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王都獣人救出作戦
しおりを挟む「遅いっ!」
仁王立ちのセレナが、坂道を汗だくで駆け上がってくるハンマーに怒声を浴びせた。
その一喝に、狼も獣人も思わず背筋を正す。
「……手配完了しました。まもなく、我らネグラロサの軍船が到着します」
息を切らせながらも、ハンマーは報告する。その目には、ここ数時間の必死の奔走が滲んでいた。
「違うわ、ハンマー。掲げるのはエリシオン国の軍旗よ!」
「……はっ。ですが、旗を持っておりません」
セレナは静かに手を開いた。そこには、鮮やかな三色旗のエリシオンの旗が現れる。
「なっ……いつの間に? 収納魔術ですか?」
「うるさい。秘密よ」
――セレナには、アキラと共用する“隠し倉庫”があったのだ。
「怪我人と非戦闘員は置いていく。軍船に乗せろ。牢にはこの島の看守を全員閉じ込めてある。出たら命の保証はしないと告げてきた」
「承知しました。獣人の情報収集も進めています。各家の外には白旗を掲げさせました。まずは商会連合の店舗へ」
「わかった」
そのやり取りを最後に、セレナは踵を返す。
※
ネグラロサ――大陸最大の商会にして、同時に海を制す海賊でもある。
主力はすでにエリシオンへ先行させ、残された者は王都で監視と諜報に回していた。
その傀儡組織である商会連合にも、すでに連絡は回っている。
今回送った符号は、最上位級――超需要SSS。
ハンマーですら扱ったことのない符号だった。
『王都にいる獣人族を全員保護せよ。相手が誰であろうと構わない。金は払う。だが協力を拒めば、罰は下る――アルマダ』
商会連合は、閉店したすぐ後に、店舗を開いた。それは異様な風景だった。
普段は閉じられている門は全て開けられて、屋敷の高層階から数多くの白い大旗がたらされ、煌々と光を灯された。
社員は全員出社させられた。
「夜中ですよ、支店長? いったい何事ですか? 狼が吠えてて危ないですよ」
若い社員は何もわかっていない。エリートで、大企業、ホワイト企業だとおもっているからだ。
「うるさい! だまれ!」 新人社員に、ベテラン社員が怒る。
ベテラン社員ほど、わかっている。魔物との戦争で、物流を受け持っていたものも多い。ネグラロサだけで手が足りず、自分たちにも役割が回って来たことに血をたぎらせていた。
「獣人を一人でも多くここにすぐに連れてこい! 反対する者には、金で解決しろ。それでも駄目な者は、わしに連絡を! これは俺たちの戦争だ。俺たちの力をアルマダ様に、ネグラロサに、いや大陸中に示す時が来た」
いつもはスーツ姿の温厚な表情を崩さない支店長が、海賊の姿をして、社員全員の前に立っている。社員も普段とは服装が違う。冒険者の姿だ。
「なぜそんなことを?」
支店長の拳が、発言した新人社員を壁まで殴り飛ばした。
「すぐにかかれ! 知恵を絞れ! 幹部社員は、奴隷商会を回れ! もちろん戦闘可だ!」
※
「では、ご武運を」
「行くわよ、ルナ。獣人族を全員助け出す!」
セレナ、ルナ、そして狼たちが、濁流をたたえる川へ飛び込んだ。
川の水が炸裂し、瞬く間に身体を呑み込む。だが彼らはためらわない。
「すげえ……あの流れを泳いで渡るのかよ」
軍船の甲板で見ていたネグラロサたちが、呆然と呟く。泳ぎの得意の彼らからしても異常だった。
「見惚れてる暇はない。渡船の準備をしろ!」
ハンマーの叱咤が響く。
「へーい!」
元気な返事と共に、船員たちは小型艇を降ろして漕ぎ出した。
ハンマーは即座に役割を割り振る。船員と残った獣人族がてきぱきと動く姿は、さすが元・王国支店長というべき采配だった。
「まさか……監獄を一瞬で解放し、この島を丸ごと掌握するとは」
川を切り裂くように泳ぐセレナの背を見つめ、ハンマーは呟いた。
※
対岸。
すでにハートフェルトたちが待ち構えていた。
駆け寄ったナナは父の胸に飛び込み、涙の再会を果たす。
その光景に、周囲の狼人族たちが一斉に歓声を上げた。勇気の炎が、彼らの瞳に宿る。
「家族と合流できた者は、エリシオンの旗を掲げた船へ! これは合言葉だ!」
「はいっ!」
「では、私とルナは先行する。エリオン、リアナ。お前たちは後続の獣人と共に救出に向かえ!」
「え? 私も行くの……?」
リアナは目を丸くした。だが――
「もちろんだ、副ギルド長! 一緒に頑張ろう!」
エリオンの声に、彼女も気圧されてうなずく。
気づけば、セレナとルナはもう姿を消していた。
「大丈夫だ。セレナさんたちが先に難敵を片付けてくれる」
ハートフェルトの笑みが、皆を安心させた。
この救出作戦は、決して即興ではない。
ハンマーが船を整える間、セレナは牢から解き放った獣人たちに家族の居場所を訊き出していたのだ。
※
王都に、狼の遠吠えが再び轟いた。
「ワオオオオン――」
家々の戸が閉まり、人々は身を潜める。
爪が石畳を削り、暗がりを駆け抜けていく。
「まずは商会連合の店舗……どこだ? まあ、誰かに聞けばいいか」
普段なら人で溢れる大通りは、いまや空虚。自分たちのせいで道に人が歩いていなかった。
その静寂を裂くように、狼と少女たちの影が、王都を駆け抜けていった。
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