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第 三 章 過ぎる時の中で
第十四話 交わされる約束
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2004年8月11日、水曜日
今日は春香との儀式のあと難しい注文をさせられているところだったんだ。
「ねぇ、宏之君、オネガイがあるノォ」
「いまさっき、一つ願い聞いてやったばかりだろ」
「だぁって、だって、・・・・」
「ダァメ、駄目、願いは一日一回って、春香、これ世の常識だぜ」
「やぁ、ヤぁ~ッ、聞いてよ、私のお願い、聞いてよぉ~~~~」
「春香、子供じゃないんだから我侭言うなよ」
「子供でいいから聞いてよぉ」
「ハァ~、俺じゃなくて、翠ちゃんやオマエの両親に頼めよ」
「宏之君、じゃなきゃ駄目なのぉ」
そんな言葉を口にしているが春香にあんな瞳と甘えるような口調を向けられると、どうしてもその要求を拒めなかった、
それはまるで妹に甘えられているような感じだったから。いもうと?
ほんの僅かな時間、脳裏にそんな言葉が浮かんだ。しかし、何の事だか分からずに又、春香の事を考えがじめるんだ。
春香の願いを聞いてしまうのはまだ俺の心の中に彼女への想いがあるからだろうか?
それともこれは彼女に対する謝罪のためか?分からない、今の俺には判断できないぜ。
「わぁ~~~ったよ、聞くだけ、聞いてやるからいってみな」
「フフッ、ヤッパリ宏之君は優しいのねぇ」
結局、彼女のそれを受け入れてしまう。
それは俺の意志の弱さ、優柔不断、そんな性格がそうさせてしまうんだ。
春香がいうもう一つの願いとは彼女、俺、香澄、藤宮、慎治そして貴斗を含めた彼女のもっとも親しい仲間全員で会って話したいっていう願いだったんだ。
三年前だったらそんなことは簡単に叶えてやれる願いだった。でも今は違うんだ。
もう、今あの時と違うんだよ、春香・・・。
俺と香澄の関係で一つのヒビが出来てしまっていた。
貴斗と香澄、この二人の仲に溝が出来てしまっていたんだ。
その理由は曖昧だったけど慎治から聞かされていた。
俺の所為だった。でも、貴斗は俺とは普通に接してくれていた。
それとこの前、アイツとあった時のあの表情、あれは春香と会う事を拒絶しそうなそんな感じだった。
「駄目なの?」
判断に困っていると春香は悲しそうな瞳で俺に訴えてくる。そんな瞳に俺の心は耐えられなくなり、勝手に口が動いて答えを出してしまっていたんだ。
「・・・・・・、わかった」
「ほんとぉーーー?」
そう答えてやると春香の表情はいっぺんし、とても嬉しそうな物へと変わっていた。
そんなのを見せられてしまった俺は心を惹かれる様に嬉しくなっていた。
「判った、みんなに連絡するよ」
「宏之君、アリガトウ」
「日にちはいつになるか分からないけど、決まったら言うよ。それでいいだろ春香?」
「うん」
春香に確認すると彼女は可愛らしくそう言って頭を縦に振って頷いてきたんだ。・・・・・・、何かに心が揺れ動いてしまっていた。だけど、それを振り払って俺はバイトに行くため帰らせてもらう事にした。
「それじゃ、もう帰るぜ、春香」
「宏之君、楽しみにしているから」
彼女のその返事に答えを返さないで病室を出て行った。
* * *
バイトも終わり今、自宅にいた。そしてこの場には香澄も来ていたんだ。
「今日も春香の所、行ってたんでしょ?」
「ああ、行っていた。それと春香に難しいお願いをされた」
「どんなことよ」
「みんな一緒にあいたいってね」
「イッ、みんな一緒に?・・・、断れなかったの?」
「じゃぁ~、香澄だったら断れたのか?」
「そっ、それはぁ~~~」
それを無理なのを判っているのか、彼女は黙ってしまった。
「受けちまったもんはしょうがないだろ、とりあえず日取りだけは決めよう」
「そうね」
そういって香澄といつにするか遅い夕食を食いながら思案していた。
彼女の提案で日取りは来週の月曜日8月16日にきまった。
どうしてかは、その日が春香にとって2001年9月15日、敬老の日。
春香にとって祭日だったからその日ならみんなが集まっても変に思わないだろうと香澄は口にしていた。
俺が決めるよりそれもいいんじゃないかと思ってそうする事にした。そして、その予定を俺は慎治に連絡し、藤宮には香澄が連絡してくれる事になった。
貴斗に俺が連絡をすれば間違いなくお断りされそうだった。だから藤宮の口からそれを伝えてくれ、って香澄に頼んでおいた。念のため、慎治にもお願いしていた。
それが決まると今日、香澄は俺のこの場所にとどまらないで彼女の家に帰って行った。
香澄、帰りがけ表情が寂しそうだった。
そんな彼女を引き止めてやる事も出来ないで帰してしまっていた・・・。
情けないオトコだな。
2004年8月13日、金曜日
春香が目覚めてまだ一週間近くしかたっていなかった。
それでも最近の俺の行動は変だと俺自身気付いていたんだ。だけど、その行動も止められないでいる。そんな所為で香澄が不安を抱いているのを判っていた。
でも駄目なんだ・・・、春香のあの瞳を覗いちまうとどうしようもなく切ない気持ちになっちまうんだ。そして、今日は俺の気持ちは更に膨らんで本当の気持ちに気付いちまう。
「アッ、宏之君!」
「ヨッ!今日も来てやったぞ。春香、元気してた?」
「うん、大丈夫!元気してたよ」
俺と春香は昔と変わらない表情で言葉を交わしている。
だけど、彼女は無理をしているのを俺は感じていた。
春香は他の奴を心配させないようにいつも気配りをする。
そんな理由で自分を押し殺すことが多く普通に付き合っている奴程度には甘えを見せたりしないんだ・・・、・・・、・・・、それは香澄も同じなんだけど。
その彼女の性格は長所でもあり短所でもあることを俺は知っていた。
言葉で『無理はするなよ』って伝えたって聞いちゃくれやしない。
だから、そんな春香を俺は守ってやりたいと思ってたんだ・・・、
それ以上に何かあった気がするんだけど・・・、今はそれを思い出せないでもいた。
「ねぇ、宏之君・・・、覚えているかなぁ?」
春香は会話の最中に何の脈絡もなくそんな言葉を俺に掛けてきた。だけど、直ぐ出せる答えを見つけられなかったから聞き返してしまう。
「何を?」
「私が宏之君に告白した時、アナタと一緒に・・・、オマジナイ」
春香が言った言葉を思い出すために少しの間が空いてしまっていた。
俺が思い出せないまま彼女は更に要求してくる。甘えるような口調で・・・。
「ねぇ・・・・、おまじないしよ。ねぇ・・・・しよ?宏之君・・・、手を出して」
彼女はお呪っていってきた。
その言葉に対して直ぐに反応してやれなかった。
それをしちまうと俺が今の俺でいられなくなっちまうような気がして。でも、春香のこの純朴な表情されちまうとそれを遣らない訳にはいかなかった。
彼女のその期待を裏切りたくなかったんだ。
躊躇している俺を誘うように春香は両方の掌を俺に差し出していた。どうしてだろうか?まるで俺と春香の手は磁石のN極とS極のように吸い寄せあいお互いに指を絡めていた。そうすると春香は表現に困るくらい可愛らしい笑みを俺に向けていた。
彼女のそんな表情を見ちまったせいか、
「・・・、春香、嬉しそうだな」と口に出して言ってしまった。
「アハッ」
俺の言葉に春香の顔は更にあどけなくなっていた。
「じゃ、おまじない」
「・・・・・・・・・」
〈思い出せ、思い出すんだ〉
「・・・、目を静かに瞑り・・・・・・・・・、これでよかったか?」
口から発した言葉に自信がなかった。だから俺はそう春香にたずねていたんだ。
「・・・・・・」
俺の出した言葉が間違っていたのか春香は目を瞑り黙ってしまった。
だけど、直ぐに閉じたままの顔を綻ばせ口を動かし始めたんだ。そして、俺も瞼を下ろし追従していた。
「目を静かに瞑り・・・」
「・・・、描いてごらん心の中に」
「描いてごらん心の中に・・・、」
「夜空に・・・・・・、瞬く星々を」
「夜空に瞬く・・・、星々を」
「どんなにトキを越えたとしても」
「幾星霜の時間を隔てても」
「その煌きは変りわしない」
「その煌きは変わらない」
「まるで永遠であるが如く」
「それは永遠であるように」
「キミのこころと解け合い煌めくオレの心」
「アナタの心と解け合い煌めく私のココロ」
「それはまるで夜空に煌めく星々のよう」
「それは君(私)と貴方(俺)の永遠の約束かのように」
全てを言い終えた俺は瞼を閉じた状態で泪を両頬につたわせていたようだった。
心の奥に中途半端に鍵を掛けていた春香の思い出と彼女への想いの扉の錠が開き、雪崩れ込むように俺の心を支配していった。
春香を想うこの気持ちは色褪せてはいなかったんだ。だけど、今俺には春香とは別の存在が俺の心の中にあるのも事実だった。
それは隼瀬香澄。
長い間、俺も春香も目を閉じたまま沈黙していた。
それを邪魔するように翠が姿を現し、厳しい視線をおれに向ける。
「コンチィ、おねぇちゃぁ~~~ん。今日もお見舞いに来たのよぉ・・・?!柏木さん何やってんですか!お姉ちゃんは怪我人なんだよ!」
「あっ、あぁ・・・・」
翠のその言葉で春香に絡めていた指を無理やりはずした。
その時の春香の表情、不満そうだった。
「人の目が届かない所だと・・・、本当に男の人っていやらしいですねぇ」
彼女のその言葉遣いは非情に厳しいものだった。まるで春香から穢れを祓うような言い方だった。
「それは貴斗も含めてか?」
「ムッ###」
俺の言葉に翠は眉間に皺を寄せ青筋を立てていた。
相当彼女を怒らせてしまったようだ。
翠は貴斗の事を想っているのを知っていた。
知らないのはヤツ本人だけだろう。
彼女にとってそれはけして叶わぬ想い。
それを知っていたのに俺の口から出た言葉はそれだった。
春香の妹が怒っても仕方がない。そんな彼女が更に言葉を募る。
「柏木さん・・・、お姉ちゃんに何をしてたんですか?」
俺がそれを答えれば火に油を注ぐのもいい所だった。だから沈黙した。
答えてやれるはずがないんだ。しかし、春香は何の躊躇も無く言葉を出していた。
「・・・・、おまじないしてたの」
「えっ!!一体何をお姉ちゃんに誑し込もうとしてたんですかアナタは?」
〈たっ、誑し込む?そこまで言うか翠、おまえは?〉と心でそう思いつつも平静な顔で彼女には答えを返してやる。
「ベッ、別にたいした事じゃない」
「永遠の約束のオマジナイ」
「ヴぇ!?」
姉の言葉を聞いた翠のその驚きは予想以上のものだった。
「宏之君、アリガトウ、私とても安心したの」
「・・・・ぁあ、そうだな」
春香は至高の微笑で俺に感謝を口にしてくれた。
そんな彼女を見捨てる何って俺には出来そうもない。
そんな事を考えていると翠の奴、今にも泣きそうな表情で口を動かしてくる。
「・・・・・・、売店に行って必要な物を買って来ます」
それを言葉に出すと翠は病室から出て行ってしまった。
それと入れ替わるように調川先生がここへ現れたんだ。
「凉崎さんの妹さん、彼女、どうかなさったのですか?」
「どうと言われても・・・・」
何て言っていいか分からず言葉を詰まらせるようにそう答えていた。
「私は凉崎さんの診察を始めますのでアナタにはご退場、願いたいのですが」
「ハイ、判りました春香を御願い致します」
先生は今から春香の診察をするようだった。
ここにいてもしかたがない。先生の言葉に従おう。
そう思って俺はその場を後にした。
病院を出た時、売店に行くって言っていた翠と顔をあわせていた。
「・・・、さっきはあんな酷い事を言ってごめんなさい」
「別にもういいさ、俺だって悪かった。翠から見たら俺って最低な奴だもんな」
「それは・・・、」
「いいんだよ別に、言いたい事言ってもらった方がスッキリする時もあるんだぜ」
「私は貴方が許せなかった。二度もお姉ちゃんを見捨てたくせにまたノコノコとここに現れるなんて許せなかった」
「ヤッパそうだろうな」
「でも、それでも私が柏木さんを嫌っていても春香お姉ちゃんは貴方の事を必要としていた・・・。まだお姉ちゃんの事を思ってくれているのなら私はもう何も言いません」
翠の問いに返す言葉を見つけられず口を閉じていた。
「今は何も答えなくていいです。だけど、必ずその答えを見つけてください」
「・・・、分かった」
「有難う御座います。・・・・・・、一つ質問していいですか?」
「なにをだ?」
「柏木さんは私が貴斗・・・、さんの事をどう想っているかご存知のようですね」
「それで?」
それを知らないのは貴斗本人とその彼女の藤宮くらいだろ?
香澄もそれと殆ど翠に顔を合わせる事のない慎治も知っている事だった。
若しかして藤宮の場合は知っていて知らない振りをしているだけかもな。
「若し、若し、何かのきっかけで私と貴斗さんが関係を持つようになったら、柏木さんはどう思うのですか?」
「そんなの俺には関係ない。貴斗がそれを認めれば藤宮だって回りの奴らだって何を言っても無駄だろう?ようは当人同士の問題ってヤツ」
現在の藤宮をよく分かっていない俺はそんな事を口走っているがもしそんな事態が起ころうモノであれば彼女が変容してしまう事を知らないだけなんだろうな。
それに慎治はやたらと藤宮と貴斗の事を気に掛けていたようだし・・・。
「それは柏木さんとあの人にも言える事なんですか?」
「そんなの翠、自分で考えろよ。お前だってもう高校生だろ?そんなの分からない歳でもないだろ?」
「有難う御座います。それじゃ私、おねえちゃんの所に戻ります」
翠はそう言うと病院の中へと戻って行った。
彼女には偉そうな事を言ったが俺自身分からない事の方が多い。しかし、今日になってついに心の奥にシマっていた春香への想いに気付いちまった。
春香を見捨てる事なんて出来やしないんだよ。でも、俺の心を救ってくれた香澄を今更簡単に別れる事も出来ないんだ。どうすれば俺はいいんだ?だけど、これからこんな葛藤に悩ませられる日々を俺は送ってしまう。
優柔不断?
心の弱さ?
それとも自分の甘さの所為で二人の女の子を傷つけてしまう行動をとってしまうかもしれないんだ。
どんな奴から見ても俺は最低に見えるかもしれないだろうな。でも、仕方がないんだ。
こんな状況ですぐ解決できる方法が有ったら俺だって苦労したりしないんだ。だから、今しばらく俺のとる行動を許して欲しい。・・・、誰に聞かれる事も知られる事もない。
そんな思いを胸に秘めて、今日も同じように一日を終わりにした。
今日は春香との儀式のあと難しい注文をさせられているところだったんだ。
「ねぇ、宏之君、オネガイがあるノォ」
「いまさっき、一つ願い聞いてやったばかりだろ」
「だぁって、だって、・・・・」
「ダァメ、駄目、願いは一日一回って、春香、これ世の常識だぜ」
「やぁ、ヤぁ~ッ、聞いてよ、私のお願い、聞いてよぉ~~~~」
「春香、子供じゃないんだから我侭言うなよ」
「子供でいいから聞いてよぉ」
「ハァ~、俺じゃなくて、翠ちゃんやオマエの両親に頼めよ」
「宏之君、じゃなきゃ駄目なのぉ」
そんな言葉を口にしているが春香にあんな瞳と甘えるような口調を向けられると、どうしてもその要求を拒めなかった、
それはまるで妹に甘えられているような感じだったから。いもうと?
ほんの僅かな時間、脳裏にそんな言葉が浮かんだ。しかし、何の事だか分からずに又、春香の事を考えがじめるんだ。
春香の願いを聞いてしまうのはまだ俺の心の中に彼女への想いがあるからだろうか?
それともこれは彼女に対する謝罪のためか?分からない、今の俺には判断できないぜ。
「わぁ~~~ったよ、聞くだけ、聞いてやるからいってみな」
「フフッ、ヤッパリ宏之君は優しいのねぇ」
結局、彼女のそれを受け入れてしまう。
それは俺の意志の弱さ、優柔不断、そんな性格がそうさせてしまうんだ。
春香がいうもう一つの願いとは彼女、俺、香澄、藤宮、慎治そして貴斗を含めた彼女のもっとも親しい仲間全員で会って話したいっていう願いだったんだ。
三年前だったらそんなことは簡単に叶えてやれる願いだった。でも今は違うんだ。
もう、今あの時と違うんだよ、春香・・・。
俺と香澄の関係で一つのヒビが出来てしまっていた。
貴斗と香澄、この二人の仲に溝が出来てしまっていたんだ。
その理由は曖昧だったけど慎治から聞かされていた。
俺の所為だった。でも、貴斗は俺とは普通に接してくれていた。
それとこの前、アイツとあった時のあの表情、あれは春香と会う事を拒絶しそうなそんな感じだった。
「駄目なの?」
判断に困っていると春香は悲しそうな瞳で俺に訴えてくる。そんな瞳に俺の心は耐えられなくなり、勝手に口が動いて答えを出してしまっていたんだ。
「・・・・・・、わかった」
「ほんとぉーーー?」
そう答えてやると春香の表情はいっぺんし、とても嬉しそうな物へと変わっていた。
そんなのを見せられてしまった俺は心を惹かれる様に嬉しくなっていた。
「判った、みんなに連絡するよ」
「宏之君、アリガトウ」
「日にちはいつになるか分からないけど、決まったら言うよ。それでいいだろ春香?」
「うん」
春香に確認すると彼女は可愛らしくそう言って頭を縦に振って頷いてきたんだ。・・・・・・、何かに心が揺れ動いてしまっていた。だけど、それを振り払って俺はバイトに行くため帰らせてもらう事にした。
「それじゃ、もう帰るぜ、春香」
「宏之君、楽しみにしているから」
彼女のその返事に答えを返さないで病室を出て行った。
* * *
バイトも終わり今、自宅にいた。そしてこの場には香澄も来ていたんだ。
「今日も春香の所、行ってたんでしょ?」
「ああ、行っていた。それと春香に難しいお願いをされた」
「どんなことよ」
「みんな一緒にあいたいってね」
「イッ、みんな一緒に?・・・、断れなかったの?」
「じゃぁ~、香澄だったら断れたのか?」
「そっ、それはぁ~~~」
それを無理なのを判っているのか、彼女は黙ってしまった。
「受けちまったもんはしょうがないだろ、とりあえず日取りだけは決めよう」
「そうね」
そういって香澄といつにするか遅い夕食を食いながら思案していた。
彼女の提案で日取りは来週の月曜日8月16日にきまった。
どうしてかは、その日が春香にとって2001年9月15日、敬老の日。
春香にとって祭日だったからその日ならみんなが集まっても変に思わないだろうと香澄は口にしていた。
俺が決めるよりそれもいいんじゃないかと思ってそうする事にした。そして、その予定を俺は慎治に連絡し、藤宮には香澄が連絡してくれる事になった。
貴斗に俺が連絡をすれば間違いなくお断りされそうだった。だから藤宮の口からそれを伝えてくれ、って香澄に頼んでおいた。念のため、慎治にもお願いしていた。
それが決まると今日、香澄は俺のこの場所にとどまらないで彼女の家に帰って行った。
香澄、帰りがけ表情が寂しそうだった。
そんな彼女を引き止めてやる事も出来ないで帰してしまっていた・・・。
情けないオトコだな。
2004年8月13日、金曜日
春香が目覚めてまだ一週間近くしかたっていなかった。
それでも最近の俺の行動は変だと俺自身気付いていたんだ。だけど、その行動も止められないでいる。そんな所為で香澄が不安を抱いているのを判っていた。
でも駄目なんだ・・・、春香のあの瞳を覗いちまうとどうしようもなく切ない気持ちになっちまうんだ。そして、今日は俺の気持ちは更に膨らんで本当の気持ちに気付いちまう。
「アッ、宏之君!」
「ヨッ!今日も来てやったぞ。春香、元気してた?」
「うん、大丈夫!元気してたよ」
俺と春香は昔と変わらない表情で言葉を交わしている。
だけど、彼女は無理をしているのを俺は感じていた。
春香は他の奴を心配させないようにいつも気配りをする。
そんな理由で自分を押し殺すことが多く普通に付き合っている奴程度には甘えを見せたりしないんだ・・・、・・・、・・・、それは香澄も同じなんだけど。
その彼女の性格は長所でもあり短所でもあることを俺は知っていた。
言葉で『無理はするなよ』って伝えたって聞いちゃくれやしない。
だから、そんな春香を俺は守ってやりたいと思ってたんだ・・・、
それ以上に何かあった気がするんだけど・・・、今はそれを思い出せないでもいた。
「ねぇ、宏之君・・・、覚えているかなぁ?」
春香は会話の最中に何の脈絡もなくそんな言葉を俺に掛けてきた。だけど、直ぐ出せる答えを見つけられなかったから聞き返してしまう。
「何を?」
「私が宏之君に告白した時、アナタと一緒に・・・、オマジナイ」
春香が言った言葉を思い出すために少しの間が空いてしまっていた。
俺が思い出せないまま彼女は更に要求してくる。甘えるような口調で・・・。
「ねぇ・・・・、おまじないしよ。ねぇ・・・・しよ?宏之君・・・、手を出して」
彼女はお呪っていってきた。
その言葉に対して直ぐに反応してやれなかった。
それをしちまうと俺が今の俺でいられなくなっちまうような気がして。でも、春香のこの純朴な表情されちまうとそれを遣らない訳にはいかなかった。
彼女のその期待を裏切りたくなかったんだ。
躊躇している俺を誘うように春香は両方の掌を俺に差し出していた。どうしてだろうか?まるで俺と春香の手は磁石のN極とS極のように吸い寄せあいお互いに指を絡めていた。そうすると春香は表現に困るくらい可愛らしい笑みを俺に向けていた。
彼女のそんな表情を見ちまったせいか、
「・・・、春香、嬉しそうだな」と口に出して言ってしまった。
「アハッ」
俺の言葉に春香の顔は更にあどけなくなっていた。
「じゃ、おまじない」
「・・・・・・・・・」
〈思い出せ、思い出すんだ〉
「・・・、目を静かに瞑り・・・・・・・・・、これでよかったか?」
口から発した言葉に自信がなかった。だから俺はそう春香にたずねていたんだ。
「・・・・・・」
俺の出した言葉が間違っていたのか春香は目を瞑り黙ってしまった。
だけど、直ぐに閉じたままの顔を綻ばせ口を動かし始めたんだ。そして、俺も瞼を下ろし追従していた。
「目を静かに瞑り・・・」
「・・・、描いてごらん心の中に」
「描いてごらん心の中に・・・、」
「夜空に・・・・・・、瞬く星々を」
「夜空に瞬く・・・、星々を」
「どんなにトキを越えたとしても」
「幾星霜の時間を隔てても」
「その煌きは変りわしない」
「その煌きは変わらない」
「まるで永遠であるが如く」
「それは永遠であるように」
「キミのこころと解け合い煌めくオレの心」
「アナタの心と解け合い煌めく私のココロ」
「それはまるで夜空に煌めく星々のよう」
「それは君(私)と貴方(俺)の永遠の約束かのように」
全てを言い終えた俺は瞼を閉じた状態で泪を両頬につたわせていたようだった。
心の奥に中途半端に鍵を掛けていた春香の思い出と彼女への想いの扉の錠が開き、雪崩れ込むように俺の心を支配していった。
春香を想うこの気持ちは色褪せてはいなかったんだ。だけど、今俺には春香とは別の存在が俺の心の中にあるのも事実だった。
それは隼瀬香澄。
長い間、俺も春香も目を閉じたまま沈黙していた。
それを邪魔するように翠が姿を現し、厳しい視線をおれに向ける。
「コンチィ、おねぇちゃぁ~~~ん。今日もお見舞いに来たのよぉ・・・?!柏木さん何やってんですか!お姉ちゃんは怪我人なんだよ!」
「あっ、あぁ・・・・」
翠のその言葉で春香に絡めていた指を無理やりはずした。
その時の春香の表情、不満そうだった。
「人の目が届かない所だと・・・、本当に男の人っていやらしいですねぇ」
彼女のその言葉遣いは非情に厳しいものだった。まるで春香から穢れを祓うような言い方だった。
「それは貴斗も含めてか?」
「ムッ###」
俺の言葉に翠は眉間に皺を寄せ青筋を立てていた。
相当彼女を怒らせてしまったようだ。
翠は貴斗の事を想っているのを知っていた。
知らないのはヤツ本人だけだろう。
彼女にとってそれはけして叶わぬ想い。
それを知っていたのに俺の口から出た言葉はそれだった。
春香の妹が怒っても仕方がない。そんな彼女が更に言葉を募る。
「柏木さん・・・、お姉ちゃんに何をしてたんですか?」
俺がそれを答えれば火に油を注ぐのもいい所だった。だから沈黙した。
答えてやれるはずがないんだ。しかし、春香は何の躊躇も無く言葉を出していた。
「・・・・、おまじないしてたの」
「えっ!!一体何をお姉ちゃんに誑し込もうとしてたんですかアナタは?」
〈たっ、誑し込む?そこまで言うか翠、おまえは?〉と心でそう思いつつも平静な顔で彼女には答えを返してやる。
「ベッ、別にたいした事じゃない」
「永遠の約束のオマジナイ」
「ヴぇ!?」
姉の言葉を聞いた翠のその驚きは予想以上のものだった。
「宏之君、アリガトウ、私とても安心したの」
「・・・・ぁあ、そうだな」
春香は至高の微笑で俺に感謝を口にしてくれた。
そんな彼女を見捨てる何って俺には出来そうもない。
そんな事を考えていると翠の奴、今にも泣きそうな表情で口を動かしてくる。
「・・・・・・、売店に行って必要な物を買って来ます」
それを言葉に出すと翠は病室から出て行ってしまった。
それと入れ替わるように調川先生がここへ現れたんだ。
「凉崎さんの妹さん、彼女、どうかなさったのですか?」
「どうと言われても・・・・」
何て言っていいか分からず言葉を詰まらせるようにそう答えていた。
「私は凉崎さんの診察を始めますのでアナタにはご退場、願いたいのですが」
「ハイ、判りました春香を御願い致します」
先生は今から春香の診察をするようだった。
ここにいてもしかたがない。先生の言葉に従おう。
そう思って俺はその場を後にした。
病院を出た時、売店に行くって言っていた翠と顔をあわせていた。
「・・・、さっきはあんな酷い事を言ってごめんなさい」
「別にもういいさ、俺だって悪かった。翠から見たら俺って最低な奴だもんな」
「それは・・・、」
「いいんだよ別に、言いたい事言ってもらった方がスッキリする時もあるんだぜ」
「私は貴方が許せなかった。二度もお姉ちゃんを見捨てたくせにまたノコノコとここに現れるなんて許せなかった」
「ヤッパそうだろうな」
「でも、それでも私が柏木さんを嫌っていても春香お姉ちゃんは貴方の事を必要としていた・・・。まだお姉ちゃんの事を思ってくれているのなら私はもう何も言いません」
翠の問いに返す言葉を見つけられず口を閉じていた。
「今は何も答えなくていいです。だけど、必ずその答えを見つけてください」
「・・・、分かった」
「有難う御座います。・・・・・・、一つ質問していいですか?」
「なにをだ?」
「柏木さんは私が貴斗・・・、さんの事をどう想っているかご存知のようですね」
「それで?」
それを知らないのは貴斗本人とその彼女の藤宮くらいだろ?
香澄もそれと殆ど翠に顔を合わせる事のない慎治も知っている事だった。
若しかして藤宮の場合は知っていて知らない振りをしているだけかもな。
「若し、若し、何かのきっかけで私と貴斗さんが関係を持つようになったら、柏木さんはどう思うのですか?」
「そんなの俺には関係ない。貴斗がそれを認めれば藤宮だって回りの奴らだって何を言っても無駄だろう?ようは当人同士の問題ってヤツ」
現在の藤宮をよく分かっていない俺はそんな事を口走っているがもしそんな事態が起ころうモノであれば彼女が変容してしまう事を知らないだけなんだろうな。
それに慎治はやたらと藤宮と貴斗の事を気に掛けていたようだし・・・。
「それは柏木さんとあの人にも言える事なんですか?」
「そんなの翠、自分で考えろよ。お前だってもう高校生だろ?そんなの分からない歳でもないだろ?」
「有難う御座います。それじゃ私、おねえちゃんの所に戻ります」
翠はそう言うと病院の中へと戻って行った。
彼女には偉そうな事を言ったが俺自身分からない事の方が多い。しかし、今日になってついに心の奥にシマっていた春香への想いに気付いちまった。
春香を見捨てる事なんて出来やしないんだよ。でも、俺の心を救ってくれた香澄を今更簡単に別れる事も出来ないんだ。どうすれば俺はいいんだ?だけど、これからこんな葛藤に悩ませられる日々を俺は送ってしまう。
優柔不断?
心の弱さ?
それとも自分の甘さの所為で二人の女の子を傷つけてしまう行動をとってしまうかもしれないんだ。
どんな奴から見ても俺は最低に見えるかもしれないだろうな。でも、仕方がないんだ。
こんな状況ですぐ解決できる方法が有ったら俺だって苦労したりしないんだ。だから、今しばらく俺のとる行動を許して欲しい。・・・、誰に聞かれる事も知られる事もない。
そんな思いを胸に秘めて、今日も同じように一日を終わりにした。
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『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』
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僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。
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その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。
全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!?
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