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第50話 029 南マケドニア・北ギリシャ連合支部廃棄街地下道(2)
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「それは後でいいとして……ところで、芽衣。この場所ってどこ?」
と尋ねながら、麗がテーブルへと駆け寄る。
「えっとね。たぶん、この写真の場所だと思うよ、麗」
芽衣が近くの棚の上にあった写真を指し示した。
そこにあった写真を手に取った瞬間、麗はすぐに眉を顰めた。
「この写真の人たち……私を撃ったやつらが身につけていた服装と同じものを着ているわね」
怪訝な口調で言う。
「服装? 麗さん、もしかすると、それって前に言っていたあの黄色の制服とかいうやつか?」
麗の元へと向かい、俺は彼女の手の中にある写真をのぞき込んだ。
薄い黄色を基調としたジャケット。そして下には灰色のスラックス。それらを着込んだ数人の姿がその写真の中にはあった。
背景にはモノレールと思しき列車が映っており、その横には駅舎らしきものも見える。
「これを着たやつらが麗さんを撃った。そして、ここの人たちの仲間がそいつらに拘束された。ということは、彼らと俺たちにとってそいつらは共通の敵ということになるかな」
胸に抱いた推察をそのまま述べた。
「ピースシップの象徴は、確か黄色。私が知っている限り、色合いも同じような感じだった」
そう言って、絵麻は細身の顎に手を持っていく。
「あれ? こんな色だったけ? 東北ユーラシア支部ではちょっと違った気がしたけど」
麗が天井を見上げながら自問の言葉を述べる。
彼女の場合、その適当な性格からどこまでこの言葉を信用して良いかわからない。
案外単に彼らの存在を忘れていただけというようなこともありそうだ。
「でも、ピースシップってあれだろ……慈善団体じゃなかったっけ? NPOの人たちがそんなことするのか?」
洋平が少し反論するかのような口調で問いかけてきた。
「まあ、そうだな」
あっさりと洋平の意見に同意した。
特にピースシップについて何か自論があるわけでもないからだ。
「絵麻ちゃん……でも、この部屋にいる人たちは逆に制服のような物があるわけではなさそうですね」
そう絵麻に声をかけてから、美雪は視線を壁際にあった横に長い大きな棚の方へと移した。
「そうね……見た限りだけれど、どれもバラバラだったもの。そう考えるのが自然ね」
と呟くかのように言って、絵麻もそちらへと顔を向ける。
棚は多数のプラスチックケースが敷き詰められており、先ほど開けて確認してみたところ、多数の衣服がそれぞれのケースにはしまわれていた。
そして、その中にあった服はサイズ違いが多々見受けられ、さらにほとんどが別の種類の物ばかりだった。
「確かに……絵麻ちゃんや美雪ちゃんの言う通りね。この部屋にいた組織の人々は特段統一したものを着ていたわけではなさそう……」
芹香が歯切れの悪い物言いをする。
「レジスタンス軍っていうくらいだからな。そりゃ制服なんてないだろう」
そう言葉を返してから、洋平が吐息をつく。
「洋平にしては、まともなことを言うわね」
鼻から薄い息を漏らしながら、麗が茶々を入れる。
「レヴィ・ジェットリー。それだけではなく、相応の人数がここで生活していたのではないかと思います」
早野が上司に報告するような口調で言う。
この部屋に存在する服や靴の数々、残留物など鑑みると、確かに彼の推察はもっともだった。
「それにしても……聞けば聞くほど物騒ですよね。レジスタンス軍なんて。ピースシップと真逆の印象を受けます」
自論を述べながら、美雪は眉を顰める。
「……美雪。でも、私たちがコールドスリープから目覚める前――そのかなり前に何かが発生したのよ。だから、ピースシップだって今はどんな感じになっているのかわからないわ」
絵麻が若干の疑問を呈した。
「私が撃たれたのは間違いなく彼らの所属する団体の人間たちのようだけれど……でも、服装だけでは判断できないのは確かね」
腕を組み直しながら、麗は自説を述べる。
「でも、モノレールなんてこの宇宙船地球号にあったんですね」
美雪が誰ともなく確認した。
「……俺も初めて聞いたよ」
と答えながら、俺は首を横に振った。
乗り物という意味合いでは、宇宙船地球号の通行は基本的に、無重力空間では浮いて壁に付けられたシャフトを持つなどの単体で高速移動ができる物を使用する。そして、重力装置範囲内では、街でエレクトロニクスカーのような車に乗る、もしくは単純にバイクのようなものに乗るなどで、電車に相当するモノレールのようなものはここにはないはずだ。
「まあ、心配しなくてもこの部屋の人が戻ってきたら色々とわかると思うよ。もちろん、モノレールの件も含めてね」
早野が俺にそう声をかけてきた。
この物言いであると、一年間辺りを芽衣と共に彷徨っていた彼でも、モノレールのことは知らないようだ。
「……早野。残念ながら、それは期待薄だ」
そう否定してから、麗は吐息をついた。
人差し指でテーブルの上をなぞり、そこについた大量の埃を俺たちに見せる。
「いったい、どれくらいの年月が経ったのかしら。ここで抵抗軍を組織していた人たちがこの自らの居場所に帰ってこなくなってから」
それを目にした芹香が、薄くそう声を漏らした。
と尋ねながら、麗がテーブルへと駆け寄る。
「えっとね。たぶん、この写真の場所だと思うよ、麗」
芽衣が近くの棚の上にあった写真を指し示した。
そこにあった写真を手に取った瞬間、麗はすぐに眉を顰めた。
「この写真の人たち……私を撃ったやつらが身につけていた服装と同じものを着ているわね」
怪訝な口調で言う。
「服装? 麗さん、もしかすると、それって前に言っていたあの黄色の制服とかいうやつか?」
麗の元へと向かい、俺は彼女の手の中にある写真をのぞき込んだ。
薄い黄色を基調としたジャケット。そして下には灰色のスラックス。それらを着込んだ数人の姿がその写真の中にはあった。
背景にはモノレールと思しき列車が映っており、その横には駅舎らしきものも見える。
「これを着たやつらが麗さんを撃った。そして、ここの人たちの仲間がそいつらに拘束された。ということは、彼らと俺たちにとってそいつらは共通の敵ということになるかな」
胸に抱いた推察をそのまま述べた。
「ピースシップの象徴は、確か黄色。私が知っている限り、色合いも同じような感じだった」
そう言って、絵麻は細身の顎に手を持っていく。
「あれ? こんな色だったけ? 東北ユーラシア支部ではちょっと違った気がしたけど」
麗が天井を見上げながら自問の言葉を述べる。
彼女の場合、その適当な性格からどこまでこの言葉を信用して良いかわからない。
案外単に彼らの存在を忘れていただけというようなこともありそうだ。
「でも、ピースシップってあれだろ……慈善団体じゃなかったっけ? NPOの人たちがそんなことするのか?」
洋平が少し反論するかのような口調で問いかけてきた。
「まあ、そうだな」
あっさりと洋平の意見に同意した。
特にピースシップについて何か自論があるわけでもないからだ。
「絵麻ちゃん……でも、この部屋にいる人たちは逆に制服のような物があるわけではなさそうですね」
そう絵麻に声をかけてから、美雪は視線を壁際にあった横に長い大きな棚の方へと移した。
「そうね……見た限りだけれど、どれもバラバラだったもの。そう考えるのが自然ね」
と呟くかのように言って、絵麻もそちらへと顔を向ける。
棚は多数のプラスチックケースが敷き詰められており、先ほど開けて確認してみたところ、多数の衣服がそれぞれのケースにはしまわれていた。
そして、その中にあった服はサイズ違いが多々見受けられ、さらにほとんどが別の種類の物ばかりだった。
「確かに……絵麻ちゃんや美雪ちゃんの言う通りね。この部屋にいた組織の人々は特段統一したものを着ていたわけではなさそう……」
芹香が歯切れの悪い物言いをする。
「レジスタンス軍っていうくらいだからな。そりゃ制服なんてないだろう」
そう言葉を返してから、洋平が吐息をつく。
「洋平にしては、まともなことを言うわね」
鼻から薄い息を漏らしながら、麗が茶々を入れる。
「レヴィ・ジェットリー。それだけではなく、相応の人数がここで生活していたのではないかと思います」
早野が上司に報告するような口調で言う。
この部屋に存在する服や靴の数々、残留物など鑑みると、確かに彼の推察はもっともだった。
「それにしても……聞けば聞くほど物騒ですよね。レジスタンス軍なんて。ピースシップと真逆の印象を受けます」
自論を述べながら、美雪は眉を顰める。
「……美雪。でも、私たちがコールドスリープから目覚める前――そのかなり前に何かが発生したのよ。だから、ピースシップだって今はどんな感じになっているのかわからないわ」
絵麻が若干の疑問を呈した。
「私が撃たれたのは間違いなく彼らの所属する団体の人間たちのようだけれど……でも、服装だけでは判断できないのは確かね」
腕を組み直しながら、麗は自説を述べる。
「でも、モノレールなんてこの宇宙船地球号にあったんですね」
美雪が誰ともなく確認した。
「……俺も初めて聞いたよ」
と答えながら、俺は首を横に振った。
乗り物という意味合いでは、宇宙船地球号の通行は基本的に、無重力空間では浮いて壁に付けられたシャフトを持つなどの単体で高速移動ができる物を使用する。そして、重力装置範囲内では、街でエレクトロニクスカーのような車に乗る、もしくは単純にバイクのようなものに乗るなどで、電車に相当するモノレールのようなものはここにはないはずだ。
「まあ、心配しなくてもこの部屋の人が戻ってきたら色々とわかると思うよ。もちろん、モノレールの件も含めてね」
早野が俺にそう声をかけてきた。
この物言いであると、一年間辺りを芽衣と共に彷徨っていた彼でも、モノレールのことは知らないようだ。
「……早野。残念ながら、それは期待薄だ」
そう否定してから、麗は吐息をついた。
人差し指でテーブルの上をなぞり、そこについた大量の埃を俺たちに見せる。
「いったい、どれくらいの年月が経ったのかしら。ここで抵抗軍を組織していた人たちがこの自らの居場所に帰ってこなくなってから」
それを目にした芹香が、薄くそう声を漏らした。
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