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光の御木、王都へ行く
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二本の大木を引きずって、ティア様の待つ湖にたどり着いた。
「遅かったね。――あれ、一方はスサノオの木じゃない?」
「実は……」
私は、“あの少年の声”について、ティア様にすべて打ち明けた。
「なるほどね。峻烈な王と呼ばれたスサノオだけど、本当はとても優しい子なのよ。隠れファザコンでもあるしね。魂が共鳴したのね、きっと」
ティア様の笑みに促され、王都近郊の丘へと木々を移送する段取りが整った。そこから先は、私たちの仕事だ。
私はガンツ隊に招集をかける。
王都に近づきすぎると、突然現れた大木が不審視される恐れがある。(……まあ、この丘からでも十分に怪しいのだけれど)
「わっしょい、わっしょい!」「よーいっとせ!」
掛け声とともに、大木が動き出す。まるで祭りのような空気だった。私たちの使命に、楽しさが混ざっていた。
「何をしているんだ?」
馬上から王都の検問所の男が声を上げた。
「父の馬車の材料を運んでいます」
私の答えに、彼は目を輝かせた。
「俺の勤務もあと少しだ。是非とも手伝わせてくれ!」
そう言うと、彼は検問所へ駆け戻り、待機中の職員や市民を引き連れてやって来た。
「バルト様への恩返しだ! あの冬、薪を配ってくれた恩は忘れてねぇ!」
民の数が増え、声が空を満たす。
「俺たちにも運ばせろ!」「手伝わせてください!」「僕たちも引っ張りたい!」
貧民街の老人たち、子供たち、商人、職人、旅の者。誰もが手を差し伸べようとしていた。
そして、あっという間に目的地――馬車職人の工房に到着する。
だが、民衆はまだ名残惜しそうに立ち尽くしていた。
「――さらに大きな木が、もう一本あります! ぜひ、運ぶのを手伝ってください!」
私は大木の上から呼びかけた。
空気が震える。
「おおーっ!」「わあい! もっと大きいんだって!」
スサノオの木が現れると、その身から霊光があふれ、荘厳な光が王都を照らした。
「なんだ、あの木の光は……」
どよめきが走る。その中で、一人の老婆がゆっくりと立ち上がった。
「……足が、軽い。長年、動かなかったのに……」
スサノオの木は、祝福の木だった。
セバスチャンが高く掲げたのは、白地に盾とドラゴンが描かれたノクスフォード家の大旗。
スサノオ大王の妹・サクナヒメの血を引く、王国東方の守護貴族。
「旗が上がったぞ!」「ノクスフォードの旗だ!」
その声に、私はセバスを睨むが――彼はうっとりと旗を見上げていた。
「……やりすぎじゃない?」
私は嘆息しながら、進行を再開させる。
最悪、王都騒乱と見なされれば、首謀者は死刑だ。もちろん、彼に責任を押しつける気はない。
「ガンツ隊は誘導を! 門の衛兵たちは交通整理をお願いします! 安全第一で!」
空には歌声が満ちていた。
「エンヤ、エンヤ――神の御木を曳くは我らの誇り!」
そして、工房街の手前――。
王都守備騎士団の数名が、進路を塞いだ。
「これは何だ! 首謀者、前へ出ろ!」
私は一歩前に出ようとするが、門番の一人が制止し、代わりに警備長が叫んだ。
「市民の祭りです!」
「そんな申請は出ていないぞ! 暴動と見なすぞ!」
「法律上、申請は不要です。安全配慮義務も満たしています」
私が静かに進み出て、毅然と告げた。
「首謀者は……リリカ様、か」
周囲がざわめく。だが、私は迷いなく宣言した。
「――工房に到着しました。これにて祭りは終了です」
明確な収束宣言。騎士たちに口実を与えない、ギリギリの手綱捌きだ。
「じゃあ、万歳三唱で解散だ!」
「クリスフォード家、万歳! バルト様、万歳! リリカ様、万歳!」
……やれやれ、それじゃまるでデモ行進じゃない。
私はただ、騎士たちがこれ以上は追わないことを祈っていた。
※
「こんな立派な木で馬車が作れるなんて……こりゃあ、腕が鳴るな!」
工房長の目が、まばゆい木の幹に輝いている。
「お願いします。ただし――この光る木については、余りが出ても、他の方へはお売りしないでください」
「そうか……残念だが、仕方ないな」
取引は順調に進み、むしろ私たちが大金を受け取る形になった。交渉は、すべてセバスに任せた。
馬車の完成には数日かかる。その間に、私はもう一度、パールの家を訪ねた。
だが、家は空だった。家具も何もない。整然としていた。
荒らされた形跡もない――だが、不穏な沈黙が残っていた。
「行方を至急調査します」
「……ええ、お願いね」
引っ越しか、それとも――。
何かが、ふいに遠くへ滑り落ちていった気がした。
「遅かったね。――あれ、一方はスサノオの木じゃない?」
「実は……」
私は、“あの少年の声”について、ティア様にすべて打ち明けた。
「なるほどね。峻烈な王と呼ばれたスサノオだけど、本当はとても優しい子なのよ。隠れファザコンでもあるしね。魂が共鳴したのね、きっと」
ティア様の笑みに促され、王都近郊の丘へと木々を移送する段取りが整った。そこから先は、私たちの仕事だ。
私はガンツ隊に招集をかける。
王都に近づきすぎると、突然現れた大木が不審視される恐れがある。(……まあ、この丘からでも十分に怪しいのだけれど)
「わっしょい、わっしょい!」「よーいっとせ!」
掛け声とともに、大木が動き出す。まるで祭りのような空気だった。私たちの使命に、楽しさが混ざっていた。
「何をしているんだ?」
馬上から王都の検問所の男が声を上げた。
「父の馬車の材料を運んでいます」
私の答えに、彼は目を輝かせた。
「俺の勤務もあと少しだ。是非とも手伝わせてくれ!」
そう言うと、彼は検問所へ駆け戻り、待機中の職員や市民を引き連れてやって来た。
「バルト様への恩返しだ! あの冬、薪を配ってくれた恩は忘れてねぇ!」
民の数が増え、声が空を満たす。
「俺たちにも運ばせろ!」「手伝わせてください!」「僕たちも引っ張りたい!」
貧民街の老人たち、子供たち、商人、職人、旅の者。誰もが手を差し伸べようとしていた。
そして、あっという間に目的地――馬車職人の工房に到着する。
だが、民衆はまだ名残惜しそうに立ち尽くしていた。
「――さらに大きな木が、もう一本あります! ぜひ、運ぶのを手伝ってください!」
私は大木の上から呼びかけた。
空気が震える。
「おおーっ!」「わあい! もっと大きいんだって!」
スサノオの木が現れると、その身から霊光があふれ、荘厳な光が王都を照らした。
「なんだ、あの木の光は……」
どよめきが走る。その中で、一人の老婆がゆっくりと立ち上がった。
「……足が、軽い。長年、動かなかったのに……」
スサノオの木は、祝福の木だった。
セバスチャンが高く掲げたのは、白地に盾とドラゴンが描かれたノクスフォード家の大旗。
スサノオ大王の妹・サクナヒメの血を引く、王国東方の守護貴族。
「旗が上がったぞ!」「ノクスフォードの旗だ!」
その声に、私はセバスを睨むが――彼はうっとりと旗を見上げていた。
「……やりすぎじゃない?」
私は嘆息しながら、進行を再開させる。
最悪、王都騒乱と見なされれば、首謀者は死刑だ。もちろん、彼に責任を押しつける気はない。
「ガンツ隊は誘導を! 門の衛兵たちは交通整理をお願いします! 安全第一で!」
空には歌声が満ちていた。
「エンヤ、エンヤ――神の御木を曳くは我らの誇り!」
そして、工房街の手前――。
王都守備騎士団の数名が、進路を塞いだ。
「これは何だ! 首謀者、前へ出ろ!」
私は一歩前に出ようとするが、門番の一人が制止し、代わりに警備長が叫んだ。
「市民の祭りです!」
「そんな申請は出ていないぞ! 暴動と見なすぞ!」
「法律上、申請は不要です。安全配慮義務も満たしています」
私が静かに進み出て、毅然と告げた。
「首謀者は……リリカ様、か」
周囲がざわめく。だが、私は迷いなく宣言した。
「――工房に到着しました。これにて祭りは終了です」
明確な収束宣言。騎士たちに口実を与えない、ギリギリの手綱捌きだ。
「じゃあ、万歳三唱で解散だ!」
「クリスフォード家、万歳! バルト様、万歳! リリカ様、万歳!」
……やれやれ、それじゃまるでデモ行進じゃない。
私はただ、騎士たちがこれ以上は追わないことを祈っていた。
※
「こんな立派な木で馬車が作れるなんて……こりゃあ、腕が鳴るな!」
工房長の目が、まばゆい木の幹に輝いている。
「お願いします。ただし――この光る木については、余りが出ても、他の方へはお売りしないでください」
「そうか……残念だが、仕方ないな」
取引は順調に進み、むしろ私たちが大金を受け取る形になった。交渉は、すべてセバスに任せた。
馬車の完成には数日かかる。その間に、私はもう一度、パールの家を訪ねた。
だが、家は空だった。家具も何もない。整然としていた。
荒らされた形跡もない――だが、不穏な沈黙が残っていた。
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