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穢れを沈めて
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もう一匹の親鼠を捕まえに、地下の隠し部屋の扉を開けた。
「処分してもよろしいですか?」
セバスチャンは、部屋の掃除を終えて鎮火していたが、再び噴火した。まるで活発な活火山だ。
この部屋は、とても神聖な場所。私たちが前に来たときに抜け道から入っておいて良かった。父の手紙や遺品も、盗まれずに済んだのだから。
階段を降りると、父の座る席に腰掛けて踏ん反り返っている大男がいた。
「どこかで見たような……誰だっけ?」
センスのないアロハシャツに、黒光りする坊主頭。異様な場違い感があった。
「お前は……リリカ」
その男は、私の顔を見るなりぶるぶると姿勢を正し、震え出した。
「探してたのよ、黒船商会支店長のダダさん。戦うつもり?」
「まさか……降参だ」
慌てて、腰の二本の大曲剣を机の上に置いた。
「良かった。大切な家だから」
セバスは不服そうだったが、仕方ない。地上に連行していくとき、セバスがダダに制裁を加えていたのは――見逃してあげた。
ダダは、トモオに任せる。
「ガンツたちを何人か、ここに住ませましょう。セバスも定期的に見にくればいいわ」
庭は片付けたけれど、庭園に戻すには管理人が必要だ。
「そうですね。そうさせてもらいます」
三度目の噴火を、「どんな庭を造ろうか」という話で鎮火させたころ、エマが庭に顔を出した。
「ダダと話ができるよ」
彼女に呼ばれて行くと、ダダは堕落司祭ネイサンの差し出す煙草を咥え、酒を飲んでいた。
「ダダ、帝国の状況を教えて」
「ふん、そんなことも知らんのか?」
酒臭い息を吐きながら言う。知らないから尋ねてんだろうが。私はムッとした。
「お教え頂きたいものですな。うまい酒が他にもありますぞ!」
ネイサンは笑って言った。――こいつ、自分が飲みたいだけだろう。すでに酒臭い。
「ああ、教えてやろう!」
帝国には二つの派閥があることは、ティア様からも聞いていた。もちろん、ダダたちの派閥は改革派だ。
改革派は、帝国からの独立だけでなく、王国すら乗っ取ろうとしていた。そのために、帝国商会支店という名の出先を作り、様々な活動をしてきたらしい。
「だが、風向きが変わった」
活動は成功を続けていたが、ミオ暗殺失敗という大事件により、改革派の内部でも分裂が起きた。現状派が台頭してきたのだ。
「活動の成功とは、私の父やクルミの父を殺したこと……」
私は歯を食いしばり、怒りを抑えながら話を聞いていた。ダダは気をよくして続ける。
「節目は、帝国の暗殺部隊が壊滅したことだ。それは帝国貴族の間では衝撃的な出来事だった。金をかけて育てたエリートたち――通常の軍では太刀打ちできないと恐れられていた存在が、一夜にして消えたんだ」
改革派の分裂。正確には、現状派に寝返ったり、中立を決め込んだり、貴族たちはさっさと商会を切り捨てたらしい。
「俺たちは帝国に戻っても生きていけない。きちんと商売してた俺らも、“黒船”という看板で冷たい目で見られる」
どこがきちんとした商売だ。ふざけるな。
「どうして、ここに?」
「セリオが住むつもりだったらしいが、お化けが出るとか怖がってな。情けない男だ」
そこまで言うと、ダダは盃を落とした。
酒が床に染みていく。――寝たのか? いや、彼は口から血を流していた。
「え? 殺したの?」
「すいません。他にも、リリカ様に聞かせられない悪行を奴は……」
毒殺した犯人は、司祭のネイサンだった。
「知っているわ」
黒船商会を襲撃した時、奴の部下から聞かされていた。だから、私も処分するつもりだった。……先を越されたけど。
一般市民への暴行、残忍な殺人、誘拐。きっと、それをダダは自慢げに話したのだろう。心底腐っている人間。
「あれ? ペリーはどこ?」
「奴は寝させてるよ。どうする、あいつも?」
「何を言ってるの、トモオ。貴方の手は汚しちゃダメよ。そこの堕落司祭みたいに!」
「酷い言いようですな。神に召されて、新たな人生を歩めるでしょ」
ネイサンは胸を張って言った。――やはり、西方聖教会の神職者は、どこかネジが飛んでいる。
そうね。暗殺部隊のように、魔女の手下として永遠に囚われるよりは、遥かに幸せかもしれない。
「ペリーは、なかなか面白そうな奴でさ。帝国に侵入する時、役に立ちそうだ!」
トモオが鼻の下を擦った。いけすかない男にしか見えないけれど、彼の勘は妙に当たる。何せ、貧民街の不成者たちをうまく利用し支配しているくらいだから。
「このゴミを処分して。セバス」
「すいません。すぐに跡形もなく」
セバスは、大男の死体を肩に担ぐと、静かに闇に消えた。
すでに日は落ちていた。
「穢れを落としましょう。教会の宿泊所に行きましょう」
――いや、穢れてるのはネイサン、お前の方だろう。
「ここでも良くない?」
「宿泊所に珍しい施設を造ったんですよ。ぜひ、訪問して欲しいのです」
「まあ、じゃあその施設を見に行くだけよ!」
今日のネイサンは、やけに押しが強いなぁ。
セバスとトモオを残して、私とエマは西方聖教会の宿泊所に移動した。
「ずるいなぁ」トモオが小声で呟く。
「この宿泊所の裏手にあります。私はいけませんので、お二人で」
私たちは顔を見合わせた。木の柵に囲ま れた小さな小屋。
「ふふふ、私はわかりましたよ。リリカ様、扉を開けて下さい!」
エマが自慢げに言った。……くそっ。
重い木の扉を開けると、目の前が曇った。違う、それは温泉から立ち昇る湯気だった。硫黄の強い匂い、乳白色の湯。露天風呂だ。
「最高だ!」
私は心から喜び、汚れを落とすように、温泉にゆっくりと身を沈めた。
「処分してもよろしいですか?」
セバスチャンは、部屋の掃除を終えて鎮火していたが、再び噴火した。まるで活発な活火山だ。
この部屋は、とても神聖な場所。私たちが前に来たときに抜け道から入っておいて良かった。父の手紙や遺品も、盗まれずに済んだのだから。
階段を降りると、父の座る席に腰掛けて踏ん反り返っている大男がいた。
「どこかで見たような……誰だっけ?」
センスのないアロハシャツに、黒光りする坊主頭。異様な場違い感があった。
「お前は……リリカ」
その男は、私の顔を見るなりぶるぶると姿勢を正し、震え出した。
「探してたのよ、黒船商会支店長のダダさん。戦うつもり?」
「まさか……降参だ」
慌てて、腰の二本の大曲剣を机の上に置いた。
「良かった。大切な家だから」
セバスは不服そうだったが、仕方ない。地上に連行していくとき、セバスがダダに制裁を加えていたのは――見逃してあげた。
ダダは、トモオに任せる。
「ガンツたちを何人か、ここに住ませましょう。セバスも定期的に見にくればいいわ」
庭は片付けたけれど、庭園に戻すには管理人が必要だ。
「そうですね。そうさせてもらいます」
三度目の噴火を、「どんな庭を造ろうか」という話で鎮火させたころ、エマが庭に顔を出した。
「ダダと話ができるよ」
彼女に呼ばれて行くと、ダダは堕落司祭ネイサンの差し出す煙草を咥え、酒を飲んでいた。
「ダダ、帝国の状況を教えて」
「ふん、そんなことも知らんのか?」
酒臭い息を吐きながら言う。知らないから尋ねてんだろうが。私はムッとした。
「お教え頂きたいものですな。うまい酒が他にもありますぞ!」
ネイサンは笑って言った。――こいつ、自分が飲みたいだけだろう。すでに酒臭い。
「ああ、教えてやろう!」
帝国には二つの派閥があることは、ティア様からも聞いていた。もちろん、ダダたちの派閥は改革派だ。
改革派は、帝国からの独立だけでなく、王国すら乗っ取ろうとしていた。そのために、帝国商会支店という名の出先を作り、様々な活動をしてきたらしい。
「だが、風向きが変わった」
活動は成功を続けていたが、ミオ暗殺失敗という大事件により、改革派の内部でも分裂が起きた。現状派が台頭してきたのだ。
「活動の成功とは、私の父やクルミの父を殺したこと……」
私は歯を食いしばり、怒りを抑えながら話を聞いていた。ダダは気をよくして続ける。
「節目は、帝国の暗殺部隊が壊滅したことだ。それは帝国貴族の間では衝撃的な出来事だった。金をかけて育てたエリートたち――通常の軍では太刀打ちできないと恐れられていた存在が、一夜にして消えたんだ」
改革派の分裂。正確には、現状派に寝返ったり、中立を決め込んだり、貴族たちはさっさと商会を切り捨てたらしい。
「俺たちは帝国に戻っても生きていけない。きちんと商売してた俺らも、“黒船”という看板で冷たい目で見られる」
どこがきちんとした商売だ。ふざけるな。
「どうして、ここに?」
「セリオが住むつもりだったらしいが、お化けが出るとか怖がってな。情けない男だ」
そこまで言うと、ダダは盃を落とした。
酒が床に染みていく。――寝たのか? いや、彼は口から血を流していた。
「え? 殺したの?」
「すいません。他にも、リリカ様に聞かせられない悪行を奴は……」
毒殺した犯人は、司祭のネイサンだった。
「知っているわ」
黒船商会を襲撃した時、奴の部下から聞かされていた。だから、私も処分するつもりだった。……先を越されたけど。
一般市民への暴行、残忍な殺人、誘拐。きっと、それをダダは自慢げに話したのだろう。心底腐っている人間。
「あれ? ペリーはどこ?」
「奴は寝させてるよ。どうする、あいつも?」
「何を言ってるの、トモオ。貴方の手は汚しちゃダメよ。そこの堕落司祭みたいに!」
「酷い言いようですな。神に召されて、新たな人生を歩めるでしょ」
ネイサンは胸を張って言った。――やはり、西方聖教会の神職者は、どこかネジが飛んでいる。
そうね。暗殺部隊のように、魔女の手下として永遠に囚われるよりは、遥かに幸せかもしれない。
「ペリーは、なかなか面白そうな奴でさ。帝国に侵入する時、役に立ちそうだ!」
トモオが鼻の下を擦った。いけすかない男にしか見えないけれど、彼の勘は妙に当たる。何せ、貧民街の不成者たちをうまく利用し支配しているくらいだから。
「このゴミを処分して。セバス」
「すいません。すぐに跡形もなく」
セバスは、大男の死体を肩に担ぐと、静かに闇に消えた。
すでに日は落ちていた。
「穢れを落としましょう。教会の宿泊所に行きましょう」
――いや、穢れてるのはネイサン、お前の方だろう。
「ここでも良くない?」
「宿泊所に珍しい施設を造ったんですよ。ぜひ、訪問して欲しいのです」
「まあ、じゃあその施設を見に行くだけよ!」
今日のネイサンは、やけに押しが強いなぁ。
セバスとトモオを残して、私とエマは西方聖教会の宿泊所に移動した。
「ずるいなぁ」トモオが小声で呟く。
「この宿泊所の裏手にあります。私はいけませんので、お二人で」
私たちは顔を見合わせた。木の柵に囲ま れた小さな小屋。
「ふふふ、私はわかりましたよ。リリカ様、扉を開けて下さい!」
エマが自慢げに言った。……くそっ。
重い木の扉を開けると、目の前が曇った。違う、それは温泉から立ち昇る湯気だった。硫黄の強い匂い、乳白色の湯。露天風呂だ。
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