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風を操る少女
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崖の下には、帆船が待っていた。それほど大きな船ではないし、帆や船体に公爵家の紋章もない。だが、普通の漁船とは違い、装備や設備はしっかりしているようだ。
「なぜ、船で移動を?」
「陸路では、待ち伏せする敵がいる可能性が高いです。それに、クルミ様は陸路で攫われています。追いつくには、海路しかありません」
アルフレッドは、申し訳なさそうに答えた。
「ですがこの船は、マリスフィア侯爵の専用艇です」
深夜、船はゆっくりと沖へ向かい、風を受けて進み始めた。微かに見えていた陸地の影は、あっという間に見えなくなる。私たちは、波音を背に静かに船内へ入った。
「お部屋を準備しております。ごゆっくりお休みください」
「私も疲れたわ、リリカ、ありがとう」
ミオは後部の部屋に倒れ込むように入り、私は自分の部屋で寝床に倒れ込んだ。
「せめて、ジャージがあればなぁ」
寝床の下の収納箱には、女性用の衣類が入っていた。どうやらクルミのものらしい。――これを使えということだろう。
「ティア様、お願いがあるのですが?」
「船ごと運べばいいのか? セーヴァスの港なら、よく知ってるぞ?」
そうか、その手もあるか……いや、まだ焦る時間じゃない。
「いえ、セバスチャンに私の状況を伝えてほしいのです」
「伝聞鳥の代わりをやれというのか?」
「きっと、エマもティア様の顔を見たいと思いますし……」
「じゃあ、ちょっと行ってくるよ」
そう言うと、ティア様は人間サイズに縮まった鷹の姿で部屋を出て行った。
私は、帝国の情報を聞きそびれたことに気づいた。気分屋のティア様だから、次に会えるのはいつか分からない。
――まあ、疲れたし寝よう。朝から夜まで働き、空腹も我慢して、ぶかぶかのクルミの寝衣に着替えた私は、そのまま眠った。
ぽっちゃりリカの元、深夜のおにぎりは我慢した。でも、おにぎりを食べる夢は見た。
※
翌朝。光の差し込まない部屋で、深い眠りから覚めた。
「もう、起きなさい! リリカ! 何時間寝てるの?」
焦ったミオの声に目を覚ます。
「どうしたの?」寝ぼけ眼で扉を開けると、ミオは安堵した表情で言った。
「ああ、良かった。物音ひとつしなかったから」
誰にも邪魔されず、好きなだけ寝られたのは久しぶりだ。ここにはエマもセバスもいない。
「食事にしましょう!」
それは良い考えだ。腹が減ったら寝られない。ご飯を食べたら、また寝よう。どうせ、することはないのだから。
甲板上に特設のテーブルが並べられて、朝食とは思ない豪華な料理が並んでいる。私は、どうせ、硬いビスケットと干し肉だと覚悟していたのだが、まるでクルーズ船のようだ。
私は、席を案内されて、ミオの向かいに座った。テーブルには、海鮮料理、クラムチャウダー、フルーツ、ワイン。
目がお腹いっぱいだ。
「少食なの? それとも食欲ないのかしら?」
「いえ、どこから手をつけようか考えていたところです!」
私は、遠慮というものを忘れて食事をする覚悟を決めた。昨日の夜我慢して良かった。
「どうかしら、マリスフィアの料理は?」
「そうですね、どれも美味しいですよ。例えば……」
私は、一口食べるごとに、感想を言う。やるな。アルフレッド恐るべし。
「面白い子ね」
そんな私の様子を嬉しそうに見ているミオ。
「ミオ様は、リリカ様と食事をするのを楽しみに待っていたんですよ」
それは悪いことをした。はっ、と空を見れば太陽が高く登っていた。
「余計なことは言わないで、アルフレッド」
「失礼しました。お茶は、艦長室に準備しております」
「そう、リリカ、あなたに状況を説明するわ」
いや、待て待て。まだ、食事中だぞ。食い溜め中なのに。
だが、ミオは私の手を掴んで移動しようとする。
そこで、ふと気づく。
「あれ? この船止まってませんか?」
「そうなのよ。帆船だからね。風がないでしまってるのね。西風が吹いてくれないと」
「じゃあ、風が吹けばいいんですね」
私は食事のお礼とばかりに風を吹かせた。帆に風を受けて、ゆっくりと動き出した。船員は、休憩を取り止めて、配置についた。
「リリカ、そんなことをすると、魔力が尽きちゃうわよ?」
「いいえ、大丈夫です。これぐらいならしばらく吹かせれますよ! さあ行きましょう 見なくとも、魔術は消えませんから」
「器用なものね。強力な魔術だけじゃなくて、コントロールも得意なのね?」
それは褒めすぎだ。今だに、使用回数の少ない火魔術は、今だに暴発の危険をはらんでいる。
「それは買い被りすぎですよ!」
「あら、謙虚なところもあるのね」ミオは笑った。
いやいや、出来ることは出来ると言ってるだけだ。
艦長室には、丸テーブルの上に、ケーキセットが準備されている。
船が、走り出したので、揺れ出した。
「紅茶がこぼれないように。少し、風を弱めましょう」
私は気を利かせて、風魔術の出力を弱める。十段階で、二くらいまでに。
「それじゃ、これからの予定を話すわ」
ミオは真剣に話し出した。密談の為に場所を変えたようだが、私は、目の前に並ぶケーキに夢中だった。
「なぜ、船で移動を?」
「陸路では、待ち伏せする敵がいる可能性が高いです。それに、クルミ様は陸路で攫われています。追いつくには、海路しかありません」
アルフレッドは、申し訳なさそうに答えた。
「ですがこの船は、マリスフィア侯爵の専用艇です」
深夜、船はゆっくりと沖へ向かい、風を受けて進み始めた。微かに見えていた陸地の影は、あっという間に見えなくなる。私たちは、波音を背に静かに船内へ入った。
「お部屋を準備しております。ごゆっくりお休みください」
「私も疲れたわ、リリカ、ありがとう」
ミオは後部の部屋に倒れ込むように入り、私は自分の部屋で寝床に倒れ込んだ。
「せめて、ジャージがあればなぁ」
寝床の下の収納箱には、女性用の衣類が入っていた。どうやらクルミのものらしい。――これを使えということだろう。
「ティア様、お願いがあるのですが?」
「船ごと運べばいいのか? セーヴァスの港なら、よく知ってるぞ?」
そうか、その手もあるか……いや、まだ焦る時間じゃない。
「いえ、セバスチャンに私の状況を伝えてほしいのです」
「伝聞鳥の代わりをやれというのか?」
「きっと、エマもティア様の顔を見たいと思いますし……」
「じゃあ、ちょっと行ってくるよ」
そう言うと、ティア様は人間サイズに縮まった鷹の姿で部屋を出て行った。
私は、帝国の情報を聞きそびれたことに気づいた。気分屋のティア様だから、次に会えるのはいつか分からない。
――まあ、疲れたし寝よう。朝から夜まで働き、空腹も我慢して、ぶかぶかのクルミの寝衣に着替えた私は、そのまま眠った。
ぽっちゃりリカの元、深夜のおにぎりは我慢した。でも、おにぎりを食べる夢は見た。
※
翌朝。光の差し込まない部屋で、深い眠りから覚めた。
「もう、起きなさい! リリカ! 何時間寝てるの?」
焦ったミオの声に目を覚ます。
「どうしたの?」寝ぼけ眼で扉を開けると、ミオは安堵した表情で言った。
「ああ、良かった。物音ひとつしなかったから」
誰にも邪魔されず、好きなだけ寝られたのは久しぶりだ。ここにはエマもセバスもいない。
「食事にしましょう!」
それは良い考えだ。腹が減ったら寝られない。ご飯を食べたら、また寝よう。どうせ、することはないのだから。
甲板上に特設のテーブルが並べられて、朝食とは思ない豪華な料理が並んでいる。私は、どうせ、硬いビスケットと干し肉だと覚悟していたのだが、まるでクルーズ船のようだ。
私は、席を案内されて、ミオの向かいに座った。テーブルには、海鮮料理、クラムチャウダー、フルーツ、ワイン。
目がお腹いっぱいだ。
「少食なの? それとも食欲ないのかしら?」
「いえ、どこから手をつけようか考えていたところです!」
私は、遠慮というものを忘れて食事をする覚悟を決めた。昨日の夜我慢して良かった。
「どうかしら、マリスフィアの料理は?」
「そうですね、どれも美味しいですよ。例えば……」
私は、一口食べるごとに、感想を言う。やるな。アルフレッド恐るべし。
「面白い子ね」
そんな私の様子を嬉しそうに見ているミオ。
「ミオ様は、リリカ様と食事をするのを楽しみに待っていたんですよ」
それは悪いことをした。はっ、と空を見れば太陽が高く登っていた。
「余計なことは言わないで、アルフレッド」
「失礼しました。お茶は、艦長室に準備しております」
「そう、リリカ、あなたに状況を説明するわ」
いや、待て待て。まだ、食事中だぞ。食い溜め中なのに。
だが、ミオは私の手を掴んで移動しようとする。
そこで、ふと気づく。
「あれ? この船止まってませんか?」
「そうなのよ。帆船だからね。風がないでしまってるのね。西風が吹いてくれないと」
「じゃあ、風が吹けばいいんですね」
私は食事のお礼とばかりに風を吹かせた。帆に風を受けて、ゆっくりと動き出した。船員は、休憩を取り止めて、配置についた。
「リリカ、そんなことをすると、魔力が尽きちゃうわよ?」
「いいえ、大丈夫です。これぐらいならしばらく吹かせれますよ! さあ行きましょう 見なくとも、魔術は消えませんから」
「器用なものね。強力な魔術だけじゃなくて、コントロールも得意なのね?」
それは褒めすぎだ。今だに、使用回数の少ない火魔術は、今だに暴発の危険をはらんでいる。
「それは買い被りすぎですよ!」
「あら、謙虚なところもあるのね」ミオは笑った。
いやいや、出来ることは出来ると言ってるだけだ。
艦長室には、丸テーブルの上に、ケーキセットが準備されている。
船が、走り出したので、揺れ出した。
「紅茶がこぼれないように。少し、風を弱めましょう」
私は気を利かせて、風魔術の出力を弱める。十段階で、二くらいまでに。
「それじゃ、これからの予定を話すわ」
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