完結 断罪された悪役令嬢に、引きこもり廃ゲーマーが転生。ゲーム終了後の貧乏平民からの無双。リリカ・ノクスフォードのリベリオン

織部

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裁かれた侯爵

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「王国……? 共和国の間違いだろう」
わずかな間を置いて、ノルマンはそう言い直した。

私の真剣な質問は、誤魔化されて終わった。
理由が聞きたかったのだ。私たちの大切なものを奪うに足りる、その理由を。

だが、彼の口から語られることは、最後までなかった。
理由を求めること自体が、間違いだったのだと、そのときはまだ理解しきれていなかった。

「リリカ、そんな顔をするな」
クルミは、感情の揺れを一切含まない声で言った。
「所詮、自分のことしか考えていない小者だ。理由を求めるだけ無駄だろう」

彼女は視線をノルマンへ向ける。
「ノルマン。時計台の件は、ボルトからすべて聞いた。民衆を騙していた話も、いずれ広まる」
ノルマンの反応を確かめるように、クルミの口元が一瞬だけ歪んだ。

「そのとき、彼らはどう思うかな?」
「誰が信じるものか!」
彼は声を荒げた。
だが、その顔には、はっきりと冷や汗が浮かんでいる。叫ぶ声とは裏腹に、彼の視線は落ち着きなく泳いでいた。

すでに、信じてもらえない未来を想像してしまっている者の目だった。
「そうかしら」

聖女ネフェルが、痛ましげに首を傾げた。
「さっき、街の有力者たちと私が話したら、皆とても憤慨していたわ」
責めるよりも、慈悲に近い声だった。その優しさが、かえって逃げ場を塞ぐ。

「黒毒蛇の毒は、お前の指示で、わが領地にばら撒かれたと、商人に聞いた」
リラは珍しく、怒りを隠そうともしない。
「ああ、それに共和国へのいくつかの謀略も、お前の仕業だとな」

事実を読み上げるように、クルミが続ける。
「違う、違う! よくもありもしないデマを言ってるな! おい、こいつらをここから追い出せ!」

ノルマンの怒声に、護衛の騎士たちは一斉に将軍の顔を見た。
私は、その沈黙の重さに、息が詰まりそうになった。
誰もが、命令を待っているふりをして、結論を避けている。

クルミは、その様子を静かに見ている。すでに結果を知っている者の視線だった。
先日、彼女に殺されかけた将軍は、クルミと目を合わせることなく、聞こえないふりをして地面を見つめている。

「問題ないわ」
クルミが淡々と言った。
「私たちは、もう用件を済ませている。安心して。これでお暇する」
そこに皮肉はなかった。事務的な区切りの言葉だった。

「そういえば、お前の片腕の商人は、パリスに向かって逃げていったわ。それと今頃、私たちの軍は、こちらに向かって移動を開始しているはずよ」

「ふざけるな、内政干渉だ! リラ殿、共和国の危機だぞ!」
「いいえ」
リラは即座に否定した。一歩前に出て、告げる。

「わが領地に毒を撒き、一般人を傷つけたのは、ノルマン侯爵。あなたです。ここに、わがヴァーデン侯爵は、ノルマン侯爵領への宣戦を布告します」

怒りと正義が、はっきりと声に宿っていた。ノルマンは、それ以上何も言えず、逃げるようにその場から去った。
その背中を見送りながら、私は胸の奥が冷えていくのを感じていた。

理由を知りたいと願った自分が、まだどこかで彼を理解できると思っていたことが、今になって恥ずかしかった。
「さて」
クルミは将軍へと視線を移す。

「彼について私たちと戦うか、それとも軍門に降るか。判断は、あなたがしなさい。兵をまとめるのも、あなたの仕事よ」
命令ではない口調。
だが、拒否という選択肢は存在しない。

「軍門に降るなら、今の地位は保証する」
条件を提示し、最後に一言だけ付け加える。
「合理的な判断を期待している」


密偵たちの報告によると、ノルマンは金目の物をかき集め、馬車に積み込み、パリスに向かったらしい。
「奴に家族は?」
私は思わず聞いた。

「そんなこと気にするな!」
クルミは、冷たく言った。
「おりません。愛人だけです」
密偵が答える。真実かどうかは、誰にもわからない。

「じゃあ、用事を済ませてくる。リリカはここで待っていろ!」
「いえ、私も行きます」
彼女の手だけを汚させる訳にはいかない。ただの自己満足なのだが。


ノルマンは、盗賊に襲われて死んだ。少なくとも、公式には。その言葉は、誰もが口にした。
だが、同時に、誰一人として完全には信じていなかった。

街の有力者と会合をし、ノルマン侯爵領の今後について話し合った。
「現行体制を維持したい」
彼らの多くはそう語った。

「ならば、リラが代行を務めればいい。そして、必要無くなるば辞すればいい」
「えー。遊べない……」

思わず本音を漏らすリラだったが、
「これは、ヴァーデン侯爵の貴方にしか出来ないことです」
コヨリの一言で、大人しく頷いた。

ノルマン侯爵の葬儀で発表されたが、大きな混乱は起きなかった。
「誘導魔術による、ノルマン侯爵への忠誠」
この噂が、すでに広まっていたからだ。
誰もが、自分の抱く感情に疑問を持っていたからだ。

それと都合のいい嘘が欲しいという本音が、街に漂っていた。
「少し可哀想な気もするが、身から出た錆びね」
大聖堂の鐘が、空に空しく響く。

リラとコヨリを残して、私たちはパリスに向かうことにした。
そこに、謀略を仕掛けた首謀者たちがいる。いずれも、共和国の権力者たちだ。

パリスは、彼らの庭。
そして――飛んで火に入る夏の虫。
否が応でも、緊張が高まるはずだった。
だが。

「楽しみね、どんな街並みに生まれ変わってるのかな!」
ソフィアは、自分が作り出した世界が今どうなっているのか、気になって仕方ない様子だった。

パリスまでは、まだ数日の道のりがある。
目的地に近づくにつれて、道ですれ違う人々の表情が、少しずつ暗くなっていく。
物価は高く、宿でも食事の場でも、人々の対応はどこか素っ気ない。

余裕のなさが、そのまま態度に出ている。
「もう、飽きたわね。やっぱりティア様に運んでもらうんだった」
期待と現実の落差に、不満が顔を出し始めたらしい。

「着いたぞ。パリスだ!」
御者を務めているドノバンが叫んだ。
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