいるはずだと、何故か私は確信していた。
 けれど私は――


 ――独走状態だった。


 敵はいても、ライバルはいない。速い、私は速い――


 ――とても速い。


 そうして、私は目的地にたどり着いたことを本能で悟った。


 ――硬い硬い障壁しょうへき。これを乗り越えれば……私は目的を達成する。


 そして、私は硬い障壁に体当たりを仕掛けて――


 ――あれ? でもこの壁……なんかめっちゃ柔らかい。硬いはずなのに……


 いや、でも私は本当に何やってるんだろう?
 いや、みんなでレースをやっていることと、そして今、私がゴールしたことだけはなんとなくわかる。


 ――本当に何をやっているんだろう?


 そんな、何回目かもかわからない問いかけ、自問自答。
 誰も答えてくれず、答えも出ない。


 ――そして。


 私は、ドロドロに溶けた意識の海に落ちていく。
 視界が暗転し、どこまでもどこまでも続く黒の空間が訪れる。
 ただただ暗い視界の中――


 ――温かい。


 ゲル状のぬるま湯の中、闇夜の大海原おおうなばらに浮かび、ただひたすらに漂うような……
 そうしてまどろみの中、眠るように私の意識は闇へと溶けた。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★


「陛下! また町娘を妊娠させてしまったのですか! 子育てをする後宮こうきゅうの予算は破綻はたん寸前ですのに!」

 皇帝執務室。
 きらびやかな調度品で彩られた部屋で、メガネをかけた20代銀髪の男が声を荒らげた。
 宰相さいしょう――皇族の中で皇帝に継ぐ皇位継承権を持つ男。
 いかな皇帝といえども、宰相の言葉は邪険じゃけんにはできない。
 と、言葉を受けたヒゲ面の30代の男――神聖アルケミー帝国第17代皇帝はこう言った。


「いや……つい、うっかりな」


「何人目だと思っているのですか!」
「えーっと……90人目くらい?」
「101人目です陛下! 女遊びをやめろとは言いません! しかし――避妊という概念は陛下にはないのですかっ!?」
「避妊か……いやはやこれは本当に――」

 皇帝は押し黙った。
 そして大きく大きく息を吸い込んで彼はこう言った。


「――うっかりだった」


「101人目ですよ!? うっかりしすぎですよねっ!? っていうか、本当にヤバいですからね後宮の財政! 庶子でも一応は皇族として教育しないといけないので、経費すっごいかかりますしっ!」

「しかしだな宰相よ。これは俺のサガなのだ」
「サガ?」
「自分でもこれは良くないと思っている。だが、いつもいつも……気がつけば俺は女を――」

 皇帝は押し黙った。
 そして、大きく大きく息を吸い込んで彼はこう言った。


「――うっかり口説くどいてしまっているのだ」

「うっかりで口説くとか意味わかりませんよっ!?」
「そして、落とせてしまうのだ」
「あー、もう! 男前だから皇帝とか関係なしで簡単に落とせそうなところがまた無性に腹が立つ!」


 と、まあそんなこんなで――
 8か月後。
 ――クリスティーナは、皇帝の101人目の庶子として異世界で生を受けたのだった。





 3 拝啓お父様。私は貴方の知らぬ間に養子に出されました。そして、いきなりピンチのようです



 ――で、なんやかんやあって10年後。
 私は皇族としてちょうよ花よと育てられた。
 そして今は、城の中庭のテラスにいる。
 今日もお父さんは私のところにやってきて、テーブルには大量のプレゼント……まあ、私のために持ってきてくれたんだよね。
 で、色々とお父さんの自慢話とか、昔話とかを聞いていたんだけど――

「俺は皇帝であり、国の父だ。そうであればまずは家族の良き父にならねば、どうして国の良き父になれようか? と、そういうわけでクリスティーナ、お前を授かったあの時、俺は誓ったのだ。それ以降は女のためではなく、子供のために生きようと……とな」

 ドヤッ! とばかりにお父さんはキメ顔でそう言った。
 で、私はため息をついて――

「いや、お父様。私が生まれる前に宰相様に本気で怒られたから、女遊びをやめただけなんですよね?」

 その言葉でお父さんは衝撃のあまりに顔面を蒼白そうはくにさせた。

「ち、ち、違うのだクリスティーナ! だ、誰だ! お父さんが人に怒られるまでやめない、女たらしのプレイボーイみたいなことをお前に吹き込んだのは! 気づいたんだぞ!? お父さんはちゃんと自分で気づいたし、100人も子供がいるのはただの若気わかげの至りなんだぞ!?」

 まあ、お父さんは毎日毎日私のところに来てお話をするくらい……というか、異常に私を可愛がっているので、女関係がダラしないことで嫌われたくないってことなんだろね。
 しかし、100人の腹違いの子供がいるという事実は消せないので、女遊びをやめさせられた理由をそれっぽくカッコ良いふうに……というのが今回の話の真意だろう。

「吹き込んだというか、事実でしょう?」

 私の言葉を受けて、お父さんの顔色が更に青くなっていく。
 いや、青色を通り越して土気色つちけいろになっちゃってるねこれは。
 そうして、お父さんは黙ってしまって、私たちはお見合い状態となる。

「……」
「……」
「……」
「……」

 それから、お父さんは何かを考え、小さく頷きこう言った。

「俺は皇帝であり、まずは家族の良き父にならねば、どうして国の良き父になれようか? と、そういうわけでクリスティーナ、お前を授かったあの時、俺は誓ったのだ。それ以降は女のためではなく、子供のために生きようと……とな」

 まさかの2回目の解説だった。
 どうにも、旗色が悪いと考えて……ゴリ押しするつもりらしい。

「いや、ですからお父様。私が生まれる前に、宰相様に本気で怒られたから女遊びをやめただけなんですよね?」
「……」
「……」
「……」
「……」
「俺は皇帝であり、国の父だ。そうであれば――」

 3回目に突入しそうになったので、私は慌ててお父さんを手で制した。

「お父様、もうよろしいです」
「しかし、誤解をされたままでは……困る」
「困る?」
「ああ、俺は……クリスティーナを愛しているからな。嫌われたくないのだ」

 まあ、お父さんのこういうところは嫌いじゃない。
 子供の時から、末っ子ってことで滅茶苦茶めちゃくちゃ可愛がられてるし、お父さんが私を大好きなのが私自身、よくわかるんだよね。

「クリスティーナは可愛いね可愛いねと子供の時から貴族の間で有名で2歳まではお父さんと一緒にお風呂に入ってくれたし5歳までは3日に1回は一緒に寝てくれたし今だってお父さんの誕生会には毎年プレゼントくれるし――」

 ものすごい勢いでしゃべり始めた。
 いかん、この状態になったお父さんは止まらない。
 っていうか、2歳までしか一緒にお風呂に入ってないって、普通に考えて拒否られてるんだけどね。
 と、そこで私はいつものように魔法の言葉を放ってみた。


「お父様。私もお父様が大好きですよ」



 その言葉でお父さんはフリーズした。
 そうして、お父さんの頬はみるみる緩んで――

「はっはっは! そうだろうそうだろう! クリスティーナはお父さんが好きだろう!」

 まあ、実際問題、女関係の「うっかり」がなければ間違いなく賢帝けんていの部類に入るだろう。民に優しい善政を敷きすぎている関係で、ちょっと国の財政は厳しいらしいけどね。
 と、いうのも、国の財布を握っている宰相さんがいつも頭を抱えてボヤいているんだよね……
 まあ、そんなこんなで私は本日の面会を終えたのだった。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★


「え!? 私が、辺境のリニール地方領主の養子にですかっ!?」

 呼び出しを受けた私は、宰相さんの執務室で大声を出してしまった。
 そうして、申し訳なさそうに宰相さんはこちらに頭を下げてきたのだ。

「今年は冷害で税収がかんばしくなく……いえ、農作物収穫の税金はほぼ皆無となります。何しろ……穀物の収穫量がほぼゼロですからね」
「農村の人たちは大丈夫なのでしょうか? 自分たちが食べる分もないのでは?」
「いえ、農村では常日頃から皇帝の勅令ちょくれいで、国庫からの非常用備蓄をしているので餓死者がししゃは出ないでしょう」

 ああ、そりゃ良かったよと私は胸をでおろした。
「しかし」と、宰相さんはメガネを指の腹で押した。

「後宮の予算が破綻します」
「え……破綻?」
「どう帳簿を眺めても、このままでは国家が立ちゆきません。そこで……聖域である後宮予算に手を入れる……と」

 後宮には正妻と第2、第3夫人の3人、そしてその子供が10人いる。
 あとは私みたいな庶民との間の子供……つまり庶子だね。それが91人いるんだ。
 で、子供は全員キッチリと教育するというお父さんの方針で、101人の皇族教育費がかかってしまっている。
 一応、私も他の子もそこらの貴族のお嬢様なんて目じゃないくらいに大事にされてるし、それが101人なので……まあ、それはそれは天文学的な経費となるだろう。
 ちなみに、私としては今の生活には満足してる。
 成人すれば、高等教育を受けた者として、皇籍離脱のうえで高級官僚なんかへの道もあるし、下級貴族なんかへの嫁入りの話なら、今の時点でも両手じゃ足りない。
 特に私はお父さんのお気に入りなので、侯爵や公爵級の縁談の話もあるくらいだ。
 ま、全部断ってるけどね。今は縁談とかそんな気分じゃないし。
 けど、いよいよそんなことも言ってられなくなったってことなんだね。
 この生活を捨てるのは正直嫌だし、なんだかんだで私もお父さん好きだし。
 それに、他の子たちも後宮改革の影響で急な縁談によって国の貴族にもらわれていくって話だし。
 私だけがってワケにはいかないよね。


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