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第89話 047 南欧連合支部北部イタリア管理区域ミラノドリームピースランド・漆原洋平ルート(2)
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ふと、圭介と早野の姿が脳裏を過る。
彼らは間違いなく自分にないものを持っている。
実際にそれが何かはわからない。
だが、背負っている何かが彼らの背中にあるのであろうことは、訊かなくともその影から容易に想像がついた。
そして、そんな彼らと一緒にいると、改めて自分の短絡さ。すなわち稚拙さを常に思い知ることになる。
今回のようなサバイバル条件下では何もできない自分。それに対し、圭介はナイフ、早野はスナイパーライフル。どれをとっても彼らには敵わない。
自分にできることなんてせいぜい彼らの討ち漏らしを掃除することくらいだ。
バックグラウンドが薄っぺらなせいであるのは重々承知している。
この同種に支配された世界においての自分は、きっと薄っぺらどころかそのバックグラウンドさえ描かれない漫画のモブキャラのような立場でしかないのだろう。
圭介や早野は、高校バスケ最後の試合、あの相手校エースのように薄っぺらではない何かを持っていて、降りかかるすべての逆境を跳ねのける主人公的な立場の人間だ。
何もそれは彼らだけではない。
彼ら以外においてもそれは同様だ。芽衣、姫という年端もいかない女の子を含めて、自分以外の全員が自分にはないものを持っているように思えた。
何かしら俺にもないのだろうかと彼らとの付き合いを通して自問したが、何の解答も頭に浮かばなかった。
同種のうめき声が複数ミラーハウス入り口の方角から聞こえてくる。
騒ぎが始まってまだそんなに時間は経っていない。
こんなに早くこの場にくるとは、かなり早いスピードで増殖しているようだ。
視野の悪いミラーハウスに入ったのは失敗だった。
それに、通路奥に身を置いている今の状態は危険すぎる。このままここにいては袋小路にされてしまう。
洋平はそう目算した。
鏡の中の通路を足早に歩いた。
走り出したいところだが、鏡に別の通路が反射する。それが本物の通路なのか鏡なのか。近づかないと判別がつかないほどわかりにくい。
角を曲がると、いきなり男が目の前に現れた。
一瞬同種かと思ったが、風体からするとどうやら人間のようだ。
その男は入り口は完全に同種に塞がれたと教えてくれた。
こちらに出口はないと伝えると、彼は右側の通路を指さし、このミラーハウスには二つ入り口があり、もう片方から出れる可能性があると言った。
彼としばらく行動を共にした。
だが、入り組んだ鏡の配置のせいで、いつの間にか彼の姿は洋平の傍からなくなっていた。
そして、その彼を探す余裕など洋平には与えられなかった。
鏡の陰から同種の手が洋平の顔へと伸びてきた。
それを咄嗟にかわす。
目を一瞬伏せバックステップしたせいか、次に視線を前に戻すとその手は重なった鏡に反射し複数本あるように見えた。
「いや、さっきの同種の手とは違う……」
と、口から独り言を漏らす。
先ほどの同種のものとは、明らかに違う手がそこにはあった。
次の瞬間、同種の顔や身体が鏡に映り出した。
これでは、どれが同種なのか、どれが鏡なのかがわからない。
先ほどの通路と鏡の関係と同じく、まったく状況が判別できない状態となった。
「クソ……やるしかないか」
洋平はそう声を漏らすと、正面にあった天井まである鏡を思いっきり蹴った。
その鏡は割れはしなかったが、奥の方へとその身を下げた。
どうやら床に沿って小さなローラーが付属しているらしく、ある程度は移動してくれるようだ。
その後、周囲にあった同じようなサイズの鏡を蹴り続けた。
道は格段に広くなった。
また、幸運なことに後ろへと下がったそれらの鏡は、同種たちの身体に当たり出し、瞬く間に洋平の位置から彼らを遠ざけてくれた。
ある程度身を守れる道は、これで確保できた。
そう判断するや否や、前方へと走り出す。
少し奥には先ほどの男が教えてくれたものと思われる入り口が見えた。
だが、その手前には多数の同種が。武器を一切手にしていない洋平にとっては到底相手にできる数ではない。
「また何もできないのか、俺は。これではいつもの通り……」
意図もしていないのに、そのような台詞が口をついた。
その場で立ち止まる。
何かできることはないのか、何かしら俺の得意なものはないのか。
武器を探そうと周囲を確認した。だが、辺りには工具すら見えない。
諦めにも似た気持ちで、天井を見上げた。
一枚鏡には、先ほどと同じようにポツンと洋平ひとりの姿が映っていた。
「……あった。あるじゃないか、俺にも!」
洋平はそう言葉を吐くと、後ろに少し下がってから助走を始めた。
次の瞬間には、鏡と鏡の間にあったコンクリートの柱目掛けてジャンプする。
その柱を蹴りつけ、さらに宙へと飛びあがった。
身体が同種たちの頭より高い位置へと浮く。
考えてもみなかったことなのかは不明だ。
だが、同種たちは正面を向いたまま。上にいった洋平の身体を視界に入れている者はひとりもいなかった。
同種の群れの内の頭ひとつに足を置く。それを踏み台にしてもう一度飛び跳ねた。
今回はかなり距離が稼げた。
最後にとばかり、もう一度同種の頭を蹴りつけ身体を跳ねあがらせる。宙で足を何度かウォークさせた。
同種の一群の後方へと身体が抜ける。
着地した瞬間、すぐに動き出した。
入り口に向かい外に出る。鏡のドアを急いで閉め、近くにあったほうき棒を取っ手の隙間に差し込んだ。
同種たちのうめき声や、ドアを叩く音が耳に入ってくる。
だが、しばらくの間それらはそこから出てこれそうにはなかった。
彼らは間違いなく自分にないものを持っている。
実際にそれが何かはわからない。
だが、背負っている何かが彼らの背中にあるのであろうことは、訊かなくともその影から容易に想像がついた。
そして、そんな彼らと一緒にいると、改めて自分の短絡さ。すなわち稚拙さを常に思い知ることになる。
今回のようなサバイバル条件下では何もできない自分。それに対し、圭介はナイフ、早野はスナイパーライフル。どれをとっても彼らには敵わない。
自分にできることなんてせいぜい彼らの討ち漏らしを掃除することくらいだ。
バックグラウンドが薄っぺらなせいであるのは重々承知している。
この同種に支配された世界においての自分は、きっと薄っぺらどころかそのバックグラウンドさえ描かれない漫画のモブキャラのような立場でしかないのだろう。
圭介や早野は、高校バスケ最後の試合、あの相手校エースのように薄っぺらではない何かを持っていて、降りかかるすべての逆境を跳ねのける主人公的な立場の人間だ。
何もそれは彼らだけではない。
彼ら以外においてもそれは同様だ。芽衣、姫という年端もいかない女の子を含めて、自分以外の全員が自分にはないものを持っているように思えた。
何かしら俺にもないのだろうかと彼らとの付き合いを通して自問したが、何の解答も頭に浮かばなかった。
同種のうめき声が複数ミラーハウス入り口の方角から聞こえてくる。
騒ぎが始まってまだそんなに時間は経っていない。
こんなに早くこの場にくるとは、かなり早いスピードで増殖しているようだ。
視野の悪いミラーハウスに入ったのは失敗だった。
それに、通路奥に身を置いている今の状態は危険すぎる。このままここにいては袋小路にされてしまう。
洋平はそう目算した。
鏡の中の通路を足早に歩いた。
走り出したいところだが、鏡に別の通路が反射する。それが本物の通路なのか鏡なのか。近づかないと判別がつかないほどわかりにくい。
角を曲がると、いきなり男が目の前に現れた。
一瞬同種かと思ったが、風体からするとどうやら人間のようだ。
その男は入り口は完全に同種に塞がれたと教えてくれた。
こちらに出口はないと伝えると、彼は右側の通路を指さし、このミラーハウスには二つ入り口があり、もう片方から出れる可能性があると言った。
彼としばらく行動を共にした。
だが、入り組んだ鏡の配置のせいで、いつの間にか彼の姿は洋平の傍からなくなっていた。
そして、その彼を探す余裕など洋平には与えられなかった。
鏡の陰から同種の手が洋平の顔へと伸びてきた。
それを咄嗟にかわす。
目を一瞬伏せバックステップしたせいか、次に視線を前に戻すとその手は重なった鏡に反射し複数本あるように見えた。
「いや、さっきの同種の手とは違う……」
と、口から独り言を漏らす。
先ほどの同種のものとは、明らかに違う手がそこにはあった。
次の瞬間、同種の顔や身体が鏡に映り出した。
これでは、どれが同種なのか、どれが鏡なのかがわからない。
先ほどの通路と鏡の関係と同じく、まったく状況が判別できない状態となった。
「クソ……やるしかないか」
洋平はそう声を漏らすと、正面にあった天井まである鏡を思いっきり蹴った。
その鏡は割れはしなかったが、奥の方へとその身を下げた。
どうやら床に沿って小さなローラーが付属しているらしく、ある程度は移動してくれるようだ。
その後、周囲にあった同じようなサイズの鏡を蹴り続けた。
道は格段に広くなった。
また、幸運なことに後ろへと下がったそれらの鏡は、同種たちの身体に当たり出し、瞬く間に洋平の位置から彼らを遠ざけてくれた。
ある程度身を守れる道は、これで確保できた。
そう判断するや否や、前方へと走り出す。
少し奥には先ほどの男が教えてくれたものと思われる入り口が見えた。
だが、その手前には多数の同種が。武器を一切手にしていない洋平にとっては到底相手にできる数ではない。
「また何もできないのか、俺は。これではいつもの通り……」
意図もしていないのに、そのような台詞が口をついた。
その場で立ち止まる。
何かできることはないのか、何かしら俺の得意なものはないのか。
武器を探そうと周囲を確認した。だが、辺りには工具すら見えない。
諦めにも似た気持ちで、天井を見上げた。
一枚鏡には、先ほどと同じようにポツンと洋平ひとりの姿が映っていた。
「……あった。あるじゃないか、俺にも!」
洋平はそう言葉を吐くと、後ろに少し下がってから助走を始めた。
次の瞬間には、鏡と鏡の間にあったコンクリートの柱目掛けてジャンプする。
その柱を蹴りつけ、さらに宙へと飛びあがった。
身体が同種たちの頭より高い位置へと浮く。
考えてもみなかったことなのかは不明だ。
だが、同種たちは正面を向いたまま。上にいった洋平の身体を視界に入れている者はひとりもいなかった。
同種の群れの内の頭ひとつに足を置く。それを踏み台にしてもう一度飛び跳ねた。
今回はかなり距離が稼げた。
最後にとばかり、もう一度同種の頭を蹴りつけ身体を跳ねあがらせる。宙で足を何度かウォークさせた。
同種の一群の後方へと身体が抜ける。
着地した瞬間、すぐに動き出した。
入り口に向かい外に出る。鏡のドアを急いで閉め、近くにあったほうき棒を取っ手の隙間に差し込んだ。
同種たちのうめき声や、ドアを叩く音が耳に入ってくる。
だが、しばらくの間それらはそこから出てこれそうにはなかった。
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