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第45話 027 南マケドニア・北ギリシャ連合支部廃棄街ARSENAL塔(2)
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ARSENALでのひと悶着を終えた後、俺、洋平、早野で塔の扉の前にバリケードを張りにいった。
塔には一応ながらシャワー室がありベッドルームも存在することから、ここで一夜を過ごすことにしたのだ。
同種に周囲を取り囲まれる心配はあったが、武器、弾薬とも多数存在し、一泊程度であれば掃討できる数しか集まらないだろうという見解で全員一致しそれを決めた。
もちろんこれは楽観的過ぎる予測だ。
だが、すでに二十時間近く身体を動かし続けていることから、ほぼ全員が体力の限界を迎えていた。
おそらく走ったら半日くらいで到着するであろう又佐の述べた地下道に向かうことも考慮には入れたが、このような理由からそれは諦めることとなった。
バリケード造りを終え俺たちがARSENALに戻ると、八神が又佐を伴ってアーチェリーの使い方を刑馬に教えていた。
訊くと、テクノロジーとは無縁な刑馬にとって銃器の使用は身体にしっくりとこないようで、今後の戦闘における飛び道具として弓に近いアーチェリーを使うことにしたそうだ。
とはいえ、使い方がよくわからないので、現在八神から指導を受けているらしい。
「それはいいとして、それ……その矢の先についているものは何なんだ?」
眉を顰めながら、尋ねた。
アーチェリー用小筒に入っている矢の先端に、銅でコーティングされたような矢尻があることを不思議に思ったからだ。
近くにいた又佐の説明によると、その正体は小型爆弾であるらしく、研究の傍ら自身でそれを取り付けたとのことだった。
すでに実験も終えているらしく、後は実践で使うのを待つだけであるそうだ。
村一番の鍛冶屋と少し前に姫が言っていたが、せいぜい江戸時代程度の時代設定の人間であり、さらに芽衣やその姫と同じくらいの年齢であることから、俺は彼に何も期待していなかった。
しかし、その若さや出自で彼の技術力を侮っていたが、これを鑑みるとなかなかの腕前のようだ。
さらにあの八神が彼の技術を手放しで褒めており、それに相当する実力を持っていると思われる。
そう考えると、その腕前はなかなかの腕前どころではないのかもしれない。
一方の麗は絵麻と美雪と共に使用可能な銃弾や爆弾、大砲の弾の選別を行っていた。
経年劣化が激しいものが多いらしく、豊富にあるように思えた銃弾もそのすべてが使い物になるわけではないようだ。
武器庫に入るなり彼女たちが作業をしている姿を目に入れた早野は、俺と洋平をその場において、彼女たちが行っている弾薬の選別へと喜び勇んで参加した。
実に銃器が好きな彼らしい行動だったが、今回は弾薬だけではなく麗がいつもの服装と違ったことも彼の興味を引いたようだ。
チャイナドレスを腰に巻いた麗は、ガンホルダーがふたつ両脇辺りに付属したサスペンダーを黒のタンクトップの上から装着しており、そのガンホルダーそれぞれにベレッタ92FS Inoxという同一の拳銃をおさめていた。
それを見た早野はいきなり鼻息を荒くした。麗に食いつくかのように近づき、矢継ぎ早にその銃についての会話を始めた。
麗と早野の銃器談義は弾の選別そっちのけで、それは絵麻に叱られるまで続いた。
会話の最中、麗がレヴィのM92カスタムがどうとか言っていたが、銃器に疎い俺にはなんのことかさっぱりだった。
また同じく銃器に疎く戦闘関連にやる気を見せない芹香は、この間化粧品とコットンで肌の調子を整えることに専念していた。
芽衣は姫と共に、手毬をつきながら、キャッ、キャッと騒いでおり年相応の会話や遊びを楽しんでいるようだった。ここまでの凄惨な道のりを一瞬忘れさせてくれるような心温まる映画のワンシーンのように思えた。
そして、そのまま何事もなく俺たちは一泊を終えた。
翌朝屋上にあがってみると、塔の周囲は大量の同種に取り囲まれていた。
ざっと見た限り優に万は超えていた。半ば軽くは予想していたが、まさかここまでの人数とは思っていなかった。
「なかなか骨が折れそうね」
すでにその場にいた麗が、俺に向けてその光景を見た感想を述べる。
「麗さん。同種はこの塔に簡単に上がってはこれない。バリケードを突破されるまでの間、対策を練ろう」
「……そうも行かぬようじゃのう、圭介」
背後から姫の声が聞こえた。
見ると、姫、芽衣、絵麻など――八神と又佐を除いた全員が屋上の入り口付近に立っていた。
その時だった。
また俺の背後から声がした。今度は人間のものではない。
それは当然かのように、同種のうめき声だった。
振り向くと屋上の手すりに同種の手がかかっているのが見えた。すぐにその手へと近づき、ランボーナイフで切り落とした。
手首付近から血が噴き出るのを無視し、一目散に下界へと顔をやる。
同種が別の同種の肩に乗り続々と塔を上へとよじ登っている様が視界に入った。
武器庫で手に入れたコルトパイソンで、同種を次々と撃ち抜く。だが、撃ち落としても撃ち落としてもまた別の同種が俺の元へと向かってきた。
柱の高かったドーム出口間桁橋の上に同種の群れが現れた理由を、俺はこの時初めて理解した。
「食らいなさい」
と声をあげながら、麗も銃撃に加勢してきた。
彼女のベレッタ二丁から放たれたその弾を身体に受けた同種たちは、塔の一番高いところからその他大勢が蠢いている地上へと落下していった。
塔には一応ながらシャワー室がありベッドルームも存在することから、ここで一夜を過ごすことにしたのだ。
同種に周囲を取り囲まれる心配はあったが、武器、弾薬とも多数存在し、一泊程度であれば掃討できる数しか集まらないだろうという見解で全員一致しそれを決めた。
もちろんこれは楽観的過ぎる予測だ。
だが、すでに二十時間近く身体を動かし続けていることから、ほぼ全員が体力の限界を迎えていた。
おそらく走ったら半日くらいで到着するであろう又佐の述べた地下道に向かうことも考慮には入れたが、このような理由からそれは諦めることとなった。
バリケード造りを終え俺たちがARSENALに戻ると、八神が又佐を伴ってアーチェリーの使い方を刑馬に教えていた。
訊くと、テクノロジーとは無縁な刑馬にとって銃器の使用は身体にしっくりとこないようで、今後の戦闘における飛び道具として弓に近いアーチェリーを使うことにしたそうだ。
とはいえ、使い方がよくわからないので、現在八神から指導を受けているらしい。
「それはいいとして、それ……その矢の先についているものは何なんだ?」
眉を顰めながら、尋ねた。
アーチェリー用小筒に入っている矢の先端に、銅でコーティングされたような矢尻があることを不思議に思ったからだ。
近くにいた又佐の説明によると、その正体は小型爆弾であるらしく、研究の傍ら自身でそれを取り付けたとのことだった。
すでに実験も終えているらしく、後は実践で使うのを待つだけであるそうだ。
村一番の鍛冶屋と少し前に姫が言っていたが、せいぜい江戸時代程度の時代設定の人間であり、さらに芽衣やその姫と同じくらいの年齢であることから、俺は彼に何も期待していなかった。
しかし、その若さや出自で彼の技術力を侮っていたが、これを鑑みるとなかなかの腕前のようだ。
さらにあの八神が彼の技術を手放しで褒めており、それに相当する実力を持っていると思われる。
そう考えると、その腕前はなかなかの腕前どころではないのかもしれない。
一方の麗は絵麻と美雪と共に使用可能な銃弾や爆弾、大砲の弾の選別を行っていた。
経年劣化が激しいものが多いらしく、豊富にあるように思えた銃弾もそのすべてが使い物になるわけではないようだ。
武器庫に入るなり彼女たちが作業をしている姿を目に入れた早野は、俺と洋平をその場において、彼女たちが行っている弾薬の選別へと喜び勇んで参加した。
実に銃器が好きな彼らしい行動だったが、今回は弾薬だけではなく麗がいつもの服装と違ったことも彼の興味を引いたようだ。
チャイナドレスを腰に巻いた麗は、ガンホルダーがふたつ両脇辺りに付属したサスペンダーを黒のタンクトップの上から装着しており、そのガンホルダーそれぞれにベレッタ92FS Inoxという同一の拳銃をおさめていた。
それを見た早野はいきなり鼻息を荒くした。麗に食いつくかのように近づき、矢継ぎ早にその銃についての会話を始めた。
麗と早野の銃器談義は弾の選別そっちのけで、それは絵麻に叱られるまで続いた。
会話の最中、麗がレヴィのM92カスタムがどうとか言っていたが、銃器に疎い俺にはなんのことかさっぱりだった。
また同じく銃器に疎く戦闘関連にやる気を見せない芹香は、この間化粧品とコットンで肌の調子を整えることに専念していた。
芽衣は姫と共に、手毬をつきながら、キャッ、キャッと騒いでおり年相応の会話や遊びを楽しんでいるようだった。ここまでの凄惨な道のりを一瞬忘れさせてくれるような心温まる映画のワンシーンのように思えた。
そして、そのまま何事もなく俺たちは一泊を終えた。
翌朝屋上にあがってみると、塔の周囲は大量の同種に取り囲まれていた。
ざっと見た限り優に万は超えていた。半ば軽くは予想していたが、まさかここまでの人数とは思っていなかった。
「なかなか骨が折れそうね」
すでにその場にいた麗が、俺に向けてその光景を見た感想を述べる。
「麗さん。同種はこの塔に簡単に上がってはこれない。バリケードを突破されるまでの間、対策を練ろう」
「……そうも行かぬようじゃのう、圭介」
背後から姫の声が聞こえた。
見ると、姫、芽衣、絵麻など――八神と又佐を除いた全員が屋上の入り口付近に立っていた。
その時だった。
また俺の背後から声がした。今度は人間のものではない。
それは当然かのように、同種のうめき声だった。
振り向くと屋上の手すりに同種の手がかかっているのが見えた。すぐにその手へと近づき、ランボーナイフで切り落とした。
手首付近から血が噴き出るのを無視し、一目散に下界へと顔をやる。
同種が別の同種の肩に乗り続々と塔を上へとよじ登っている様が視界に入った。
武器庫で手に入れたコルトパイソンで、同種を次々と撃ち抜く。だが、撃ち落としても撃ち落としてもまた別の同種が俺の元へと向かってきた。
柱の高かったドーム出口間桁橋の上に同種の群れが現れた理由を、俺はこの時初めて理解した。
「食らいなさい」
と声をあげながら、麗も銃撃に加勢してきた。
彼女のベレッタ二丁から放たれたその弾を身体に受けた同種たちは、塔の一番高いところからその他大勢が蠢いている地上へと落下していった。
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