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倶楽部・満天楼2
いかにもあの豚が好きそうな、派手な成金趣味で、異国の装飾を真似た毒々しい真っ赤な門に圧倒されそうになる。
都心の街並みは、レンガ造りや洋風建築のようなアールヌーボー様式を取り入れた曲線的な建物や、鉄筋コンクリート造の百貨店が多く並んでいる。
平屋が並ぶ木造建築から目まぐるしく変化する様は、圧巻で異様であり、変化を認めぬ者たちは有無を言わさず置いてけぼりにされる。
ついてこれない者はそのまま放っておくとでも言わんばかりな、まるで見た目や出自など関係ないというような。
シエはそんな重厚な造りのモダンな建物が気に入っていた。
そんな街中に現れたコレは雰囲気台無しである。
この異常な世界観のおかげでカタギは近寄らないでいられる事が唯一の利点だろうか。
「趣味が悪い……」
「やあ、東条さん。アンタもそう思うか?」
店の前に到着するや否や、悪態をつく東条にシエは思わず噴き出した。
自然、山、昔ながらが似合いそうなこの男はそう言うと思っていた。
だから好ましいんだ。一緒に日々を過ごし、会話をする事が。
「さて、これから中に入る訳だが、準備はできているか?」
「君、楽しんでいるな?悪いが上司からは深追いするなと口を酸っぱく言われているんだ。何があっても我関せずだとな」
「俺に見つかった東条さんの言う事なんて信用できないな。悪いが覚悟した方がいいぜ。この中では一歩進む毎に治外法権だと思った方がいい」
「う…」
図星だったのか東条がしょげている。結果的に味方になったとは言え、シエと接触した事を上司にこってり絞られたそうなのだ。
本来ならば催しの時間、薔薇の流通の確認、従業員の人数などを調べるつもりだったという。
そこをすっ飛ばして演者に交換条件を突きつけられたのだ。一歩間違えば捜査が向こうに知られる可能性だってある。
これについては、声をかけたのは自分だし、少しは悪いなとは思っていた。
「その為に俺が居るんだろ?頼ってくれて構わないぜ。さ、こんな所で突っ立ってたって通行人の邪魔だ。さっさと中へ入ろう」
あまりいじめるのも不憫になってきたので、シエは店内へ入る事を促す。
見た目に反して簡易な作りの木製の扉を押すと、ギイ…と音を立てて開いた。
「ウッ……!この匂い」
ツンと鼻腔を刺激する植物のような臭いに東条はすかさず鼻を抑えた。
「俺にはよく分からないが、夢見心地になれるって評判らしいぞ」
「薔薇ではないが、ここで使用している"香"もかなり法令すれすれな代物じゃないか。上には報告させてもらう」
「言っただろ?治外法権だって。こんなの気にしていたらキリがない。さあ、こっちだよ」
シエは現れたボーイに挨拶もそこそこに、店内の中心に近い場所へ案内してもらった。
「ここなら他の客の様子も比較的見やすい。そうだ、何か飲むかい?東条さん」
「こんな得体の知れない場所で飲む訳あるか」
***
「あれは…製鉄会社の長男か」
今日の客は比較的少ない。
そんな中でも目を引くのが製鉄会社の長男である。
あの男はここ最近ではこの店の常連で、いつも自分よりひ弱そうな13~4歳くらいの少年を連れている。
少年たちは毎度どこかに怪我をこさえては怯えたように正座をしていて痛々しくて居たたまれない。
当の本人は、店に難癖をつけては暴れる迷惑な客だった。
「ああ、妾の子が優秀でそっちが後を継ぐらしいな。愚かなやつだ。素直に補佐に回ると宣言すればここまで落ちぶれる事も無かっただろうに」
「初耳だ。学生時代は優秀ではないとは言え、勤勉だったと聞いていたんだがな」
「ウチの姐さんが何度かお相手をしたらしいんだがね。姐さん、女の体だが立派なモンも付いているんだけど、クセになる男も多いらしくて………」
「まてまて。そんな話しなくていい」
「いやいや、それがな?朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足。これ、な~んだ?って言うんだ。あの長男坊、姐さんに散々泣かされたのが恥ずかしかったのか……」
その時、ガシャンとガラスの割れる音がして、店内が騒然となる。
見ると、あの長男坊が何やら喚き、連れていた少年はぐったりと倒れていた。
「……!!!」
シエは思わず立ち上がった東条の手首を掴んで制止した。
「やめときな。アンタ、本当にお人好しだな。今ここで止めたら素性がバレるぞ。潜入捜査向いてないんじゃないか?」
「……くそ」
「ああいった輩は店員に任せりゃいい。いいから座りなよ」
納得いかなさそうな東条をなだめ、二人はゆっくり着席した。
「落ち着くまで、ここで座っていればいい」
「ああ…、そうだな」
都心の街並みは、レンガ造りや洋風建築のようなアールヌーボー様式を取り入れた曲線的な建物や、鉄筋コンクリート造の百貨店が多く並んでいる。
平屋が並ぶ木造建築から目まぐるしく変化する様は、圧巻で異様であり、変化を認めぬ者たちは有無を言わさず置いてけぼりにされる。
ついてこれない者はそのまま放っておくとでも言わんばかりな、まるで見た目や出自など関係ないというような。
シエはそんな重厚な造りのモダンな建物が気に入っていた。
そんな街中に現れたコレは雰囲気台無しである。
この異常な世界観のおかげでカタギは近寄らないでいられる事が唯一の利点だろうか。
「趣味が悪い……」
「やあ、東条さん。アンタもそう思うか?」
店の前に到着するや否や、悪態をつく東条にシエは思わず噴き出した。
自然、山、昔ながらが似合いそうなこの男はそう言うと思っていた。
だから好ましいんだ。一緒に日々を過ごし、会話をする事が。
「さて、これから中に入る訳だが、準備はできているか?」
「君、楽しんでいるな?悪いが上司からは深追いするなと口を酸っぱく言われているんだ。何があっても我関せずだとな」
「俺に見つかった東条さんの言う事なんて信用できないな。悪いが覚悟した方がいいぜ。この中では一歩進む毎に治外法権だと思った方がいい」
「う…」
図星だったのか東条がしょげている。結果的に味方になったとは言え、シエと接触した事を上司にこってり絞られたそうなのだ。
本来ならば催しの時間、薔薇の流通の確認、従業員の人数などを調べるつもりだったという。
そこをすっ飛ばして演者に交換条件を突きつけられたのだ。一歩間違えば捜査が向こうに知られる可能性だってある。
これについては、声をかけたのは自分だし、少しは悪いなとは思っていた。
「その為に俺が居るんだろ?頼ってくれて構わないぜ。さ、こんな所で突っ立ってたって通行人の邪魔だ。さっさと中へ入ろう」
あまりいじめるのも不憫になってきたので、シエは店内へ入る事を促す。
見た目に反して簡易な作りの木製の扉を押すと、ギイ…と音を立てて開いた。
「ウッ……!この匂い」
ツンと鼻腔を刺激する植物のような臭いに東条はすかさず鼻を抑えた。
「俺にはよく分からないが、夢見心地になれるって評判らしいぞ」
「薔薇ではないが、ここで使用している"香"もかなり法令すれすれな代物じゃないか。上には報告させてもらう」
「言っただろ?治外法権だって。こんなの気にしていたらキリがない。さあ、こっちだよ」
シエは現れたボーイに挨拶もそこそこに、店内の中心に近い場所へ案内してもらった。
「ここなら他の客の様子も比較的見やすい。そうだ、何か飲むかい?東条さん」
「こんな得体の知れない場所で飲む訳あるか」
***
「あれは…製鉄会社の長男か」
今日の客は比較的少ない。
そんな中でも目を引くのが製鉄会社の長男である。
あの男はここ最近ではこの店の常連で、いつも自分よりひ弱そうな13~4歳くらいの少年を連れている。
少年たちは毎度どこかに怪我をこさえては怯えたように正座をしていて痛々しくて居たたまれない。
当の本人は、店に難癖をつけては暴れる迷惑な客だった。
「ああ、妾の子が優秀でそっちが後を継ぐらしいな。愚かなやつだ。素直に補佐に回ると宣言すればここまで落ちぶれる事も無かっただろうに」
「初耳だ。学生時代は優秀ではないとは言え、勤勉だったと聞いていたんだがな」
「ウチの姐さんが何度かお相手をしたらしいんだがね。姐さん、女の体だが立派なモンも付いているんだけど、クセになる男も多いらしくて………」
「まてまて。そんな話しなくていい」
「いやいや、それがな?朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足。これ、な~んだ?って言うんだ。あの長男坊、姐さんに散々泣かされたのが恥ずかしかったのか……」
その時、ガシャンとガラスの割れる音がして、店内が騒然となる。
見ると、あの長男坊が何やら喚き、連れていた少年はぐったりと倒れていた。
「……!!!」
シエは思わず立ち上がった東条の手首を掴んで制止した。
「やめときな。アンタ、本当にお人好しだな。今ここで止めたら素性がバレるぞ。潜入捜査向いてないんじゃないか?」
「……くそ」
「ああいった輩は店員に任せりゃいい。いいから座りなよ」
納得いかなさそうな東条をなだめ、二人はゆっくり着席した。
「落ち着くまで、ここで座っていればいい」
「ああ…、そうだな」
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