43 / 128
黒船商会襲撃
しおりを挟む
私は、驚いた。いや、思わず驚きの声をあげてしまった。
「失礼ね、これでもマリスフィア公爵家の令嬢よ」
「そうですね……失礼しました」
「そう思うわよね。私のことを調べたら?」
クルミは意地悪く笑みを浮かべた。私は黙って頷く。
「遠慮のない子ね。私が聖女候補として引き取られた養女だって聞いたんでしょ?」
「はい」
「だけど、本物の聖女が現れた。一点の曇りもない、本物の聖女――『ソフィア』がね」
それは彼女の地位を揺るがし、誹謗中傷を浴びた。ドノバンの情報で、すでに知っていた。
「……大変でしたね」
「いいえ、その時わかったのよ。マリスフィア侯爵――いや父さんのこと。父さんはこう言ったの。『それは良かった。クルミは自由に生きることができる。俺のお前への気持ちは変わらない』って」
ただ政治のために養女を取ったわけじゃないと。
「変なことを言って、すみません」
「ううん。多くの人に手のひらを返されたのも事実よ。でも、父さんが守ってくれた」
それだけ言うと、彼女は深い思考に沈んだ。
「リリカ。さて、そろそろ着くわね。頑張りましょう」
黒船商会は、なぜか王都の外側にある古い廃城を改修して事務所にしていた。王都内には黒船屋という店舗もあるのに。
錆びた鉄の柵で閉じられた門。
「やりなさい!」
御者の男が魔術を撃つ。鉄の柵はばたんと倒れ、何事もなかったように廃城へと馬車は走り出す。
(やるなぁ、マリスフィアのセバス……!)
思わず心の中で賞賛した瞬間――。
「あなたの家のセバスのようでしょ」
クルミが私の目を覗き込む。
(ま、まずい……! この人、読心術できるの!? 確かめよう、心の中でクイズでも出してみるか)
(今日の私の下着の色は?)
「さあ、突撃よ!」
クルミは私のクイズを完全に無視して、馬車から飛び降りた。
(無視された……私の立場はどこへ!?)
慌てて私も飛び降りる。
「王国の特別監査だ! 開けなければ、強制執行する!」
いつの間にか、黒いスーツ姿の男たちが玄関の前に並んでいた。
「はぁ、この人たちは?」
私はクルミに尋ねる。
「私の手の者よ。二人じゃ手が足りないからね。――内緒だよ」
中には人の気配。話し声が聞こえてくる。
「時間切れです」
(えっ、早くない!?)
クルミは腰の剣を抜き、鋼鉄の厚い扉を、まるでバターのように切り落とした。
(まじか……もう逆らいません。私の魔術より遥かに早い!)
「失礼しまーす! 逃げようとする者は全員捕えろ!」
指示を受け、クルミ家臣団が雪崩れ込む。
次々に黒船商会の社員が拿捕されていく。
「俺たちが何をしたっていうんだ!」
「これは法律違反だぞ!」
しかし、クルミは冷静に言い放つ。
「何を言っているの。業務執行妨害よ。それに、こちらの呼びかけを無視して重要書類を隠蔽、逃亡をはかろうとした。私たちは――王国国税局!」
かなり強引な捜査だ。
「ふざけるな!」
奥の部屋から大男が現れた。派手なアロハシャツに黒光りの坊主頭、腰には二本の大きな曲剣を下げている。
「お前、何者だ?」
「俺はここを預かる黒船商会・王国支店長――ダダだ!」
クルミの台詞など無視して、ダダはこちらに迫る。
「仕方ないわね。リリカ、やっちゃいなさい!」
「え、私!? ……でもやるしかない!」
「ウォーター!」
高出力の水魔法が大男を襲う。
どかぁん。
ダダは壁まで吹き飛び、半分めり込んだ。
「あーあ」クルミが笑う。
(いや、笑い事じゃないから!)
しかしダダはすぐに頭を振り、怒りで目を震わせながら剣を抜いて迫ってくる。
「うわ、近づかれたら危ない!」
「あ、ごめん! やりすぎた。水魔法だけに……水に流しましょう!」
必死の謝罪も通じない。
「ウインド!」
風魔法で再び吹き飛ばす。ダダは天井にぶつかり、両手の剣が突き刺さったまま逆さになる。
(困ったな……私の魔力は無限でも、このままじゃまずい!)
「お前、必ず、殺す!」
怒りの声が胸を締めつける。
(……そうだ! かんちゃんの時みたいに、動けなくすればいいんだ!)
土魔法でダダの足を固定――しかし慌ててしまい、天井からコウモリのようにぶら下げてしまった。
「ははは、面白いわねリリカ!」
クルミは笑い転げる。
ダダが暴れるたび、私は足の固定を強化。逆さ懸垂で血が上り、やがてダダはぐったり。地上に落として砂風呂状態に固定する。
「ふぅ……やっと落ち着いた……」
ホッと一息つきながらも、まだ心臓はドキドキしていた。
「さあ、捜査を続けましょう。クルミ先輩」
「そうね、リリカ。あなたに尋問を任せるのが、一番向いているみたい」
クルミは微笑み、私の背中を押すように見つめた。
「失礼ね、これでもマリスフィア公爵家の令嬢よ」
「そうですね……失礼しました」
「そう思うわよね。私のことを調べたら?」
クルミは意地悪く笑みを浮かべた。私は黙って頷く。
「遠慮のない子ね。私が聖女候補として引き取られた養女だって聞いたんでしょ?」
「はい」
「だけど、本物の聖女が現れた。一点の曇りもない、本物の聖女――『ソフィア』がね」
それは彼女の地位を揺るがし、誹謗中傷を浴びた。ドノバンの情報で、すでに知っていた。
「……大変でしたね」
「いいえ、その時わかったのよ。マリスフィア侯爵――いや父さんのこと。父さんはこう言ったの。『それは良かった。クルミは自由に生きることができる。俺のお前への気持ちは変わらない』って」
ただ政治のために養女を取ったわけじゃないと。
「変なことを言って、すみません」
「ううん。多くの人に手のひらを返されたのも事実よ。でも、父さんが守ってくれた」
それだけ言うと、彼女は深い思考に沈んだ。
「リリカ。さて、そろそろ着くわね。頑張りましょう」
黒船商会は、なぜか王都の外側にある古い廃城を改修して事務所にしていた。王都内には黒船屋という店舗もあるのに。
錆びた鉄の柵で閉じられた門。
「やりなさい!」
御者の男が魔術を撃つ。鉄の柵はばたんと倒れ、何事もなかったように廃城へと馬車は走り出す。
(やるなぁ、マリスフィアのセバス……!)
思わず心の中で賞賛した瞬間――。
「あなたの家のセバスのようでしょ」
クルミが私の目を覗き込む。
(ま、まずい……! この人、読心術できるの!? 確かめよう、心の中でクイズでも出してみるか)
(今日の私の下着の色は?)
「さあ、突撃よ!」
クルミは私のクイズを完全に無視して、馬車から飛び降りた。
(無視された……私の立場はどこへ!?)
慌てて私も飛び降りる。
「王国の特別監査だ! 開けなければ、強制執行する!」
いつの間にか、黒いスーツ姿の男たちが玄関の前に並んでいた。
「はぁ、この人たちは?」
私はクルミに尋ねる。
「私の手の者よ。二人じゃ手が足りないからね。――内緒だよ」
中には人の気配。話し声が聞こえてくる。
「時間切れです」
(えっ、早くない!?)
クルミは腰の剣を抜き、鋼鉄の厚い扉を、まるでバターのように切り落とした。
(まじか……もう逆らいません。私の魔術より遥かに早い!)
「失礼しまーす! 逃げようとする者は全員捕えろ!」
指示を受け、クルミ家臣団が雪崩れ込む。
次々に黒船商会の社員が拿捕されていく。
「俺たちが何をしたっていうんだ!」
「これは法律違反だぞ!」
しかし、クルミは冷静に言い放つ。
「何を言っているの。業務執行妨害よ。それに、こちらの呼びかけを無視して重要書類を隠蔽、逃亡をはかろうとした。私たちは――王国国税局!」
かなり強引な捜査だ。
「ふざけるな!」
奥の部屋から大男が現れた。派手なアロハシャツに黒光りの坊主頭、腰には二本の大きな曲剣を下げている。
「お前、何者だ?」
「俺はここを預かる黒船商会・王国支店長――ダダだ!」
クルミの台詞など無視して、ダダはこちらに迫る。
「仕方ないわね。リリカ、やっちゃいなさい!」
「え、私!? ……でもやるしかない!」
「ウォーター!」
高出力の水魔法が大男を襲う。
どかぁん。
ダダは壁まで吹き飛び、半分めり込んだ。
「あーあ」クルミが笑う。
(いや、笑い事じゃないから!)
しかしダダはすぐに頭を振り、怒りで目を震わせながら剣を抜いて迫ってくる。
「うわ、近づかれたら危ない!」
「あ、ごめん! やりすぎた。水魔法だけに……水に流しましょう!」
必死の謝罪も通じない。
「ウインド!」
風魔法で再び吹き飛ばす。ダダは天井にぶつかり、両手の剣が突き刺さったまま逆さになる。
(困ったな……私の魔力は無限でも、このままじゃまずい!)
「お前、必ず、殺す!」
怒りの声が胸を締めつける。
(……そうだ! かんちゃんの時みたいに、動けなくすればいいんだ!)
土魔法でダダの足を固定――しかし慌ててしまい、天井からコウモリのようにぶら下げてしまった。
「ははは、面白いわねリリカ!」
クルミは笑い転げる。
ダダが暴れるたび、私は足の固定を強化。逆さ懸垂で血が上り、やがてダダはぐったり。地上に落として砂風呂状態に固定する。
「ふぅ……やっと落ち着いた……」
ホッと一息つきながらも、まだ心臓はドキドキしていた。
「さあ、捜査を続けましょう。クルミ先輩」
「そうね、リリカ。あなたに尋問を任せるのが、一番向いているみたい」
クルミは微笑み、私の背中を押すように見つめた。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~
巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!?
////////////////////////////////////////////////////
悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。
しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。
琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇!
※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……?
※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。
※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。
隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~
翡翠蓮
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……
異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる