完結 断罪された悪役令嬢に、引きこもり廃ゲーマーが転生。ゲーム終了後の貧乏平民からの無双。リリカ・ノクスフォードのリベリオン

織部

文字の大きさ
4 / 128

王都商会と寝巻きジャージ

しおりを挟む
リリカの住んでいた屋敷は、実はよく知らない。なにせ、ゲームでは敵の本拠地だったのだ。いったい何があるのだろう? 拷問道具? 怪しい魔道着?

「……あの、宰相様のお屋敷は、既に大商人イセヤが王国から譲り受けております。詳しい事情は分かりませんが……たしか、息子のカンクローが住んでいるとか」

「何ですって!」
 ああ、見たかったのに。何が隠されていたのか……!
 私が興奮していたのを怒りと勘違いしたのか、ナイルは口を閉ざしてしまった。

「イセヤ、ねぇ。伊勢屋勘九郎。いせやのかんちゃん」

 透き通るような白い肌。まるまると太った体型。少し動くだけで滝のような汗をかき、興奮すれば頬が真っ赤に染まる――まるで子どものような外見。
 
ゲームでは、いつも無理難題を押しつけられていた、気の毒な子だった。

「せっかくだし、会いに行きましょう」
 私が自分から外出を望むなんて、歴史的快挙である。

「ですが……会ってもらえるか、わかりませんよ、リリカ。相手は王国の御用商人ですから」
「かまわないわ。王都に戻ったら、立ち寄りましょう。それで、私はどこに泊まるの?」
「すみません……我が家に」

 ナイルはそう答えると、どこか気まずそうに目を伏せた。

 ちょうどそのとき、密談を終えたエマが応接に戻ってきて、話をさらりと中断した。

「さて、リリカ様。王都に戻るとなれば、必要なものがいろいろございます。買い物に出かけましょう?」

 エマは嬉しそうに微笑んでいた。おそらく、これまで貧しさの中で何も買えなかったのだろう。泡銭の勢いで物欲を解放したい、という気配が溢れている。

「え? でも……」
 人に会うのは、正直気が進まない。でも、王都に戻るなら、嫌でも人の中に飛び込まなくてはならない。その予行演習と思えば、悪くはないのかもしれない。

「それでは、私もご一緒して宜しいですか? この国でしか手に入らない品もございますので」
 ナイルがそっと同行を申し出てきた。

 私は、人に会うことへの恐怖と、買い物への無関心を押し殺して――ゲームには存在しなかったこの国の市場を、ほんの少しだけ、楽しみに思いながら、外出に同意した。



 村から少し離れた、大きな町。
 エマが連れてきたのは、天井にシャンデリアがきらめく、高級そうな服屋だった。

「リリカ様が、王国に戻って恥ずかしくないように」
「お金の無駄よ」

 ごちゃごちゃ着飾るのは好きじゃない。コルセットなんて、綺麗に見えるかもしれないけど、ただただ苦しいだけ。

「ああ、黒のドレスはお願いね。今と同じデザインのやつ」
 私の勝負服だけは、絶対に妥協できない。
「それなら、王都の店ですね」
 ナイルが控えめに口を挟む。

「じゃあ、ここでは――下着と、エマのメイド服を買いましょう!」

 エマに可愛いメイド服を着せたい! 私のヲタク心に、いきなり火がついた。

 エマでファッションショーだ。フリル、レース、クラシカルな黒、ゆるふわな白――。

 試着室のカーテンが開くたびに、至福の時間が流れていく。

「……なんだか、リリカ様のご趣味が広がっておられる気がしますね……」

 ナイルが小声で呟いた。呆れと困惑と、それでもどこか微笑ましさの滲んだ表情。止めようとしないのは、諦めか、理解か――あるいはその両方。

「ところで、ジャージはないの?」
「ジャージですか……?」

 首を傾げるエマに、私は真剣な顔で答えた。
「うーん、庶民の服屋に行きましょう」

 薄くて、軽くて、そのまま寝られる服が欲しい。できればリユース品なら最高だ。

「これこれ!」
 私は気に入った服を、次々と荷箱に放り込んでいく。デザインも素材も無視して、ひたすら直感に従って。

「……この素材をリリカ様が……いえ、止めませんが……」
 ナイルが眼鏡を軽く持ち上げる。その横顔には、わずかに呆れと、ほんの少しの親しみが混ざっていた。

 ……が、エマのチェックは容赦なかった。ほとんどが却下されていく。

「もう、エマったら……もう買い物飽きたわ。あとは任せる。ご飯に行きましょう」

 寝巻き用の服だけは死守して、私たちは食事に向かった。

 店員とほとんど会話せずに済んだことに、私は内心ひっそりと安堵していた。



 その町でも指折りの、少し高級な食堂。
「え、こんなに美味しかったっけ!」

 パンをチーズの池に浸す――いわゆるチーズフォンデュ。なのに、とんでもなく美味しい。さすがはグルマン、ナイルのチョイスだ。

 いつもの私の朝食(昼食)は、食パンにスライスチーズ。それと比べたら、まさに天と地。

 チーズがまろやかに絡みつき、口の中でとろける。エマも嬉しそうに頬を緩めている。この店は、この国でも有名なカフェらしい。

「他にも、プレーンオムレツ、グリルビーフ、チョコレートムースも注文しましたので」

 ナイルがさりげなく告げた料理は、どれも文句なしの絶品だった。くやしいけれど、本当に美味しかった。

「……ファミレスとコンビニレベルかしら?」
「え?」
「いや、何でもない」

 満腹になった私は、だんだんとまぶたが重くなってきた。
 ナイルの野郎が、「良い香りですよ」とワインまで勧めてきたせいもある。

 けれど――ふと、不安がよぎった。

「……これ、夢オチじゃないよね」
 絶対に寝ない、そう決めたはずだった。けれど。
 帰りの馬車の中、私はエマに抱きつくようにもたれかかり、そのまま、いつの間にか眠りに落ちていた。

 まどろみの中、誰かが肩にそっと布をかけてくれた気がした。
 あたたかくて、柔らかくて、少しだけ泣きそうになるほど、心地よかった。

 これが夢でないことを祈りながら、私は静かに眠りに落ちた。

【後がき】

 お時間を頂き、読んで頂き有難うございます。♡等で応援頂きますと、今後も励みになります。又、ご感想やレビュー等も一行でも頂けますと、飛び上がって喜びます。 引き続きよろしくお願いします!  織部
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~

巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!? //////////////////////////////////////////////////// 悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。 しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。 琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇! ※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……? ※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。 ※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。 隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~

翡翠蓮
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

処理中です...