完結 断罪された悪役令嬢に、引きこもり廃ゲーマーが転生。ゲーム終了後の貧乏平民からの無双。リリカ・ノクスフォードのリベリオン

織部

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剣なき戦場

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陽がすっかり沈んだ王城。
「遅いですよ、ドノバン様」
 少し苛立った声でそう言ったのは、ドノバンの執事長だった。
「すまんな。リリカの散歩に付き合ってたから」
「それなら、仕方ありませんね」
 事情は伝わっている。これは、ただのポーズだろう。

 入口では、聖女の騎士団が入場者の武器を預かり、全員に魔術封じの腕輪をはめていた。例外は王子たちくらいだ。
「嘘でしょ」
「申し訳ありません。いらぬ諍いを起こさぬためです」

 私たちが大広間に入ると、諸侯、王子、その同行者たちはすでに集結していた。
 誰もが、これから起こることを予想しているのだろう。小さな声のざわめきが、波のように広がっている。
 これほどの規模だとは思っていなかった。私は素直に驚いていた。

「珍しく、緊張してない?」
 ドノバンが、こちらを見て笑う。
「こんなに人がいるなんて。警備も……」
「当たり前だよ。新たな王の発表だからね。もし自分で決着をつけたければ、躊躇しないことだ。愛してる」

 それだけ言うと、彼は王子たちの席へと連れられていき、私は一人、その場に残された。

 諸侯の中に、セリオ侯爵の姿があった。
 彼は私を見つけると、嫌味な微笑みを浮かべて近づいてくる。

「この度は、お気の毒でした」
「何が? ああ、ジュリアンか。お前は仲が良かったのかな?
 奴は聖女様のパーティを首になり、負け犬についていった、先の読めぬ男だ」
「亡くなった息子に対して、少々厳しすぎるのでは?」
「ははは、そうかな。わしの子供は、お前みたいに一人じゃない。代わりはいくらでもおる。
 出来の悪い後継者に足を引っ張られたバルトが、哀れだな」

 そこへ、クルミが割って入った。
「バルト殿、侯爵席にお戻りください。せっかくお会いできたのです。先ほどの話の続きをしましょう」
「おお、そうだったな。マリスフィア侯爵は、わしの独立に賛成してくれる。どこかの狂犬とは大違いだ」

 話が違う。
 だが、立ち去る間際、彼女は何かを私の手に握らせた。
 走り書きの文字。難解な記号の羅列。
 魔術封じの解除呪文だ。

 私は紙を掌の中で焼き、静かに唱えた。

 式典の司会を務める現宰相が、開会の言葉を述べる。
 国王が姿を現すと、会場から歓声が上がった。
 体調が良くないことは、誰の目にも明らかだった。

 王は、魔物征伐で命を落とした者たちへの追悼を語る。
「わしも息子を亡くした。だが、それは王族としての責務だ。
 しかし、他の者はそうではない。英霊に、追悼の意を捧げたい」

 王が黙祷し、会場もそれに続く。
 ――ここか。
 だが、私は動けなかった。
 まだ機会はあるはずだし、何より、この場で動くのは不謹慎だと思った。

 続いて、英霊たちへの叙勲が始まる。
 静まり返った会場に、使者が飛び込んできた。

「大事な式典の最中ですが、申し上げます。
 王城をセリオ侯爵軍が取り囲んでおります。
 また、マリスフィア侯爵軍も、西の峠を越えたとの情報があります」

 王国最大の軍勢を誇る二侯爵軍が、事前連絡もなく王都に入るなど、明確な規則違反だ。
 会場に混乱と怒声が広がる。
 だが、国王の一言がそれを鎮めた。

「近頃、王都も物騒だからな。軍を連れてきてくれたのだろう? セリオ侯爵」
「もちろんです。特に王宮は、守護せねばなりませんから」
「我軍も同じです。いつでも国王のご指示があれば、王都へ入れます」

 クルミもそう答えた。

「ならば問題あるまい。指揮官もこの場にいる。それでは、叙勲を続けよう」

 次々と名が呼ばれ、死者の分は代理が受け取る。
 子を失った貴族たちは、悲しみを装いながらも、報酬への喜びを隠しきれない。
 やりきれない気持ちになるが、これが現実だ。

 ナエルが部隊の分を受け取り、セリオが息子ジュリアンの分を受け取る。
「あいつ、悲しそうな顔しやがって。虫唾が走る」

 次はセディオ。見覚えのない女性が進み出た。
 他にも、怪しい人物が何人かいる。
「あいつは、帝国のスパイですね」

 いつの間にか隣にいたセバスチャンとガンツが、低く囁く。
「なるほど。それより、あなたたちが来たということは……」
「はい。ご指示通りです。ご安心ください」
「良かった」

 私は、ようやく微笑んだ。

 そして、レクセルの葬儀は、新国王のもとで行われると発表された。

「それでは、続いて」

 会場が再び静まる。

「今回の試練の成功者に、報酬を与えねばならない」

 ドノバン、私、セバス、ガンツが、王から直接勲章を受け取った。

「リリカ。ノクスフォード家の功績は大きい。よって、貴族への復帰を認める」

 ――もしかして。
 ドノバンが試練にこだわっていた理由は、これなのか。

「別に、平民でも困らないけど」
「いや、俺が困る。正妻は貴族でないと、周りがうるさいからね」

 そんなわけがない。
 彼は、ノクスフォード家の名誉を回復させたかったのだ。
 ただし、爵位や所領は、まだ未定だった。
 まあ、そんなものだろう。どうでもいい。

「ご存知の通り、これにて試練は終わった。
 すなわち、私の後継者選びも終わったということだ。
 我が国の規則に従い、国王を選ぶ」

 国王は、高らかに宣言した。
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