ずっと隣にいます

第3話 弄ばれたのかな

「ねえ、慧佑くん。夏休みになったらプールに行かない？」
「あー、俺、泳ぐの嫌いなんだよね。パス」

昼休みに慧佑の教室を訪れた千景は、意を決してデートに誘う。
しかし、慧佑は気だるそうな声で千景の誘いを断った。
いつもならこれで引き下がる千景であったが、今日は違う。

「じゃあ、どこがいい？慧佑くんの行きたいところに行こう」

ここしばらくの間、慧佑と休日に会っていない千景は、何とか約束を取り付けようと慧佑の希望を尋ねたのだ。
しかし、そんな千景にしつこいと言いたそうな表情で慧佑は返事をする。

「それくらい彼女なら分かれよ。分かんないあんたと行きたいところなんてねえよ」

突然、暴言を吐かれた千景はショックで頭が真っ白になった。
次の言葉が出なくて黙り込む千景の横から、慧佑と親しげな女子生徒が話に入ってくる。

「かわいそー。もっと優しくしてやりなよー」

哀れみを含んだ声に、千景は余計に惨めな思いになって下を向く。
一方、慧佑は先程とは打って変わって、ノリが良い会話を始めた。

「いいんだよ、別に。それより俺と夏祭り、一緒に行かねえ？」
「いいね、拓海くん達も誘っていこうよ！」
「おうっ、そうしようぜ！」

置いてけぼりになった千景は涙目のまま、そっと教室を出た。
そして、次の日、体育館裏に呼び出されて振られたところを侑人に見られたのであった。


やっと気持ちを切り替えて新しい恋愛が出来ると期待していた千景にとって、慧佑からされた仕打ちは心に大きな傷を作っていた。
家が隣で小さな頃から一緒にいた侑人は、千景が陸に恋していたことを薄々感付いていたため、気まずそうな声で謝る。

「軽々しいことを言ってすみません……」

そんな侑人を見て気を遣わせたのが申し訳なくなった千景は、慌てて取り繕う。

「ううん、いいの大丈夫っ！せっかく慰めようとしてくれていたのに、私の方こそいつまでも落ち込んでいてごめんね」

幼馴染みに心配を掛けまいと明るく振る舞おうとする千景であったが、侑人からすると無理をしているように見えるだけであった。
そんな千景の様子を見て、侑人はついに自分の気持ちを正直に伝える。

「それなら僕と付き合ってください。よく失恋の痛みは新しい恋愛で上書きしろって言うでしょう？僕ならあなたを泣かせない」

侑人の真剣な表情を見てその言葉が本気であることは千景にも分かった。
いつもの千景なら告白されたことが嬉しくて、その言葉に喜んでいただろう。
しかし、今の千景はイエスと言えない事情があった。