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サクナ薬局
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「さて、散歩にでも行きましょう!」
粘ってネチネチと問い詰めてくるかと思っていたクルミは、意外にもあっさりラクーンを解放してしまった。
「え……本当にいいの?」
思わず私が確認すると、クルミは柔らかく微笑み、肩をすくめた。
「もちろんよ。だってここに来たのは、リリカに会うのが目的なんだもの」
そう言うと、彼女は私の腕を自然に取って歩き出す。
――絶対、この人から逃げるのは無理だ。まあ、逃げる気なんて最初からなかったけれど。
「じゃあ、繁華街に行きましょう」
黒船屋の跡地がどうなっているのか気になり、そっと覗いてみると、「紀伊國屋」の倉庫になっていた。建物の壁は少し色褪せ黒船家の看板は撤去されているが、存在感はしっかりとあった。
「紀伊國屋って、第二王子と関係があるのかな?」
「さあね? でも第一王子はどこにも肩入れしないし、第三王子は伊勢屋派。第四王子は……正直、あまり知らないわね」
「へえ。第一王子は公平なんだ」
ゲーム世界では、彼は名前だけしか登場しなかった。
「ははは、奴はね。真面目で頑固で善人。でも政治には向いてないの。だからこそ危なっかしいのよ」
「……詳しいね、クルミ」
「ハインリヒ王子は同級生だったから」
王国の後継者は、能力主義で決まるのが伝統。ゲームは後継者が決まる前にENDを迎えてしまうから、どうなるのか私は知らない。
――でも、この世界は『ゲームの外側』で、ちゃんと時間が流れ、人々がそれぞれの道を歩いている。
「さ、着いたわよ。ここがサクナ薬局」
スミカちゃんとの約束で、大通りの端にある店を訪れた。白壁の外観に青い看板、通りの光を受けて、店は温かく光っているように見えた。
「あら、立派なお店じゃない」
うーん……残念ながら、私のセンスとは少し違うけれど、確かに人が集まる雰囲気はある。小さな花壇には、色とりどりの花が咲いて、通りかかる人の目を引く。
「いらっしゃいませ、クルミ侯爵!」
出迎えたのは元気いっぱいのスミカ軍団。彼女たちは、まるで「ご紹介は私たちに任せて!」とばかりにクルミを取り囲み、椅子に座らせると同時にメイクアップ・コンサルティングを始めた。
「この洗顔クリーム、絶対使ってください!」
「どうです? 美人度がさらにアップしますよ!」
「お肌がすべすべになりますぅ~!」
恥ずかしげもなくマシンガントークを繰り広げるスミカ軍団。私は思わず身を引き、少し離れた場所からその光景を見守った。
クルミの顔が、見るのも痛々しいほど引き攣っている。肩は小刻みに震え、目は必死に笑おうとしているが、明らかに困惑していた。
「取られちゃいましたね」
隣で店長のエマが楽しげに言う。店長といってもほとんど来ないのは私と同じ。しかし、今日は尻尾をブンブンと振り、見るからに嬉しそうだ。
「今日はどうしたの?」
「へへへ、実は今日、ナエル王子が来てくれるって言うから待ってるんですぅ」
エマの目が輝き、尻尾が床に小気味よく当たる音が響く。
「ふうん……まあ、任せるわ」
やがて解放されたクルミが、少し困惑した顔で私のもとへ戻ってきた。
「いっぱい買わされちゃったわ。“リリカのため”って言われて……」
「クルミ、タダでいいのよ。そんなつもりで連れてきたわけじゃないんだから」
「馬鹿なこと言わないで。これでも侯爵よ。多少は自由になるお金もあるの」
「……そうだったね」
二人は思わず顔を見合わせ、クスリと笑った。
そのとき、店の扉が軽やかに開いた。
差し込んだ光の中に、笑みを浮かべた少年――ナエル王子が立っていた。後ろには、整った服装のメイドが控えている。
「ごめん、遅くなったね――サクナ薬局、立派だね」
エマの尻尾がさらに勢いよく揺れ、店内は一瞬で活気づいた。花の香りと香水の匂いが混ざる空間で、心地よい緊張感が漂う。
私はナエル王子争奪戦のような展開を予想して、胸が高鳴ったが、現実は少し違った。
「さあ、こちらにお座りください!」
スミカ軍団のターゲットは、私ではなくカグラだった。
「この前のお礼ではありませんが、買わせていただきますね」
「いえ、必要だと思っただけです。あとはエマに任せます」
私は挨拶を済ませると、さっさと店を後にした。クルミが服を引っ張り、次の行き先へと促すからだ。
「どこ行こうか?」
「決まってるじゃない。私の秘密基地よ」
私たちはクルミの修道院へ向かった。道すがら、色鮮やかな屋台の光景が目に入るが全て無視。既に、食事の用意も整っているようだった。最初からそのつもりだったのだろう。
「もちろん、今日泊まるわよね!」
「明日早いから無理とは言えないでしょう?」
「当たり前!」
強引さがクルミの個性だと割り切りながら、私は頷く。
でも、それで良かった。セバスチャンとアルフレッドも楽しそうに会話しており、和やかな雰囲気が広がっていたから。
クルミからは、侯爵としての日常や仕事の愚痴も聞かされる羽目になった。
「大変だね」
「リリカにもこの苦しみを味合わせるわよ!」
「何を言ってるの、私は平民よ! でも色々大変よ!」
「平民だから大変じゃないわけじゃない。だけど、貴女にはノクスフォード家を復活させる使命があるの。私が、いえ、私たちも全力で協力するわ」
そうだ。クルミの言う通りかもしれない。
私の心の中のリリカは、『そんなことどうでもいいわ』と呟いているけれど、私にはそれがクルミの言う『使命』だと思ってしまった。残された時間の中で。
粘ってネチネチと問い詰めてくるかと思っていたクルミは、意外にもあっさりラクーンを解放してしまった。
「え……本当にいいの?」
思わず私が確認すると、クルミは柔らかく微笑み、肩をすくめた。
「もちろんよ。だってここに来たのは、リリカに会うのが目的なんだもの」
そう言うと、彼女は私の腕を自然に取って歩き出す。
――絶対、この人から逃げるのは無理だ。まあ、逃げる気なんて最初からなかったけれど。
「じゃあ、繁華街に行きましょう」
黒船屋の跡地がどうなっているのか気になり、そっと覗いてみると、「紀伊國屋」の倉庫になっていた。建物の壁は少し色褪せ黒船家の看板は撤去されているが、存在感はしっかりとあった。
「紀伊國屋って、第二王子と関係があるのかな?」
「さあね? でも第一王子はどこにも肩入れしないし、第三王子は伊勢屋派。第四王子は……正直、あまり知らないわね」
「へえ。第一王子は公平なんだ」
ゲーム世界では、彼は名前だけしか登場しなかった。
「ははは、奴はね。真面目で頑固で善人。でも政治には向いてないの。だからこそ危なっかしいのよ」
「……詳しいね、クルミ」
「ハインリヒ王子は同級生だったから」
王国の後継者は、能力主義で決まるのが伝統。ゲームは後継者が決まる前にENDを迎えてしまうから、どうなるのか私は知らない。
――でも、この世界は『ゲームの外側』で、ちゃんと時間が流れ、人々がそれぞれの道を歩いている。
「さ、着いたわよ。ここがサクナ薬局」
スミカちゃんとの約束で、大通りの端にある店を訪れた。白壁の外観に青い看板、通りの光を受けて、店は温かく光っているように見えた。
「あら、立派なお店じゃない」
うーん……残念ながら、私のセンスとは少し違うけれど、確かに人が集まる雰囲気はある。小さな花壇には、色とりどりの花が咲いて、通りかかる人の目を引く。
「いらっしゃいませ、クルミ侯爵!」
出迎えたのは元気いっぱいのスミカ軍団。彼女たちは、まるで「ご紹介は私たちに任せて!」とばかりにクルミを取り囲み、椅子に座らせると同時にメイクアップ・コンサルティングを始めた。
「この洗顔クリーム、絶対使ってください!」
「どうです? 美人度がさらにアップしますよ!」
「お肌がすべすべになりますぅ~!」
恥ずかしげもなくマシンガントークを繰り広げるスミカ軍団。私は思わず身を引き、少し離れた場所からその光景を見守った。
クルミの顔が、見るのも痛々しいほど引き攣っている。肩は小刻みに震え、目は必死に笑おうとしているが、明らかに困惑していた。
「取られちゃいましたね」
隣で店長のエマが楽しげに言う。店長といってもほとんど来ないのは私と同じ。しかし、今日は尻尾をブンブンと振り、見るからに嬉しそうだ。
「今日はどうしたの?」
「へへへ、実は今日、ナエル王子が来てくれるって言うから待ってるんですぅ」
エマの目が輝き、尻尾が床に小気味よく当たる音が響く。
「ふうん……まあ、任せるわ」
やがて解放されたクルミが、少し困惑した顔で私のもとへ戻ってきた。
「いっぱい買わされちゃったわ。“リリカのため”って言われて……」
「クルミ、タダでいいのよ。そんなつもりで連れてきたわけじゃないんだから」
「馬鹿なこと言わないで。これでも侯爵よ。多少は自由になるお金もあるの」
「……そうだったね」
二人は思わず顔を見合わせ、クスリと笑った。
そのとき、店の扉が軽やかに開いた。
差し込んだ光の中に、笑みを浮かべた少年――ナエル王子が立っていた。後ろには、整った服装のメイドが控えている。
「ごめん、遅くなったね――サクナ薬局、立派だね」
エマの尻尾がさらに勢いよく揺れ、店内は一瞬で活気づいた。花の香りと香水の匂いが混ざる空間で、心地よい緊張感が漂う。
私はナエル王子争奪戦のような展開を予想して、胸が高鳴ったが、現実は少し違った。
「さあ、こちらにお座りください!」
スミカ軍団のターゲットは、私ではなくカグラだった。
「この前のお礼ではありませんが、買わせていただきますね」
「いえ、必要だと思っただけです。あとはエマに任せます」
私は挨拶を済ませると、さっさと店を後にした。クルミが服を引っ張り、次の行き先へと促すからだ。
「どこ行こうか?」
「決まってるじゃない。私の秘密基地よ」
私たちはクルミの修道院へ向かった。道すがら、色鮮やかな屋台の光景が目に入るが全て無視。既に、食事の用意も整っているようだった。最初からそのつもりだったのだろう。
「もちろん、今日泊まるわよね!」
「明日早いから無理とは言えないでしょう?」
「当たり前!」
強引さがクルミの個性だと割り切りながら、私は頷く。
でも、それで良かった。セバスチャンとアルフレッドも楽しそうに会話しており、和やかな雰囲気が広がっていたから。
クルミからは、侯爵としての日常や仕事の愚痴も聞かされる羽目になった。
「大変だね」
「リリカにもこの苦しみを味合わせるわよ!」
「何を言ってるの、私は平民よ! でも色々大変よ!」
「平民だから大変じゃないわけじゃない。だけど、貴女にはノクスフォード家を復活させる使命があるの。私が、いえ、私たちも全力で協力するわ」
そうだ。クルミの言う通りかもしれない。
私の心の中のリリカは、『そんなことどうでもいいわ』と呟いているけれど、私にはそれがクルミの言う『使命』だと思ってしまった。残された時間の中で。
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