転 神 ~ 人類の系譜・日本神話 編 ~

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第 漆 話 黒髪の少女

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 数百年昔から変わらぬままの不夜城と称えられし場所。其の名は歌舞伎町。その街の路地裏、暗がりの中に官僚風の中年と高校生くらい、瓜実顔うりざねがおで腰元まで伸びた艶やかな黒髪を持ち、均整の取れた身体つきの少女の姿があった。
 その二人はこれから援助交際でもするのだろうか?・・・、だがしかし、どう見てもそんな風な様子ではない。
「たっ、頼む・・・、金ならいくらでもやる!だから命だけは」
 何に怯えているのか中年男性は尻餅をついて、半泣き表情で片手を振り、あとずさっていた。少女は何も答えず、沈黙したまま男との距離を無感情な足取りで近づいて行く。
その男の前に立ち静かに右腕を伸ばし、掌をゆっくりと翳し大きく指間を開いた。男はその手から逃れるように更に後退していた。そして、誰か助けを呼び寄せようとしたが・・・、声を上げられず叫ぶ事が出来なかった。
 少女は尚も黙ったままで、開いた掌に人智を越えた何らかのチカラを集約させていた。更にその女の子は瞳を閉じ、其の力を無言のまま男に解き放つ。
〈ウワぁーーーーーーーーーッ、まだ、僕は死にたくなぁーーーーーーーーーーーーいッ!〉
 少女が放った其の力によって中年が消滅しようとした瞬間、声を出せなかったその男からその様な心の叫びが彼女には聞えたようだった。
「ハァッ~」と目を閉じたまま少女は重い溜息をついた。
「私は・・・、いつまでこんな事をしなければならないのだろう・・・・・・」
 その言葉のあとに目を開きスカートのポケットからDNを取り出し、その中から人物一覧を開き、今会っていた男を探しそれを見つけ記入欄に〝抹消〟と書き込んでいた。
 丁度それが済んだ時にその少女の背後から急接近してくる物の怪がいた。彼女は振り向きざま、力を使ってそれを退治しようと試みた、がしかしそれよりも早くそれを追いかけてきた者がその妖怪を払い倒す。
「おっ、オマエ、ダイジョブか?」
「・・・・・・・・・、わたしはなんとも」
「大丈夫って、そうじゃないだろう。何でキミみたいなどう見ても高校生がこんな所にいるんだ?」
「それはあなたも同じ・・・・・・・・・、でも・・・、有難う」
 彼女は現れた高校生風の男の子に淡々とお礼を言い残し走って逃げ去ってしまった。
「あっ、おいまてよ!」

*SDN=スモール・ディジタル・ノートの略で小型コンピュータ。一般普及している携帯情報端末とは別系統の高度に発展した電子情報端末手帳
 
 その彼も彼女を追って走り出したが、幻でも見ていたのだろうか?少女はどこにも見当たらなかった。少年は首をかしげ、仲間のところへと戻っていった。

 助けられた少年の前から忽然と消えた美しい少女はどこかの水辺の畔にその姿を現していた。それとほぼ時を同じくして、同年代、若しくは一歳くらい年上の男が姿を見せる。
「お帰り。そっちの方はどうだった?」
「私の方は天津あのものたちの第一級適合者を二人、それとそれ以下の者を四人ほど・・・、お兄様の方は?」
「流石だね。・・・ボクは第二級を十人程度。第一級だった人は目の前で突然覚醒されちゃってね、取り逃がしてしまったよ」
「お兄様、それは仕方がないことです。私と違って覚醒したアノ者達の持つ力と対峙するチカラを持ち合わせていませんから」
「そうなる前に消し去るのが僕達の役目なのに・・・、あの方にお叱りを受けそうだ」
「覚醒と言う言葉で思い出したのですけど、先ほど国津わたしたちと同じ力を持った少年に出会ったのですけど・・・」
「その少年は天津あいつらとは違がかったのか?」
「はっきりとそこまでは分かりませんでした。ただ・・・、その人が持つ力は私と同じ、それ以上のものを感じました」
「琢磨様にその事を報告しておこう。ここで、ただ話しているだけじゃ時間の無駄だね、僕たちも今を生きる人々のために化け物狩りに行こうか?」
 少女の兄と思われる人物が妹にその様に声を掛けると彼女は頷いて彼に同行して闇の中に消えてゆく。

 葉月の終わり頃、その兄妹二人は出雲琢磨に呼ばれていた。
「ウム、二人ともよく来てくれた。キミ達の健闘ぶりは少彦名すくなひこな、井齊より聞いている」
「琢磨様、今回はどのようなご用件なのでしょうか?」
「キミも知っているだろが・・・、数名ほど天津の力を降ろした者達がいる。どうもその者達は我々と違い局地的に集中しているようだな。天照や月読などが現れ、他の天津のチカラが完全覚醒する前にその場所に潜入して適格者を抹消してもらいたい。・・・、この国のためだ、辛い任務だと思うが今しばらく頑張ってくれたまえ」
「その私達が潜入する場所とはどのようなとこなのですか?」
「もう葉月も終わる。この月が過ぎれば君達がいなくてはおかしい場所だ・・・」
 それから大国主の神を宿した出雲琢磨はその兄妹二人に必要事項を伝えて、天津達の力が集約し始めた場所、その地に向かわせたのだった。
 夏の長い休みも終わり、長月に入ると武達の学校の二学期が始まった。
 生徒達は夏の間の出来事をお互いに喋り合い、話しに華を咲かせていた。
 武や経司たちは同級生達の顔ぶれを見て、誰一人欠けていないことに心の中で安心する。無論、大地の心境も親友二人と似たようなものだった。
 始業式が終わり教室に戻ってくる武達。そして本日の一時限目は学級会だった。
担任の教師が前の扉から入室してくると、教師の後に続く者あり。別に時期的には珍しくないのだが、二人もの転校生が彼等の学級にやって来た。
 朝の始業式の時、転校生の一人が美人の女の子だと噂をしていた彼等に学級の男子生徒たちは変に騒ぎ立て、女生徒達の方はと言うと矢張りその転校生の一人が美男子だと聞いて、その登場を今か、今かと待ち望んでいた。
 そんな騒ぎだった武達の教室に担任とその噂の二人が姿を見せると、噂以上の結果にみんなよけいに騒ぎ立てる。
「おまえらっ!静かにしろ。高々、転校生如きで騒ぎ立てるな・・・。すまんね、二人とも。うちの学級は騒ぎ馬鹿が多くて」
「それじゃ、この莫迦どもに自己紹介してやってくれ」
 担任がそう言葉にすると男の方から自己紹介を始めた。
 柔和で人当たりのよさそうな顔を持ち、どことなく御坊ちゃまのような感じの男の名は諏訪勇輔(すわ・ゆうすけ)、物静かそうで、聡明に見える黒髪の少女のなは諏訪那波(すわ・ななみ)。二人は年子の兄妹で妹の方が早生まれのため学年は同じだった。
「ハイッ、二人の自己紹介は以上だ!みんな、仲良くしてやってくれよ」
 先生の言葉に学級中の男も女も当然とだといわんばかりの声と表情をその転校生たちに向けていた。
 そんな中、一人だけ怪訝そうな表情をしていた人物が一人。それは武だった。
 何故、その様な顔を作っていたかと言うと、諏訪那波が歌舞伎町で遭遇した少女に似ていて、もしや偶然かとそんな風に思っていたからだった。
「オイッ、鹿嶋!何そんな顔してるんだ。二人に失礼だぞ。・・・、よしっ、決めた。二人をお前の隣の席にしてやるから確りと面倒見てやれ。これは教師命令だ!いいな」
「えぇえ~~~、おれがぁ?そんなの世話好き委員長に任せればいいだろうがぁ」
 彼が嫌そうに口にすると学級全生徒から多くの避難乱擾を投げつけられた。大地なんかは悪戯で物を投げる始末。
 その担任の合図で兄妹は後部座席の武の両隣の席へと移動し始めた。その時・・・、何故か那波は彼に冷たい視線を向けていた。
「こら、那波・・・、彼にそんな顔しちゃ駄目だろう。・・・、エッとキミは・・・」
「鹿嶋武。よろしく、諏訪・・・、ナンって呼んだ方が言い?」
「武君、って呼ばせてもらうからキミも僕のこと勇輔、って名前で呼んでくれて結構だよ。それと、若し呼び捨てにしたかったらそれでもいいから。・・・、ホラッ、那波!ちゃんと武君に頭下げて謝って。転校そうそう学級の友達と僕は仲悪くなりたくないんだから!」
 勇輔は妹にそう命令するけど彼女は武にどうしてか一瞥を向けると兄を無視して、席に座ってしまった。
「武君、本当にゴメンね。妹ってちょこっとだけ人見知りするんだ」
 彼は言葉と一緒にその度量を人差し指と親指、それと表情を変えて武に示して見せた。
「俺、別に気にしないから。勇輔が頭下げることないって・・・・、それより、早く席に座った方がいいぞ。うちの担任は転校生だからって時間を無駄に使わせてくれるほど甘くないぜ」
 武の言葉に速やかに勇輔は隣の席に座った。
 学級の生徒達が転校生のことで騒いでいるのにも係わらず、その喧騒のまま、連絡事項を全員に通達すると教室から出て行ってしまった。

 担任がこの場所から出てゆくと生徒たちは転校生の回りに群がり、ホームルームの時以上に喧々囂々し始める。
 武はそんな渦中に居るのが嫌で彼の席をはずれ教室を出ていた。そして、それを追う親友の経司。
「経司、ナンだ?お前も出てきたのか」
「武、転校生に興味なさそうだけど。あんな綺麗な子なのに」
「確かにアノ子、美人っぽいけど・・・、なんか近寄りがたいんだよ。兄さんの方は付き合いやすそうなんだけどな。ただ、俺は騒がしいのが嫌だから出てきただけ」
「そうだな・・・、お前は牧岡と違ってバカ騒ぎとかそれ程好きじゃないからな」
 経司は幼馴染みの顔を見ながら頷き、しみじみとそんな言葉を武に向けていた。
「時と、場合によるよ。・・・それより経司はあの子に興味なかったのか・・・、俺なんか追いかけて廊下まで出てきて」
「美人だからって興味津々に転校生に付きまとうのは失礼だろう?」
「ふぅ~~~んっ、そうなんだぁ」
「何だよ、その含みあるような言い方と表情は?」
「べつにぃ~~~、どうせ経司は美姫姉ちゃん一筋で他の女には興味ないもんなぁ~~~、って思っただけさ。クククッ」
「たっ・・・、武!てめぇーーーっ!」
「ハッハッハッハ、なに顔紅くしてんだよ、経司。フッ、いくら親友で幼馴染みのお前でも姉ちゃんだけはくれてやれないぜぇ~~~」
 武の言葉に少しだけ怒りを露わにした経司は彼に襲い掛かるが、武は身を躱し、授業が始まる時間いっぱい経司から逃げ回っていた。

*   *   *

 授業が始まると勇輔と武が小声で会話を始めていた。
「ねぇ、武クン。僕授業はちゃんと受けていたいんだ。若し良かったら教科書見せてくれると嬉しいんだけおど・・・」
「別にいいけど。妹さんの方は?」
「那波はね、勉学よりスポーツって感じであんまりそっちは好きじゃないから気にしなくていいよ」
「オレ的見た目は逆っぽかったけど・・・」
「さっきみんなのも言ってあるんだけど、その時に武くんいなかったから言っておくね。那波はそんな風に見られるのが嫌みたいだから口にしないでね」
「人に嫌われるの好きじゃないから、そのこと覚えておくさ」
「有難う。それじゃ、お喋りしていないで授業ちゃんと受けようか、武君」
「勇輔、独りで教科書使ってていいぞ。俺は眠るから・・・、それじゃお休みな」
「だっ、駄目だよ、武君。後ろの席だからってそんなずるしちゃァ~~~」
 転校生のその言葉に耳も貸さず、武は朝一の授業からいきなり居眠りを始めてしまった。そんな彼を見て勇輔は溜息をついてから映像白板の方を向いたのだった。

 放課後よりも更に遅い時間、転校生の兄妹は学校敷地内の目立たない場所で落ち合い、何かを話していた。
「この学校にこんなにも一級適合者がいるナンって・・・、生徒や教師の失踪の数が多くなれば絶対問題になる。どうすればいいんだ?」
「勇輔お兄様、問題はそればかりでは・・・、既に覚醒してチカラを持っている人たちも」
「そうだったね・・・、まさか武君がその一人だった何って・・・。せっかく良いお友達になれそうな気がする人だったのに・・・、武神が降りているナンって最悪だよ」
「私は・・・・・・・・・、あの人とは戦いたく・・・・・・・・・・・・、ありません」
「僕だって嫌さ。でも、これがボク達国津に流れる血と武クンたち天津に流れる血の宿命なんだ」
「それでも私は・・・、嫌です」
「那波、わがまま言うなよ。僕らが彼等に勝って国を作り変えないと人々にもう未来はないんだ」
「本当にそうなのですか?本当に彼等と戦わないと・・・、なんでもないです」
「わかってっくれたんだね、那波。ボクだって同年代の人たちを僕の手で消し去るのナンって辛いよ。だから、天照の適格者だけを探し・・・、その子だけを抹消する。そうすれば、完全な力を引き出すことが出来ない天津の者達がどれだけ集まって束になって掛かって来ようともボク達に負けはない。その適格者は僕一人で探すから、那波は琢磨様から言い付けされている人に仇をなす物の怪退治をしているだけでいいよ」
「分かりました。・・・、勇輔お兄様、経司さん、経津主の神を降臨させているその人と・・・、武さんには気を付けて下さい」
「那波、言葉が違うんじゃないのか?〝手を出さないでください〟と・・・あわゎわあぁわゎ、そんな怖いかをするなって冗談なのに・・・・・・、那波に言われなくたって分かっているよ」
 諏訪、兄はからかうような表情と含みのある言葉で妹にそういうと、殺気を全身に纏わせ拳に蒼白い神気を込め、睨み付けていた。
「それよりも、那波、ここら辺一帯では物の怪退治に大きな力を使うな。僕らの存在を天津の者達には知られたくないからね」
「そんなこと言われなくたって・・・、人々に魑魅魍魎の被害が出ない裡にそれらの退治に向かいます。勇輔お兄様、私行きますね」
「気をつけてね。夕食はボクが用意しておくから・・・」
 那波は優しい笑みを兄に向けてから、手を振って学校から瞬時に消え去った。

 彼女は魑魅魍魎達が放つ瘴気を辿ってそれらの物の怪の居場所を探す。那波が戦うのは魑魅魍魎だけだった。
 国津は天津と違って人、人間だけでなく日本に元から住んでいるモノ達との共存も考えていた。それ故に妖怪と呼ばれるモノ達を退治しようとは考えていない。
 其れが仮令、人の生命を脅かす者達であってもだ。なぜなら、人が動物を捕食のために殺すようにその者達にとって人の血肉が生きる糧となるなら其れは自然の摂理だと考えているからだった。
 しかし、国津から見ても、その摂理から反するような行動を取る妖怪には其の力を奪い、人々から隔離はしようとも考えてはいた。
 だが、人に仇をなす兇悪な妖怪たちが出没してしまったのは他ならぬ天津の所為だとは人々が思う事はけしてないのであろう。


 那波は瘴気の紐を手繰り寄せ、物の怪がいる場所に降り立つ。凛とした姿勢で魑魅魍魎に望もうとする可憐な少女。彼女は聞こえの良いすんだ声で人語を理解しない相手に言葉を下す。
「自然の摂理に反する愚かな者達、主、大国主の神に代わりましてこの私、諏訪那波が神罰を下します。お覚悟ください!」
 双眸を閉じ、左手拳を顔の前まで上げ、右腕を斜め下に伸ばし拳を作る。その状態で彼女は何かをぶつぶつと唱え始めた。
 その呟きが終わると那波の右拳から彼女の身長よりも長い霊剣が出現した。
「われは大国主の子、建御名方。木花咲耶姫このはなさくやひめ、私に其の力の加護を・・・、纏え、火郡ほむら!」
 その言葉の終わりに霊剣を頭上に掲げると刀身に紅蓮の炎が発生した。
 幻想的な炎の揺らめきが剣の行き先を追いかけ、闇に塗られた空間、それが通る軌跡を暫く明るくさせた。諏訪那波の熟達した剣捌き、少ない動作と的確に敵を捉える彼女の其の行動は、香取経司の体捌きに何処となく近かった。
 彼女が剣を振るたびに嫋やかに揺れる艶やかで鈍い光を放つ紫黒色の腰元くらいまで伸びていて丁寧に切り揃えている髪。其の髪の美しさは戦うための冷静な判断をとその様な感情を表情に表している那波の顔をより一層、華麗に引き立てていた。
 しかし、他者から見たその様な那波の可憐さは彼女からしたら、どうでも良いことだった。ただ、彼女は炎を纏った剣を巧みに操り、休まず、体力の続く限り振り、薙り、下ろし、巻くし上げる。何十という数の迫り来る魍魎を斬り捨て続け浄化させてゆく事だけ。
 どれだけの時間と物の怪達が消え去って逝ったのだろう。時間は無限に進み、物の怪は数は未知数。だが、彼女は怯まない。
「ハァ、ハァ、ハァ、切がありませんわ・・・、纏めて掛かってきなさい!」
 那波がそう口にすると魑魅たちはその言葉の意味を理解したのか一斉四方八方から彼女に襲い掛かってきた。其れの機会を待っていたように彼女は素早く何かを唱え始めた。
「摂理の環に帰りなさい、滅炎紫方陣めつえんしほうじんっ!」
 霊剣を地面に突き立てると那波の周りに円方陣が描かれ、彼女の中心から広がるように青紫の炎が全体に広がってゆく。それに触れた物の怪たちはたちまちにして浄化され消滅して逝った。
「流石に殲滅とはいきませんようですね。・・・・・・」
 今の技で浄化できなかったモノ達を、普通に霊剣を振るい斬って祓っていった。
「はぁ~~~、どうて、私達の住んでいるこの国はこんなにも処理しきれない大きなゴミがあるのでしょうか・・・」
 その場に座り込んだ那波は瘴気が浄化されたものを見ながらそんな事を呟いていた。
 しばらくその場で地面に座り込んで休んでいた彼女は何かの気配に気付く。
「この感覚・・・、この力のナミは天津の者達」
 言葉とともに急に立ち上がり、那波はその場から身を晦ます。
 彼女がその場所から姿を消したとほぼ同時に上空から五人の天津神の力を受け継いだ者達が降り立ってきた。
「おい、武?本当にここに良かったのか?全然、キミが言う化け物ナンっていないよ」
「俺にそんな事を言うなよ、熱海。オマエンとこに降りている神様も何か感じていたんだろう?」
「だめ、駄目っ。ボクに降りているのそういう事に疎い見たいだから」
「いないもんはしゃぁ~~~ないぜ、帰ろ、かえろ」
「初参戦できると思ったのに俺の出番はなしか?つまんねぇなぁ」
「熱海も、石森もそんなこと言うな、牧岡の言うとおり、ここにいても仕方がない。次の場所を探してそちらに向かおう」
「でも・・・、どうして」
〈武、周りを見てみろ。戦いの爪跡が残っている。誰ぞがここで闘ったのであろう〉
「其れは俺たちの仲間なのだろうか?」
〈経司殿、今はその様な事を悩んでいる暇はないのですよ。さあ次に向かいましょう〉
「香取、おまえんとこの神さんがそういってんだ。だからさっさと移動しようぜ!」
〈最近になって大地様は張り切っておられますね?どのようなご心境の変化なのでしょうか〉
「きまってんだろっ!香取や武たちと一緒に闘えるからさ!」
「アァアァーーーッ、俺も早く戦ってみてぇ~~~」
「そうですね、ぼくにも人助け、が出来るのなら・・・」
 力の神、天手力男あめのたぢからおの意志の後継者、石森徹哉(いしもり・てつや)、水神、暗霎くらおかみの神の力を受け継いだ、熱海護(あたみ・まもる)。その二人の愚痴に武は小さく笑っていた。

 武たち、天津の力を受け継ぎし者達の到着前に姿をカノ場所から移動させていた那波は次なる物の怪を捉えるために空間跳躍を行っていた。
 自然摂理の環から外れたそのモノ達を補足すると、先ほどの様に霊剣と神技を使ってソレラヲ斬祓ざんばつしていった。
 彼女のその仕事はその日の日付が変わるか、変わらないかの頃に終わりを告げる。そして、その場所から兄の待つ住処へと帰省して行った。
 
「那波、お帰り・・・、すごく汗をかいたようだね?お風呂にお湯いれてあるから入ってください」
「勇輔お兄様、有難う御座います。・・・・・・?ナンですかその目は?」
「一緒に入って背中を流してやろうかなぁ~~~って思ってね」
 兄が年頃の妹にそう言うと彼女は殺気立って、射抜くような視線を彼に見せる。そして、那波の右手には・・・、霊剣が姿を見せていた。
「私達の悲願を成就する前に菊理姫様に御会いしたいのですか、オニイサマ?」
 那波は冷静な表情と澄んだ声で勇輔にそう言葉にした。その彼女の態度に普通以上の戦慄を感じた彼は引き攣った笑いを作っていた。
「ジョッ、冗談じゃないか、那波。僕のちょっとした遊び言葉だよ。そんな物騒なものお兄さんに向けないで」
「お兄様?私をからかって面白いのですか?」
「別にからかって面白がっている積りはないよ。・・・・・・、昔は一緒に入っていたのに・・・」
 最後の言葉を耳にした妹は持っていた剣を兄の顔、額寸前に横薙ぎする。紙一重、それとも神一重だった切っ先の間で、勇輔の前髪が僅かばかり、ゆらゆらと床に落ちてゆく。
「な、ななななあなぁあぁな、那波、ボクを殺すきか?」
「本当にその積りでしたらお兄様は今そんな言葉を出せないのではないのですか?」
 蒼ざめた顔で彼がそう口にすると、据わった目と静かな声で彼女は答えを返していた。そして、そんな表情のままの兄をその場に置いて、浴室に足を移動させる那波だった。
「どうして・・・、私はこんな力を受け継いでしまったんだろう。普通の女の子として、普通に生活して、普通に・・とかしたかったのに・・・」
 那波は湯に浸かりながらそんな事を独り呟いていた。
その言葉の後、彼女は両腕で両足を抱え、顔の半分まで湯に沈ませ、
寂しそうな顔を作っていた。賃貸マンションの割に浴槽。彼女がその様な姿をした為に頭の頂点で結っていた洗った髪が解けてしまい広い水面一杯に彼女のそれが無秩序に広がってしまった。それはまるで彼女の心の混沌さを象徴するかのように・・・。
 入浴が終わると綺麗に体に付着した水分を綿布で拭き取って、大きな姿鏡を見ながら長い黒髪を丁寧にドライヤーで乾かしていた。矢張り那波も年頃の女の子。髪の質や潤いには気を使っているようで、乾燥後の頭髪に艶やかさを留める為の保湿液を万遍なく塗り、最後に項辺りで総髪結いをして纏めていた。
 更に其れが終わると下着を身に着け、Tシャツだけを着て、綿布を首に掛けたままの格好で食卓まで足を運んでいたのだ。
 その部屋に向かうと、そこには勇輔がいた。
「年頃の女の子がそんな格好して家の中をウロツクなぁ~~~・・・」
「お兄様、変な想像とか・・・、変なことしようナンって考えない方が長生きできますよ」
 そんな格好で、そんな言葉をだす妹を見て、呆れたような溜息を兄は吐いていた。
「ハイ、ハイ、そうですね。・・・、かなり遅くなったけど夕食にしよう。ボクもまだ食べていないから」
「食べないで私を待っていてくれたの?」
「僕が帰ってきてそれを作り終わってから丁度ね、那波が帰ってきたってコト」
 兄妹二人は椅子に座り、食事をしながらお互いの今日の成果の報告をしあっていた。
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