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第16話 010 東北ユーラシア支部商業区食糧倉庫(3)
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「自決自体は以前からみんなで決めていたのですが、ナイフなどで自決する勇気はなく、かといって仲間をこの手で殺すことなんてできるはずもない。困り果てているところにあなた方が銃器を持って現れた。まるで神様が現れたような気分でしたよ」
「俺たちが神様だって? どういうことだ?」
洋平が尋ねた。
「これでようやく一瞬でこの生き地獄から抜け出すことができる、とみんな喜んでました。ああ見えてね」
「神様の後に地獄なんて……いや、意味がわからない」
「あなた方にとっては、そうかもしれませんね……さて、ボストンバッグの中に入ってある食糧はあなた方を倉庫に案内する間に、私の仲間たちがこの部屋へ集めてくれたものです。生きる希望を失った、そんな私たちがそんな物を持っていても仕方がありませんから。まさかこんな早く終焉がくるとは思っていませんでしたので、すべてを集めることはできませんでしたが……」
そう言って、セルゲイは俺たちが肩にかけたボストンバックへと視線を配る。
「セルゲイさん、そしてあの人たちも……なぜそんなことを」
俺は思わず頭を振った。
ボストンバッグの肩紐を握り締める。
彼らの分を残しておかなくて良いのかという疑問はあるにはある。
だが、ここにバッグを置いていったとしても、この同種の数。今の状況を鑑みると、いずれにしても彼らがこの部屋に取りに来られるはずもない。
俺は深く吐息をついた。
このボストンバッグは彼らの命といって良い。その命を無駄にはできない。
結論は初めから決まっていた。俺たちが持っていくしかない。そして、生き延びるために大切に使わせてもらうのだ。
「圭介君、私たちのことで悩んでいる時間はありませんよ。ほら、これも受け取って」
と述べて、セルゲイがこの支部の見取り図を手渡してきた。
ドアの方へと俺たちを押しやってくる。
「さあ、みなさん。武器を構えて、この建物から出てください。今であれば倉庫内に同種が殺到しているはずです」
俺たちはセルゲイに言われるがまま、部屋を後にした。
ドアの向こう側には数体の同種がいた。
可能な限り音を立てずに、その同種たちを殲滅した。
セルゲイの想定した通り、やはり通路や入り口付近には同種があまりいないようだった。
「あの人たちは、どうする?」
スナイパーライフルを肩にかけ直しながら早野が訊いた。
通路の向こう側――同種たちが大量に倉庫内へと押し寄せていくのが遠目に見えた。
さすがにあれを相手にするのは銃弾の数はもちろんのこと、攻撃に参加する人数も足りない。
「みなさんは外に行ってください。彼らの元には、私が向かいます」セルゲイは言う。「おかしいですね。みんなで自決を決めてたのに、いざとなればこんな物を持ち出すなんて」
彼の手にはナイフらしきものが光っていた。
少し笑う。
だが、覚悟を決めた目つきをしていた。
もう間に合わない、だから、セルゲイさんも俺たちと一緒に逃げよう、と言いかけたが、その目を見た俺は固く口を閉じた。
八神が、おい、とセルゲイに呼びかける。一連の動作かのようにアサルトライフルと銃弾のケースを彼に手渡した。
「いいか、それは自決用じゃない。人を救うものだ」
と、続けて言う。
この言葉に、こくり、と頷くセルゲイ。そして、彼はアサルトライフルを抱えながら同種の群れが待つ倉庫へと走り出した。
一方の俺たちは、セルゲイの背中を見送る余裕もなく建物の外へ出た。
真っ暗闇だ。
セルゲイに貰った懐中電灯の灯りがなければ何も見えなかっただろう。
俺は彼の最後、走り去る姿を思い返した。
出会って間もないが、親切な人だった。彼には生き残って欲しいと切に願う。
彼を待ち受ける運命は、この先の彼に何を与えるというのだろうか。
最低でも、彼の手で仲間を殺させるようなことはさせないで……
「あれ、絵麻ちゃんと芹香先生は?」
少し声を震わせながら、美雪が尋ねてきた。
手前にいる洋平と八神が首を横に振る。
絵麻と芹香……俺にしても心当たりはない。セルゲイといた部屋を出る際、同種と戦闘した。その時、ふたりは確か後方にいたはずだが、その後食糧倉庫を出るまでの間彼女たちの姿は一度も見ていない。
そして、俺が彼らと同様に首を横に振ろうとした時だった。
ったくもう、という声が背後から聞こえてきた。
声のする方角を見やった。絵麻が芹香の腕を引っ張って、食糧倉庫の入り口から飛び出してこようとする最中だった。
「だって、絵麻ちゃん。あのアナウンスの声って確か……」
と、ふくれっ面をした芹香がぶつぶつ言いながらこちらへと歩いてくる。
たまに後ろを振り返るが、都度絵麻に強引に引っ張られるため、また顔が前へと向く。
「そんなの、後でいいでしょ」
俺たちの元へとたどり着いた絵麻はそう言うと、芹香の腕から乱暴に手を離した。
次に彼女の視線が前へと移動する。身を少し屈めて俺たちに無言の合図を送った。そして、次の瞬間、彼女は待ち受ける暗闇の中へとコルトパイソンを向けた。
「俺たちが神様だって? どういうことだ?」
洋平が尋ねた。
「これでようやく一瞬でこの生き地獄から抜け出すことができる、とみんな喜んでました。ああ見えてね」
「神様の後に地獄なんて……いや、意味がわからない」
「あなた方にとっては、そうかもしれませんね……さて、ボストンバッグの中に入ってある食糧はあなた方を倉庫に案内する間に、私の仲間たちがこの部屋へ集めてくれたものです。生きる希望を失った、そんな私たちがそんな物を持っていても仕方がありませんから。まさかこんな早く終焉がくるとは思っていませんでしたので、すべてを集めることはできませんでしたが……」
そう言って、セルゲイは俺たちが肩にかけたボストンバックへと視線を配る。
「セルゲイさん、そしてあの人たちも……なぜそんなことを」
俺は思わず頭を振った。
ボストンバッグの肩紐を握り締める。
彼らの分を残しておかなくて良いのかという疑問はあるにはある。
だが、ここにバッグを置いていったとしても、この同種の数。今の状況を鑑みると、いずれにしても彼らがこの部屋に取りに来られるはずもない。
俺は深く吐息をついた。
このボストンバッグは彼らの命といって良い。その命を無駄にはできない。
結論は初めから決まっていた。俺たちが持っていくしかない。そして、生き延びるために大切に使わせてもらうのだ。
「圭介君、私たちのことで悩んでいる時間はありませんよ。ほら、これも受け取って」
と述べて、セルゲイがこの支部の見取り図を手渡してきた。
ドアの方へと俺たちを押しやってくる。
「さあ、みなさん。武器を構えて、この建物から出てください。今であれば倉庫内に同種が殺到しているはずです」
俺たちはセルゲイに言われるがまま、部屋を後にした。
ドアの向こう側には数体の同種がいた。
可能な限り音を立てずに、その同種たちを殲滅した。
セルゲイの想定した通り、やはり通路や入り口付近には同種があまりいないようだった。
「あの人たちは、どうする?」
スナイパーライフルを肩にかけ直しながら早野が訊いた。
通路の向こう側――同種たちが大量に倉庫内へと押し寄せていくのが遠目に見えた。
さすがにあれを相手にするのは銃弾の数はもちろんのこと、攻撃に参加する人数も足りない。
「みなさんは外に行ってください。彼らの元には、私が向かいます」セルゲイは言う。「おかしいですね。みんなで自決を決めてたのに、いざとなればこんな物を持ち出すなんて」
彼の手にはナイフらしきものが光っていた。
少し笑う。
だが、覚悟を決めた目つきをしていた。
もう間に合わない、だから、セルゲイさんも俺たちと一緒に逃げよう、と言いかけたが、その目を見た俺は固く口を閉じた。
八神が、おい、とセルゲイに呼びかける。一連の動作かのようにアサルトライフルと銃弾のケースを彼に手渡した。
「いいか、それは自決用じゃない。人を救うものだ」
と、続けて言う。
この言葉に、こくり、と頷くセルゲイ。そして、彼はアサルトライフルを抱えながら同種の群れが待つ倉庫へと走り出した。
一方の俺たちは、セルゲイの背中を見送る余裕もなく建物の外へ出た。
真っ暗闇だ。
セルゲイに貰った懐中電灯の灯りがなければ何も見えなかっただろう。
俺は彼の最後、走り去る姿を思い返した。
出会って間もないが、親切な人だった。彼には生き残って欲しいと切に願う。
彼を待ち受ける運命は、この先の彼に何を与えるというのだろうか。
最低でも、彼の手で仲間を殺させるようなことはさせないで……
「あれ、絵麻ちゃんと芹香先生は?」
少し声を震わせながら、美雪が尋ねてきた。
手前にいる洋平と八神が首を横に振る。
絵麻と芹香……俺にしても心当たりはない。セルゲイといた部屋を出る際、同種と戦闘した。その時、ふたりは確か後方にいたはずだが、その後食糧倉庫を出るまでの間彼女たちの姿は一度も見ていない。
そして、俺が彼らと同様に首を横に振ろうとした時だった。
ったくもう、という声が背後から聞こえてきた。
声のする方角を見やった。絵麻が芹香の腕を引っ張って、食糧倉庫の入り口から飛び出してこようとする最中だった。
「だって、絵麻ちゃん。あのアナウンスの声って確か……」
と、ふくれっ面をした芹香がぶつぶつ言いながらこちらへと歩いてくる。
たまに後ろを振り返るが、都度絵麻に強引に引っ張られるため、また顔が前へと向く。
「そんなの、後でいいでしょ」
俺たちの元へとたどり着いた絵麻はそう言うと、芹香の腕から乱暴に手を離した。
次に彼女の視線が前へと移動する。身を少し屈めて俺たちに無言の合図を送った。そして、次の瞬間、彼女は待ち受ける暗闇の中へとコルトパイソンを向けた。
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