CRoSs☤MiND ~ 過ぎ去りし時間(とき)の中で ~ 第 二 部 隼瀬 香澄 編 ♀ 理想と現実 ♂

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第 二 章 誰かを忘れた日々

第七話 魅惑な香りの温泉旅行

  ~ 2002年11月23日、土曜日 ~

 仕事の取材の為、綾とカメラマン、それと上司の氷室さんとロケバスで熱海温泉に向かっていた。・・・、しかし、車内は変に騒がしかった。それは何故か?
「貴斗様、あぁ~~~んしてくださいな」
「・・・・・・」
「綾さん、ちょっと私の貴斗君に何をさせようとしているのですかっ!」
「貴斗様ぁ、私の作りましたこれお嫌いですのぉ?」
 綾には詩織の言葉なんて耳に入っていないようだった。
 綾に同行して来ている弟さんも妹さんもまるで睡眠薬でも使わされたようにぐっすりと眠っていてそんな姉のフシダラな行為?を見て騒ぎ立てる事はなかった。
「・・・・・・・・・、パクッ」
「酷いよぉ~~~、貴斗君。私が頼んだってそう言う事ほとんどしてくれないのにぃ~~~」
「オイッ、香澄、ほっといて良いのか?」と宏之は私に小声で話しかけてきた。
「ハハハッ、いいんじゃないの?だってしおりン、愛は奪うものじゃなくて与える物だってほざいていたもん」
 苦笑しながら詩織にも聞こえるように声を大きくしてそう口にしていた。
 それを聞いていた彼女は私を『キッ』と睨んでくる。でも無視、無視。
「まぁ、香澄がそう言うなら俺も口出ししないけど」
「流石に行き過ぎる様だったらアタシも止めに入るけど今は見てると面白そうだからそのままにして置くわ」
 訳あって今このロケバスには社外の人間が七人乗っていた。
 宏之、貴斗、詩織、綾の弟と妹さん、カメラマンの奥さん。それと氷室上司のお嬢さんが一緒だった。
 慎治も誘ったんだけど、都合があわないって事で彼は来なかった。
 取材なんてのは表面だけで実際は今から行く温泉宿から頂いた無料宿泊券を無駄にしないようにするためであり、氷室上司のご好意で〝何人でもいいから誰か連れて来い〟って命令された。
 私が貴斗を詩織と一緒に誘ったとき即答で彼に断られたけど彼女が強引に連れてきてくれたようね。
 彼が詩織に甘いのは昔も記憶喪失の今も変わらないみたい。
 綾が貴斗を見た時、詩織が彼の傍にいるのも気にしないで〝貴斗さまぁ~~~〟ってな調子に彼に抱き着いていたわ。
 彼はうろたえるだけで嫌がる素振りも見せないし、詩織は余りの出来事で唖然として硬直していた。
 宏之もそれを見て心底驚いていた。私は苦笑しながら綾の頭にダブルチョップを頂戴してあげたらいつもの調子で〝シクシク、痛いですのぉ~~~〟ってな感じで私の方を見たっけ。
 彼女の中学生になる妹も弟さんもそんな姉を呆れるように見ていた。
 現地、静岡県加茂郡東伊豆に到着すると部外者を氷室上司に任せ旅館にほっぽりだし、名目上の体裁を守る為、綾と私それと芦屋カメラマンで軽く温泉宿とそこから行ける観光名所などを取材し記事になりそうな物をピック・アップして来た。
 今回、私達が訪れた温泉宿の名前は『粋光』と言う宿で高台に建つ全室オーシャン・ビューの現代和風な旅館。
 貸し切露天風呂、専用露天風呂付客室、それと展望台露天風呂の三つを持つ豪華な所だった。
 ここから車を使って一五分から一時間程度で熱海桜坂公園、熱海ほっとぱ~く、バナナワニ園、伊豆バイオパークそれと伊豆アンディーランドと言った遊べる場所も多く、取材ネタを集めるのに苦労しなかった。

*   *   *

「はぁうぅ~~~、温浅ってぇ良いわぁねぇ~~~、うぅ~~~ん気持ちぃ~~~」
「そうですねぇ~~~温浅ってお歳にご関係なくいいモノですねぇ~~~」
「本当に良い湯で気持ちいですの。今日のお仕事の疲れも癒されますの」
 私は詩織と綾で貸し切り露天風呂に浸かりながら太陽がゆっくりと海に沈み掛けるのを眺めていた。絶景とはまさにこの事ね。
 太陽が沈み夜空に星が瞬き始めた頃、私たちは女でしか出来ない会話をしていた。
ッて言うより詩織をからかっていると言った方が的を射ているわね。
「あららぁ~~~、最近しおりン太ってきたんじゃないのぉー?」
 そういいながら隣に座っていた詩織の脇腹のお肉を片手で軽くつまみ、『クイッ、クイッ』と引っ張ってあげた。
「そんな事ないです!!そうもうします香澄こそどうなのですかっ!」
 詩織は仕返しといわんばかりに私と同じ事をやってきた・・・、けど引っ張るって感じじゃなく抓っている。
「あいたたぁたぁたぁっ、痛いってしおりン、私が悪かった、だからつねんないでってば」
 そう言うと彼女は直ぐにその手を離してくれた。
「あぁ~~~、痛かったぁ」
「失礼な事を言う香澄がいけないのですからね」
「だって泳ぐの辞めたんだから外れてないでしょ、それにアンタ今、何か運動している?」
「ちゃんとしています」
「ベッドの上での運動、ってのは駄目よ」
 からかい半分で詩織にそう言うと彼女の表情が翳ってしまった。
「ありゃりゃ、若しかして私、今、不味い事言っちゃった?」
「えっとそのぉ~~~、ねぇ、香澄はその柏木君と寝る事あるのですか?」
 詩織は淋しさ交じり、躊躇いがちにそう尋ねてきた。
 私はその彼女の言葉からある事に思い突き当たった。
「若しかして・・・、しおりン、アンタまだ貴斗とした事ないの?」
 彼女は私の口にした事を言葉で返さず濡れているタオルで顔を隠しながら頭を縦に振ってそれを肯定した。
「ニャハッハハッ、そりゃ可哀想に」
「もぉ~~~、かすみぃ、他人事のように言わないでよぉ」
「なにぃ言ってんのよ。他人事じゃない、まぁ~、要するにしおりンの魅力が足りないって事ね」
「やはりそうなでしょうか・・・」
 幼馴染みは私の言葉に反論しないで悄気てしまった。
「クスクスッ、お二人とも本当にお仲がよろしいですの。詩織様、お嘆きにならないで下さいな。綾の勘ですけど貴斗様はきっと何か詩織様や香澄様が知らない性的わだかまりをお持ちなのではないのでしょうか?」
 今まで私と詩織のやり取りを黙って聞いていた綾がそんな事を言ってきた。
「そんなこと考えても見なかったわ・・・、でも、確かに貴斗には私もしおりンも知らない空白の三年間、ってのがあるのよね」
「それって貴斗君があちらに行っていました頃の事ですよね?ハァ~~~、貴斗君向こうで一体何があったのでしょう?」
「貴斗の記憶が戻ればいずれわかるわよ。まっ、それまではしおりンが抱かれないって事になるかもしれないけどねぇ、クックック」
「また、最後に意地悪な事をお言いになるんですから。もう、香澄何って嫌いです。フンッだ」
「ニヒッ、しおりン子供じゃないんだからそんな事で拗ねない、拗ねない」

※ ※ ※ ※ ※ ※

 彼女達がそんな恥ずかしい会話をしている頃、別の場所で密会する男が二人。
「なぁ、お前も見てみたいだろ?」
「何をだ?」
「なんだぁ、お前こんな美味しい状況でそそらないのか?竹柵の向こうはあれだぞ、あれっ!」
「別に興味ない」
「なんだぁ、お前、可愛い彼女がいるくせに実はホモだったのか?」
「んなぁ、わけあるか!」
「はっはぁ~~~ん、分かったぞ、お前、失敗してばれたとき彼女に怒られるのが怖いんだろ?クァアッハッハッハ、すでに尻に敷かれてやんの。ダぁッセェーーーーーーっ、クククククッ」
「そんなことない」
 口数が少ない男はそう言うと湯から上がり辺りに散らばっている桶や風呂椅子をかき集め、機能的、見事なまでの段を陽気そうな男に作って見せていた。
 その男は何も言わず眼で合図しもう一人の男をその場に呼び寄せた。
「やるじゃないか、ではさっそくご拝見と行きましょうか」
『コクンッ』
「ぬぉ~~~、マジ良い眺めぇ~~~、香澄もスタイルいいけど、藤宮さんってこう何ていうかお嬢様って感じでそそる・・・。はっ、鼻血でそうだぜ」
「おい、お前ホントに出てるぞ」
「なわけねぇ~~~だろ!ッてお前、自分の彼女じゃなく何で瀬能さんばっかり見てんだよ?」
「エッ、いやぁ、まぁ、なんとうか詩織とは違う、心をくすぐる魔性の麗しさが・・・」
「ハァ~~~、瀬能さんもお前が言うとおり、なんだかこう、あぁあ、エロチックな感じだなぁ。エロッペェ~」
 小声でその男二人は女体を観察していた。

※ ※ ※ ※ ※ ※

「ハァ~~~、なんだか溜息出ちゃうくらい綾の肌って白くて綺麗ねぇ」
「私もうらやましく思います、綾さんのそのお肌とご容姿」
「綾はワタクシのこの白いお肌お嫌ですの。だって皆様となんだか違うようで仲間はずれのような気分ですの」
「贅沢言うな!あぁ~~~、なんか腹立つ、こんにゃろ、こうしてくれる」
「あら、いやぁ~~~ん、香澄様、お許しくださいな」
「香澄お止めなさい、って恥ずかしい。綾さんがお嫌がりしているじゃないですか」
「ククッ、綾そんなに気持ちよかったのそんなに顔を赤らめちゃって」
「違いますの・・・、その・・・・・・、二人の殿方が綾の体をお舐めになる様な感じで見ているものですから・・・」
 綾のその言葉に彼女が見ている視線の方を振り向く・・・、怒りっ!
「ムキィッーーーっ、アンタ達ぃーーーっ、どこを見てんのよぉーーー、このドぉ変たぁああぁいッ!!!」
 水面に浮かべていた桶を取りそれを力の限り馬鹿二人に向かって投げつけた。
『スコーーーンッ!カコーーーン』と切れのいい音が場内に響きわたる。見事その桶は二人に命中していた。
「ドッシェ~~~っ、ベタなオチだぜぇ」
「最後はやっぱりこうだったか。しかし、男として悔いなし・・・、グハッ」・・・お後がよろしいようで。

*   *   *

 お風呂から上がった後、激怒していた詩織を宥めるのが大変だったわ。
 貴斗と宏之のその行動に私は呆れすぎて怒る気になれなかったけど彼女は違った。
 詩織は覗かれた事を怒っていたのじゃなくて貴斗が覗いていたの人物が彼女自身ではなく綾だったのが原因だった。
 貴斗はそんな激怒し拗ねている詩織に何度も謝っていたけど効果なし、私は彼女の頭を撫でて気分を落ち着かせようとした。
 綾もどうにかして詩織の気分を鎮め様としていたけど火に油を注ぐような感じで逆効果だった。結局、最後は貴斗が土下座までして詩織に謝っていた。
「詩織、俺が悪かった。だから許してくれ、天と地の神に誓って二度とこんな事はしない。約束破ったら不可能な事でもお前のいう事なんでも叶えてやるから今回だけは許してくれ!」
 それを聞いた彼女は態度急転で機嫌を取り戻して一件落着。
 知っていた事だけど詩織って本当に変わり身が早いわ。凄い演技!

*   *   *

 それぞれ風呂から上がり夕食を摂るため小宴会場に来ていた。
 貸し切りだったので何の気にする事もなくドンチャン騒ぎをしていた。
「無礼講です。まぁまぁ、隼瀬君グイッと呑みたまえ、わっはっはっはぁ!」
「アッ、あのぉ~~~、私まだ二十歳になってないんですけど」
「たまには良いじゃないですか・・・、上司命令だぁ~~~、のめぇ~~~っ!」
「ぱぱぁ、止めてよぉ~~~隼瀬お姉さん嫌がってるじゃな。隼瀬お姉さん、パパこんな状態ですから無視してかまいません。ほっといちぇってください」
 氷室上司は随分呑んでいる様で笑いながら、お酒を勧めてくる。
 彼のお嬢さん、今年八歳になる梓ちゃんは確り者でそんな父親をいさめていた。
「香澄様、せっかく氷室様がお酌して下さったお酒なのにお呑みにならないのですか?知らないのですか、お酒は13歳からお呑みになれますの」
「綾ぁ~~~?アンタ、一体いつの時代の事いってんのよ」
 彼女にそんな事いわれちゃったから結局、私もお酒を口にしていた。
 周りの雰囲気の所為なのか呑んだそれが美味しく感じられた。
 コップ一杯のお酒でほろ酔い気分になってしまう。私って弱いのかも。
 そんなほろ酔い状態でここにいるみんなを眺めていた。
 宏之は何にも気にしないで自分で酒をコップに注いで呑んでいる。
 貴斗は綾の姉弟とトランプをして遊んでいる。
 綾と詩織は何かの勝負なのか?
 互いのコップが空になると躊躇なく酒を注ぎそれを呑み交わしていた。
 なんかすでに空のビン一升が二人の前に置かれていた。
 詩織と綾って若しかして酒豪?
 私はどれだけ氷室上司に勧められ呑まされていたか判らないけどいつの間にか寝てしまっていた。
 その場で寝ている時、綾と詩織の間で面白い事が起こったみたいだけど誰も教えてくれないから私はそれを永遠に知らないままだった。
 翌日もなんとも騒がしい中、予定の白浜神社を取材し本来の目的を果たして無事に地元へ帰っていた。

~ 2002年11月28日、木曜日 ~
 仕事の帰り〝フラワー・キューピット〟という名前の生花店によってサンダーソニアと言う花を買った。
 それを持って数ヶ月ぶりに春香のお見舞いに向かっていた。
 春香のいる病室の前に到着すると、
『コンッ、コンッ』と目の前にある扉をノックする。しかし、誰からの反応もなかったけど私は中に入らせて貰うことにした・・・。
「ぇエッ、貴斗なの?」
「・・・・・・・・」
 彼は私に何も答えてくれなかった。
 私から視線を逸らし、私の間をすり抜ける様に病室から立ち去ってしまう。
 出て行こうとする彼へ、何も出来ず、私はそこにたたずんだままだった。そして、静かな空間で
「何で?・・・、貴斗、どうして私を避けるの?」と呟いた。
 いつもの私だったら貴斗を追いかけ、どうして私を無視するのか問い詰めてやるのに、今の私にはそれも出来ずに、過ぎ去る幼馴染の方へ振り返る事すら出来ずにその場に立ち尽くして、そう呟いるだけだった。
 頭の中を切り替え、気を取り直してベッドで静かに寝ている春香を見る。
「フッ・・・・・・、まだアンタ目ッ、覚まさないんだね」
 自嘲めいた溜息を吐きながら、幸せそうな寝顔で眠りに就いている彼女を見て、そんな風な言葉を口にしていた。
 一度、自分の持ってきた花を活けるために窓際にあった花瓶を持って退室した。
 それを持って再びここへ戻ってくると花瓶を元の場所に戻しす。
 ベッドの前にひざまつき彼女の前で祈りをささげるポーズを取った。
〈春香、アンタは夢の中でいったい何を見ているの。それは楽しい事?それとも悲しい事?
私はこの現実の中で楽しい事、辛い事いっぱいあったけど頑張って生きてる〉
〈宏之の事をどう仕様もなく好きだから今、私はアンタの代わりに宏之を支えている。彼の仮の恋人にならせてもらっているわ〉
〈デモね、あんまり待たせると本当に宏之の恋人になっちゃうわよ・・・・・・・・・〉
〈それが嫌だったら夢の中に逃げてないでっさっさと戻ってきなさい。
みんなが待っている現実に戻ってきてよぉッ!!〉
 心の中で私は祈るように春香に訴えていた。
 総てが心の中で完結すると両頬から静かに涙が零れ落ちていた。
 サンダーソニアの花言葉、祈りの最後の締めとして春香の額に掛かっている柔らかい髪を手で退け・・・、、・・・・・・、オデコの中央に軽くキスを交わした。
 その後、暫らく椅子に座りながらこの前行ってきた温浅での出来事や宏之の今までの事を春香に伝えこの場を去っていた。
 彼女の病室を出た後は宏之の所へはよらず直接自宅へと帰っていった。どうして、春香が目覚めないのかって悩みながら・・・。でも、答えなんてどこにも見つからない。
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