193 / 262
外伝
土を食う執政官
しおりを挟む「また、この人たち、土いじりしてる」
カシスはレオナールに見られたのが恥ずかしくて、少し馬鹿にしたように呟いた。
「ふうん。なるほどね」
彼女の言葉は耳に入らず、レオナールは職員たちの動きを真剣に見つめている。
「あら、カシスちゃん、こんなところに来るなんて珍しいわね。そちらの方は?」
職員の一人が声をかけると、みんなの視線が一斉に注がれた。
「えっと……新しい執政官の方よ」
カシスが答えたが、レオナールは農地に入り、自分が名乗っていないことに初めて気がついた。
だが職員たちの反応は冷たく、いや、敵意すら感じられた。
「レオ……」
名乗ろうとしたその瞬間、声が遮られた。
「執政官様、農政の運営は商会たちがうまくやっているよ」
「ああ、金は使わないから安心してくれ。財務にもそう言ってある」
彼らはそう言い捨てると、再び土を掘り起こし、輪になって議論を始めた。
「農政局は今までイズモ様のご担当だったんだ。でも商会に取り上げられて、こんなことに……」
カシスがレオナールに説明するが、彼は職員たちの会話に夢中で聞いていない様子だった。
「だから、この土地の土は肥沃なんだ。あまり手を加えない方が……」
「違う。それでは場所によって収穫量に差が出てしまう」
レオナールは足元の土を拾い上げ、指で触れ、口元に含んだ。
「執政官、何を?」
カシスが思わず大声をあげると、職員たちが一斉に振り返った。
「これは素晴らしい黒土ですね。王都の新しい肥料を混ぜている。これでは過剰すぎます」
レオナールは冷静に指摘した。
「わかるのか?」職員たちは驚きを隠せなかった。
「もちろんです。それより、自然の堆肥がきちんと撒かれているか、全ての農家を調べましょう。それに害虫の被害も考慮し、この土に合う農薬の研究も進めるべきです」
突然現れた執政官の博学ぶりに、職員たちはざわめき始めた。
「カシス、執政官様は何者だ?」
「……」カシスは首を振り、答えられなかった。
「紹介が遅れました。私はレオナール・ノクスフォードと申します。どうぞよろしく」
彼がそう名乗ると、職員たちは一斉に農地に膝をつき、頭を下げた。
「失礼いたしました。サクナヒメ様のフィアンセの方とは……」
「あの高名なノクスフォード男爵にお会いできるとは」
「論文も拝読しましたし、『趣味の園芸』も毎週欠かさず読んでおります。ファンです」
レオナールは勉強は得意ではなかったが、農業に関しては若手研究者として名を馳せていた。
「まったく、現金な人たちね」
カシスは苦笑しつつも、サクナ様のことをあれこれ聞き出そうと、内心で野心を燃やしていた。
0
あなたにおすすめの小説
転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜
みおな
ファンタジー
私の名前は、瀬尾あかり。
37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。
そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。
今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。
それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。
そして、目覚めた時ー
勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました
久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。
魔法が使えるようになった人類。
侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。
カクヨム公開中。
魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡
サクラ近衛将監
ファンタジー
女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。
シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。
シルヴィの将来や如何に?
毎週木曜日午後10時に投稿予定です。
ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい
空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。
孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。
竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。
火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜?
いやいや、ないでしょ……。
【お知らせ】2018/2/27 完結しました。
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる